10 / 51
10.子どもは女の子でした。どうも事情がありそうです
しおりを挟む
「ミンメイを保護していただいたこと、誠に感謝する」
そう言って俺に頭を下げたのは案の定イー村の村長だった。やはりミンメイは村長の娘だったらしい。
昨日は朝から大人たちについて子どもたちも森を探索していたという。森の手前の方での採取などは日常的に行っているらしいが、奥まで行くのは大人と一緒と決まっており、昨日もそのようにして出かけたのだが、帰る頃になって狼に襲われた。大人が殿となって子どもたちを逃がそうとしたが、ミンメイはあまりの恐怖にパニックを起こし、森の奥の方へ逃げていってしまった。それを一匹の狼が追いかけていってしまったのでもしかしたら……と気が気ではなかったらしい。
俺が会った時はもう狼はいなかったが、それは猫紙の力なのだろうと思う。たまたまミンメイが逃げてきた方向に俺たちがいたから狼は途中で逃げていってしまったのだろうと推察された。危険な生き物は俺には寄り付かないのだと一応ミンメイには教えてあるが、猫紙のことも含め村の人たちには内緒にするように言ってある。ミンメイがどこまで黙っていてくれるかは未知数である。
昨日ミンメイの前で猫紙がしゃべらなければ、とは思ったりもしたが、今更言ってもしかたがない。今のうちに料理大会が開かれていたという王都の場所を聞いておくことにした。
「ほうほう、ではタツキさまは人探しの為山を下りてこられたと……」
「はい。ずっと消息が途絶えていましたが、たまたま王都にいるという噂を聞き山を下りました。ただ私自身は本当に世間知らずなので、ここから王都までどのぐらいかかるのか、どのようにして向かえばいいのかなど教えてもらえるとありがたいです」
木の実や種などはともかく鳥の始末に困ったので渡したらとても喜ばれた。都合四羽の鳥(あれからもう一羽捕まえた)はそれぞれ捕りにくい物だったらしくこの後調理してくれることとなった。
村は全体的に木でできており、木の柵の中に養鶏場のような場所があったり、森の反対側に畑や田んぼがあるのが確認できた。
そう、ここにはなんと田んぼがあるのだ。
「ふむ、ではミンメイに案内させましょうぞ」
「……は?」
宴会の席で俺は村長に酒をつがれながら、とんでもないことを言われた。
「ええと、それは……」
「ミンメイは数年前私について王都へ行ったことがあります。あの子は来年成人します。それまでに結婚相手を見つけないと村の男と結婚しなければなりません」
「は、はぁ」
「村の男との結婚を嫌だと言うのなら探してくるしかないのです。なのでどうか王都へ連れて行ってやってくれませんか?」
「……少し、考えさせてください」
即答は避けた。昨夜川で体を洗った時は暗くて確認できなかったが、どうやらミンメイは女の子だったらしい。つか、女の子を男に預けちゃダメだろう。しかしひょろひょろしているあの子が来年成人だなんて俺には信じられなかった。腕も足も細くて、体がもしかしたら弱いのかと思っていたけど女の子だったからかもしれない。
俺は頭の中で猫紙に話しかけた。そういうこともできると聞いていたのだ。
〈なぁ、猫紙さまはミンメイが女の子だって知ってたのか?〉
〈なんじゃ、そなたは知らなかったのか。確かに髪も短いしかなり痩せてはいるがの〉
ん? と俺はなにかひっかかるものを感じた。ミンメイは村長の娘らしいのにどうしてあんなに痩せているんだ? そういえば俺を迎える宴席だというのにミンメイの姿がない。
〈とりあえず後で話そう。猫紙さまはミンメイの情況ってわかったりするのか?〉
〈今かの?〉
〈ああ〉
猫紙は目を閉じた。そして目を開いた途端、落ち着かないというように毛づくろいを始めた。
「その猫はタツキさんが飼っているのですか」
「はい。私の大事な相方です」
「そうなのですね」
村長はなんとも残念そうに言う。毛並みがキレイだからどこかへ売ろうとでも考えたのだろうか。この猫が猫紙でなくても俺は手放すつもりはない。大事な道連れだ。
〈ふむ……どうも下働きのような扱いを受けておるようじゃのう〉
〈え?〉
〈ミンメイのことじゃ〉
村長の娘ではないのか? いったいどういうことなんだろう。
「あの、失礼ですがミンメイは?」
「ああ、そうですな。呼んでこさせましょう。おい! ミンメイを呼んで参れ。……きちんとさせてな」
きちんと、ね。
ミンメイが宴席に顔を出したのは、しばらくしてからだった。着替えさせたのだろう。
「……お呼びでしょうか?」
少しおどおどしているように見える。
「ミンメイ、こちらへおいで。タツキさんに改めて礼を言いなさい」
「は、はい。タツキさん、本当にありがとうございました」
そのまま村長が退室させようとするのを遮る。
「ミンメイは細すぎる。少し食べていけ」
「あ、いえ、私は……」
「遠慮するなって。この料理もうまいぞ」
そう言って皿を渡し強引に食べさせることにした。ミンメイがちら、と村長を窺う。
「そうだそうだ、お前は痩せすぎだ。ほれ、お言葉に甘えて食べなさい」
「あ、ありがとうございます……」
人の顔色を窺うような仕草に、俺はほっとけなくなってしまった。
「村長、よろしければミンメイに案内を頼みたいと思います。いいですか?」
「おお、それは願ってもないことです。いつ頃出立なさいますか?」
「そうですね、明日は準備をさせてもらいたいので明後日には出発したいと思っています」
「わかりました。こちらでもできる限りのことはさせていただきます。どうぞよろしくお願いします」
また俺は村長に頭を下げられてしまった。
その夜はまた猫紙と話し合った。俺に対していい感情を持たない者がいるにはいるが、今のところ気にするほどのことではないらしい。
五日目の夜もそうして、比較的穏やかに過ぎていった。
そう言って俺に頭を下げたのは案の定イー村の村長だった。やはりミンメイは村長の娘だったらしい。
昨日は朝から大人たちについて子どもたちも森を探索していたという。森の手前の方での採取などは日常的に行っているらしいが、奥まで行くのは大人と一緒と決まっており、昨日もそのようにして出かけたのだが、帰る頃になって狼に襲われた。大人が殿となって子どもたちを逃がそうとしたが、ミンメイはあまりの恐怖にパニックを起こし、森の奥の方へ逃げていってしまった。それを一匹の狼が追いかけていってしまったのでもしかしたら……と気が気ではなかったらしい。
俺が会った時はもう狼はいなかったが、それは猫紙の力なのだろうと思う。たまたまミンメイが逃げてきた方向に俺たちがいたから狼は途中で逃げていってしまったのだろうと推察された。危険な生き物は俺には寄り付かないのだと一応ミンメイには教えてあるが、猫紙のことも含め村の人たちには内緒にするように言ってある。ミンメイがどこまで黙っていてくれるかは未知数である。
昨日ミンメイの前で猫紙がしゃべらなければ、とは思ったりもしたが、今更言ってもしかたがない。今のうちに料理大会が開かれていたという王都の場所を聞いておくことにした。
「ほうほう、ではタツキさまは人探しの為山を下りてこられたと……」
「はい。ずっと消息が途絶えていましたが、たまたま王都にいるという噂を聞き山を下りました。ただ私自身は本当に世間知らずなので、ここから王都までどのぐらいかかるのか、どのようにして向かえばいいのかなど教えてもらえるとありがたいです」
木の実や種などはともかく鳥の始末に困ったので渡したらとても喜ばれた。都合四羽の鳥(あれからもう一羽捕まえた)はそれぞれ捕りにくい物だったらしくこの後調理してくれることとなった。
村は全体的に木でできており、木の柵の中に養鶏場のような場所があったり、森の反対側に畑や田んぼがあるのが確認できた。
そう、ここにはなんと田んぼがあるのだ。
「ふむ、ではミンメイに案内させましょうぞ」
「……は?」
宴会の席で俺は村長に酒をつがれながら、とんでもないことを言われた。
「ええと、それは……」
「ミンメイは数年前私について王都へ行ったことがあります。あの子は来年成人します。それまでに結婚相手を見つけないと村の男と結婚しなければなりません」
「は、はぁ」
「村の男との結婚を嫌だと言うのなら探してくるしかないのです。なのでどうか王都へ連れて行ってやってくれませんか?」
「……少し、考えさせてください」
即答は避けた。昨夜川で体を洗った時は暗くて確認できなかったが、どうやらミンメイは女の子だったらしい。つか、女の子を男に預けちゃダメだろう。しかしひょろひょろしているあの子が来年成人だなんて俺には信じられなかった。腕も足も細くて、体がもしかしたら弱いのかと思っていたけど女の子だったからかもしれない。
俺は頭の中で猫紙に話しかけた。そういうこともできると聞いていたのだ。
〈なぁ、猫紙さまはミンメイが女の子だって知ってたのか?〉
〈なんじゃ、そなたは知らなかったのか。確かに髪も短いしかなり痩せてはいるがの〉
ん? と俺はなにかひっかかるものを感じた。ミンメイは村長の娘らしいのにどうしてあんなに痩せているんだ? そういえば俺を迎える宴席だというのにミンメイの姿がない。
〈とりあえず後で話そう。猫紙さまはミンメイの情況ってわかったりするのか?〉
〈今かの?〉
〈ああ〉
猫紙は目を閉じた。そして目を開いた途端、落ち着かないというように毛づくろいを始めた。
「その猫はタツキさんが飼っているのですか」
「はい。私の大事な相方です」
「そうなのですね」
村長はなんとも残念そうに言う。毛並みがキレイだからどこかへ売ろうとでも考えたのだろうか。この猫が猫紙でなくても俺は手放すつもりはない。大事な道連れだ。
〈ふむ……どうも下働きのような扱いを受けておるようじゃのう〉
〈え?〉
〈ミンメイのことじゃ〉
村長の娘ではないのか? いったいどういうことなんだろう。
「あの、失礼ですがミンメイは?」
「ああ、そうですな。呼んでこさせましょう。おい! ミンメイを呼んで参れ。……きちんとさせてな」
きちんと、ね。
ミンメイが宴席に顔を出したのは、しばらくしてからだった。着替えさせたのだろう。
「……お呼びでしょうか?」
少しおどおどしているように見える。
「ミンメイ、こちらへおいで。タツキさんに改めて礼を言いなさい」
「は、はい。タツキさん、本当にありがとうございました」
そのまま村長が退室させようとするのを遮る。
「ミンメイは細すぎる。少し食べていけ」
「あ、いえ、私は……」
「遠慮するなって。この料理もうまいぞ」
そう言って皿を渡し強引に食べさせることにした。ミンメイがちら、と村長を窺う。
「そうだそうだ、お前は痩せすぎだ。ほれ、お言葉に甘えて食べなさい」
「あ、ありがとうございます……」
人の顔色を窺うような仕草に、俺はほっとけなくなってしまった。
「村長、よろしければミンメイに案内を頼みたいと思います。いいですか?」
「おお、それは願ってもないことです。いつ頃出立なさいますか?」
「そうですね、明日は準備をさせてもらいたいので明後日には出発したいと思っています」
「わかりました。こちらでもできる限りのことはさせていただきます。どうぞよろしくお願いします」
また俺は村長に頭を下げられてしまった。
その夜はまた猫紙と話し合った。俺に対していい感情を持たない者がいるにはいるが、今のところ気にするほどのことではないらしい。
五日目の夜もそうして、比較的穏やかに過ぎていった。
応援ありがとうございます!
0
お気に入りに追加
204
1 / 5
この作品を読んでいる人はこんな作品も読んでいます!
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる