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19.まだ俺は不安定かもしれない
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「昨夜は運がよかったな」
朝食の準備をしていると御者が機嫌よさそうに言った。
「運?」
「狼が一匹も出なかっただろう」
「やっぱり出るんですね」
「大概の場合はな」
そう言われて俺はちら、と猫紙を見た。どう考えてもこの三毛猫の能力だろう。ミンメイはきらきらした目で猫紙を見ている。
「まぁでも数が少なけりゃこちらを窺うぐらいで帰ってくんだがな。秋の終りの方が危険だ」
「食べ物が少なくなってくるからですか」
「そういうこった」
今は夏のようだからまだ危険な時期とはいえない。それでも狼の姿を見ないに越したことはないだろう。あ、でも。
一応心の中で聞いてみる。
〈狼が出なかったのは猫紙さまの力のせいなのか?〉
〈そうじゃろうな〉
それならいいと思う。村から王都へ向かう乗合馬車は五日に一度出るのだという。二台の馬車が行き来しているということなのだろう。ということは俺たちは丁度いいタイミングで村に着いたことになる。こういう運みたいなのも猫紙に関係してんのかな。
朝食を終え、また馬車が動き出す。昼間はのどかなものだ。俺は御者台の近くに座り、邪魔をしないように考えながら気になったことを尋ねていた。
「そういえば、先ほど言ってた危険な時期はどうしてるんですか?」
「ああ、秋口になると蓄えを増やそうと冒険者たちが出稼ぎにくるんだ。ついでに狼を狩ってくれるから馬車の運賃を安くしてやったりもするよ」
「冒険者っているんですね」
どうやらこの世界には冒険者というものがいるらしい。なかなかに夢のある話だ。
「というと冒険者ギルドとかあるんですか?」
わくわくして聞かずにはいられない。
「ギルド? 冒険者ゴンフイなら今日着く村にもあるぞ。その先のチエン村にはないが、ミンユエ村にはあるな。一番大きいのは王都にある」
「そうなんですか」
話好きな御者にいろいろ教えてもらい、本当にここは異世界なんだなと再認識した。ここではギルドのことをゴンフイというらしい。
この世界でなら、もしかしたら俺も冒険者として活躍できるかもしれない。
剣と防具を身につけ、ばっさばっさと魔物を倒す自分を想像する。魔法も実は……ってそういえば俺には魔法が使えないんだった! だがこの身体は狭間で作られた物だから俺の顔はイケメンっぽくなっている。もしかして勇者にもなれるかも!? と勝手にぐふぐふと想像していたら猫紙に頭を踏まれた。
「……何しやがる」
捕まえようとしたが猫紙はしなやかに避け、ミンメイの腕の中に再び納まりツンとそっぽを向いた。
〈どうせろくなことを考えてはいなかったじゃろう〉
〈うっせ。俺は冒険者になって超活躍するんだよ〉
猫紙はフンと鼻で笑った。
〈少しばかり鳥が捕れるからと言っていい気になるでない。我の加護なくばそなたの命など早々に費えてしまったであろうの〉
〈……そっか〉
それもそうだよなとすとんと納得する。正直早々に死んでしまってもよかったのだが。猫紙は眉を寄せた。
〈……そなた今何を考えた〉
〈いやー、死ぬなら死ぬでよかったかなーって〉
〈……王都で美鈴が待っているのではないのか〉
美鈴と聞いてはっとした。ああそうだ、美鈴が王都で困っているんだった。狭間に連れてこられる前は生きる気力もなくしていたからまだ不意に”死”について軽く考えてしまう。元の世界にいた時はなんかやっぱりおかしくなってたんだな。おかげでそれでもいいかーと今でも考えてしまうのが困るところだ。美鈴は王都にいるって聞いてるのに。
〈美鈴を王子の毒牙から守らないと!〉
〈そうじゃ、その意気じゃ〉
昼休憩の時間に俺はまた鳥を何羽か捕まえた。一羽をミンメイにさばいてもらって食べ、残りはこれから行く村で売ることにした。馬車はその後順調にチュワン村に向かった。
朝食の準備をしていると御者が機嫌よさそうに言った。
「運?」
「狼が一匹も出なかっただろう」
「やっぱり出るんですね」
「大概の場合はな」
そう言われて俺はちら、と猫紙を見た。どう考えてもこの三毛猫の能力だろう。ミンメイはきらきらした目で猫紙を見ている。
「まぁでも数が少なけりゃこちらを窺うぐらいで帰ってくんだがな。秋の終りの方が危険だ」
「食べ物が少なくなってくるからですか」
「そういうこった」
今は夏のようだからまだ危険な時期とはいえない。それでも狼の姿を見ないに越したことはないだろう。あ、でも。
一応心の中で聞いてみる。
〈狼が出なかったのは猫紙さまの力のせいなのか?〉
〈そうじゃろうな〉
それならいいと思う。村から王都へ向かう乗合馬車は五日に一度出るのだという。二台の馬車が行き来しているということなのだろう。ということは俺たちは丁度いいタイミングで村に着いたことになる。こういう運みたいなのも猫紙に関係してんのかな。
朝食を終え、また馬車が動き出す。昼間はのどかなものだ。俺は御者台の近くに座り、邪魔をしないように考えながら気になったことを尋ねていた。
「そういえば、先ほど言ってた危険な時期はどうしてるんですか?」
「ああ、秋口になると蓄えを増やそうと冒険者たちが出稼ぎにくるんだ。ついでに狼を狩ってくれるから馬車の運賃を安くしてやったりもするよ」
「冒険者っているんですね」
どうやらこの世界には冒険者というものがいるらしい。なかなかに夢のある話だ。
「というと冒険者ギルドとかあるんですか?」
わくわくして聞かずにはいられない。
「ギルド? 冒険者ゴンフイなら今日着く村にもあるぞ。その先のチエン村にはないが、ミンユエ村にはあるな。一番大きいのは王都にある」
「そうなんですか」
話好きな御者にいろいろ教えてもらい、本当にここは異世界なんだなと再認識した。ここではギルドのことをゴンフイというらしい。
この世界でなら、もしかしたら俺も冒険者として活躍できるかもしれない。
剣と防具を身につけ、ばっさばっさと魔物を倒す自分を想像する。魔法も実は……ってそういえば俺には魔法が使えないんだった! だがこの身体は狭間で作られた物だから俺の顔はイケメンっぽくなっている。もしかして勇者にもなれるかも!? と勝手にぐふぐふと想像していたら猫紙に頭を踏まれた。
「……何しやがる」
捕まえようとしたが猫紙はしなやかに避け、ミンメイの腕の中に再び納まりツンとそっぽを向いた。
〈どうせろくなことを考えてはいなかったじゃろう〉
〈うっせ。俺は冒険者になって超活躍するんだよ〉
猫紙はフンと鼻で笑った。
〈少しばかり鳥が捕れるからと言っていい気になるでない。我の加護なくばそなたの命など早々に費えてしまったであろうの〉
〈……そっか〉
それもそうだよなとすとんと納得する。正直早々に死んでしまってもよかったのだが。猫紙は眉を寄せた。
〈……そなた今何を考えた〉
〈いやー、死ぬなら死ぬでよかったかなーって〉
〈……王都で美鈴が待っているのではないのか〉
美鈴と聞いてはっとした。ああそうだ、美鈴が王都で困っているんだった。狭間に連れてこられる前は生きる気力もなくしていたからまだ不意に”死”について軽く考えてしまう。元の世界にいた時はなんかやっぱりおかしくなってたんだな。おかげでそれでもいいかーと今でも考えてしまうのが困るところだ。美鈴は王都にいるって聞いてるのに。
〈美鈴を王子の毒牙から守らないと!〉
〈そうじゃ、その意気じゃ〉
昼休憩の時間に俺はまた鳥を何羽か捕まえた。一羽をミンメイにさばいてもらって食べ、残りはこれから行く村で売ることにした。馬車はその後順調にチュワン村に向かった。
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