20 / 51
20.隣村に着きまして
しおりを挟む
チュワン村の周りは防壁と言ってもいいぐらいの木の柵で覆われていた。ちょっとやそっとの柵ではない。最低でも高さ2mはありそうな木が先を尖らせた状態でぎっちぎちに並んでいる。
「……厳重ですね」
その防壁の物々しさに気圧されて、俺は思わず呟いた。ミンメイのいた村はここまで厳重ではなかったように思う。
「ああ、あそこと比べちゃあな」
御者が笑う。
「? なんで森に接してる村よりこっちの方が厳重なんです?」
「あっちも家畜とか畑の周りには柵が張り巡らされてるんだがな。村の規模が小さいから主要なところだけ囲ってんだろ。収穫の時期は冒険者もけっこう来るしな。こっちの村は比較的王都に近いし適度に森に近い。……まぁそういうことだ」
よくわからなかったが、ミンメイの村はこちらの村より平和だということらしい。そしてふとあることに思い当たる。
〈……脅威は野生動物だけじゃないってことかな?〉
〈じゃろうな〉
正解だというように猫紙がほんの少しだけ顔を上げた。その頭をミンメイが優しく撫でる。猫紙はずっと彼女の膝で丸まっているが重くないのだろうか。エコノミー症候群が心配である。
「ミンメイ、重かったら下ろしてもいいからな」
「いいえ、大丈夫です。気持ちいいですよ」
猫紙が眉間に皺を寄せたように見えた。眉毛がないから表情がわかりにくい。ミンメイは笑って猫紙の背を撫でる。
「本当に大人しい猫ねぇ」
ミンメイの隣に腰掛けているおばさんが声をかける。その手が猫紙に触れたそうにわきわきしているが、猫紙は我関せずという体である。ミンメイもそれに気づいてはいるようだが猫紙が神さまだと知っているし、猫紙の主は一応俺ということになっているから、どう返したらいいか困っているようだった。
「彼女には懐いてるんで。でも猫ですから気まぐれですよ」
勝手に撫でて引っかかれても知らないということを暗に伝えると、おばさんは残念そうに手を元に戻した。
そうしているうちにチュワン村の入口に着く。門番と思しき、木の枝などを集めて作ったような鎧を身に着けた人たちが馬車の中を改める。俺たちも許可証のようなものを提示して無事通してもらった。門は二段構えになっており、外側の門がしまってから内側の門が開かれた。やはり人が攻めてくることも想定しているようだった。
馬車は門から入ってすぐのところで止まった。
「明日は鐘が二つ鳴ったら出るからな。間に合わなかったら次の馬車を待つか冒険者を雇え」
今夜はこの村で宿をとれということらしい。
「わかりました。この鳥はどこで買い取ってもらえますか?」
「宿に下ろせば安く二人部屋に泊まれるだろう。その猫はどうか知らんがな。金にしたいなら冒険者ゴンフイに持って行くといい」
「ありがとうございます」
御者に礼を言って村の中を見やる。
「……どうしようか」
「タツキさんはどうしたいですか?」
「んー……ここの旅自体どうするのが正解かわからないから困ってるんだよね。冒険者ゴンフイは覗いてみたいけど、宿を探すのが先かな」
寝場所を確保するのは大事だ。
〈猫紙さまって、どの宿が安全かとかもわかんの?〉
〈悪意を持った者が近づけばわかるぞ〉
それがわかるだけでもありがたいが、なんつーか微妙だな。
〈そなた相変わらず失礼なことを考えてはおらぬか?〉
〈ネコガミサマノキノセイデショー?〉
俺は口笛を吹くフリをした。(実は口笛は吹けない)
店が並ぶ通りを歩いていくと三箇所ほど宿だか食堂だかがあるのが見えた。こういうところだと兼業なのかな。
昼を過ぎたところである。
俺たちはとりあえず食堂に入ることにした。宿も兼ねているといいな。
「……厳重ですね」
その防壁の物々しさに気圧されて、俺は思わず呟いた。ミンメイのいた村はここまで厳重ではなかったように思う。
「ああ、あそこと比べちゃあな」
御者が笑う。
「? なんで森に接してる村よりこっちの方が厳重なんです?」
「あっちも家畜とか畑の周りには柵が張り巡らされてるんだがな。村の規模が小さいから主要なところだけ囲ってんだろ。収穫の時期は冒険者もけっこう来るしな。こっちの村は比較的王都に近いし適度に森に近い。……まぁそういうことだ」
よくわからなかったが、ミンメイの村はこちらの村より平和だということらしい。そしてふとあることに思い当たる。
〈……脅威は野生動物だけじゃないってことかな?〉
〈じゃろうな〉
正解だというように猫紙がほんの少しだけ顔を上げた。その頭をミンメイが優しく撫でる。猫紙はずっと彼女の膝で丸まっているが重くないのだろうか。エコノミー症候群が心配である。
「ミンメイ、重かったら下ろしてもいいからな」
「いいえ、大丈夫です。気持ちいいですよ」
猫紙が眉間に皺を寄せたように見えた。眉毛がないから表情がわかりにくい。ミンメイは笑って猫紙の背を撫でる。
「本当に大人しい猫ねぇ」
ミンメイの隣に腰掛けているおばさんが声をかける。その手が猫紙に触れたそうにわきわきしているが、猫紙は我関せずという体である。ミンメイもそれに気づいてはいるようだが猫紙が神さまだと知っているし、猫紙の主は一応俺ということになっているから、どう返したらいいか困っているようだった。
「彼女には懐いてるんで。でも猫ですから気まぐれですよ」
勝手に撫でて引っかかれても知らないということを暗に伝えると、おばさんは残念そうに手を元に戻した。
そうしているうちにチュワン村の入口に着く。門番と思しき、木の枝などを集めて作ったような鎧を身に着けた人たちが馬車の中を改める。俺たちも許可証のようなものを提示して無事通してもらった。門は二段構えになっており、外側の門がしまってから内側の門が開かれた。やはり人が攻めてくることも想定しているようだった。
馬車は門から入ってすぐのところで止まった。
「明日は鐘が二つ鳴ったら出るからな。間に合わなかったら次の馬車を待つか冒険者を雇え」
今夜はこの村で宿をとれということらしい。
「わかりました。この鳥はどこで買い取ってもらえますか?」
「宿に下ろせば安く二人部屋に泊まれるだろう。その猫はどうか知らんがな。金にしたいなら冒険者ゴンフイに持って行くといい」
「ありがとうございます」
御者に礼を言って村の中を見やる。
「……どうしようか」
「タツキさんはどうしたいですか?」
「んー……ここの旅自体どうするのが正解かわからないから困ってるんだよね。冒険者ゴンフイは覗いてみたいけど、宿を探すのが先かな」
寝場所を確保するのは大事だ。
〈猫紙さまって、どの宿が安全かとかもわかんの?〉
〈悪意を持った者が近づけばわかるぞ〉
それがわかるだけでもありがたいが、なんつーか微妙だな。
〈そなた相変わらず失礼なことを考えてはおらぬか?〉
〈ネコガミサマノキノセイデショー?〉
俺は口笛を吹くフリをした。(実は口笛は吹けない)
店が並ぶ通りを歩いていくと三箇所ほど宿だか食堂だかがあるのが見えた。こういうところだと兼業なのかな。
昼を過ぎたところである。
俺たちはとりあえず食堂に入ることにした。宿も兼ねているといいな。
0
あなたにおすすめの小説
無魔力の令嬢、婚約者に裏切られた瞬間、契約竜が激怒して王宮を吹き飛ばしたんですが……
タマ マコト
ファンタジー
王宮の祝賀会で、無魔力と蔑まれてきた伯爵令嬢エリーナは、王太子アレクシオンから突然「婚約破棄」を宣告される。侍女上がりの聖女セレスが“新たな妃”として選ばれ、貴族たちの嘲笑がエリーナを包む。絶望に胸が沈んだ瞬間、彼女の奥底で眠っていた“竜との契約”が目を覚まし、空から白銀竜アークヴァンが降臨。彼はエリーナの涙に激怒し、王宮を半壊させるほどの力で彼女を守る。王国は震え、エリーナは自分が竜の真の主であるという運命に巻き込まれていく。
『辺境伯一家の領地繁栄記』序章:【動物スキル?】を持った辺境伯長男の場合
鈴白理人
ファンタジー
北の辺境で雨漏りと格闘中のアーサーは、貧乏領主の長男にして未来の次期辺境伯。
国民には【スキルツリー】という加護があるけれど、鑑定料は銀貨五枚。そんな贅沢、うちには無理。
でも最近──猫が雨漏りポイントを教えてくれたり、鳥やミミズとも会話が成立してる気がする。
これってもしかして【動物スキル?】
笑って働く貧乏大家族と一緒に、雨漏り屋敷から始まる、のんびりほのぼの領地改革物語!
【完結】辺境に飛ばされた子爵令嬢、前世の経営知識で大商会を作ったら王都がひれ伏したし、隣国のハイスペ王子とも結婚できました
いっぺいちゃん
ファンタジー
婚約破棄、そして辺境送り――。
子爵令嬢マリエールの運命は、結婚式直前に無惨にも断ち切られた。
「辺境の館で余生を送れ。もうお前は必要ない」
冷酷に告げた婚約者により、社交界から追放された彼女。
しかし、マリエールには秘密があった。
――前世の彼女は、一流企業で辣腕を振るった経営コンサルタント。
未開拓の農産物、眠る鉱山資源、誠実で働き者の人々。
「必要ない」と切り捨てられた辺境には、未来を切り拓く力があった。
物流網を整え、作物をブランド化し、やがて「大商会」を設立!
数年で辺境は“商業帝国”と呼ばれるまでに発展していく。
さらに隣国の完璧王子から熱烈な求婚を受け、愛も手に入れるマリエール。
一方で、税収激減に苦しむ王都は彼女に救いを求めて――
「必要ないとおっしゃったのは、そちらでしょう?」
これは、追放令嬢が“経営知識”で国を動かし、
ざまぁと恋と繁栄を手に入れる逆転サクセスストーリー!
※表紙のイラストは画像生成AIによって作られたものです。
異世界転生したおっさんが普通に生きる
カジキカジキ
ファンタジー
第18回 ファンタジー小説大賞 読者投票93位
応援頂きありがとうございました!
異世界転生したおっさんが唯一のチートだけで生き抜く世界
主人公のゴウは異世界転生した元冒険者
引退して狩をして過ごしていたが、ある日、ギルドで雇った子どもに出会い思い出す。
知識チートで町の食と環境を改善します!! ユルくのんびり過ごしたいのに、何故にこんなに忙しい!?
婚約破棄されて辺境へ追放されました。でもステータスがほぼMAXだったので平気です!スローライフを楽しむぞっ♪
naturalsoft
恋愛
シオン・スカーレット公爵令嬢は転生者であった。夢だった剣と魔法の世界に転生し、剣の鍛錬と魔法の鍛錬と勉強をずっとしており、攻略者の好感度を上げなかったため、婚約破棄されました。
「あれ?ここって乙女ゲーの世界だったの?」
まっ、いいかっ!
持ち前の能天気さとポジティブ思考で、辺境へ追放されても元気に頑張って生きてます!
溺愛最強 ~気づいたらゲームの世界に生息していましたが、悪役令嬢でもなければ断罪もされないので、とにかく楽しむことにしました~
夏笆(なつは)
恋愛
「おねえしゃま。こえ、すっごくおいしいでし!」
弟のその言葉は、晴天の霹靂。
アギルレ公爵家の長女であるレオカディアは、その瞬間、今自分が生きる世界が前世で楽しんだゲーム「エトワールの称号」であることを知った。
しかし、自分は王子エルミニオの婚約者ではあるものの、このゲームには悪役令嬢という役柄は存在せず、断罪も無いので、攻略対象とはなるべく接触せず、穏便に生きて行けば大丈夫と、生きることを楽しむことに決める。
醤油が欲しい、うにが食べたい。
レオカディアが何か「おねだり」するたびに、アギルレ領は、周りの領をも巻き込んで豊かになっていく。
既にゲームとは違う展開になっている人間関係、その学院で、ゲームのヒロインは前世の記憶通りに攻略を開始するのだが・・・・・?
小説家になろうにも掲載しています。
辺境のスローライフを満喫したいのに、料理が絶品すぎて冷酷騎士団長に囲い込まれました
腐ったバナナ
恋愛
異世界に転移した元会社員のミサキは、現代の調味料と調理技術というチート能力を駆使し、辺境の森で誰にも邪魔されない静かなスローライフを送ることを目指していた。
しかし、彼女の作る絶品の料理の香りは、辺境を守る冷酷な「鉄血」騎士団長ガイウスを引き寄せてしまった。
中身は80歳のおばあちゃんですが、異世界でイケオジ伯爵に溺愛されています
浅水シマ
ファンタジー
【完結しました】
ーー人生まさかの二週目。しかもお相手は年下イケオジ伯爵!?
激動の時代を生き、八十歳でその生涯を終えた早川百合子。
目を覚ますと、そこは異世界。しかも、彼女は公爵家令嬢“エマ”として新たな人生を歩むことに。
もう恋愛なんて……と思っていた矢先、彼女の前に現れたのは、渋くて穏やかなイケオジ伯爵・セイルだった。
セイルはエマに心から優しく、どこまでも真摯。
戸惑いながらも、エマは少しずつ彼に惹かれていく。
けれど、中身は人生80年分の知識と経験を持つ元おばあちゃん。
「乙女のときめき」にはとっくに卒業したはずなのに――どうしてこの人といると、胸がこんなに苦しいの?
これは、中身おばあちゃん×イケオジ伯爵の、
ちょっと不思議で切ない、恋と家族の物語。
※小説家になろうにも掲載中です。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる