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20.隣村に着きまして

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 チュワン村の周りは防壁と言ってもいいぐらいの木の柵で覆われていた。ちょっとやそっとの柵ではない。最低でも高さ2mはありそうな木が先を尖らせた状態でぎっちぎちに並んでいる。

「……厳重ですね」

 その防壁の物々しさに気圧されて、俺は思わず呟いた。ミンメイのいた村はここまで厳重ではなかったように思う。

「ああ、あそこと比べちゃあな」

 御者が笑う。

「? なんで森に接してる村よりこっちの方が厳重なんです?」
「あっちも家畜とか畑の周りには柵が張り巡らされてるんだがな。村の規模が小さいから主要なところだけ囲ってんだろ。収穫の時期は冒険者もけっこう来るしな。こっちの村は比較的王都に近いし適度に森に近い。……まぁそういうことだ」

 よくわからなかったが、ミンメイの村はこちらの村より平和だということらしい。そしてふとあることに思い当たる。

〈……脅威は野生動物だけじゃないってことかな?〉
〈じゃろうな〉

 正解だというように猫紙がほんの少しだけ顔を上げた。その頭をミンメイが優しく撫でる。猫紙はずっと彼女の膝で丸まっているが重くないのだろうか。エコノミー症候群が心配である。

「ミンメイ、重かったら下ろしてもいいからな」
「いいえ、大丈夫です。気持ちいいですよ」

 猫紙が眉間に皺を寄せたように見えた。眉毛がないから表情がわかりにくい。ミンメイは笑って猫紙の背を撫でる。

「本当に大人しい猫ねぇ」

 ミンメイの隣に腰掛けているおばさんが声をかける。その手が猫紙に触れたそうにわきわきしているが、猫紙は我関せずという体である。ミンメイもそれに気づいてはいるようだが猫紙が神さまだと知っているし、猫紙の主は一応俺ということになっているから、どう返したらいいか困っているようだった。

「彼女には懐いてるんで。でも猫ですから気まぐれですよ」

 勝手に撫でて引っかかれても知らないということを暗に伝えると、おばさんは残念そうに手を元に戻した。
 そうしているうちにチュワン村の入口に着く。門番と思しき、木の枝などを集めて作ったような鎧を身に着けた人たちが馬車の中を改める。俺たちも許可証のようなものを提示して無事通してもらった。門は二段構えになっており、外側の門がしまってから内側の門が開かれた。やはり人が攻めてくることも想定しているようだった。
 馬車は門から入ってすぐのところで止まった。

「明日は鐘が二つ鳴ったら出るからな。間に合わなかったら次の馬車を待つか冒険者を雇え」

 今夜はこの村で宿をとれということらしい。

「わかりました。この鳥はどこで買い取ってもらえますか?」
「宿に下ろせば安く二人部屋に泊まれるだろう。その猫はどうか知らんがな。金にしたいなら冒険者ゴンフイに持って行くといい」
「ありがとうございます」

 御者に礼を言って村の中を見やる。

「……どうしようか」
「タツキさんはどうしたいですか?」
「んー……ここの旅自体どうするのが正解かわからないから困ってるんだよね。冒険者ゴンフイは覗いてみたいけど、宿を探すのが先かな」

 寝場所を確保するのは大事だ。

〈猫紙さまって、どの宿が安全かとかもわかんの?〉
〈悪意を持った者が近づけばわかるぞ〉

 それがわかるだけでもありがたいが、なんつーか微妙だな。

〈そなた相変わらず失礼なことを考えてはおらぬか?〉
〈ネコガミサマノキノセイデショー?〉

 俺は口笛を吹くフリをした。(実は口笛は吹けない)
 店が並ぶ通りを歩いていくと三箇所ほど宿だか食堂だかがあるのが見えた。こういうところだと兼業なのかな。
 昼を過ぎたところである。
 俺たちはとりあえず食堂に入ることにした。宿も兼ねているといいな。
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