【完結】炒飯を適度に焦がすチートです~猫神さまと行く異世界ライフ

浅葱

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26.王都到着!

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 翌朝はかなり早くに起こされた。急いで城門に並ばないといけないようだ。乗合馬車でもこれなのだから徒歩でなどとても移動はできないだろう。
 王都に近づくにつれどんどん暑くなっているのを感じる。やはり山や森の近くというのは涼しいのだ。ミンユエ村は避暑地と呼ばれるだけあり、朝晩はとても過ごしやすかった。しかし今はどうだ。王都をぐるりと囲んでいるであろう城壁は確かに壮観だったが、その手前に並んでいる列を見て俺はげんなりした。
 御者が言っていた通り、人の列と馬車や馬の列は別になっている。馬車の方が一台一台が大きいので列が長くなるのではないかと思ったが徒歩で王都に入ろうとする人の列とどっこいどっこいだった。確かに徒歩では中に入るのも一苦労だろうと思われた。

〈馬車だからまし、馬車だからまし〉
〈自分に言い聞かせているのか我に聞かせているのかどっちじゃ。さすがにこの辺りの気候は夏らしいの〉
〈猫紙さま暑くねーの?〉
〈寒暖は特に感じぬの。どれ〉

 内心呟くのもなんなので猫紙を頭に浮かべながら念話で呟いたら猫紙が反応した。猫紙さまはそれなりに面倒見がいいのである。

「おお……」
「風が……」
「涼しい……」

 馬車に乗っている人々が顔をほころばせる。馬車はほろを外してあるので周囲がよく見える。馬車の隣に並んでいる徒歩の人々も嬉しそうな顔をしていた。だがどうもそよそよと心地いい風が吹いているのはこの馬車の周りだけのようだ。ちょっと視線を前へ後ろへと動かせば不快そうに汗を拭っている人の姿が見える。

〈この風ってもしかして猫紙さまが?〉
〈うむ。ミンメイの信仰がなかなかに強くての。ちょっとしたことであればできるようになっておるぞ〉

 ミンメイの膝で丸くなりながらドヤ顔を向けてくる三毛猫。すごいとは思うけどなんかむかつく。

〈そなた、今また失礼なことを考えてはおらなんだか?〉
〈猫紙さまは被害妄想激シスギデスヨー〉

 ミンメイが俺の視線に気づいて、膝で丸まっている猫紙を見た。それに頷いてやるとパアアアと音がしたように嬉しそうな顔をする。そして猫紙の頭や背中をまた優しく撫で始めた。
 ミンメイはここ数日鶏を食べさせているせいか、頬が柔らかそうにふっくらしてきた。髪は短いが血色がよくなってきたことで男の子にはもう見えない。ぼうっと眺めているとボーイッシュな美少女に見えてきた。そういえば腹違いの兄の顔は美青年と言ってもいいぐらいだったから元がいいのだろう。俺? みなまで聞くな。
 風によって汗は引いてきたとはいえ、なかなか列は進まないし陽射しはどんどん強くなっている。一応布を頭に被せて陽射しを遮るようにはしているがとにかくヒマだ。御者はいつのまにか煙草のようなものを咥えていた。
 と、上空をいつも見かける鳥が飛んでいるのが見えた。それも一羽二羽ではなくけっこうな数である。奴らは狙われないのをいいことに高度を下げたり俺たちの列の上を旋回したりして遊んでいるようだった。
 なんかむかつく。
 俺は御者に声をかけた。

「馬車ってずっと乗ってないとまずいですか? そうでなければ鳥を狩ってこようかと思うんですけど」
「お? 兄ちゃんの本領発揮だな。受付があと二、三台ってところになったら呼んでやるよ。鳥一羽でも渡してやりゃあ簡単に通してくれるさ。がんばれよ」
「わかりました。よろしく」

 一瞬猫紙を連れていくかどうか悩んだが、猫紙は薄目を開けただけですぐに閉じてしまった。一人で行けということらしい。

〈足になんか巻き付いてる鳥は狩るなって言われてるんだけど?〉
〈……教えてやるから行ってこい。我の分も忘れるなよ〉
〈ああ〉

 不安そうな顔をしたミンメイに笑いかけた。

「猫と待っててくれ。行ってくる」
「はい、お気を付けて」

 猫紙を残していくことを伝えるとほっとしたような顔をされた。大丈夫、置いていったりしないさ。
 馬車を降りて位置取りをする。鳥がよく飛んでいく方向を把握して、紐の両端に石がついたものを投げれば面白いように鳥が狩れた。さすがに三羽狩ると投げるのに支障が出るので馬車へ運んだ。

「もう少し狩ってくるよ。鳥、見ててもらっていいですか?」
「一羽で手を打つぜ」
「よろしくお願いします」

 御者に鳥の保管を頼むと笑ってそう言われた。一羽は御者、一羽は受付、もう一羽は猫紙とすると全然足りない。幸い全然馬車の列も動かないので俺はただひたすらに鳥を狩った。うん、本当に鳥の兄ちゃんだな。
 三羽ずつで合計十五羽ほど狩り馬車に戻ると、別の馬車から恰幅のよいおっさんが降りてきた。

「いやあ君はすごいね。あっという間にあの狩りづらい鳥を狩ってしまった。みごとみごと!」
「どちらさまですか?」

 おっさんは一瞬きょとんとした。手放しで褒める人間は信用してはいけないと美鈴に言われていたことを思い出したのだった。

「すまんすまん。私は王都で商会を営んでいるパンズという者だ。ああ、ロホロホ鳥がいっぱいだね。それはどうするつもりなのかな?」

 俺はミンメイを窺う。ミンメイも困惑したような顔をしていた。

「一羽は俺のだぜ」

 御者が軽口を叩いた。

「まぁ、そうですね。宿に卸すかギルドに出すかですかね」

 無難な答えをすると、商人の目がキラリと光った。

「宿、というと王都に知り合いはいないのかね?」
「いるはずなんですけどどこにいるかわからないんですよ。人探しにきたんです」
「ほうほう。ならばうちの商会に泊まるというのはどうかね? 継続的に鳥を狩ってくれるならいい部屋を用意するよ」
「んー、俺世間知らずなんで考えておきます」
「そうかそうか。もしなにかあったらヨウシュウ商会にきたまえ。優遇するよ。で、できれば二羽ぐらい売ってくれるとありがたいのだが……」
「そういうことは……ミンメイ、頼む」
「はい!」

 やっと役に立てる! と言うようにミンメイは笑むと、商人と鳥の交渉をし始めた。こういうところは本当に俺は門外漢だ。ミンメイさまさまである。
 そうしているうちに列は進み、御者が入場料と一緒に鳥を一羽渡すとそれまで不機嫌そうだった兵士の顔がほころんだ。おかげでスムーズに王都に入ることができたと御者には感謝された。入場料を渡してもああでもないこうでもないと文句をつけられていつもなかなか入れないらしい。

「またなんかあったら声をかけてくれ!」

 もちろん鳥を一羽別に渡したら感激された。どうも御者のおじさんは門番の兵士に渡す為に一羽ほしかったらしい。でも俺はいつでも狩れるからいいのだ。鳥一羽で喜んでくれるなら安いものである。
 ちょうど昼の時間だ。

「とりあえず飯でも食うか」
「そうですね」

 そう答えるミンメイもまた、嬉しそうな顔をしていた。
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