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41.ミンメイの事情とか確認してみる
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「ミンメイさん、だったかしら?」
「はい」
「どういう経緯で竜樹と一緒にいるのか、教えてもらっていい?」
キター! と思った。
ここは俺に用意されている部屋である。それなりに広いので美鈴と一緒でも問題ない。なので美鈴もこの部屋で寝起きをすることになる。問題はミンメイだ。ミンメイは俺の側にいないとまだ不安がっていて、ベッドを一台入れてもらって同じ部屋で寝起きしているのだ。
「はい。私は以前父について王都に来たことがあるので、案内役として同行させていただきました」
ミンメイは緊張した様子で、しかしはっきりと答えた。
「ふうん……そしたらこれから貴女はどうしたい? 希望は叶えられる限り聞くわよ? もちろん、無理なこともあるかもしれないけど」
美鈴は俺をソファで横抱きにしたまま、にっこりして言った。俺は慌てた。
「美鈴! ミンメイには本当に世話になったんだ! その恩返しはしたいと俺は思ってる! 多分俺と猫紙だけじゃ絶対に王都までこられなかったはずだし……」
「そう……でもまずは本人の希望を聞かないとじゃない?」
「ああ。だから威圧するような真似は止めてくれ。それから俺のこともいいかげん下ろしてほしい」
「竜樹を下ろすのはイヤ」
それだけはどうしても譲れないみたいだ。俺はため息をついた。
向かいのソファで固い顔をしていたミンメイが口を開いた。
「私は……できればこれからも、竜樹さんと、神さまと一緒にいさせていただけたらと考えています。もし、その……美鈴さんがよろしければ、ですが……」
美鈴は感心したような顔をした。
「いくつか確認したいことがあるのだけど、いいかしら?」
「はい」
「竜樹のこと、好き?」
ずばり聞かれた。どきどきである。頼むから修羅場は勘弁してほしい。
「はい、好きです」
きゃー!
俺は内心ムンクの叫び状態になった。美鈴の目がつり上がる。
「……ふうん」
「ですが、おそらく、美鈴さんが聞きたい感情とは……違うと思います」
「……どういう好きなの?」
「私には兄がいますが、私には嫌味を言ったり、ひどい感情をぶつけてきます。ですが他の子たちを見ると兄弟は喧嘩しても助け合ったり、時に笑い合ったりしていました。私はそんな兄を求めています」
「つまり、本当の兄ではないけど、理想のお兄さんを竜樹に重ねてるってことでいいのかしら?」
「はい!」
よかった。兄ならいいと思う。それにしても全く頼りにならない兄だけど。泣きそうだ。泣かないけど。
「それが別の感情に変わる可能性は?」
「わかりません」
美鈴はじっとミンメイを見た。ミンメイもまっすぐ美鈴を見返す。
「……私、素直な子って好きよ。他にも何か事情がありそうだから、今日はここまでにしましょう。即答はできないけど、私もよく考えさせてもらうわ」
「ありがとうございます」
ミンメイは拱手した。
この館の中にいれば大丈夫だろうと、ミンメイは別室で暮らすことになった。猫紙にはしっかりミンメイを守るよう頼んだ。
〈全く心配がないとは言えぬが、隣の部屋であれば大丈夫じゃろう〉
猫紙が教えてくれた。パンズもミンメイの部屋の周囲に人を配置してくれたようだ。それならば一息つけるというものだった。
「ねぇ、竜樹。あの子ワケアリでしょう?」
「うん、まぁ……実は、さ」
俺は猫紙に音が漏れないように頼み、美鈴にミンメイの事情をかいつまんで話した。
「兄が妹に懸想してる、ねぇ……ありえないことではないけど、それでキツく当たるなんてどうかしてるわ」
「兄貴の嫁さんって人がミンメイを使用人みたいに使ってたんだけど、兄嫁さんはミンメイを守る為にそうしてたっぽいんだよな。だからミンメイには帰る場所がないんだよ」
「そんな家だったら帰りたくないわよね。竜樹と王都へやったのも、お父さんが主導して出してくれたんでしょう?」
「ああ」
「じゃあやっぱり帰ってくるなってことよね。それなら、恩もあることだし私たちで面倒をみましょうか」
「そうしてくれると助かる。って……俺は何もできないんだけどさ……」
王都に来るのだってミンメイにいろいろ教えてもらいながらおんぶにだっこだったしな、とほほ。
「ホント、竜樹って何もできないのよねぇ」
それは間違いない。ごく潰しだったことは認めるが、さすがにちょっと傷つくぞ。ただ、そう言う美鈴の顔は嬉しそうに笑んでいた。美鈴が猫紙に声をかけた。
「ねえ、猫神さま」
「なんじゃ」
「猫神さまの印象でいいんだけど、ミンメイの兄って人は追いかけてくると思う?」
「……可能性は0ではない。連れ戻す為に人を寄こすぐらいはしそうじゃな」
「そっかぁ……じゃあ早いところどこかに所属を決めないといけないわね。猫神さま、防音を解除して」
「うむ」
なんか空気感が変わった気がした。まんま気のせいかもしれないけど。それにしても猫紙にできることが増えてるなと思う。
美鈴は卓に置かれた鈴を鳴らした。
「誰か、パンズさんを呼んでくださる?」
「……承知しました」
天井から声がした。やっぱり誰か潜んでいたらしい。忍者かよと思った。
「はい」
「どういう経緯で竜樹と一緒にいるのか、教えてもらっていい?」
キター! と思った。
ここは俺に用意されている部屋である。それなりに広いので美鈴と一緒でも問題ない。なので美鈴もこの部屋で寝起きをすることになる。問題はミンメイだ。ミンメイは俺の側にいないとまだ不安がっていて、ベッドを一台入れてもらって同じ部屋で寝起きしているのだ。
「はい。私は以前父について王都に来たことがあるので、案内役として同行させていただきました」
ミンメイは緊張した様子で、しかしはっきりと答えた。
「ふうん……そしたらこれから貴女はどうしたい? 希望は叶えられる限り聞くわよ? もちろん、無理なこともあるかもしれないけど」
美鈴は俺をソファで横抱きにしたまま、にっこりして言った。俺は慌てた。
「美鈴! ミンメイには本当に世話になったんだ! その恩返しはしたいと俺は思ってる! 多分俺と猫紙だけじゃ絶対に王都までこられなかったはずだし……」
「そう……でもまずは本人の希望を聞かないとじゃない?」
「ああ。だから威圧するような真似は止めてくれ。それから俺のこともいいかげん下ろしてほしい」
「竜樹を下ろすのはイヤ」
それだけはどうしても譲れないみたいだ。俺はため息をついた。
向かいのソファで固い顔をしていたミンメイが口を開いた。
「私は……できればこれからも、竜樹さんと、神さまと一緒にいさせていただけたらと考えています。もし、その……美鈴さんがよろしければ、ですが……」
美鈴は感心したような顔をした。
「いくつか確認したいことがあるのだけど、いいかしら?」
「はい」
「竜樹のこと、好き?」
ずばり聞かれた。どきどきである。頼むから修羅場は勘弁してほしい。
「はい、好きです」
きゃー!
俺は内心ムンクの叫び状態になった。美鈴の目がつり上がる。
「……ふうん」
「ですが、おそらく、美鈴さんが聞きたい感情とは……違うと思います」
「……どういう好きなの?」
「私には兄がいますが、私には嫌味を言ったり、ひどい感情をぶつけてきます。ですが他の子たちを見ると兄弟は喧嘩しても助け合ったり、時に笑い合ったりしていました。私はそんな兄を求めています」
「つまり、本当の兄ではないけど、理想のお兄さんを竜樹に重ねてるってことでいいのかしら?」
「はい!」
よかった。兄ならいいと思う。それにしても全く頼りにならない兄だけど。泣きそうだ。泣かないけど。
「それが別の感情に変わる可能性は?」
「わかりません」
美鈴はじっとミンメイを見た。ミンメイもまっすぐ美鈴を見返す。
「……私、素直な子って好きよ。他にも何か事情がありそうだから、今日はここまでにしましょう。即答はできないけど、私もよく考えさせてもらうわ」
「ありがとうございます」
ミンメイは拱手した。
この館の中にいれば大丈夫だろうと、ミンメイは別室で暮らすことになった。猫紙にはしっかりミンメイを守るよう頼んだ。
〈全く心配がないとは言えぬが、隣の部屋であれば大丈夫じゃろう〉
猫紙が教えてくれた。パンズもミンメイの部屋の周囲に人を配置してくれたようだ。それならば一息つけるというものだった。
「ねぇ、竜樹。あの子ワケアリでしょう?」
「うん、まぁ……実は、さ」
俺は猫紙に音が漏れないように頼み、美鈴にミンメイの事情をかいつまんで話した。
「兄が妹に懸想してる、ねぇ……ありえないことではないけど、それでキツく当たるなんてどうかしてるわ」
「兄貴の嫁さんって人がミンメイを使用人みたいに使ってたんだけど、兄嫁さんはミンメイを守る為にそうしてたっぽいんだよな。だからミンメイには帰る場所がないんだよ」
「そんな家だったら帰りたくないわよね。竜樹と王都へやったのも、お父さんが主導して出してくれたんでしょう?」
「ああ」
「じゃあやっぱり帰ってくるなってことよね。それなら、恩もあることだし私たちで面倒をみましょうか」
「そうしてくれると助かる。って……俺は何もできないんだけどさ……」
王都に来るのだってミンメイにいろいろ教えてもらいながらおんぶにだっこだったしな、とほほ。
「ホント、竜樹って何もできないのよねぇ」
それは間違いない。ごく潰しだったことは認めるが、さすがにちょっと傷つくぞ。ただ、そう言う美鈴の顔は嬉しそうに笑んでいた。美鈴が猫紙に声をかけた。
「ねえ、猫神さま」
「なんじゃ」
「猫神さまの印象でいいんだけど、ミンメイの兄って人は追いかけてくると思う?」
「……可能性は0ではない。連れ戻す為に人を寄こすぐらいはしそうじゃな」
「そっかぁ……じゃあ早いところどこかに所属を決めないといけないわね。猫神さま、防音を解除して」
「うむ」
なんか空気感が変わった気がした。まんま気のせいかもしれないけど。それにしても猫紙にできることが増えてるなと思う。
美鈴は卓に置かれた鈴を鳴らした。
「誰か、パンズさんを呼んでくださる?」
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