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44.訓練場の見学へ
私の準備をしている間に智良(ジーリャン)は訓練用の恰好に着替えてきたらしい。
簡易的な胸当てを身につけている姿が格好いいと思った。
訓練場に着くと、すでに武官や衛兵たちが思い思いに訓練している様子が見られた。熱気がすごくて、私は智明(ジーミン)の腕の中で胸を喘がせた。
己がひどく興奮しているのがわかる。できることならば私も少し身体を動かしてみたいと思ったが、履かされている靴は柔らかい布の物なので下ろしてもらえないことはわかっていた。
そう、最近は本当に歩かせてもらえないのである。一人で自由に動けるのは午前中ぐらいで、それも館の中限定だ。大概は館の図書館で本を探していたり、領地に関する書類に目を通したりするぐらいである。庭に出ようとすると夫たちのうち誰かが来てしまうので、午前中はあまり庭に出ないようになった。
なんというか、夫たちの過保護ぶりがすごくて戸惑っているというのが正しい。
私を抱いた智明が訓練場に足を踏み入れると、武官らしき者が気づいて近づいてきた。智良ぐらいがたいが大きくて、怯みそうになった。
「智明様、智良様、おはようございます。失礼ですがそちらは……」
「妻だ。今日は訓練の様子を見てもらいたいと思って連れてきたのだ」
「そうでございましたか。初めまして奥さま、私は成全(チョンチュエン)と申します」
「成?」
どこかで聞いた姓だと、私は首を傾げた。
「隣の領地の代官の兄弟だったか?」
智明が気づいて聞いてくれた。
「いえ、従兄弟でございます」
「そうか」
そう聞いて納得した。この辺りの者であることにかわりはないようだった。
「……随分浮ついているようだな」
智良が横で低い声を発した。それにビクッとしてしまう。
「奥さまがいらしたのです。しかたないでしょう」
成全が苦笑して答えた。
「智良哥」
智明が智良に声をかけた。智良がそっと私の手に触れた。大きな手だ、と改めて思う。
「勇志(ヨンジー)、すまぬ」
「……い、いえ……」
智良が私に謝る必要など全くない。私がそういう声を勝手に怖がってしまうだけだ。
今までは本当に夫たちに触れ合っていなかったのだなということがわかる。結婚して四年も経つのに情けないと思った。
智良は当たり前のように私の手に口づけると、
「智明、少し離れていろ」
と告げた。智明は私を抱いたまま後ろに下がる。
「これから智良哥が大きい声を出すから、耳を塞いだ方がいいかもしれない」
智明にこそっと言われて、私は智良の方を見た。
「……ありがとう」
智明には礼を言ったが、そういうのも含めて聞いてみたいと思った。
「整列!」
智良が訓練をしている武官や衛兵たちに向けて声を張り上げた。途端に地がびりびりと揺れたように感じられた。
思い思いに訓練をしていた者たちがザッザッと智良の前に集まってきて、瞬く間に整然と並んだ。
「わぁ……」
思わず声が出た。みな着ている物はそれぞれ違ったが、等間隔に並んでいる様がとても格好良く見えた。
「注目! 此度は智良様、智明様の奥さまが見学にいらっしゃっている。みな王(ワン)家に仕える者として恥ずかしくないよう励むように!」
「尊命(はい)!」
成全の言葉に武官や衛兵たちが一斉に返事をした。すごい声である。さすがに目を丸くした。
「……勇志、大丈夫か?」
「……何が?」
声は大きくて驚くが、みな逞しい体躯をしている。彼らを見ているだけでわくわくしてきた。
「勇志は逞しい身体に憧れているのだったか」
「……うん」
クックッと喉の奥で笑われて、恥ずかしかったけど素直に答えた。違うと言ったらまるで彼らに懸想しているみたいになってしまう。私の夫たちはみな素敵だから、他の者に目なんて向かないのだ。
「散会!」
成全の号令により、衛兵たちが外側へ向かって移動する。
彼らは拡がって止まった。これから何が起こるのだろう。
「開始!」
その合図と共に、彼らは二人向かい合わせになり、お互い頭を下げると無手の打ち合いのようなことを始めた。
それもみな違う型にのっとった動きをして、誰を見ればいいのかわからなくなった。どの動きも洗練されていて美しく、私は夢中になって彼らの動きを眺めていた。
「止め!」
号令に合わせ、彼らの動きがピタリと止まった。そしてお互いに礼をしてザッと前に向き直った。
時間にしてそれほど経ってはいなかったと思う。
それでも私は彼らの動きに十分満足した。
「どうだ?」
「すごい、です……」
できることなら毎日だって見せてほしいと思った。それぐらい、彼らの動きは素晴らしかった。
簡易的な胸当てを身につけている姿が格好いいと思った。
訓練場に着くと、すでに武官や衛兵たちが思い思いに訓練している様子が見られた。熱気がすごくて、私は智明(ジーミン)の腕の中で胸を喘がせた。
己がひどく興奮しているのがわかる。できることならば私も少し身体を動かしてみたいと思ったが、履かされている靴は柔らかい布の物なので下ろしてもらえないことはわかっていた。
そう、最近は本当に歩かせてもらえないのである。一人で自由に動けるのは午前中ぐらいで、それも館の中限定だ。大概は館の図書館で本を探していたり、領地に関する書類に目を通したりするぐらいである。庭に出ようとすると夫たちのうち誰かが来てしまうので、午前中はあまり庭に出ないようになった。
なんというか、夫たちの過保護ぶりがすごくて戸惑っているというのが正しい。
私を抱いた智明が訓練場に足を踏み入れると、武官らしき者が気づいて近づいてきた。智良ぐらいがたいが大きくて、怯みそうになった。
「智明様、智良様、おはようございます。失礼ですがそちらは……」
「妻だ。今日は訓練の様子を見てもらいたいと思って連れてきたのだ」
「そうでございましたか。初めまして奥さま、私は成全(チョンチュエン)と申します」
「成?」
どこかで聞いた姓だと、私は首を傾げた。
「隣の領地の代官の兄弟だったか?」
智明が気づいて聞いてくれた。
「いえ、従兄弟でございます」
「そうか」
そう聞いて納得した。この辺りの者であることにかわりはないようだった。
「……随分浮ついているようだな」
智良が横で低い声を発した。それにビクッとしてしまう。
「奥さまがいらしたのです。しかたないでしょう」
成全が苦笑して答えた。
「智良哥」
智明が智良に声をかけた。智良がそっと私の手に触れた。大きな手だ、と改めて思う。
「勇志(ヨンジー)、すまぬ」
「……い、いえ……」
智良が私に謝る必要など全くない。私がそういう声を勝手に怖がってしまうだけだ。
今までは本当に夫たちに触れ合っていなかったのだなということがわかる。結婚して四年も経つのに情けないと思った。
智良は当たり前のように私の手に口づけると、
「智明、少し離れていろ」
と告げた。智明は私を抱いたまま後ろに下がる。
「これから智良哥が大きい声を出すから、耳を塞いだ方がいいかもしれない」
智明にこそっと言われて、私は智良の方を見た。
「……ありがとう」
智明には礼を言ったが、そういうのも含めて聞いてみたいと思った。
「整列!」
智良が訓練をしている武官や衛兵たちに向けて声を張り上げた。途端に地がびりびりと揺れたように感じられた。
思い思いに訓練をしていた者たちがザッザッと智良の前に集まってきて、瞬く間に整然と並んだ。
「わぁ……」
思わず声が出た。みな着ている物はそれぞれ違ったが、等間隔に並んでいる様がとても格好良く見えた。
「注目! 此度は智良様、智明様の奥さまが見学にいらっしゃっている。みな王(ワン)家に仕える者として恥ずかしくないよう励むように!」
「尊命(はい)!」
成全の言葉に武官や衛兵たちが一斉に返事をした。すごい声である。さすがに目を丸くした。
「……勇志、大丈夫か?」
「……何が?」
声は大きくて驚くが、みな逞しい体躯をしている。彼らを見ているだけでわくわくしてきた。
「勇志は逞しい身体に憧れているのだったか」
「……うん」
クックッと喉の奥で笑われて、恥ずかしかったけど素直に答えた。違うと言ったらまるで彼らに懸想しているみたいになってしまう。私の夫たちはみな素敵だから、他の者に目なんて向かないのだ。
「散会!」
成全の号令により、衛兵たちが外側へ向かって移動する。
彼らは拡がって止まった。これから何が起こるのだろう。
「開始!」
その合図と共に、彼らは二人向かい合わせになり、お互い頭を下げると無手の打ち合いのようなことを始めた。
それもみな違う型にのっとった動きをして、誰を見ればいいのかわからなくなった。どの動きも洗練されていて美しく、私は夢中になって彼らの動きを眺めていた。
「止め!」
号令に合わせ、彼らの動きがピタリと止まった。そしてお互いに礼をしてザッと前に向き直った。
時間にしてそれほど経ってはいなかったと思う。
それでも私は彼らの動きに十分満足した。
「どうだ?」
「すごい、です……」
できることなら毎日だって見せてほしいと思った。それぐらい、彼らの動きは素晴らしかった。
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