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SIDE:魔法師団長(攻)
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今日は始末書がとても多かった。
入ったばかりの新人が火魔法を建物内でぶっ放したのだ。
何をどうしたらそんなことになるのかと事情聴取したのだが、顔を真っ赤にしたきり何も言わない。大方誰かにからかわれたか襲われたかしたのだろうが、建物内で魔法を使うのはご法度である。大体魔法師団に入ったのなら、そんな派手な魔法を使わなくても自分の身ぐらい守れなくてどうするのだ。
「全く……」
魔法師は攻撃魔法だけ撃てればいいというものではない。戦争も何も起きない平和が続いているから、団員たちも平和ボケが過ぎるのだ。
平和なのはもちろんいいことではあるのだが、団員の質が落ちるのは勘弁ならなかった。
「……明日は……いや、明日は休みですか。明後日は徹底的にしごかねばなりませんね」
「お、お手柔らかに……」
副団長が横でボソッと呟く。副団長もよほどしごかれたいらしい。明後日の鍛錬メニューは明日にでも考えようと思った。
鍛錬場を見ると、もう誰もいない。定時はとうに過ぎ、帰りに愛しの騎士団長の姿を見ることもできなかったかと残念に思った。(一応気持ちは秘めているつもりだが、同じ魔法師団内では筒抜けらしい。そんなに私はわかりやすかっただろうか)
制服のローブから普段着に着替える。
こんな夜はあの店に行くに限る。
勤めている王城からも、娼館からも微妙に遠い位置にある飲み屋街へ繰り出すことにした。
そこにちょうどいい店がある。
以前ぶらぶらしていて偶然見つけたのだが、その店はいわゆる出会い提供の場であった。店構えは地味だから、ただ飲みに行こうとしている人々は目も止めない。不思議なものだと思う。
店の扉を開けると、カランカランという音がした。
ほどなくしてもう一つの扉が開き、店員が現れる。少し年配の、上品な紳士だ。
「いらっしゃいませ。ご無沙汰しています」
二、三度来ただけの客の顔も覚えているというのがいい。
「忙しくてね。誰かいるかな」
「何人かお見えになっています。カウンターの側にいらっしゃる方は初めてです」
「へえ……」
初めての客、というのに興味が湧いた。店内は間接照明だから暗くて、近くまでいかないと相手の顔はわからない。でも体格とかは座っていても大体わかる。カウンターの側のテーブル席にいる人に視線を向けた。
「えっ……」
思わず声が出た。
顔なんか見なくてもわかる。
上半身だけで十分だった。
動きやすいようにと短くしている髪。後ろ髪も少し刈り上げている。暗めの間接照明のせいで髪の色までは確認できないが、彼だと確信した。
彼がそういう相手を探していると考えただけでぞくぞくした。
店員からカードを受け取る。店員は私が「抱く」側の水色カードを欲してるということを知っていた。
なのに「初めての方」を勧めるということは……。
「ありがとう」
「どういたしまして」
一歩近づくごとに心臓が早鐘を打つ。
かつてこんなに緊張したことがあっただろうか。
どうやって口説こうか。どうやって持ち帰ろうかと算段する。
絶対に今日彼を持ち帰り、そのまま私の嫁にしなければならない。
失敗はありえない。
そう考えながら、さりげなく彼のテーブルに近づいた。スパゲッティを食べている彼がビクッとした。
果たして、彼のテーブルに置かれたカードはピンクで。
私は歓喜した。
そのピンクのカードに、水色のカードをそっと重ねた。
「……えっ?」
俯かせていた頭を上げて見えた顔は、確かに私の想い人だった。
「ア、アーネット……?」
その人の目は驚愕に見開かれた。慌てて立ち上がろうとする彼の肩にそっと手を置いた。
「しー」と人差し指を彼の口元に当てて。
「あ……」
「私もおなかが減っていましてね。こちら、よろしいですか?」
「あ、ああ……」
間接照明でもわかるぐらい、彼は赤くなっていた。そんな彼をかわいいと思う。
彼の前の席に腰掛けた。
これから彼を抱くのだと思ったから、ステーキの盛り合わせとエールを頼んだ。そしてそれらが届いてから、彼にステーキをお裾分けした。
「い、いいのか?」
「まだおなかに余裕がありましたら、どうぞ」
「じゃあ、遠慮なく……」
彼はためらいながらもステーキを1枚受け取ってくれた。それに満足する。そうして食べている彼を見ながら呟いた。
「リヒトさん、私が蛇族だということはご存知ですか?」
それを聞いた途端、彼は再び顔を真っ赤に染めた。
「え……?」
蛇族は執着心が強く、食べ物を分け与えるのは求婚の証である。知らず受け取った場合は拒否することもできるが、知ってから受け取った場合は求婚に応えたと判断される。
どうやら彼は蛇族の風習を知っているらしい。
フォークに刺した肉をどうしようか迷っているのがとてもかわいい。
「じょ、冗談、だろ……」
彼は信じられないというように呟いた。少しムッとした。
「冗談ではありません。私はリヒトさんを抱きたいですし、妻にしたいです」
「え……つ、妻……? で、でも俺たちはまだ……」
「そうですね。今は気にせずお食べください。でも一晩は付き合ってくださいね?」
「あ、ああ……」
彼はどうやら逃げる気はないらしい。
私もまさか彼が「抱かれる」側だとは思っていなかった。だから今まで口説きにもいかなかった。
だが彼が「抱かれる」側であるなら話は別だ。
今夜はたっぷり抱いて、他の男に抱かれたことなど上書きしてやろうと思った。
入ったばかりの新人が火魔法を建物内でぶっ放したのだ。
何をどうしたらそんなことになるのかと事情聴取したのだが、顔を真っ赤にしたきり何も言わない。大方誰かにからかわれたか襲われたかしたのだろうが、建物内で魔法を使うのはご法度である。大体魔法師団に入ったのなら、そんな派手な魔法を使わなくても自分の身ぐらい守れなくてどうするのだ。
「全く……」
魔法師は攻撃魔法だけ撃てればいいというものではない。戦争も何も起きない平和が続いているから、団員たちも平和ボケが過ぎるのだ。
平和なのはもちろんいいことではあるのだが、団員の質が落ちるのは勘弁ならなかった。
「……明日は……いや、明日は休みですか。明後日は徹底的にしごかねばなりませんね」
「お、お手柔らかに……」
副団長が横でボソッと呟く。副団長もよほどしごかれたいらしい。明後日の鍛錬メニューは明日にでも考えようと思った。
鍛錬場を見ると、もう誰もいない。定時はとうに過ぎ、帰りに愛しの騎士団長の姿を見ることもできなかったかと残念に思った。(一応気持ちは秘めているつもりだが、同じ魔法師団内では筒抜けらしい。そんなに私はわかりやすかっただろうか)
制服のローブから普段着に着替える。
こんな夜はあの店に行くに限る。
勤めている王城からも、娼館からも微妙に遠い位置にある飲み屋街へ繰り出すことにした。
そこにちょうどいい店がある。
以前ぶらぶらしていて偶然見つけたのだが、その店はいわゆる出会い提供の場であった。店構えは地味だから、ただ飲みに行こうとしている人々は目も止めない。不思議なものだと思う。
店の扉を開けると、カランカランという音がした。
ほどなくしてもう一つの扉が開き、店員が現れる。少し年配の、上品な紳士だ。
「いらっしゃいませ。ご無沙汰しています」
二、三度来ただけの客の顔も覚えているというのがいい。
「忙しくてね。誰かいるかな」
「何人かお見えになっています。カウンターの側にいらっしゃる方は初めてです」
「へえ……」
初めての客、というのに興味が湧いた。店内は間接照明だから暗くて、近くまでいかないと相手の顔はわからない。でも体格とかは座っていても大体わかる。カウンターの側のテーブル席にいる人に視線を向けた。
「えっ……」
思わず声が出た。
顔なんか見なくてもわかる。
上半身だけで十分だった。
動きやすいようにと短くしている髪。後ろ髪も少し刈り上げている。暗めの間接照明のせいで髪の色までは確認できないが、彼だと確信した。
彼がそういう相手を探していると考えただけでぞくぞくした。
店員からカードを受け取る。店員は私が「抱く」側の水色カードを欲してるということを知っていた。
なのに「初めての方」を勧めるということは……。
「ありがとう」
「どういたしまして」
一歩近づくごとに心臓が早鐘を打つ。
かつてこんなに緊張したことがあっただろうか。
どうやって口説こうか。どうやって持ち帰ろうかと算段する。
絶対に今日彼を持ち帰り、そのまま私の嫁にしなければならない。
失敗はありえない。
そう考えながら、さりげなく彼のテーブルに近づいた。スパゲッティを食べている彼がビクッとした。
果たして、彼のテーブルに置かれたカードはピンクで。
私は歓喜した。
そのピンクのカードに、水色のカードをそっと重ねた。
「……えっ?」
俯かせていた頭を上げて見えた顔は、確かに私の想い人だった。
「ア、アーネット……?」
その人の目は驚愕に見開かれた。慌てて立ち上がろうとする彼の肩にそっと手を置いた。
「しー」と人差し指を彼の口元に当てて。
「あ……」
「私もおなかが減っていましてね。こちら、よろしいですか?」
「あ、ああ……」
間接照明でもわかるぐらい、彼は赤くなっていた。そんな彼をかわいいと思う。
彼の前の席に腰掛けた。
これから彼を抱くのだと思ったから、ステーキの盛り合わせとエールを頼んだ。そしてそれらが届いてから、彼にステーキをお裾分けした。
「い、いいのか?」
「まだおなかに余裕がありましたら、どうぞ」
「じゃあ、遠慮なく……」
彼はためらいながらもステーキを1枚受け取ってくれた。それに満足する。そうして食べている彼を見ながら呟いた。
「リヒトさん、私が蛇族だということはご存知ですか?」
それを聞いた途端、彼は再び顔を真っ赤に染めた。
「え……?」
蛇族は執着心が強く、食べ物を分け与えるのは求婚の証である。知らず受け取った場合は拒否することもできるが、知ってから受け取った場合は求婚に応えたと判断される。
どうやら彼は蛇族の風習を知っているらしい。
フォークに刺した肉をどうしようか迷っているのがとてもかわいい。
「じょ、冗談、だろ……」
彼は信じられないというように呟いた。少しムッとした。
「冗談ではありません。私はリヒトさんを抱きたいですし、妻にしたいです」
「え……つ、妻……? で、でも俺たちはまだ……」
「そうですね。今は気にせずお食べください。でも一晩は付き合ってくださいね?」
「あ、ああ……」
彼はどうやら逃げる気はないらしい。
私もまさか彼が「抱かれる」側だとは思っていなかった。だから今まで口説きにもいかなかった。
だが彼が「抱かれる」側であるなら話は別だ。
今夜はたっぷり抱いて、他の男に抱かれたことなど上書きしてやろうと思った。
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