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二、嫁給誰(誰に嫁ぐのか)
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朱偉仁が館に帰ってきたのは翌日の夜だった。
王領はそれなりに広く、山や川などの自然も豊富な土地だ。故に手が入っていない場所も多いので視察も楽ではないと明玲も聞いていた。兄である偉仁は時間があれば王領の大まかな地図などを明玲に見せてくれることもあった。小さい頃は館の近くにある町に連れて行ってもらったりもした。けれどそれも次第になくなってしまった。
偉仁は七番目とはいえ皇帝の息子である。成人した十五の歳に趙という地方豪族の娘を娶った。趙山琴は美しい女性で、明玲をとても可愛がってくれている。偉仁と山琴は仲睦まじそうに見えるのに何故かまだ子はいない。周囲が気を揉んでか、我先にと娘たちを献上したことで偉仁にはすでに四人も妾妃がいる。だがそのうちの誰もまだ身籠ったという話は聞かない。そのことに明玲は安堵しているが、それを安堵してしまう自分が彼女はとても嫌だった。
(お義姉様か、他のどなたかが早く身籠ってくださればいいのに……)
そうしたら諦めがつくのにと明玲は思う。勝手なことを思っているのは重々承知しているが、そうでもなければ兄への恋心を散らすことができそうもない。もしくは明玲の嫁ぎ先が決まれば、と思ってしまうのだ。
兄が疲れているのはわかっていたが、夕食時明玲は聞いてみることにした。
「偉仁様、今回はどちらまでいらっしゃったのですか?」
「寧山の先にある村だ。もう少しまともな道が整備できればな……」
「そうでしたの」
山琴が柔らかく偉仁に話しかける。偉仁の杯に酒を注ぐのは妾妃の役目だ。必ず一人は偉仁の横に腰掛けて彼の一挙一動に注意を払っている。
視察の場所や内容について聞いたところで、明玲は意を決して兄に話しかけた。
「偉仁哥(偉仁兄さん)、お疲れのところ申し訳ないのですが、教えていただきたいことがあります」
「ん? それは今でなければならないか?」
偉仁は疲れた顔をしていたが、柔和な笑みを浮かべた。明玲はちら、と山琴を窺った。山琴はにっこりと笑む。やはりここで尋ねなければならないらしい。
「はい。返事は大まかで構いませんから……」
「申せ」
嫁ぎ先が決まっているか決まっていないか程度の答えがあればいいと明玲は思う。決まっているというならまた後で詳しく聞けばいいだろうし、決まっていないというならそれはそれでいい。
「はい、あの……私はどちらに嫁ぐのでしょうか?」
「……なに?」
兄の顔が見たくなくて、明玲は無意識に目を伏せて言葉を紡いだ。偉仁の声がいつもより低く聞こえた。
「ええと、私はもう十四です。来年には成人するはずなので、もし婚約者が決まっているならば、と……」
「……そなたの嫁ぎ先はとうに決まっている。……山琴、話していないのか?」
明玲は目の前が真っ暗になるのを感じた。もう嫁ぎ先が決まっているというなら何故もっと早く教えてくれなかったのかと恨み言を言いたくなる。
「かようなこと、偉仁様を差し置いて教えることはできませんわ。ご自身でどうにかなされませ」
「……それもそうだな」
偉仁は杯に注がれた酒を飲み干すと立ち上がった。まだ嫁ぎ先が決まっているということを聞いた衝撃で、呆然としている明玲を抱き上げる。
「どうも誤解があるようだ。行くぞ」
「……哥?」
抱き上げられたことなど小さい頃以来で明玲は戸惑った。思っていたよりも偉仁の身体はがっしりとしていて、その太い腕には安心感があった。兄の肩越しに山琴を窺う。山琴と妾妃は満面に笑みを浮かべ、ひらひらと明玲に手を振った。
いったいどういうことなのかと、明玲は呆然とすることしかできなかった。
王領はそれなりに広く、山や川などの自然も豊富な土地だ。故に手が入っていない場所も多いので視察も楽ではないと明玲も聞いていた。兄である偉仁は時間があれば王領の大まかな地図などを明玲に見せてくれることもあった。小さい頃は館の近くにある町に連れて行ってもらったりもした。けれどそれも次第になくなってしまった。
偉仁は七番目とはいえ皇帝の息子である。成人した十五の歳に趙という地方豪族の娘を娶った。趙山琴は美しい女性で、明玲をとても可愛がってくれている。偉仁と山琴は仲睦まじそうに見えるのに何故かまだ子はいない。周囲が気を揉んでか、我先にと娘たちを献上したことで偉仁にはすでに四人も妾妃がいる。だがそのうちの誰もまだ身籠ったという話は聞かない。そのことに明玲は安堵しているが、それを安堵してしまう自分が彼女はとても嫌だった。
(お義姉様か、他のどなたかが早く身籠ってくださればいいのに……)
そうしたら諦めがつくのにと明玲は思う。勝手なことを思っているのは重々承知しているが、そうでもなければ兄への恋心を散らすことができそうもない。もしくは明玲の嫁ぎ先が決まれば、と思ってしまうのだ。
兄が疲れているのはわかっていたが、夕食時明玲は聞いてみることにした。
「偉仁様、今回はどちらまでいらっしゃったのですか?」
「寧山の先にある村だ。もう少しまともな道が整備できればな……」
「そうでしたの」
山琴が柔らかく偉仁に話しかける。偉仁の杯に酒を注ぐのは妾妃の役目だ。必ず一人は偉仁の横に腰掛けて彼の一挙一動に注意を払っている。
視察の場所や内容について聞いたところで、明玲は意を決して兄に話しかけた。
「偉仁哥(偉仁兄さん)、お疲れのところ申し訳ないのですが、教えていただきたいことがあります」
「ん? それは今でなければならないか?」
偉仁は疲れた顔をしていたが、柔和な笑みを浮かべた。明玲はちら、と山琴を窺った。山琴はにっこりと笑む。やはりここで尋ねなければならないらしい。
「はい。返事は大まかで構いませんから……」
「申せ」
嫁ぎ先が決まっているか決まっていないか程度の答えがあればいいと明玲は思う。決まっているというならまた後で詳しく聞けばいいだろうし、決まっていないというならそれはそれでいい。
「はい、あの……私はどちらに嫁ぐのでしょうか?」
「……なに?」
兄の顔が見たくなくて、明玲は無意識に目を伏せて言葉を紡いだ。偉仁の声がいつもより低く聞こえた。
「ええと、私はもう十四です。来年には成人するはずなので、もし婚約者が決まっているならば、と……」
「……そなたの嫁ぎ先はとうに決まっている。……山琴、話していないのか?」
明玲は目の前が真っ暗になるのを感じた。もう嫁ぎ先が決まっているというなら何故もっと早く教えてくれなかったのかと恨み言を言いたくなる。
「かようなこと、偉仁様を差し置いて教えることはできませんわ。ご自身でどうにかなされませ」
「……それもそうだな」
偉仁は杯に注がれた酒を飲み干すと立ち上がった。まだ嫁ぎ先が決まっているということを聞いた衝撃で、呆然としている明玲を抱き上げる。
「どうも誤解があるようだ。行くぞ」
「……哥?」
抱き上げられたことなど小さい頃以来で明玲は戸惑った。思っていたよりも偉仁の身体はがっしりとしていて、その太い腕には安心感があった。兄の肩越しに山琴を窺う。山琴と妾妃は満面に笑みを浮かべ、ひらひらと明玲に手を振った。
いったいどういうことなのかと、明玲は呆然とすることしかできなかった。
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