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六、第二天早上(翌朝)

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 明玲が朝食の席についた時、偉仁はすでに出かけていると告げられた。これは毎度のことである。
 朝議は夜明けと共に始まるもので、その後各自成すべきことを成し日暮れと共に帰るものだ。偉仁は王なので更に仕事は多いと明玲は聞いている。
 朝食はいつも趙山琴と妾妃たちと食べている。これはおかしなことかもしれないと、やっと明玲は思い至った。それにしても妾妃たちがいるところで昨日のことを話してもいいものなのだろうか。

明玲ミンリン、昨夜はよく眠れた?」

 山琴が今朝も柔らかい笑みを浮かべて明玲に声をかける。

「はい、おかげさまで。趙姐ジャオジエは……」
「もちろんよく眠れたわ。それで、昨夜はあれからどうしたのかしら?」

 昨夜、というのは明玲が偉仁に連れ去られた後のことだろうか。昨夜偉仁は山琴のところへ行かなかったのだろうか。

「……聞いて、いないのですか?」

 山琴はクスッと笑った。

偉仁ウェイレンは毎晩わたくしのところへ来るわけではないのよ」

 言われてみればそうかもしれないと明玲は頬を染める。たまには一人で寝たい時や他の妾妃の元へ通うこともあるのだろう。ただ偉仁は今のところ贔屓している妾妃はいないようだった。基本偉仁が直接贈物などを妾妃にすることはなく、衣装や装飾品にかかる金額などの采配は山琴が主に行っているようだった。

「そ、そうですよね……」

 明玲は自分の頬に手を当てた。熱くはなっていない。少しだけほっとした。
 そうして明玲がふと周りを見ると、妾妃たちがきらきらした瞳で明玲を見ていることに気づいた。

「?」
「明玲、妾の質問に答えていないわ。昨夜はあれからどうしたの? もしかして押し倒されたりした?」
「…………え?」

 饅頭マントウ(中国式の蒸しパン。白くてふわふわしている。肉まんの肉なしをイメージしてください)を割り、その中へ搾菜ザーサイなどを妾妃が詰めて山琴に渡す。山琴は機嫌よさそうに妾妃へ「ありがとう、いい子ね」と礼を言った。それに妾妃がとても嬉しそうに笑んでいた。
 その様子見ながら明玲は固まっていた。

「普通に湯浴みもできたみたいだから抱かれはしなかったのでしょう? でもどこまで触られたの? 脱がされたのかしら?」

 朝から話す内容ではないと明玲は思う。山琴がそんなことを言い出すなんて思ってもみなくて、明玲は泣きそうになった。

「趙姐、明玲さんが困っていらっしゃいます」
「あら……妾としたことが。なんてはしたないことを。明玲、許してくれる?」
「はい……もちろん……」

 妾妃が助け舟を出してくれ、ようやく明玲は息を吐くことができた。山琴は羞恥によってか珍しくその頬をうっすらと赤く染めた。

「あとで教えてちょうだいね」
「趙姐!」

 しかし全く反省はしていないようだった。明玲は困ってしまった。

「趙姐、明玲さんの方が聞きたいことがあるのではないでしょうか」

 また山琴の左隣に腰掛けている妾妃から助け舟が出された。この妾妃はとても控えめで、気が付くと山琴の側にいる。まるでそれは主人とその従者とでもいうような、そんな関係にも見える。

「んー……確かにそれもそうね。明玲、何か聞きたいことはある?」
「……はい、いっぱいあります……」

 先ほどの衝撃で、明玲としてはほとんど忘れてしまったが。

「勉強の後にお伺いしてもよろしいでしょうか」
「昼食時でもいいわよ?」
「それは……」

 明玲は言葉を濁した。できることなら妾妃たちには聞かれたくない。その思いが顔に出ていたのか、また先ほどの妾妃が山琴の袖を引いた。けれど山琴は首を振った。

「明玲、貴女は偉仁に嫁ぐのではないのかしら? 貴女のことはみな偉仁の妹だという認識なの。だからどうして貴女が偉仁に嫁ぐことになるのかみなが知っておく必要があるのよ」
「趙姐」

 妾妃が山琴に声をかける。

「明玲さんはまだ成人もされていません。まずは二人きりでお話をしてください。その上で妾どもに話していい内容だけを伝えていただければと思いますが、如何でしょうか?」

 山琴は嘆息した。

「……わかったわ。明玲、後でお茶をしましょうね」
「はい、ありがとうございます……」

 明玲は何も言えなかった自分に歯噛みした。妾妃には礼を言わなければならないと思うが、彼女は全く何も気にしてないという体で山琴の世話をしている。後で部屋を訪ねようと明玲は思った。
 とても情けなくて、明玲は自分が嫌になった。こんな自分を受け入れてくれるという偉仁にも申し訳なく思った。

(もっとがんばらなきゃ……)

 まずは朝食をしっかり食べるところからだろう。明玲は花巻(ぐるぐる巻いて作った中国式蒸しパン)に手を伸ばした。
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