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五、胡思乱想(くだらないことばかり考える)
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湯浴みは通常手伝いに一人ないし二人侍女がつくが、明玲は今夜だけは人払いを頼んだ。
そうは言っても脱衣所には侍女が控えているはずなので、純粋に一人になれているとは言い難い。それでも人の姿が見えないだけで明玲はほっとした。湯に浸かり、両手で湯を掬って顔にかける。そのまま両手で顔を覆った。なんだかもう、泣いてしまいそうだった。
現状を整理しなくては、と明玲は考える。
偉仁と明玲は血の繋がりがない。それを偉仁は知っていて明玲を引き取ったのだろうか。そこはまだはっきりとは聞いていないので尋ねる必要があるだろう。
明玲は偉仁に嫁ぐらしい。となると花嫁修業などはどこで行うのだろうか。一旦母の元へ戻るのかどうか。これも確認しなくてはならない。
(あ、でも……)
明玲はカァッと熱が上がるのを感じた。
(毎晩って、毎晩って……)
偉仁は明玲に口づけながら、これから毎晩色気を身に着けさせてやると言っていた。ということは、ということで。
さすがに毎晩はないだろうと明玲は思う。やはり母の元へ戻ることも考えておかなければならない。
そして、偉仁は明玲の想いを知っていたのだろうか。知っていたのだとしたら何故もっと早く……とも思ってしまう。ただ、そうは言っても明玲が偉仁の正妃になることはできない。本当の父がいるであろう曹家も、母の実家にもそれほど力はない。
偉仁の正妃である趙山琴の顔が浮かぶ。いつだって明玲に優しく、時に厳しく接してくれる美しい人。
山琴は明玲が偉仁に嫁ぐということを知っていたのだろうか。
(きっと、知っていたのよね……)
そうでなければあんなことを言うはずがない。偉仁はいつから明玲を娶ると山琴に告げていたのだろうか。伝えておくというのは誠実にも思えるが、自分が山琴の立場であったならとても耐えられないだろうと明玲は思った。
(整理しなきゃ。哥と、趙姐と話をしなきゃ……)
なかなかまとまらなくて明玲は困った。
湯が熱く感じられた。侍女に迷惑をかける前にと、明玲は出ることにした。
自分の部屋の床に転がると、嫌なことが明玲の頭に浮かんだ。
偉仁はあの口づけを山琴にも、他の妾妃にもしているのだろうか。考えただけで腸が煮えくり返ってくる。
(だめ。考えちゃだめ……)
夜は陰の気を取り込みやすい。嫌な考えばかりが頭に浮かぶものだと、母の侍女が教えてくれたことを思い出す。できるだけ何も考えないようにして明玲は眠りに落ちた。
夢の中で、偉仁が山琴に口づけをしていた。
明玲は悲しくて切なくて涙を流した。
翌朝の目覚めは最悪だった。
明玲とてわかっている。偉仁は巷で読まれるような恋愛小説の英雄ではない。恋愛小説に描かれている英雄は、たった一人の女性を愛し、他の女性を拒絶するというものもけっこうある。きっとその方が女性受けするからそういうものが書かれているのだろう。明玲は山琴よりも自由なので、護衛をつけてもらって街へ出ることもあった。街の本屋で買い求めた本はどれも面白かった。
もちろん三国演戯(三国志演義)や水滸伝も面白いが、明玲が気に入って読んでいるのは大衆の恋愛小説である。宮廷の恋愛から、武侠小説の中の恋愛など明玲は夢中になって読んだ。中には荒唐無稽な設定の話もあったがどれもこれも面白かった。
(落ち着いたら、また買いに行こうかな……)
山琴も明玲が買ってきた本を読むのが好きだ。特に山琴は宮廷の恋愛を描いた小説を好んで読んでいる。
大好きな姐の顔が浮かんだ。いくら偉仁を挟んだ関係になったとしても、山琴を明玲が嫌うことはないだろう。
(大丈夫。きっと大丈夫)
明玲は自分に言い聞かせると、着替えの仕上げを侍女にさせてから部屋を出た。
春の光は、どこまでも明玲に優しかった。
そうは言っても脱衣所には侍女が控えているはずなので、純粋に一人になれているとは言い難い。それでも人の姿が見えないだけで明玲はほっとした。湯に浸かり、両手で湯を掬って顔にかける。そのまま両手で顔を覆った。なんだかもう、泣いてしまいそうだった。
現状を整理しなくては、と明玲は考える。
偉仁と明玲は血の繋がりがない。それを偉仁は知っていて明玲を引き取ったのだろうか。そこはまだはっきりとは聞いていないので尋ねる必要があるだろう。
明玲は偉仁に嫁ぐらしい。となると花嫁修業などはどこで行うのだろうか。一旦母の元へ戻るのかどうか。これも確認しなくてはならない。
(あ、でも……)
明玲はカァッと熱が上がるのを感じた。
(毎晩って、毎晩って……)
偉仁は明玲に口づけながら、これから毎晩色気を身に着けさせてやると言っていた。ということは、ということで。
さすがに毎晩はないだろうと明玲は思う。やはり母の元へ戻ることも考えておかなければならない。
そして、偉仁は明玲の想いを知っていたのだろうか。知っていたのだとしたら何故もっと早く……とも思ってしまう。ただ、そうは言っても明玲が偉仁の正妃になることはできない。本当の父がいるであろう曹家も、母の実家にもそれほど力はない。
偉仁の正妃である趙山琴の顔が浮かぶ。いつだって明玲に優しく、時に厳しく接してくれる美しい人。
山琴は明玲が偉仁に嫁ぐということを知っていたのだろうか。
(きっと、知っていたのよね……)
そうでなければあんなことを言うはずがない。偉仁はいつから明玲を娶ると山琴に告げていたのだろうか。伝えておくというのは誠実にも思えるが、自分が山琴の立場であったならとても耐えられないだろうと明玲は思った。
(整理しなきゃ。哥と、趙姐と話をしなきゃ……)
なかなかまとまらなくて明玲は困った。
湯が熱く感じられた。侍女に迷惑をかける前にと、明玲は出ることにした。
自分の部屋の床に転がると、嫌なことが明玲の頭に浮かんだ。
偉仁はあの口づけを山琴にも、他の妾妃にもしているのだろうか。考えただけで腸が煮えくり返ってくる。
(だめ。考えちゃだめ……)
夜は陰の気を取り込みやすい。嫌な考えばかりが頭に浮かぶものだと、母の侍女が教えてくれたことを思い出す。できるだけ何も考えないようにして明玲は眠りに落ちた。
夢の中で、偉仁が山琴に口づけをしていた。
明玲は悲しくて切なくて涙を流した。
翌朝の目覚めは最悪だった。
明玲とてわかっている。偉仁は巷で読まれるような恋愛小説の英雄ではない。恋愛小説に描かれている英雄は、たった一人の女性を愛し、他の女性を拒絶するというものもけっこうある。きっとその方が女性受けするからそういうものが書かれているのだろう。明玲は山琴よりも自由なので、護衛をつけてもらって街へ出ることもあった。街の本屋で買い求めた本はどれも面白かった。
もちろん三国演戯(三国志演義)や水滸伝も面白いが、明玲が気に入って読んでいるのは大衆の恋愛小説である。宮廷の恋愛から、武侠小説の中の恋愛など明玲は夢中になって読んだ。中には荒唐無稽な設定の話もあったがどれもこれも面白かった。
(落ち着いたら、また買いに行こうかな……)
山琴も明玲が買ってきた本を読むのが好きだ。特に山琴は宮廷の恋愛を描いた小説を好んで読んでいる。
大好きな姐の顔が浮かんだ。いくら偉仁を挟んだ関係になったとしても、山琴を明玲が嫌うことはないだろう。
(大丈夫。きっと大丈夫)
明玲は自分に言い聞かせると、着替えの仕上げを侍女にさせてから部屋を出た。
春の光は、どこまでも明玲に優しかった。
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