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十二、有一天晩上(ある夜)
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その日、帰宅した偉仁は不機嫌そうだった。
砂が舞い始めたのでそのせいかと明玲は思っていたが、どうも原因はそれだけではないようだった。
「……清明節にはそなたも伴うよう言われた」
「そう、なのですか」
偉仁が忌々しそうに言う。明玲は首を軽く傾げた。
清明節とはいわゆる墓参りの日である。皇室だけでなく老百姓(庶民)までその日の前後に先祖の墓に足を伸ばす。墓の周りを清め、一年の間にあったことなどを先祖に報告したりする。皇帝は皇都より離れたところにある皇陵へ足を運び、国を興した先祖への感謝と共にこれからの繁栄を祈るのだ。
皇帝が墓参りをするのだ。もちろんその皇子たちも向かうのだが、皇帝の妾妃と公主たちは参加できないはずである。皇帝が何を考えているのか知らないが明玲は公主ではない。どうりで母である明妃が明玲を呼び戻そうとはしないわけだ。
趙山琴も皇城には同伴することから、付き添いに近い扱いかもしれない。ただ、誰が明玲を呼んでいるのだろう。
「偉仁哥、その……どなたが……」
「……皇上(皇帝)だ」
「っっ!? そ、そうなのですか……」
衝撃だった。何故ろくに顔を合わせたこともない皇帝に呼ばれているのだろう。山琴が偉仁の手に自分の手を載せた。
「偉仁様、その前にしなければならないことが沢山ありますわ」
「……そうだな。明玲、今宵は来なくていい」
「はい」
偉仁の言うことは絶対だ。夕食の席などでその理由を聞くことすら憚られる。だが明玲の心は千々に乱れていた。その動揺を表に出さないようにしていたが、山琴にはすぐに見破られてしまった。
「偉仁様、もう少し言葉を尽くされませ。明玲、二、三日中には話せると思うわ。偉仁様を信じて待ちなさい」
「はい」
偉仁はばつが悪そうな表情をした。
「……今ははっきりしたことが言えぬ。悪いようにはせぬ故、信じてくれるか?」
「はい!」
偉仁は元々言葉が少ない。いつも穏やかに明玲を見守っている人である。明玲が赤子の頃、明玲の手に指を出しては赤子のきゅっと握る手に微笑んで、そのままずっと明玲を眺めていたと聞いた。母と、偉仁の母である芳妃から何度も聞かされた話である。偉仁にとって、明玲は生まれた時から守らなければならない存在であったことは間違いないない。
明玲は浴室の準備が整うまで明日の予習をしていた。学ぶことは面白いと明玲は思う。それでも偉仁と山琴が何を話しているのか気になってしまってあまり身にならなかった。
「……何を話してるのかしら?」
「存じません」
周梨は憶測で物事を話さないとてもよくできた侍女である。あちらこちらに思考がすぐ飛んでしまう明玲のことをよく理解していて、八割方そうであろうということしか伝えることはない。
「私、清明節に皇上から呼ばれたんですって」
「そうなのですか」
会話がそこで止まってしまった。
「……皇上ってどんな方なのかしら? 周梨の印象はどう?」
「人妻を無理矢理攫って自分の妾妃にするような方ですね。令妃様を迎えた後も妾妃を何人も迎えているとか。王の兄弟も年々増えていると伺っています」
「……そういえばそうだったわね……」
周梨が言ったことは全て事実である。まだ後宮の、母の元にいた頃明玲は何度か皇帝を見たことがある。髭があったと思う。そしてとんでもない威圧感があったことだけは覚えている。
「そなたの娘か」
「はい」
「名をなんという」
「……明玲でございます」
母が全て言い、明玲には口を開かせなかった。明玲は皇帝の目がとても怖くて、目を反らすのがやっとだったということを思い出した。
「呼ばれたってことは会うのかしら?」
「おそらくは」
あの目を見るのは嫌だと明玲は思う。なんというか、どう見てもいい人ではなさそうだったから。
砂が舞い始めたのでそのせいかと明玲は思っていたが、どうも原因はそれだけではないようだった。
「……清明節にはそなたも伴うよう言われた」
「そう、なのですか」
偉仁が忌々しそうに言う。明玲は首を軽く傾げた。
清明節とはいわゆる墓参りの日である。皇室だけでなく老百姓(庶民)までその日の前後に先祖の墓に足を伸ばす。墓の周りを清め、一年の間にあったことなどを先祖に報告したりする。皇帝は皇都より離れたところにある皇陵へ足を運び、国を興した先祖への感謝と共にこれからの繁栄を祈るのだ。
皇帝が墓参りをするのだ。もちろんその皇子たちも向かうのだが、皇帝の妾妃と公主たちは参加できないはずである。皇帝が何を考えているのか知らないが明玲は公主ではない。どうりで母である明妃が明玲を呼び戻そうとはしないわけだ。
趙山琴も皇城には同伴することから、付き添いに近い扱いかもしれない。ただ、誰が明玲を呼んでいるのだろう。
「偉仁哥、その……どなたが……」
「……皇上(皇帝)だ」
「っっ!? そ、そうなのですか……」
衝撃だった。何故ろくに顔を合わせたこともない皇帝に呼ばれているのだろう。山琴が偉仁の手に自分の手を載せた。
「偉仁様、その前にしなければならないことが沢山ありますわ」
「……そうだな。明玲、今宵は来なくていい」
「はい」
偉仁の言うことは絶対だ。夕食の席などでその理由を聞くことすら憚られる。だが明玲の心は千々に乱れていた。その動揺を表に出さないようにしていたが、山琴にはすぐに見破られてしまった。
「偉仁様、もう少し言葉を尽くされませ。明玲、二、三日中には話せると思うわ。偉仁様を信じて待ちなさい」
「はい」
偉仁はばつが悪そうな表情をした。
「……今ははっきりしたことが言えぬ。悪いようにはせぬ故、信じてくれるか?」
「はい!」
偉仁は元々言葉が少ない。いつも穏やかに明玲を見守っている人である。明玲が赤子の頃、明玲の手に指を出しては赤子のきゅっと握る手に微笑んで、そのままずっと明玲を眺めていたと聞いた。母と、偉仁の母である芳妃から何度も聞かされた話である。偉仁にとって、明玲は生まれた時から守らなければならない存在であったことは間違いないない。
明玲は浴室の準備が整うまで明日の予習をしていた。学ぶことは面白いと明玲は思う。それでも偉仁と山琴が何を話しているのか気になってしまってあまり身にならなかった。
「……何を話してるのかしら?」
「存じません」
周梨は憶測で物事を話さないとてもよくできた侍女である。あちらこちらに思考がすぐ飛んでしまう明玲のことをよく理解していて、八割方そうであろうということしか伝えることはない。
「私、清明節に皇上から呼ばれたんですって」
「そうなのですか」
会話がそこで止まってしまった。
「……皇上ってどんな方なのかしら? 周梨の印象はどう?」
「人妻を無理矢理攫って自分の妾妃にするような方ですね。令妃様を迎えた後も妾妃を何人も迎えているとか。王の兄弟も年々増えていると伺っています」
「……そういえばそうだったわね……」
周梨が言ったことは全て事実である。まだ後宮の、母の元にいた頃明玲は何度か皇帝を見たことがある。髭があったと思う。そしてとんでもない威圧感があったことだけは覚えている。
「そなたの娘か」
「はい」
「名をなんという」
「……明玲でございます」
母が全て言い、明玲には口を開かせなかった。明玲は皇帝の目がとても怖くて、目を反らすのがやっとだったということを思い出した。
「呼ばれたってことは会うのかしら?」
「おそらくは」
あの目を見るのは嫌だと明玲は思う。なんというか、どう見てもいい人ではなさそうだったから。
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