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十四、路上(道中)
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王都を出てしばらくすると、田畑が広がる田園地帯に入る。まだ種まきには早い時期のせいか、景色は茶色かった。
まだ肌寒い時期ではあったが、明玲は外の空気を感じるのが好きだった。もう少ししたら遠くから砂嵐がやってきて世界を黄色く染めてしまうだろう。そうなったら部屋の扉を開けることはできなくなる。渡り廊下も砂だらけになり、毎年掃除がたいへんだと侍女たちがぼやいていた。今のうちにと、明玲は馬車の窓から外を眺めていた。
そんな景色も半刻も眺めていれば飽きてしまう。明玲はそうしてやっと窓から離れた。この辺りの道はそれほど悪くはないが、王領を出た途端道が悪くなる。何故だろうと思い以前偉仁に聞いたことがあった。兄は、道の整備にはお金がかかること。そのお金は税金から出るのだが、税金の使い方はその土地の領主によって決まることなので、道が悪いということはあまり道の整備に金をかけていないのだろうと言っていた。
次の日は王領を出たようで、しばらくがったんごっとんと馬車が揺れ続けることとなった。
車酔いをする性質ではないが、さすがに気分が悪い。
「……どうして道の整備をしないのでしょうか」
「他に使いたいところがあるのではないかしら?」
道が悪いということは物流も滞りやすいし、人の手が入っていないということで夜盗なども多くなる。悪いことばかり起こるように明玲は思うのに、ここの領主はそういうことを考えないのだろうか。一応門を越える際兵をつけてくれたのでめったなことはないだろうが明玲は不満を顔に出していた。それを山琴が面白そうに見る。
「そういうところも学んでいかなくてはならないわね」
「……綺麗事ばかりじゃないってことですか」
「わかってるじゃない」
伊達に明玲もいろいろ本を読んでいるわけではない。ただ本からしか知識が入らないというのも情けない話ではある。ただ良家の娘は基本表に出ないものだ。それは明玲だけの問題ではなかった。
そうして馬車は夕方には皇都に入った。王都の門を越えるとまた道が変わる。滑らか、というほどではないがさすが皇都と言おうか、馬車はあまり揺れなくなった。
今から皇城に向かうのは非常識であろう。馬車は皇都にある蘇王の館に入った。館内の自室に通され、明玲はやっと一息ついた。明日には母と面会できるだろう。
明玲だけならば明妃の部屋に入ってもいいかもしれないが、今回は山琴も一緒の為後宮に足を踏み入れるわけにはいかない。会えるのは後宮の入口にある謁見の間だろうと思われた。
「明日は芳妃娘娘にもお声掛けしてあるわ。少しでもお話ができるといいわね」
「はい、何から何までありがとうございます」
用意された夕食に舌鼓を打ちながら、明玲は山琴から話を聞いた。母だけでなく兄の母とも会えるのは心強い。とはいえあまり込み入った話はできないだろう。たまに会う母に甘えることもできないのかと明玲は少しだけ気を沈ませた。
そして翌朝、それほど早くもない時間に彼女たちは館を出た。
「明玲、いいこと? 用件を済ませたらあまり長居せずに戻ってくるのよ。また清明節にはお会いできるはずだから、その時にまたゆっくりすればいいでしょう」
「はい、趙姐」
山琴の気遣いをありがたく感じながら、明玲は少し気分が高揚するのを感じた。公主でなくなれば兄に嫁ぐことができる。その思いを胸に、明玲は皇城に向かう馬車に乗り込んだ。
まだ肌寒い時期ではあったが、明玲は外の空気を感じるのが好きだった。もう少ししたら遠くから砂嵐がやってきて世界を黄色く染めてしまうだろう。そうなったら部屋の扉を開けることはできなくなる。渡り廊下も砂だらけになり、毎年掃除がたいへんだと侍女たちがぼやいていた。今のうちにと、明玲は馬車の窓から外を眺めていた。
そんな景色も半刻も眺めていれば飽きてしまう。明玲はそうしてやっと窓から離れた。この辺りの道はそれほど悪くはないが、王領を出た途端道が悪くなる。何故だろうと思い以前偉仁に聞いたことがあった。兄は、道の整備にはお金がかかること。そのお金は税金から出るのだが、税金の使い方はその土地の領主によって決まることなので、道が悪いということはあまり道の整備に金をかけていないのだろうと言っていた。
次の日は王領を出たようで、しばらくがったんごっとんと馬車が揺れ続けることとなった。
車酔いをする性質ではないが、さすがに気分が悪い。
「……どうして道の整備をしないのでしょうか」
「他に使いたいところがあるのではないかしら?」
道が悪いということは物流も滞りやすいし、人の手が入っていないということで夜盗なども多くなる。悪いことばかり起こるように明玲は思うのに、ここの領主はそういうことを考えないのだろうか。一応門を越える際兵をつけてくれたのでめったなことはないだろうが明玲は不満を顔に出していた。それを山琴が面白そうに見る。
「そういうところも学んでいかなくてはならないわね」
「……綺麗事ばかりじゃないってことですか」
「わかってるじゃない」
伊達に明玲もいろいろ本を読んでいるわけではない。ただ本からしか知識が入らないというのも情けない話ではある。ただ良家の娘は基本表に出ないものだ。それは明玲だけの問題ではなかった。
そうして馬車は夕方には皇都に入った。王都の門を越えるとまた道が変わる。滑らか、というほどではないがさすが皇都と言おうか、馬車はあまり揺れなくなった。
今から皇城に向かうのは非常識であろう。馬車は皇都にある蘇王の館に入った。館内の自室に通され、明玲はやっと一息ついた。明日には母と面会できるだろう。
明玲だけならば明妃の部屋に入ってもいいかもしれないが、今回は山琴も一緒の為後宮に足を踏み入れるわけにはいかない。会えるのは後宮の入口にある謁見の間だろうと思われた。
「明日は芳妃娘娘にもお声掛けしてあるわ。少しでもお話ができるといいわね」
「はい、何から何までありがとうございます」
用意された夕食に舌鼓を打ちながら、明玲は山琴から話を聞いた。母だけでなく兄の母とも会えるのは心強い。とはいえあまり込み入った話はできないだろう。たまに会う母に甘えることもできないのかと明玲は少しだけ気を沈ませた。
そして翌朝、それほど早くもない時間に彼女たちは館を出た。
「明玲、いいこと? 用件を済ませたらあまり長居せずに戻ってくるのよ。また清明節にはお会いできるはずだから、その時にまたゆっくりすればいいでしょう」
「はい、趙姐」
山琴の気遣いをありがたく感じながら、明玲は少し気分が高揚するのを感じた。公主でなくなれば兄に嫁ぐことができる。その思いを胸に、明玲は皇城に向かう馬車に乗り込んだ。
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