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二九、礼数(礼儀作法)
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昼食の席、趙山琴はいつになく機嫌がよさそうに見えた。
「趙姐、何かいいことでもあったのですか?」
「あら、明玲だけじゃなくて梅花の指導もできるのよ? これ以上に喜ばしいことがあって?」
明玲が尋ねると、山琴は上機嫌でそう答えた。また鞭を持っての厳しい指導が行われるのだろう。明玲は内心身震いした。
「梅花は雰囲気が貴女にそっくりだから、鍛えがいがありそうだわ」
それのどこに自分との関連性があるのかわからなかったが、突っ込んでも仕方ないので明玲は黙っていることにした。
昼食を終えて部屋で支度をしつつ食休みをすると、今度は梅花を伴って山琴の部屋に向かった。
「明玲、梅花、いらっしゃい。花嫁修業は一朝一夕で終わるものではないわ。ここで習ったことは部屋に戻ったら毎日しっかり復習なさいね。さ、今日は指の動かし方からよ」
こういう時はこのように動かすと美しいなど、山琴や女官の所作をお手本にして真似をする。場面に合う手の動かし方、身体の動かし方など一見無駄なようだが、男性はこのような動きを美しく感じるのだなと勉強にはなる。だからといってうまくできるわけではないし、かなり無理な動きもあることから、終わった時にはまたへとへとであった。腰がおかしくなりそうだと明玲は思った。
「偉仁様の前では自然と動けるようにしっかりと練習なさいね」
「はい! ありがとうございました!」
その鞭が唸ったことは一度もないが、山琴が持っているだけで圧力が半端ない。ぎこちない動きで山琴の部屋を辞すと、明玲はほうっとため息をついた。
「……はーーーーーーっ……」
梅花が大仰に嘆息した。さすがにそんな大きな音を出したら誰かに気づかれてしまうではないかと、明玲は慌てた。
「梅花、もう少し声を小さく……」
「……話が違うじゃない」
梅花は低い声を発した。かなり不機嫌のようである。
「何が蘇王に取り入れば一生左団扇で暮らせる、よ! それ以前に学ばなきゃいけないことが多すぎるじゃないの!」
梅花の癇癪に明玲は呆れた。よくもまぁこの程度の女性を送り込んできたものである。
「きっと三日もすれば慣れるわ」
「慣れる前に頭がおかしくなりそうよ! ねぇ、どこの家でもこうなの? こんなにこんなに学を求められたり、細かく所作を指導されたりするものなの?」
「さぁ……」
明玲は困って首を傾げた。明玲は後宮とこの館での暮らししか知らない。あとは庶民であれば特に学は求められないのではないかと思うぐらいである。曹家の程度がわからないし、梅花は分家の娘だとも聞いた。そうしたらそこまで厳しく教える必要はないかもしれないが、教養はないよりはあった方がいいと明玲は考える。
「梅花はまだここに来て二日しか経ってないでしょう? もう何日か様子をみてみたらどうかしら?」
「でも私が嫁ぐ家ぐらいだったら、ここまでやらなくてもいいんじゃないかと思うわ」
やりたくない気持ちも痛いほどわかる。でもいろいろ学んでおけばそれがのちのち梅花の役に立つのではないかと思うのだ。
(って、なんで私こんなに梅花のことを気にしているのかしら?)
「でも……もし絵に描いてもらった際の所作が綺麗だったら、引く手あまたじゃないかしら?」
「……一理あるわね。って、なんで私全部しゃべっちゃったのかしら……」
梅花が首を落とした。一応蘇王に取り入るとか、言うつもりはなかったようである。明玲は苦笑した。
「梅花、戻りましょう。復習もしなくてはいけないわ」
「本当にやるの!?」
「あら、だって論語でも習ったでしょう? ”学而時習之。不亦説乎”って」
「……意味わかんない」
どうやら曹家のような豪族でも女性に四書を習わせたりはしないようだ。
(面白いのに)
科挙(官吏になる為の試験)は受けられないが、やはり学ぶことは楽しいと明玲は思うのだった。
「趙姐、何かいいことでもあったのですか?」
「あら、明玲だけじゃなくて梅花の指導もできるのよ? これ以上に喜ばしいことがあって?」
明玲が尋ねると、山琴は上機嫌でそう答えた。また鞭を持っての厳しい指導が行われるのだろう。明玲は内心身震いした。
「梅花は雰囲気が貴女にそっくりだから、鍛えがいがありそうだわ」
それのどこに自分との関連性があるのかわからなかったが、突っ込んでも仕方ないので明玲は黙っていることにした。
昼食を終えて部屋で支度をしつつ食休みをすると、今度は梅花を伴って山琴の部屋に向かった。
「明玲、梅花、いらっしゃい。花嫁修業は一朝一夕で終わるものではないわ。ここで習ったことは部屋に戻ったら毎日しっかり復習なさいね。さ、今日は指の動かし方からよ」
こういう時はこのように動かすと美しいなど、山琴や女官の所作をお手本にして真似をする。場面に合う手の動かし方、身体の動かし方など一見無駄なようだが、男性はこのような動きを美しく感じるのだなと勉強にはなる。だからといってうまくできるわけではないし、かなり無理な動きもあることから、終わった時にはまたへとへとであった。腰がおかしくなりそうだと明玲は思った。
「偉仁様の前では自然と動けるようにしっかりと練習なさいね」
「はい! ありがとうございました!」
その鞭が唸ったことは一度もないが、山琴が持っているだけで圧力が半端ない。ぎこちない動きで山琴の部屋を辞すと、明玲はほうっとため息をついた。
「……はーーーーーーっ……」
梅花が大仰に嘆息した。さすがにそんな大きな音を出したら誰かに気づかれてしまうではないかと、明玲は慌てた。
「梅花、もう少し声を小さく……」
「……話が違うじゃない」
梅花は低い声を発した。かなり不機嫌のようである。
「何が蘇王に取り入れば一生左団扇で暮らせる、よ! それ以前に学ばなきゃいけないことが多すぎるじゃないの!」
梅花の癇癪に明玲は呆れた。よくもまぁこの程度の女性を送り込んできたものである。
「きっと三日もすれば慣れるわ」
「慣れる前に頭がおかしくなりそうよ! ねぇ、どこの家でもこうなの? こんなにこんなに学を求められたり、細かく所作を指導されたりするものなの?」
「さぁ……」
明玲は困って首を傾げた。明玲は後宮とこの館での暮らししか知らない。あとは庶民であれば特に学は求められないのではないかと思うぐらいである。曹家の程度がわからないし、梅花は分家の娘だとも聞いた。そうしたらそこまで厳しく教える必要はないかもしれないが、教養はないよりはあった方がいいと明玲は考える。
「梅花はまだここに来て二日しか経ってないでしょう? もう何日か様子をみてみたらどうかしら?」
「でも私が嫁ぐ家ぐらいだったら、ここまでやらなくてもいいんじゃないかと思うわ」
やりたくない気持ちも痛いほどわかる。でもいろいろ学んでおけばそれがのちのち梅花の役に立つのではないかと思うのだ。
(って、なんで私こんなに梅花のことを気にしているのかしら?)
「でも……もし絵に描いてもらった際の所作が綺麗だったら、引く手あまたじゃないかしら?」
「……一理あるわね。って、なんで私全部しゃべっちゃったのかしら……」
梅花が首を落とした。一応蘇王に取り入るとか、言うつもりはなかったようである。明玲は苦笑した。
「梅花、戻りましょう。復習もしなくてはいけないわ」
「本当にやるの!?」
「あら、だって論語でも習ったでしょう? ”学而時習之。不亦説乎”って」
「……意味わかんない」
どうやら曹家のような豪族でも女性に四書を習わせたりはしないようだ。
(面白いのに)
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