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三十、回憶(思い起こす)
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「侍女が増えたそうだな」
偉仁の部屋である。長椅子に腰かけた偉仁に、抱きしめられる恰好でいた明玲は頭を動かした。一応曹家の当主は明玲の実の父親ではあるが、迎え入れたのは曹家でも分家からの侍女である。偉仁はまだその姿を見ていないようだった。
「はい」
「困ったことはないか」
「特には……」
勉強を嫌がるのはどうかと思うが、今のところ曹梅花も授業中は態度に出さないよう耐えている。その後の愚痴はすごいが、明玲にとってそれはそれで新鮮だった。言い方は悪いが、今まで会ったことがない種類の人なので見ているだけでけっこう面白いと明玲は思っていた。
「そうか。……我慢はしていないな?」
「我慢なんて……」
新鮮で面白いと言いそうになったが明玲は言葉を濁した。梅花は興味深いと思うが、偉仁が彼女に興味を持つのは嫌だった。
偉仁はぎゅっときつく明玲を抱きしめた。肩口に顔を埋められてびくっとする。
「明玲、そなたが心配なのだ。そなたは我慢強い。背負わなくてもいいものまで背負ってしまう」
「そんな……」
明玲は自分なりに楽しく過ごしている。我慢をしているつもりはこれっぽっちもなかった。けれど偉仁には違って見えているらしい。明玲は偉仁の腕を下から持つようにして抱えた。
「偉仁哥、私楽しんで過ごしていますよ? 趙姐も、他の妾妃様もいい方々ばかりですし。すごく恵まれてるっていつも思うんです」
「……それならいいが」
明玲は後宮にいた頃のことを思い出した。母の部屋と兄の母である芳妃の部屋以外は自由に行き来ができなかった。部屋の前にある庭に出るのも女官と一緒でなければならず、皇帝の他の妾妃は決して自分に関わろうとはしてこなかった。いつの頃からかついた教育係は、「公主とは……」と皇帝の娘である自覚を持ち、とあまり身のない話を繰り返した。けれどたまに会える兄は明玲に彩を与えた。
皇帝の息子である皇子たちは七歳になると後宮を離れ皇子宮に住む。そこでしっかりと教育を受け、なんらかの功績を上げると領地を与えられる。兄については、皇帝が当時芳妃に執心だったことから早いうちに領地を与えられ、蘇王に封じられたという。もちろん他の要因もあるのだろうが、そうに違いないと後宮ではまことしやかに囁かれていた。
そうして明玲が八歳になった時、偉仁は彼女を蘇王領に迎え入れた。今まで出たことのない下界に、公主が降りた瞬間であった。
未知の世界は何もかもが楽しかった。王領の町へ連れて行ってもらえたこと。お金を出して物を買うのだということ。庶民が好んで読む娯楽小説や、芝居小屋など全てがきらめいていた。
そうして初めて、明玲は皇帝の後宮という場所がひどく不自由なところだということに気づいた。母はあの後宮からは一生出られない。芳妃もそうだ。皇城の中で自由に動ける場所などなく、皇城の外に出るなど論外である。
公主は成人すれば皇帝の臣下に降嫁するのが普通だ。降嫁してからはそれなりに自由になるようだが、それでも夫によっては相当苦労するらしいとも聞いたことがある。
だから明玲は偉仁に感謝することはあっても、不満など沸くことはないと本気で思っていた。
「そなたに困りごとがなければそれでいい。だが何かあったら言うのだぞ」
「っ……はい……」
後ろから耳元で囁かれ、首筋を甘噛みされる。今困っていることと言えば主にそれだ。
偉仁に触れられるのは嫌ではないが、変な感覚が生まれて変な声が出てしまう。それはとても恥ずかしいから、できればもう少し手加減してほしかった。
「偉仁哥……」
「なんだ?」
「っ……そんなに、触れないでくださ……あっ……」
「それは聞けない相談だな」
漢服の間から手が差し込まれ、やわやわと胸を揉まれる。自分で触れた時はなんとも感じないのに、どうして偉仁に触れられるとおかしな感覚が生まれるのだろう。
「早くそなたが私の妻になればいい……」
抱き上げられて床に運ばれる。またいっぱい触れられてしまうのだろう。明玲はふるり、とその身を震わせた。
ーーーーー
恋愛小説大賞応援ありがとうございました! 引き続き最後まで書き切る予定なのでよろしくお願いします!
昨日は更新できなくてすいませんでした。
偉仁の部屋である。長椅子に腰かけた偉仁に、抱きしめられる恰好でいた明玲は頭を動かした。一応曹家の当主は明玲の実の父親ではあるが、迎え入れたのは曹家でも分家からの侍女である。偉仁はまだその姿を見ていないようだった。
「はい」
「困ったことはないか」
「特には……」
勉強を嫌がるのはどうかと思うが、今のところ曹梅花も授業中は態度に出さないよう耐えている。その後の愚痴はすごいが、明玲にとってそれはそれで新鮮だった。言い方は悪いが、今まで会ったことがない種類の人なので見ているだけでけっこう面白いと明玲は思っていた。
「そうか。……我慢はしていないな?」
「我慢なんて……」
新鮮で面白いと言いそうになったが明玲は言葉を濁した。梅花は興味深いと思うが、偉仁が彼女に興味を持つのは嫌だった。
偉仁はぎゅっときつく明玲を抱きしめた。肩口に顔を埋められてびくっとする。
「明玲、そなたが心配なのだ。そなたは我慢強い。背負わなくてもいいものまで背負ってしまう」
「そんな……」
明玲は自分なりに楽しく過ごしている。我慢をしているつもりはこれっぽっちもなかった。けれど偉仁には違って見えているらしい。明玲は偉仁の腕を下から持つようにして抱えた。
「偉仁哥、私楽しんで過ごしていますよ? 趙姐も、他の妾妃様もいい方々ばかりですし。すごく恵まれてるっていつも思うんです」
「……それならいいが」
明玲は後宮にいた頃のことを思い出した。母の部屋と兄の母である芳妃の部屋以外は自由に行き来ができなかった。部屋の前にある庭に出るのも女官と一緒でなければならず、皇帝の他の妾妃は決して自分に関わろうとはしてこなかった。いつの頃からかついた教育係は、「公主とは……」と皇帝の娘である自覚を持ち、とあまり身のない話を繰り返した。けれどたまに会える兄は明玲に彩を与えた。
皇帝の息子である皇子たちは七歳になると後宮を離れ皇子宮に住む。そこでしっかりと教育を受け、なんらかの功績を上げると領地を与えられる。兄については、皇帝が当時芳妃に執心だったことから早いうちに領地を与えられ、蘇王に封じられたという。もちろん他の要因もあるのだろうが、そうに違いないと後宮ではまことしやかに囁かれていた。
そうして明玲が八歳になった時、偉仁は彼女を蘇王領に迎え入れた。今まで出たことのない下界に、公主が降りた瞬間であった。
未知の世界は何もかもが楽しかった。王領の町へ連れて行ってもらえたこと。お金を出して物を買うのだということ。庶民が好んで読む娯楽小説や、芝居小屋など全てがきらめいていた。
そうして初めて、明玲は皇帝の後宮という場所がひどく不自由なところだということに気づいた。母はあの後宮からは一生出られない。芳妃もそうだ。皇城の中で自由に動ける場所などなく、皇城の外に出るなど論外である。
公主は成人すれば皇帝の臣下に降嫁するのが普通だ。降嫁してからはそれなりに自由になるようだが、それでも夫によっては相当苦労するらしいとも聞いたことがある。
だから明玲は偉仁に感謝することはあっても、不満など沸くことはないと本気で思っていた。
「そなたに困りごとがなければそれでいい。だが何かあったら言うのだぞ」
「っ……はい……」
後ろから耳元で囁かれ、首筋を甘噛みされる。今困っていることと言えば主にそれだ。
偉仁に触れられるのは嫌ではないが、変な感覚が生まれて変な声が出てしまう。それはとても恥ずかしいから、できればもう少し手加減してほしかった。
「偉仁哥……」
「なんだ?」
「っ……そんなに、触れないでくださ……あっ……」
「それは聞けない相談だな」
漢服の間から手が差し込まれ、やわやわと胸を揉まれる。自分で触れた時はなんとも感じないのに、どうして偉仁に触れられるとおかしな感覚が生まれるのだろう。
「早くそなたが私の妻になればいい……」
抱き上げられて床に運ばれる。またいっぱい触れられてしまうのだろう。明玲はふるり、とその身を震わせた。
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昨日は更新できなくてすいませんでした。
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