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七三、我一直都愛您(ずっとお慕いしています)(完結)
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清明節の行事は夜通し続く。偉仁は翌朝戻ってからさすがに疲れたのかすぐに寝室に籠った。そのまた次の日の朝、彼らは急いで蘇王領へ帰っていった。
皇位継承権を放棄したとはいえ幼い皇子がいる。そういう意味では皇都はもう彼らにとって危険な場所だった。移動中偉仁は芳妃といろいろ話をしたようだった。明玲は母と妹、そして義弟と共に過ごし、それなりに交流を深めた。道中休憩時に馬車の外へ出ると、大勇はすぐに走り出して虫を捕まえに行ってしまう。子どもらしくていいことだが侍女と明玲は慌てて追いかけるなんて出来事はあった。
そんなふうにして蘇王領の館に着く。明玲はひどく安堵した。
芳妃たちは館の離れに住むことになった。趙山琴や妾妃たちの部屋の近くである。
明玲の部屋が一番偉仁の部屋に近いと知ると、芳妃はにっこりした。
「偉仁もうまくやっているわね。とても楽しみだわ」
「玉芳? ほどほどにしないと……わかっているわね」
「まぁ、恵明ったら。言ってるだけじゃないの」
偉仁がそこらへんは話してくれると言っていたが、それで引き下がるような人ではない。それにしても芳妃と母は仲がいいと明玲は思う。いつまでも仲良くしていてほしいと願った。
偉仁は帰ってくるなり王府へ向かった。本当に仕事熱心だと感心してしまう。
「今日ぐらい館でのんびりしたらいいのに」
「男性の仕事に口は挟まないものよ」
芳妃の言い分もわかるし、母の答えもまた正しい。妹と義弟はもう庭でかけっこをしている。
(平和だわ……)
こんな日々がずっとずっと続きますように、と明玲は強く願った。
「明日の夜は晩餐会を開きます。偉仁様と明玲の婚礼は済ませていますが、芳妃娘娘と明妃娘娘は出席できなかったので、改めてお披露目をと」
「まぁあ! それはいいわね。明玲の衣裳は決まっているの?」
「はい。この度はこちらで決めさせていただきました」
「そう……じゃあまた何かあった時に衣裳を選ばせてね」
山琴と芳妃が和やかにそんなことを話している。明妃はそれを聞きながらにこにこしているだけだ。いったいどちらが本当の母なのかわからない。さすがに戻ってきたその日の夜に晩餐会を開くということにはならなくて、明玲はほっとした。
翌日の夜は婚礼を思わせるような赤い衣裳を着せられた。式の際に着せられたような首元まで詰まっているような衣裳ではなかったが、そういう時しか着ないだろう装いではあった。
「これって……趙姐の気遣いよね。本当にありがたいことだわ」
いくら偉仁の寵妃とはいえ、明玲はあくまで妾妃である。それなのに母たちに婚礼の時の様子を少しでも伝えてくれようと用意してくれたのだと思ったら泣けてきた。
「明玲様、泣いてはだめですよ。お化粧が落ちてしまいます」
周梨に窘められる。
「そう……そうよね……」
「蘇王がいらっしゃいました」
日が長くなってきていた。夕日に照らされるような形で、偉仁が明玲を抱き上げる。
「哥……」
「我が花嫁、迎えにきたぞ」
「……哥……!」
恥ずかしくなって明玲は偉仁の胸に顔をそっと埋めた。偉仁の衣裳は赤ではなかったが、黒地に赤で植物の文様がある長袍をまとっており、それがなんとも格好良く見えた。
「……哥、素敵です……」
「……そなに愛いことを申すと、このまま攫ってしまうぞ」
「……それは困ります」
母は許してくれるかもしれないが、芳妃は許してくれないだろう。後日明玲がたいへんな目に遭うに違いない。
「明玲、母の言うことは気にしてくれるな。子は天からの授かりものだ。我らがどうこうできるものではない」
「はい、ありがとうございます」
できなくても、と兄は言うが、できたらいいなと明玲は思う。ついこの間月経の予定だったが、実はまだきていない。ぬか喜びだったら困るのでまだ伝えてはいないが、もしかしたら来月には嬉しい知らせができるかもしれない。
「哥……大好き……ずっと、ずっとお慕いしております……」
小さな声で告げ、晩餐会の会場に向かうよう促す。
「全く……今宵は覚悟しておけ」
色を含んだ声に、明玲は震えた。
―終幕
二〇二〇年四月二十八日 脱稿
最後までお付き合いありがとうございました!
感想などいただけると飛び上がって喜びます。
また別の物語でお会いしましょう~
皇位継承権を放棄したとはいえ幼い皇子がいる。そういう意味では皇都はもう彼らにとって危険な場所だった。移動中偉仁は芳妃といろいろ話をしたようだった。明玲は母と妹、そして義弟と共に過ごし、それなりに交流を深めた。道中休憩時に馬車の外へ出ると、大勇はすぐに走り出して虫を捕まえに行ってしまう。子どもらしくていいことだが侍女と明玲は慌てて追いかけるなんて出来事はあった。
そんなふうにして蘇王領の館に着く。明玲はひどく安堵した。
芳妃たちは館の離れに住むことになった。趙山琴や妾妃たちの部屋の近くである。
明玲の部屋が一番偉仁の部屋に近いと知ると、芳妃はにっこりした。
「偉仁もうまくやっているわね。とても楽しみだわ」
「玉芳? ほどほどにしないと……わかっているわね」
「まぁ、恵明ったら。言ってるだけじゃないの」
偉仁がそこらへんは話してくれると言っていたが、それで引き下がるような人ではない。それにしても芳妃と母は仲がいいと明玲は思う。いつまでも仲良くしていてほしいと願った。
偉仁は帰ってくるなり王府へ向かった。本当に仕事熱心だと感心してしまう。
「今日ぐらい館でのんびりしたらいいのに」
「男性の仕事に口は挟まないものよ」
芳妃の言い分もわかるし、母の答えもまた正しい。妹と義弟はもう庭でかけっこをしている。
(平和だわ……)
こんな日々がずっとずっと続きますように、と明玲は強く願った。
「明日の夜は晩餐会を開きます。偉仁様と明玲の婚礼は済ませていますが、芳妃娘娘と明妃娘娘は出席できなかったので、改めてお披露目をと」
「まぁあ! それはいいわね。明玲の衣裳は決まっているの?」
「はい。この度はこちらで決めさせていただきました」
「そう……じゃあまた何かあった時に衣裳を選ばせてね」
山琴と芳妃が和やかにそんなことを話している。明妃はそれを聞きながらにこにこしているだけだ。いったいどちらが本当の母なのかわからない。さすがに戻ってきたその日の夜に晩餐会を開くということにはならなくて、明玲はほっとした。
翌日の夜は婚礼を思わせるような赤い衣裳を着せられた。式の際に着せられたような首元まで詰まっているような衣裳ではなかったが、そういう時しか着ないだろう装いではあった。
「これって……趙姐の気遣いよね。本当にありがたいことだわ」
いくら偉仁の寵妃とはいえ、明玲はあくまで妾妃である。それなのに母たちに婚礼の時の様子を少しでも伝えてくれようと用意してくれたのだと思ったら泣けてきた。
「明玲様、泣いてはだめですよ。お化粧が落ちてしまいます」
周梨に窘められる。
「そう……そうよね……」
「蘇王がいらっしゃいました」
日が長くなってきていた。夕日に照らされるような形で、偉仁が明玲を抱き上げる。
「哥……」
「我が花嫁、迎えにきたぞ」
「……哥……!」
恥ずかしくなって明玲は偉仁の胸に顔をそっと埋めた。偉仁の衣裳は赤ではなかったが、黒地に赤で植物の文様がある長袍をまとっており、それがなんとも格好良く見えた。
「……哥、素敵です……」
「……そなに愛いことを申すと、このまま攫ってしまうぞ」
「……それは困ります」
母は許してくれるかもしれないが、芳妃は許してくれないだろう。後日明玲がたいへんな目に遭うに違いない。
「明玲、母の言うことは気にしてくれるな。子は天からの授かりものだ。我らがどうこうできるものではない」
「はい、ありがとうございます」
できなくても、と兄は言うが、できたらいいなと明玲は思う。ついこの間月経の予定だったが、実はまだきていない。ぬか喜びだったら困るのでまだ伝えてはいないが、もしかしたら来月には嬉しい知らせができるかもしれない。
「哥……大好き……ずっと、ずっとお慕いしております……」
小さな声で告げ、晩餐会の会場に向かうよう促す。
「全く……今宵は覚悟しておけ」
色を含んだ声に、明玲は震えた。
―終幕
二〇二〇年四月二十八日 脱稿
最後までお付き合いありがとうございました!
感想などいただけると飛び上がって喜びます。
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お読みいただきありがとうございます。
明玲は今回妊娠していなかったとしてもいずれしますので、そこはご想像にお任せします。
最後までお付き合いいただきありがとうございました。
わぁいヽ(∇⌒ヽ)(ノ⌒∇)ノわぁい♪
読んでいただきありがとうございますー♪
そんなに褒められたら調子に乗っていろいろ書いちゃいますから!(ぉぃ
今しばらくは中国もいけませんが、また行きたいですね♪ 万里の長城が大好きですー。
楽しんでいただけて嬉しいですー♪
わぁいヽ(∇⌒ヽ)(ノ⌒∇)ノわぁい♪
読んでいただきありがとうございますー♪
皇帝許すまじ! の偉仁でした(笑)
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楽しんでいただけて嬉しいですー♪