【本編完結】ざまあはされたくありません!

浅葱

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15.また今宵も王太子はいらっしゃるそうで

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「幻術? ああ、あれか……」

 好奇心に抗えず、私はとうとうヴィクトーリア様に尋ねてしまった。王太子にかけた幻術とは、どのようなものなのかと。
 それは、方向性と人物を固定してかけているという超上級な幻術の為、私は一切出てこないのだそうだ。設定をより細かくすると解かれづらくはなるが、そういった幻術をかけられる者は稀だという。

「シチュエーションを合わせたりする必要はある。かからないこともあるからな。王太子にかけたのは、相手が私だということと、初夜を順調に終えることを目的とした幻術だ。王太子がどれだけ腰を振ったかは知らんが、「獣のように」という表現は男にとって褒め言葉だからあえて使っただけだ。幻術にかかっている者がどんな夢を見たのかはわからない」
「そうなのですか……」

「獣のように」って褒め言葉だったんだ。初めて知った。この国の男たちはなんとも御しがたい。いや、御すつもりもないけどね。
 それで、今私は寝室のベッドの上でヴィクトーリア様に抱きしめられています。王太子の部屋から続く扉のドアノブには厳重に鎖がかけられ、開けられないようになっています。どうしてこうなってしまったんだろう。

「あの……ヴィクトーリア様?」
「今はヴィクトールだ。抱かないから、キスだけ……」
「んっ……」

 ヴィクトーリア様はキスが好きだという。今日は朝昼兼用の食事をしてから寝室に籠り、こうしてちゅ、ちゅと何度もキスをされていた。甘い、甘いよぉ。

「んんっ……ヴィクトーリア様、本は……?」

 唇が離れたタイミングでどうにか聞いてみる。ヴィクトーリア様は少し考えるような顔をした。

「……こうしてキスをしているのもいいが、王宮の図書館に行ってくるか」
「そ、そそそそうしましょう! すぐ行きましょう! 早く行きましょう!」

 いつまでもこんな甘い口づけを受け続けていたら身体が溶けてしまう。先ほど本でも読んで過ごすと言っていたのだからそうしなくてはいけないと思う。
 ヴィクトーリア様はククッと笑った。

「本当に、ローゼは面白い。……色気がないのも考えものだが」

 色気? そんなものはそこらへんの犬にでも食べさせておけばいいんです! 昼の間は甘いのダメ絶対! 夜ならいいのかって? ああううう……。
 お仕着せを直し、ヴィクトーリア様のドレスや髪形を直してから私たちは王宮の図書館へ向かった。そうして午後はどうにか穏やかに過ごせたのである。
 夕飯は王太子の部屋に招かれた。私はヴィクトーリア様側に立ち、いつでも対応できるように待機した。

「……ヴィクトーリア、ドアが開かなかったがどういうつもりだ?」

 王太子が忌々しそうにヴィクトーリア様に聞く。ドア? 私は内心首を傾げた。

「ドア? なんのことですの?」
「しらばっくれるな!」

 ドン、と料理の乗ったテーブルを王太子が叩いた。料理がこぼれちゃうかもしれないからやめてほしい。また私の中で王太子の株が下がった。

「私の寝室から繋がるドアのことだ。鍵はかけられないはずだ。どうやって開かなくしたのだ!」
「あら……殿下は昼間から私を訪ねていらっしゃったのですか? 私どうしても身体を休めたかったものですから……だって、昨夜は本当に「獣のように」求められてしまいましたから……」

 ヴィクトーリア様が頬を染める。王太子の顔が赤くなった。

「そ、そうか……だが開かなくするのはやりすぎだろう。今度からは開けておくように……」
「夜は開けておきますから……それでご容赦ください」
「そ、それならしかたないな……」

 なんかもう見てて乾いた笑いが漏れそうなやりとりだった。これ、もしもヴィクトーリア様が本当に女性で実際に王太子とヤッちゃってたら私の立ち位置って超微妙じゃない? こんなやりとりをしているクセに私を一番愛してるだって? 間違いなく刃傷沙汰になるよね。

「ならば、今宵も参ろう……」

 ヴィクトーリア様は目を伏せた。

「はい、お待ちしておりますわ……」

 それは恥じらっているようにも映ったが、実際にはめちゃくちゃ笑いをこらえてるということだけはわかっていた。
 ヴィクトーリア様は罪な女性(?)だなぁとのん気に思ったけど、王太子がくるということはそういうことなのだ。
 またヴィクトーリア様に抱かれちゃうのかなと思ったら、身体の奥がきゅんと疼いた。
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