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53.いろいろあるみたいだけど、私にはいいことがありまして
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王太子は叫ぶような声を発した後、考えるような顔をした。
「そう、だな……そういえば……。確認を怠っていたようだ。ヴィクトーリア、すまなかったな」
「いえ。書類がもし見つからないということであればおっしゃってくださいませ。こちらにも原本はございますので」
「わかった。原本は公爵の手元か?」
「ヴィクトールが持っているはずですので父に言えば伝わるかと」
「ありがとう」
ヴィクトーリア様との共同事業が全てヴィクトール様に移管されていることを王太子は知らなかったのだろうか。だとしたらそれはかなり問題ではないのだろうか。
翌日以降王太子はしばらくばたばたと動き回っていたようだった。ヴィクトーリア様は変わらず泰然自若として構えている。
数日後、プランタ公爵にヴィクトーリア様が呼ばれ、公爵の執務室へ赴いた。
「王太子がヴィクトールに会いたいそうだ」
「……例の件、ですね?」
「ああ、例の件だ。王太子の侍従はすでに処分したが、まだ他に関わっていた者がいるはずだろう」
王太子の侍従と聞いてギクッとした。なんのことだがよくわからないが、あの日マリーンの侍女と一緒にいた光景を思い出した。
「マリーンの侍女……」
「ローゼ?」
私の呟きは届いていたらしい。
「あ、いえ……なんでもないです」
「なにか気になることがあるなら言うといい。私たちには見えない視点があるはずだ」
こういう、多角的に物事が見られる視点は大事だと思う。何をバカなと言わないヴィクトーリア様が好きだなって、余計に思うのだ。
「はい……」
聞かれるがままに、つい先日王太子の侍従とマリーンの侍女が一緒にいた時のことを話した。マリーンの侍女とは目が合い、その後なにやらすごい形相でやってこようとしていたことも。あの時は私しか目に入っていなかったから侍女は何かをしようとしていたようだが、すぐ側にヴィクトーリア様がいることに気づいてすぐに離れたのかもしれない。
「ふむ、庭か……」
「時間と場所がわかっているならば上々だ。で、王太子が訪ねてくる件に関してはどうする? なんでも共同事業だったものの原本が見たいと言っているが……」
ヴィクトーリア様はため息をついた。
「……王宮で会うわけにはいきませんね。わかりました、影を寄越してください。入れ替わりで戻ります」
「わかった」
ヴィクトーリア様の影武者さんが来たらヴィクトーリア様は公爵家に戻ってしまうのだろうか。なんで王宮ではだめなんだろう。でも私がここに残されるのは不安だからって引き止めることもできない。
「婚約者はどうする?」
公爵が揶揄うように言う。
「ああ……そうですね。婚約者なのですからこの機会に一度連れて帰りましょう。せっかくですから、父上よろしくお願いします」
「引き受けた」
私は首を傾げた。いったいどういうことなのだろう。
そのまま公爵の執務室でお茶をいただいていたら影武者さんがやってきた。公爵家からの遣いという体で来ているらしい。幻術を使っていても反応しないのは公爵が任意で結界魔法を修正しているからです。ああなんてチート。
公爵は幻術でヴィクトーリア様を遣いに変え、私も一緒に帰りの馬車に乗った。仕事が終わったら王都の屋敷に帰るのです。暗くなる前に帰れるんですから、公爵はよほど優秀なのでしょう。
公爵家の馬車に乗り、王宮から離れていくことでようやく実感した。このまま、公爵家にいられないものだろうか。もちろん側ににはヴィクトール様がいてくださることが望ましいけど。
「公爵様、ありがとうございます……」
目が潤んできた。遣いに扮したヴィクトール様が私の手をそっと握ってくれた。ヴィクトーリア様は王宮の外には出られないから、もうヴィクトール様と呼んでもいいのだ。
「私は息子の為に一日だけヴィクトーリアからローゼリンデを借りた格好になる。明日か明後日にはまた王宮に戻ることにはなるぞ?」
「はい、わかっています……」
それでも、あの王宮から、王太子から一晩確実に逃れられるというだけで嬉しかった。
そう、私はとても疲れていたのだ。いくらヴィクトーリア様が私を守ってくれるとわかっていても、なんだかんだいって王宮は空気がピリピリしていた。訪ねてこないと言っても、王太子がいつくるのかとびくびくしていた。
私はこんなにもう、王太子が嫌になっているのだなぁと思ったらそれはそれで悲しくなった。
「今夜は二人でゆっくり愛を育むといい。王太子が気づいてなんやかや言うかもしれないがほっておけ」
にこやかに公爵に言われ、さすがにそれはセクハラだと思った。
「そう、だな……そういえば……。確認を怠っていたようだ。ヴィクトーリア、すまなかったな」
「いえ。書類がもし見つからないということであればおっしゃってくださいませ。こちらにも原本はございますので」
「わかった。原本は公爵の手元か?」
「ヴィクトールが持っているはずですので父に言えば伝わるかと」
「ありがとう」
ヴィクトーリア様との共同事業が全てヴィクトール様に移管されていることを王太子は知らなかったのだろうか。だとしたらそれはかなり問題ではないのだろうか。
翌日以降王太子はしばらくばたばたと動き回っていたようだった。ヴィクトーリア様は変わらず泰然自若として構えている。
数日後、プランタ公爵にヴィクトーリア様が呼ばれ、公爵の執務室へ赴いた。
「王太子がヴィクトールに会いたいそうだ」
「……例の件、ですね?」
「ああ、例の件だ。王太子の侍従はすでに処分したが、まだ他に関わっていた者がいるはずだろう」
王太子の侍従と聞いてギクッとした。なんのことだがよくわからないが、あの日マリーンの侍女と一緒にいた光景を思い出した。
「マリーンの侍女……」
「ローゼ?」
私の呟きは届いていたらしい。
「あ、いえ……なんでもないです」
「なにか気になることがあるなら言うといい。私たちには見えない視点があるはずだ」
こういう、多角的に物事が見られる視点は大事だと思う。何をバカなと言わないヴィクトーリア様が好きだなって、余計に思うのだ。
「はい……」
聞かれるがままに、つい先日王太子の侍従とマリーンの侍女が一緒にいた時のことを話した。マリーンの侍女とは目が合い、その後なにやらすごい形相でやってこようとしていたことも。あの時は私しか目に入っていなかったから侍女は何かをしようとしていたようだが、すぐ側にヴィクトーリア様がいることに気づいてすぐに離れたのかもしれない。
「ふむ、庭か……」
「時間と場所がわかっているならば上々だ。で、王太子が訪ねてくる件に関してはどうする? なんでも共同事業だったものの原本が見たいと言っているが……」
ヴィクトーリア様はため息をついた。
「……王宮で会うわけにはいきませんね。わかりました、影を寄越してください。入れ替わりで戻ります」
「わかった」
ヴィクトーリア様の影武者さんが来たらヴィクトーリア様は公爵家に戻ってしまうのだろうか。なんで王宮ではだめなんだろう。でも私がここに残されるのは不安だからって引き止めることもできない。
「婚約者はどうする?」
公爵が揶揄うように言う。
「ああ……そうですね。婚約者なのですからこの機会に一度連れて帰りましょう。せっかくですから、父上よろしくお願いします」
「引き受けた」
私は首を傾げた。いったいどういうことなのだろう。
そのまま公爵の執務室でお茶をいただいていたら影武者さんがやってきた。公爵家からの遣いという体で来ているらしい。幻術を使っていても反応しないのは公爵が任意で結界魔法を修正しているからです。ああなんてチート。
公爵は幻術でヴィクトーリア様を遣いに変え、私も一緒に帰りの馬車に乗った。仕事が終わったら王都の屋敷に帰るのです。暗くなる前に帰れるんですから、公爵はよほど優秀なのでしょう。
公爵家の馬車に乗り、王宮から離れていくことでようやく実感した。このまま、公爵家にいられないものだろうか。もちろん側ににはヴィクトール様がいてくださることが望ましいけど。
「公爵様、ありがとうございます……」
目が潤んできた。遣いに扮したヴィクトール様が私の手をそっと握ってくれた。ヴィクトーリア様は王宮の外には出られないから、もうヴィクトール様と呼んでもいいのだ。
「私は息子の為に一日だけヴィクトーリアからローゼリンデを借りた格好になる。明日か明後日にはまた王宮に戻ることにはなるぞ?」
「はい、わかっています……」
それでも、あの王宮から、王太子から一晩確実に逃れられるというだけで嬉しかった。
そう、私はとても疲れていたのだ。いくらヴィクトーリア様が私を守ってくれるとわかっていても、なんだかんだいって王宮は空気がピリピリしていた。訪ねてこないと言っても、王太子がいつくるのかとびくびくしていた。
私はこんなにもう、王太子が嫌になっているのだなぁと思ったらそれはそれで悲しくなった。
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にこやかに公爵に言われ、さすがにそれはセクハラだと思った。
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