3 / 117
本編
3.四神和新娘
しおりを挟む
男が去った後、老人は店に来た者たちに「四神の花嫁様が降臨された」という話を自分の手柄のように語った。みな一様に「それで今年は早く春が来たんじゃなぁ」と納得したように頷いた。そして花嫁と紅児の髪の色が同じという話を聞くと、みな複雑そうな表情をした。こんな狭い村ではほとんどの者が紅児の来歴を知っている。それだけに彼女はとても居心地の悪い思いをした。
紅児の国には様々な髪の色、いろいろな目の色をした人がいた。面積自体はそれほど広くなく、他国との往来も盛んな国だからこそなのだろう。もちろん隣国にも赤い髪に緑の目をした人はいるはずだった。誰も直接紅児に尋ねないから彼女も何も言わなかったが、店じまいの時間になって近所の少年たちが難しい顔をしてやってきた。
「お前、四神の花嫁様の親戚かもしれないって……」
「そんなわけないじゃない」
歯切れ悪く聞いてくる少年に、紅児はいらいらしながら否定した。
「でも髪の色が同じだって……」
「じゃあ黒髪の人はみんな親戚なの? 私のいた国の隣の国にだって赤い髪の人はいたわ」
「そっか……じゃあ関係ないんじゃな?」
何故か体の大きい少年がほっとしたように言った。紅児は眉を寄せた。
「関係ないわ」
「ならいいんじゃ……」
そう答えると少年たちは言葉を濁してとっとと帰って行った。
(いったいなんなの?)
尋ねるだけ尋ねて何を注文していくでもない少年たちが腹立たしかった。
「紅児は人気者じゃなぁ」
だから一緒に片付けをしていた養父が言ったことも意味不明だった。
「おとっつぁん?」
怪訝そうに聞き返しても養父は笑って答えなかった。
翌日の仕込みを手伝いながら紅児は養父母に「四神」と「花嫁様」のことを尋ねた。
彼らは自分たちが知っている範囲でだが、と前置きして教えてくれた。
曰く、この国には東西南北それぞれに国を守護している神がいること。秦皇島辺りを守護してくれている神様は「玄武」だということ。よくわからないが玄武様には長いことお嫁さんがいなかったらしい。そのせいかもう何十年も冬の寒さが厳しく、作物が不作の年が続いているのだという。
王都から来たという男の話が本当なら、四神が花嫁を迎えたことで冬の寒さも緩和し自分たちの生活が少しずつでも楽になるかもしれないと、彼らは嬉しそうに言った。
「花嫁様って……4人も一度に来たの?」
疑問に思って紅児が聞くと、養父母は顔を見合わせた。
そしておそらく1人だけだと教えてくれた。
紅児は目を白黒させた。養父母の言うことが本当なら四神に対して花嫁が1人ということになる。
この国では女性が複数の男性に嫁ぐことは一般的なことなのだろうか。
たどたどしく聞くとそんなことはないという。身分の高い男性が複数の女性を囲うことはあるが、その逆はまずないらしい。
「神様のことじゃからのぅ……わしらもよくわからんのじゃ」
養父は苦笑して頭をかいた。
紅児の国では王族であっても一夫一婦制が当り前だったから、男性が複数の女性を囲うというのは全く想像もつかないことだった。
そもそも「降臨」というのがどういうことなのかわからない。花嫁は一体どこからやってきたのだろう。それを尋ねてみても養父母はわからんと苦笑するばかりだった。
おかげでその日は紅児にとって、かえって疑問だけが増えた日となった。
その夜養父母が深刻そうな面持ちでぼそぼそと何かを話し合っていることに紅児は気付いたが、寝たふりをした。
時折養父母はそうやって店のことや紅児のことについて話をする。まだ子供であり、お世話になっているだけの紅児にできることは何もない。ただできるだけ迷惑をかけないようにするのが精いっぱいだった。
優しい養父母に拾われて自分は運がいいのだと、紅児はいつも自身に言い聞かせている。そうしなければ時折叫び出したくなる気持ちを抑えることはできなかった。
状況がよくわかっていない頃は泣いてばかりいた。そんな面倒臭い子供を慰め、根気良く導いてくれたのは養父母だった。彼らは子宝に恵まれなかったから、紅児は天からの授かり物だと言ってくれたが、あまり役に立っているようには思えなかった。
(大丈夫、私は大丈夫……)
そう自分に言い聞かせながら紅児は眠りについた。
紅児の国には様々な髪の色、いろいろな目の色をした人がいた。面積自体はそれほど広くなく、他国との往来も盛んな国だからこそなのだろう。もちろん隣国にも赤い髪に緑の目をした人はいるはずだった。誰も直接紅児に尋ねないから彼女も何も言わなかったが、店じまいの時間になって近所の少年たちが難しい顔をしてやってきた。
「お前、四神の花嫁様の親戚かもしれないって……」
「そんなわけないじゃない」
歯切れ悪く聞いてくる少年に、紅児はいらいらしながら否定した。
「でも髪の色が同じだって……」
「じゃあ黒髪の人はみんな親戚なの? 私のいた国の隣の国にだって赤い髪の人はいたわ」
「そっか……じゃあ関係ないんじゃな?」
何故か体の大きい少年がほっとしたように言った。紅児は眉を寄せた。
「関係ないわ」
「ならいいんじゃ……」
そう答えると少年たちは言葉を濁してとっとと帰って行った。
(いったいなんなの?)
尋ねるだけ尋ねて何を注文していくでもない少年たちが腹立たしかった。
「紅児は人気者じゃなぁ」
だから一緒に片付けをしていた養父が言ったことも意味不明だった。
「おとっつぁん?」
怪訝そうに聞き返しても養父は笑って答えなかった。
翌日の仕込みを手伝いながら紅児は養父母に「四神」と「花嫁様」のことを尋ねた。
彼らは自分たちが知っている範囲でだが、と前置きして教えてくれた。
曰く、この国には東西南北それぞれに国を守護している神がいること。秦皇島辺りを守護してくれている神様は「玄武」だということ。よくわからないが玄武様には長いことお嫁さんがいなかったらしい。そのせいかもう何十年も冬の寒さが厳しく、作物が不作の年が続いているのだという。
王都から来たという男の話が本当なら、四神が花嫁を迎えたことで冬の寒さも緩和し自分たちの生活が少しずつでも楽になるかもしれないと、彼らは嬉しそうに言った。
「花嫁様って……4人も一度に来たの?」
疑問に思って紅児が聞くと、養父母は顔を見合わせた。
そしておそらく1人だけだと教えてくれた。
紅児は目を白黒させた。養父母の言うことが本当なら四神に対して花嫁が1人ということになる。
この国では女性が複数の男性に嫁ぐことは一般的なことなのだろうか。
たどたどしく聞くとそんなことはないという。身分の高い男性が複数の女性を囲うことはあるが、その逆はまずないらしい。
「神様のことじゃからのぅ……わしらもよくわからんのじゃ」
養父は苦笑して頭をかいた。
紅児の国では王族であっても一夫一婦制が当り前だったから、男性が複数の女性を囲うというのは全く想像もつかないことだった。
そもそも「降臨」というのがどういうことなのかわからない。花嫁は一体どこからやってきたのだろう。それを尋ねてみても養父母はわからんと苦笑するばかりだった。
おかげでその日は紅児にとって、かえって疑問だけが増えた日となった。
その夜養父母が深刻そうな面持ちでぼそぼそと何かを話し合っていることに紅児は気付いたが、寝たふりをした。
時折養父母はそうやって店のことや紅児のことについて話をする。まだ子供であり、お世話になっているだけの紅児にできることは何もない。ただできるだけ迷惑をかけないようにするのが精いっぱいだった。
優しい養父母に拾われて自分は運がいいのだと、紅児はいつも自身に言い聞かせている。そうしなければ時折叫び出したくなる気持ちを抑えることはできなかった。
状況がよくわかっていない頃は泣いてばかりいた。そんな面倒臭い子供を慰め、根気良く導いてくれたのは養父母だった。彼らは子宝に恵まれなかったから、紅児は天からの授かり物だと言ってくれたが、あまり役に立っているようには思えなかった。
(大丈夫、私は大丈夫……)
そう自分に言い聞かせながら紅児は眠りについた。
2
あなたにおすすめの小説
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
【R18】純粋無垢なプリンセスは、婚礼した冷徹と噂される美麗国王に三日三晩の初夜で蕩かされるほど溺愛される
奏音 美都
恋愛
数々の困難を乗り越えて、ようやく誓約の儀を交わしたグレートブルタン国のプリンセスであるルチアとシュタート王国、国王のクロード。
けれど、それぞれの執務に追われ、誓約の儀から二ヶ月経っても夫婦の時間を過ごせずにいた。
そんなある日、ルチアの元にクロードから別邸への招待状が届けられる。そこで三日三晩の甘い蕩かされるような初夜を過ごしながら、クロードの過去を知ることになる。
2人の出会いを描いた作品はこちら
「純粋無垢なプリンセスを野盗から助け出したのは、冷徹と噂される美麗国王でした」https://www.alphapolis.co.jp/novel/702276663/443443630
2人の誓約の儀を描いた作品はこちら
「純粋無垢なプリンセスは、冷徹と噂される美麗国王と誓約の儀を結ぶ」
https://www.alphapolis.co.jp/novel/702276663/183445041
敵に貞操を奪われて癒しの力を失うはずだった聖女ですが、なぜか前より漲っています
藤谷 要
恋愛
サルサン国の聖女たちは、隣国に征服される際に自国の王の命で殺されそうになった。ところが、侵略軍将帥のマトルヘル侯爵に助けられた。それから聖女たちは侵略国に仕えるようになったが、一か月後に筆頭聖女だったルミネラは命の恩人の侯爵へ嫁ぐように国王から命じられる。
結婚披露宴では、陛下に側妃として嫁いだ旧サルサン国王女が出席していたが、彼女は侯爵に腕を絡めて「陛下の手がつかなかったら一年後に妻にしてほしい」と頼んでいた。しかも、侯爵はその手を振り払いもしない。
聖女は愛のない交わりで神の加護を失うとされているので、当然白い結婚だと思っていたが、初夜に侯爵のメイアスから体の関係を迫られる。彼は命の恩人だったので、ルミネラはそのまま彼を受け入れた。
侯爵がかつての恋人に似ていたとはいえ、侯爵と孤児だった彼は全く別人。愛のない交わりだったので、当然力を失うと思っていたが、なぜか以前よりも力が漲っていた。
※全11話 2万字程度の話です。
【完結】異世界に転移しましたら、四人の夫に溺愛されることになりました(笑)
かのん
恋愛
気が付けば、喧騒など全く聞こえない、鳥のさえずりが穏やかに聞こえる森にいました。
わぁ、こんな静かなところ初めて~なんて、のんびりしていたら、目の前に麗しの美形達が現れて・・・
これは、女性が少ない世界に転移した二十九歳独身女性が、あれよあれよという間に精霊の愛し子として囲われ、いつのまにか四人の男性と結婚し、あれよあれよという間に溺愛される物語。
あっさりめのお話です。それでもよろしければどうぞ!
本日だけ、二話更新。毎日朝10時に更新します。
完結しておりますので、安心してお読みください。
人狼な幼妻は夫が変態で困り果てている
井中かわず
恋愛
古い魔法契約によって強制的に結ばれたマリアとシュヤンの14歳年の離れた夫婦。それでも、シュヤンはマリアを愛していた。
それはもう深く愛していた。
変質的、偏執的、なんとも形容しがたいほどの狂気の愛情を注ぐシュヤン。異常さを感じながらも、なんだかんだでシュヤンが好きなマリア。
これもひとつの夫婦愛の形…なのかもしれない。
全3章、1日1章更新、完結済
※特に物語と言う物語はありません
※オチもありません
※ただひたすら時系列に沿って変態したりイチャイチャしたりする話が続きます。
※主人公の1人(夫)が気持ち悪いです。
【完結】乙女ゲーム開始前に消える病弱モブ令嬢に転生しました
佐倉穂波
恋愛
転生したルイシャは、自分が若くして死んでしまう乙女ゲームのモブ令嬢で事を知る。
確かに、まともに起き上がることすら困難なこの体は、いつ死んでもおかしくない状態だった。
(そんな……死にたくないっ!)
乙女ゲームの記憶が正しければ、あと数年で死んでしまうルイシャは、「生きる」ために努力することにした。
2023.9.3 投稿分の改稿終了。
2023.9.4 表紙を作ってみました。
2023.9.15 完結。
2023.9.23 後日談を投稿しました。
借金まみれで高級娼館で働くことになった子爵令嬢、密かに好きだった幼馴染に買われる
しおの
恋愛
乙女ゲームの世界に転生した主人公。しかしゲームにはほぼ登場しないモブだった。
いつの間にか父がこさえた借金を返すため、高級娼館で働くことに……
しかしそこに現れたのは幼馴染で……?
私は5歳で4人の許嫁になりました【完結】
Lynx🐈⬛
恋愛
ナターシャは公爵家の令嬢として産まれ、5歳の誕生日に、顔も名前も知らない、爵位も不明な男の許嫁にさせられた。
それからというものの、公爵令嬢として恥ずかしくないように育てられる。
14歳になった頃、お行儀見習いと称し、王宮に上がる事になったナターシャは、そこで4人の皇子と出会う。
皇太子リュカリオン【リュカ】、第二皇子トーマス、第三皇子タイタス、第四皇子コリン。
この4人の誰かと結婚をする事になったナターシャは誰と結婚するのか………。
※Hシーンは終盤しかありません。
※この話は4部作で予定しています。
【私が欲しいのはこの皇子】
【誰が叔父様の側室になんてなるもんか!】
【放浪の花嫁】
本編は99話迄です。
番外編1話アリ。
※全ての話を公開後、【私を奪いに来るんじゃない!】を一気公開する予定です。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる