貴方色に染まる

浅葱

文字の大きさ
23 / 117
本編

23.新娘的来歴

しおりを挟む
 それからも紅児ホンアール紅夏ホンシャーと毎日話をした。
 紅夏にはいろいろ教えてもらう方が多い。
 紅夏は白雲を「兄」と呼んでいる。そして青藍のことも「兄」と呼んでいた。けれど一番最年少と思われる黒月は、他の3者を「様」をつけて呼ぶ。同じ眷族なのにと疑問に思って尋ねると、白雲、青藍、紅夏の母親というのが先代の花嫁らしいということを聞いて驚いた。
 ということは、先代の花嫁は三神に嫁いだのだろうか。
 紅夏は違うと言う。花嫁は四神全ての花嫁であり、一番最初に嫁ぐ先は決めるが、そこに他の神が通い愛を交わすことはおかしくないという。

(話が違う)

 咄嗟に紅児はそう思った。

「それは……花嫁様はご存知なの、ですか?」
「我らが兄弟だということはご存知だ」
「そう……」

 勝手かもしれないが、紅児はなんだか裏切られたような気持ちになった。それは少女特有の潔癖さだったが、紅児には自分が何故こんなにもひどくショックを受けているのかわからなかった。

「じゃあ……ここで嫁ぎ先を決めるのは何の為……」
「神々の意向だ」
「四神の?」
「違う。三皇の、だ」

 また知らない名前が出てきた。紅児は眉を寄せた。
 聞けば聞くほどわからなくなっていく。
 三皇というのはこの大陸を統べる神で天上におわすらしい。
 昔、この国の王が神の存在や加護をもっと身近に感じたいと願ったところ、三皇が四神をこの世に遣わせたのだという。
 本当はもっといろいろ詳しい話や事情があったのかもしれないが簡単に言うとそういうことらしい。
 四神がこの世に遣わされた際、いくつかの取り決めがあったのだという。そのうちの1つが花嫁のことだった。

 花嫁はよい時に三皇が異世界から召喚する。
 花嫁は唯人ではあるが四神の花嫁と定められている。丁重にもてなし四神の元に届けよ。
 花嫁が唯人であることを捨て四神の花嫁となるまでの1年間、最高権力者の元で庇護をせよ。
 さすれば四神の加護は国中を潤すであろう。

 ということは。

(人が花嫁をどう扱うかでこの国の命運が決まるのね……)

 つまりこの1年間というのは花嫁がとりあえずの嫁ぎ先を決めるだけでなく、この国に対しての試験期間でもあるわけだ。

「このことを花嫁様は?」
「わからぬ。ただ聡い方であるから、知らずともおのずと導き出してはおられよう」

 紅児に検討がつくぐらいなのだからそうなのかもしれない。


 花嫁が異世界から召喚されたということを聞き、紅児は改めて胸が痛んだ。
 働き始める前に「異なる世界から連れてこられた」ということは聞いていたが、まず「召喚」という言葉の意味がよくわかっていなかった。
 今まで誰一人として元の世界に帰った花嫁がいないと聞けば猶更だった。多少ぎこちなさはあれどこの国の言葉をしゃべれることから、おそらくは異世界にも似たような文化を持つ国があるのだろう。
 けれどたった一人でいきなりこの世界に連れてこられ、どれだけ心細い思いをしたのか。家族にも友人にももう会えない。しかも自分の消息も伝えることができない。

(だから花嫁様は他人事とは思えないとおっしゃられたのね……)

 この国が好きだから、この国の利益となることだからと言っていたが、花嫁は紅児に自分を多少重ね合わせているに違いなかった。
 花嫁にとってなんと理不尽なことか。帰せ戻せと泣き叫んでもいいはずなのに花嫁は柔らかく笑う。既にそれもしつくした後で、半ば諦めたのかもしれなかったが花嫁は誰に対しても親切だ。

(誠心誠意お仕えしよう)

 例え調査の結果がかんばしくなく、二度と自国に戻れなかったとしても。

(私の国はこの空の下に、確かに存在するのだから)


 そんな紅児の決意は、すぐ花嫁に気付かれたらしい。
 紅児は隠し事がうまくない。それ故に表情や態度に出ていたのだろう。

「エリーザ、紅夏にいろいろ聞いているようね」

 そう話しかけられてどきっとしてしまった。

「あ、ハイ……いろいろ教えていただいてマス……」
「知る、ということはいいことだわ。そんなに早く結果は出ないと思うから、のんびりしましょう。気張る必要はないわ」

 花嫁はにっこりと笑んでそう言ったが、最後にこう付け足した。

「って私が言うことではないわね」

 紅児は咄嗟に首を振った。それは侍女としてはあるまじきことであったが(本来部屋付きの侍女は体もむやみに動かしてはいけない)、延は一瞬眉をひそめただけで何も言わなかった。黒月はもちろん我関せずである。
 紅児の父親の面会記録の調査について花嫁は言っているのだ。あれからすでに10日ほど経っているが、調査期間について1ヵ月と最初に言っていた気がするから焦っても仕方がない。けれどそう理解していながらも紅児はやはり焦っているのかもしれない。

「いえ、お気づかいありがとうございます」
(なんて優しいのだろう)

 だから四神に花嫁として選ばれたのかもしれないと半ば本気で紅児はそう思った。


 それよりも今は春の大祭の準備で四神宮も少しばたばたしていた。
 しかも明日には改めて針子までやってくるのだという。
 この国の行事として、春の大祭(端午の節句)、秋の大祭(中秋節)、新春の大祭(春節)がある。
 夏の大祭はないので春の大祭に青龍と朱雀を祭るのだとか。春というより初夏の大祭と言った方が正しい気もするが、きっと春という言い方の方が好きなのだろう。
 毎年春節の頃以外四神が王都にいることはないという。今年は1年間四神が王都にいるという特別な年だと国中がお祭り騒ぎらしい。
 毎年の春節の頃も四神は王城の中にいるだけで、3日もすれば領地に帰る。その際眷族が付き従ってくることもない。
 だが今年は違う。
 花嫁のお披露目も兼ねて、前門の楼台に花嫁と青龍、そして朱雀が上り、民にその姿を見せるのだという。
 聞いただけで紅児も興奮してしまった。
 しかし当の本人は「衣裳の調整が明日なのよね……」と嫌そうな表情をしている。

「香子、そなに憂鬱なれば断ってもよいのだぞ」

 青龍にそう言われたが花嫁は首を振った。

「面倒といえば面倒ですけど、民が楽しみにしているのでしょう? せっかくのお祭りなんですもの。どうせですからやってみます」
「そうか」
「私の国の言葉にね、ええと、『踊るバカ、それを見るバカ、同じバカなら踊らなければ損』という言葉があるんです」
「ほほう」
「だから踊った方がいいかなって」
「それも面白そうではあるな」
「うーんと、ホントに踊るわけではないですよ?」
「そうなのか」

 異世界の言葉にも含蓄があると紅児は思う。そして四神はとても素直だとも思った。どちらかといえば天然と言った方が正しいだろうか。神様だからやはりどこか感覚が違うのだろう。
 こんな方々が四者もいて、しかもその花嫁だなんて。
 やっぱり花嫁も只者ではないと紅児は改めて思った。
しおりを挟む
感想 3

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

【R18】純粋無垢なプリンセスは、婚礼した冷徹と噂される美麗国王に三日三晩の初夜で蕩かされるほど溺愛される

奏音 美都
恋愛
数々の困難を乗り越えて、ようやく誓約の儀を交わしたグレートブルタン国のプリンセスであるルチアとシュタート王国、国王のクロード。 けれど、それぞれの執務に追われ、誓約の儀から二ヶ月経っても夫婦の時間を過ごせずにいた。 そんなある日、ルチアの元にクロードから別邸への招待状が届けられる。そこで三日三晩の甘い蕩かされるような初夜を過ごしながら、クロードの過去を知ることになる。 2人の出会いを描いた作品はこちら 「純粋無垢なプリンセスを野盗から助け出したのは、冷徹と噂される美麗国王でした」https://www.alphapolis.co.jp/novel/702276663/443443630 2人の誓約の儀を描いた作品はこちら 「純粋無垢なプリンセスは、冷徹と噂される美麗国王と誓約の儀を結ぶ」 https://www.alphapolis.co.jp/novel/702276663/183445041

敵に貞操を奪われて癒しの力を失うはずだった聖女ですが、なぜか前より漲っています

藤谷 要
恋愛
サルサン国の聖女たちは、隣国に征服される際に自国の王の命で殺されそうになった。ところが、侵略軍将帥のマトルヘル侯爵に助けられた。それから聖女たちは侵略国に仕えるようになったが、一か月後に筆頭聖女だったルミネラは命の恩人の侯爵へ嫁ぐように国王から命じられる。 結婚披露宴では、陛下に側妃として嫁いだ旧サルサン国王女が出席していたが、彼女は侯爵に腕を絡めて「陛下の手がつかなかったら一年後に妻にしてほしい」と頼んでいた。しかも、侯爵はその手を振り払いもしない。 聖女は愛のない交わりで神の加護を失うとされているので、当然白い結婚だと思っていたが、初夜に侯爵のメイアスから体の関係を迫られる。彼は命の恩人だったので、ルミネラはそのまま彼を受け入れた。 侯爵がかつての恋人に似ていたとはいえ、侯爵と孤児だった彼は全く別人。愛のない交わりだったので、当然力を失うと思っていたが、なぜか以前よりも力が漲っていた。 ※全11話 2万字程度の話です。

【完結】異世界に転移しましたら、四人の夫に溺愛されることになりました(笑)

かのん
恋愛
 気が付けば、喧騒など全く聞こえない、鳥のさえずりが穏やかに聞こえる森にいました。  わぁ、こんな静かなところ初めて~なんて、のんびりしていたら、目の前に麗しの美形達が現れて・・・  これは、女性が少ない世界に転移した二十九歳独身女性が、あれよあれよという間に精霊の愛し子として囲われ、いつのまにか四人の男性と結婚し、あれよあれよという間に溺愛される物語。 あっさりめのお話です。それでもよろしければどうぞ! 本日だけ、二話更新。毎日朝10時に更新します。 完結しておりますので、安心してお読みください。

人狼な幼妻は夫が変態で困り果てている

井中かわず
恋愛
古い魔法契約によって強制的に結ばれたマリアとシュヤンの14歳年の離れた夫婦。それでも、シュヤンはマリアを愛していた。 それはもう深く愛していた。 変質的、偏執的、なんとも形容しがたいほどの狂気の愛情を注ぐシュヤン。異常さを感じながらも、なんだかんだでシュヤンが好きなマリア。 これもひとつの夫婦愛の形…なのかもしれない。 全3章、1日1章更新、完結済 ※特に物語と言う物語はありません ※オチもありません ※ただひたすら時系列に沿って変態したりイチャイチャしたりする話が続きます。 ※主人公の1人(夫)が気持ち悪いです。

【完結】乙女ゲーム開始前に消える病弱モブ令嬢に転生しました

佐倉穂波
恋愛
 転生したルイシャは、自分が若くして死んでしまう乙女ゲームのモブ令嬢で事を知る。  確かに、まともに起き上がることすら困難なこの体は、いつ死んでもおかしくない状態だった。 (そんな……死にたくないっ!)  乙女ゲームの記憶が正しければ、あと数年で死んでしまうルイシャは、「生きる」ために努力することにした。 2023.9.3 投稿分の改稿終了。 2023.9.4 表紙を作ってみました。 2023.9.15 完結。 2023.9.23 後日談を投稿しました。

借金まみれで高級娼館で働くことになった子爵令嬢、密かに好きだった幼馴染に買われる

しおの
恋愛
乙女ゲームの世界に転生した主人公。しかしゲームにはほぼ登場しないモブだった。 いつの間にか父がこさえた借金を返すため、高級娼館で働くことに…… しかしそこに現れたのは幼馴染で……?

私は5歳で4人の許嫁になりました【完結】

Lynx🐈‍⬛
恋愛
 ナターシャは公爵家の令嬢として産まれ、5歳の誕生日に、顔も名前も知らない、爵位も不明な男の許嫁にさせられた。  それからというものの、公爵令嬢として恥ずかしくないように育てられる。  14歳になった頃、お行儀見習いと称し、王宮に上がる事になったナターシャは、そこで4人の皇子と出会う。 皇太子リュカリオン【リュカ】、第二皇子トーマス、第三皇子タイタス、第四皇子コリン。 この4人の誰かと結婚をする事になったナターシャは誰と結婚するのか………。 ※Hシーンは終盤しかありません。 ※この話は4部作で予定しています。 【私が欲しいのはこの皇子】 【誰が叔父様の側室になんてなるもんか!】 【放浪の花嫁】 本編は99話迄です。 番外編1話アリ。 ※全ての話を公開後、【私を奪いに来るんじゃない!】を一気公開する予定です。

処理中です...