貴方色に染まる

浅葱

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本編

29.楼台

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 そろそろだろうと紅夏ホンシャーに言われて店の外に出ると、相変わらずの人の海であった。その人の海の向こうの馬車道らしき通りを、にぎやかな音を立てて行列が進んできていた。
 四神と花嫁が戻ってきたのだ。
 離れた場所からでも輿がいくつもあるのが見える。あの中のどれかに花嫁がいるのだろうと思ったら紅児ホンアールは気持ちが高揚するのを感じた。兵隊や楽隊、そして官吏と思われる朝廷服をまとった者たち、きらびやかな近衛隊と思われる列が続き、誰かが乗っていると思われる輿がいくつも続く。

「皇上、万歳万歳万々歳!」
「陵光神君(朱雀様)、万歳万歳万々歳! 白香娘娘、千歳千歳千々歳!」
「孟章神君(青龍様)、万歳万歳万々歳!」

 輿の中は薄絹で遮られているだけで中がうっすらと見えるらしく、周りの人々は延々と輿に乗っている方々を祝福しているようだった。
 行列の動きは本当にゆっくりしていた。

「近くに行くか?」

 紅夏に問われたが、紅児は首を振った。この雰囲気を味わっているだけで十分だった。
 それよりも前門の楼台に上がる花嫁たちを早く見たくてたまらなかった。
 行列をただただ目で追う紅児に、紅夏は何も言わなかった。腰に回された手は力強く紅児を支えている。おかげで紅児は人ごみに怯むことなく、ずっと行列を眺めていることができた。
 輿を守るようにして近衛隊が進み、その後をまた楽隊と思われる列、そして官吏たちが続いていた。こんな長い長い行列を見るのは初めてだったから、紅児は瞬きを忘れて見入っていた。
 やがて、どれほどの時間が過ぎたろうか。
 行列が去り、それを人々が追いかけるようにして続く。さすがにすぐ後ろにつくことはできないだろうが、それでもみな一様に明るい顔をしているのが印象的だった。
 それからしばらくして、

「行くぞ」

 紅夏に声をかけられ、紅児は頷いた。とうとう楼台に上がる花嫁たちが見られるのだ。


 また紅夏に腕を引かれ、それほど進まないうちに前門が見えた。全体を見るには少し離れたところからがいいらしい。紅夏の言に従い、紅児は前門の楼台がよく見える位置で足を止めた。
 前門の一番下の扉が開き、そこから行列が中に入って行くのが見える。あんなに長かった行列の最後尾が中に消えると、重厚な扉がゆっくりと閉まっていった。遠くからでもギギギーという音が聞こえてきそうである。
 前門の周りは当然のことながら城壁があり、あの中には官舎等があるのだろう。そして更にその奥には王城がある。
 前門の周りには衛士が沢山配備され、少し離れたところから民衆がまるで波のように前門の周りを幾重にも取り囲んでいた。紅児も紅夏と共に波の中におり、四神と花嫁が現れるのを今か今かと待っていた。
 紅児は前門の楼台を見ているのが精一杯で自分の周りの様子に気づかなかったが、紅夏も紅児も赤い髪をしており、それを隠そうとしていなかったことから、じろじろと2人を見る者もいた。紅夏はさりげなくそれらの視線から紅児を守っていたので特に問題はなかったが、四神と花嫁を確認したら早めに立ち去る方がよさそうだった。

 ボワアアアーーン ボワアアアーーン ボワアアアーーーーン!!

 銅鑼の音が何度も響く。
 紅児は興奮と期待に高鳴る胸をぎゅっと押さえた。
 厳かな音楽が流れ始め、それまでざわめいていた群衆が一気に静かになる。
 四神の姿を見ることができるのは基本宮廷に仕える者たちだけ。一般の民衆でその姿を見ることができるのは四神の領地に暮らしている人々のみだと聞いた。
 人々の興奮と期待による熱気で紅児は息を喘がせた。
 やがて、楼台に出る扉が開かれた。

 オオオオオオオオオオオオオオオーーーーーーーー!!!!

 背後からまるで波のようにどよめきが聞こえてきた。
 赤い髪がゆっくりと現れ、遠くからでもそれが朱雀であることが確認できた。そしてその腕の中には……。

「赤い髪じゃ!!」
「陵光神君、万歳万歳万々歳!!」
「花嫁様も赤い御髪を……!!」

 朱雀の後から青龍が現れ、その後皇帝と思われる人物が続いたが、みなの視線は赤い髪の一対に集中していた。

 ワアアアアアアアアアアアアアアーーーーーーーー!!!!

 朱雀の腕の中の花嫁が微笑みを浮かべ群衆に手を振ったのが見えた。
 それほど近い場所でもないのに見ることができたその光景に、紅児はくぎ付けになった。
 楼台から何事か言っている声が届いたが、残念ながら周りの音や声等で全く聞きとれなかった。それでもこの場にいて四神と花嫁の姿を見れただけで紅児はひどく満足した。
 四神と花嫁、そして皇帝と思しき姿がしばらくもしないうちに楼台の奥に消える。彼らが群衆に姿を見せたのはほんの少しの間であったが、みな一様に明るい顔をしていた。それはこれからの生活が豊かになるということを示唆しているようにも見えた。

「行くぞ」
「あ……はい……」

 腰を抱かれ方向転換させられる。本当はもう少しそこにいて余韻に浸っていたかったがそれは我がままというものだろう。紅児は一度楼台の方を振り返ったがすぐに紅夏に従った。

「おい……」
「なんで赤い髪が……」

 周りから何事か言っているのが聞こえた気がしたが、腕を引かれるともう何も聞こえなくなった。
 そうして馬車に乗り王城へ戻った。


 四神も素敵だったし、花嫁もとてもきれいだった。
 紅児は四神宮に、花嫁に勤めていることを、ひどく誇らしく思った。
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