貴方色に染まる

浅葱

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本編

40.衝動

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冲动 中国語タイトル

 放心した紅児ホンアールを抱いて、紅夏ホンシャーは四神宮に戻った。

 結局今日は仕事にならないだろうという花嫁の言葉に甘え、紅児は休みを取ることにしたのだった。
 馬車から降りた紅児は紅夏に抱き上げられて移動する。

「紅夏様……自分で……」
「無理だろう」

 当り前のように言われ、紅児は困ってしまった。
 紅夏の足は飛ぶように王城内を進んだが、時間が時間だけに誰とも会わないというわけにはいかなかった。だが紅夏が四神の眷族だとわかっている為、一瞬ぎょっとした表情はされるものの引きとめようとする者はいなかった。
 いたたまれなかったのは紅児である。
 そのまま四神宮まで戻ったはいいが、何故か紅夏が向かった先は彼の室だった。

「紅夏様……?」

 扉を開き、紅児を下ろさないまま中に入る。紅児がやっと下ろされた先はベッドの上だった。

「紅夏様……」

 どういうことかと顔を窺えば、いつになく紅夏は真剣な表情をしていた。
 紅児はそれに、金縛りにあったように動くことができなくなる。

 薄く開いた唇が近づいてき、紅児の唇を食んだ。

(なんで)

 いったい何が紅夏の琴線に触れたというのだろうか。
 腕を掴まれて床に押し倒される。その間も角度を変えて何度も口づけられた。

(どうして)

 ピクン、とこらえ切れず紅児の体が跳ねた時、紅夏の唇が離された。
 真上から顔を覗きこまれ、紅児は思わず目をつむった。
 きっともう全身真っ赤になっているに違いない。唇から伝わった熱で瞳を潤んでいるし、どうせもう今日は体も動かない。

(私、もしかしてこのまま……)
「あ……」

 思わず声が漏れる。こんな感覚は紅夏に出会うまでなかった。
 だからそれもこれも全て紅夏が悪い。
 紅児はそっと目を開き、拗ねたように紅夏を睨んだ。
 紅夏は目を見開いた。そしてすぐに苦笑する。

「そんなに愛らしい顔をするな。すぐにでも我の妻にしたくなる……」
(え……)

 紅夏の顔が再び近づいてくる。
 もう、逆らえないかもしれない。
 漠然とそんなことを思った時、

 ダンダンダンッッ!! ダンダンダンッッ!!

「紅夏!! 開けなさい!! そこにエリーザがいるのはわかっているのよっっ!! あーけーなーさーいっっ!!」

 部屋の扉を激しく叩く音と表から聞こえてきた声に紅児ははっとした。
 チッ、と舌打ちしたような音が聞こえたがそんなことはどうでもよかった。紅夏が体の上からどいてくれたので急いで床から降りる。
 だが扉を開いたのは紅夏だった。

「どうなされました」

 何事もなかったかのように扉の外にいる人物に声をかける。

「紅夏、エリーザを出しなさい。語らいなら部屋でなくてもできるはずよ」

 紅夏の体で表は伺えなかったが、そこにいるのが花嫁だということはわかった。

「それとも、既成事実でも作ろうとしたのかしら?」

 紅児は首を傾げた。わからない言葉である。

「そうですね。それで紅児が私に嫁いでくるならそうしましょう」
「開き直った!」

 紅児はおそるおそる紅夏の袍を引っ張った。さすがに扉の前で話しているのはどうかと思う。
 紅夏が振り向く。その表情はとても柔らかかった。

「どうした?」
「あの……出たいのですが……。そこにいらっしゃるのは花嫁様でしょう……?」

 紅夏はしぶしぶ体を脇に避けた。

「エリーザ! 大丈夫?」

 そこにいたのは予想通り、朱雀に抱かれた花嫁だった。紅児はこの微妙な状況も忘れて、常に花嫁の乗り物と化している四神に感心した。

「……ご心配をおかけして申し訳ありません」

 と頭を下げれば、「いいのよ、紅夏が悪いのですもの」と返された。
 確かにいきなり自分の室に連れてきて襲う、というやり方はいただけない。

「お休みだから無理にとは言わないけど、あとでお茶しない?」

 聞かれて紅児は「はい!」と即答した。

 そろそろ朝食の時間だった。
 紅児は一旦小部屋に戻り、ほおっとため息をついた。

「ただいま戻りました」

 大部屋の入口で声をかけた時、侍女たちは好奇心丸出しの表情をしながら朝の支度をしていた。

「おかえりなさい」
「夜にはじっくり聞かせてもらうわよ」
「もうすぐ朝食よ」

 いろいろ声をかけられて、紅児は苦笑しながらもそれらに答えた。
 今日はお休みをいただいているから侍女服に着替える必要はない。かといってそのままの格好でいるのも場違いなので(一応王城の外に出る為質素な服にしたのだ)着替えることにした。
 着替えて髪を適当に整え、タイミングよく花嫁が来た時のことを思い出す。
 気にしてくれていたのだろう。そうでなければあんなに都合よく邪魔しに来るはずがない。

(邪魔……?)

 紅児は首を傾げた。
 花嫁は紅児を助けにきてくれた。
 それを自分は邪魔だと思ったのだろうか。
 そんなはずはない、と紅児は首を振った。
 それよりもどうして紅夏はあんなことをしたのだろう。
 抱きしめられたり口づけられたりしたことはある。
 けれどあんな、今から紅児を抱くというような行動は最初の時以外なかったはずだ。
 なかったことにしてしまった方がいいのか。
 それともきちんと理由を聞いた方がいいのだろうか。
 こんな時、母ならどう答えてくれるだろう。柔らかくてふわふわした、いつもにこにこしていた母の顔が浮かんだ。

『ママ……』

 養父が村に帰ったばかりなのに。
 自分のことでいっぱいいっぱいで、養父母のことを思うこともしない己が紅児はなんだか嫌だった。
 ただここでくよくよ考えても仕方ないことも確かで。
 とりあえず食堂に移動することにした。
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