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本編
43.対象(つがい)
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大部屋に戻った時、紅児はひどくぼんやりとしているように見えたらしい。紅児を手ぐすね引いて待っていたであろう侍女たちの顔が、すぐに心配そうな色を浮かべた。
「……ええと、すいません……今夜は……」
「いいわよ、湯あみをしていらっしゃい」
侍女頭の次点ともいえる侍女に即答され、紅児は深く頭を下げた。
他の侍女たちと一緒に湯あみに向かう。特に彼女たちにも紅夏のことについて聞かれることはなかった。
「おやすみなさい」を言ってから、「明日こそはよろしくね」と言われて苦笑する。
みな優しすぎる。それに甘えているのは自分。
小部屋に入っても大部屋の会話は聞こえる。小声で紅児のことを案じる内容が聞こえてきて、申し訳ない気持ちになった。
でも、今夜はどうしても無理だった。
湯あみをしたせいだけではなく、なんだか心も体もふわふわしているようである。
紅夏とのことを思い出せば、自然と頬が熱くなるのを感じた。
今まで何度も紅夏に対する想いを自問してきた。
嫌いでは、絶対にない。
好きか、と純粋に聞かれれば好意はあると答えられる。
問題はそれが恋愛感情かどうかということ。
初恋、と言ったような淡いものはあったが、口づけをしたりされたりというような生々しい恋愛は未だわからない。
かまわれるのは嬉しい。きっとかまわれなくなったら寂しい。
(わからない……わからないよ……)
あんな素敵な人が紅児しか見ていないなんて。
そうでなくてもいろいろなことがあって頭の中がぐちゃぐちゃなのに、紅夏もそうでない人たちも容赦がない。
みないい人たちなのだけれども、できればもう少し考える時間が欲しいと思う。
そこまで思って紅児は自嘲した。
(考える時間なんていっぱいあるじゃない……)
こうして半個室まで与えられ、昼間は花嫁の部屋で思う存分考え事ができる。
けれどそうではないということが紅児にはわからない。いくら考える時間があっても状況が整っていなければ意味がないのだ。何度ぐるぐる考えても結論は出ない。
だから本当は一定期間が必要なのである。
そういう意味では時間が足りないと言えた。
紅児が王城に住み始めて1か月以上はたった。しかしまだ2か月未満というところである。
なのに周りはすでに紅児と紅夏が恋仲であるように見えているようだ。そして恋愛などしたことのない紅児もまた流されはじめている感がある。
それもこれも四神や眷族たちの性急さによって成せる技なのだが、当然のことながら紅児は全く知らなかった。恋愛をすっ飛ばして結婚という時点でおかしいのだがそれにも気づいていない。
紅児はどこまでも奥手だった。
いくら考えても仕方がない。
(明日からまたお仕事だし……)
いくら花嫁が基本部屋にいないからといって手を抜くわけにはいかない。紅児は布団を頭まで被り、無理矢理にでも寝ることに決めた。
……結局、あまり眠れなかった。
しかし休み明けである。
みっともない顔をさらすわけにもいかないので、紅児はよく顔を洗うと己の両頬を軽く叩いた。
仕事に私情は持ちこまない。
父によく言われた言葉を思い出す。
紅児は跡取り娘だったから、幼い頃から仕事に対する心がけや金勘定の仕方などを教えられていた。どうして紅児の他に子供がいなかったのかは聞いていない。母の体は紅児が思っていたより弱かったのかもしれないし、もしかしたら他に理由があったのかもしれない。ここにきてようやくいろんなことが考えられるようになった。
昨夜布団を被ってからもこれからのことを考えた。
紅夏のことは相変わらず嫌いではないと思う。
花嫁は、半年後には自国から折り返し連絡が来ると言っていた。
帰国できるのか、それともできないのか。
もしできなければ……紅夏に嫁ぐのが一番だろう。
けれど帰国できると言われたなら。
紅夏は四神の眷族だから着いてきてはくれないはずだ。そうしたらそこでお別れになる。
今の紅児なら紅夏より帰国を選ぶことは間違いない。
でも半年後は?
そう考えると即答はできなかった。
ただそれもまた仮定である。今考えても仕方ないことだった。
そして変わらぬ日々がまたしばらく続く。
その中で紅児は紅夏に聞きたいことがいっぱいあった。
2人きりになるとどうしても紅児にはまだ荷が重いシチュエーションになってしまうので、話は朝・昼・晩の食事中が主である。
「紅夏様、そもそも”つがい”とはなんなのですか?」
「簡単に言えば伴侶だ。それも終生の」
結婚相手と認識する。それは以前から変わっていない。
けれどなんだか、紅夏の態度はそれだけではすまないような気がするのだ。
「あの……白雲様にとっては陳さんが”つがい”なのですか?」
と問えばそうだと返される。青藍にとっては延がそうなのだろう。
「ええと、四神の眷族が結婚するのは”人間”相手なのが一般的なのでしょうか?」
紅夏は眉をひそめた。
「いや……眷族は眷族同士一緒になるのが普通だ」
「そうなんですか……」
ではどうして白雲も、青藍も、そして紅夏にとっても”つがい”が人間なのだろう。
その疑問が顔に出ていたのか、紅夏が説明してくれた。
「我々眷族は基本的に領地を出ない。必然的に眷族同士で一緒になることが多い。そしてその中でも”つがい”が見つかることはある。それもほとんどは眷族同士だ。だが稀に人間の中に”つがい”が見つかることもあるのだ」
紅児は首を傾げた。
(その言い方だと……)
「……”つがい”でなくても結婚はできるのですか?」
「眷族同士であれば子は成せる。だが人間との場合、”つがい”でなければ子は成せぬ。……例外はあるようだが」
そこまで言い、紅夏は愛おしそうに紅児を見た。その視線に紅児はゾクリとしたものを感じた。
「……そして”つがい”を見つけた者は”つがい”以外と婚姻を結ぶことはない」
紅児は目を見開く。
衝撃だった。
「……ええと、すいません……今夜は……」
「いいわよ、湯あみをしていらっしゃい」
侍女頭の次点ともいえる侍女に即答され、紅児は深く頭を下げた。
他の侍女たちと一緒に湯あみに向かう。特に彼女たちにも紅夏のことについて聞かれることはなかった。
「おやすみなさい」を言ってから、「明日こそはよろしくね」と言われて苦笑する。
みな優しすぎる。それに甘えているのは自分。
小部屋に入っても大部屋の会話は聞こえる。小声で紅児のことを案じる内容が聞こえてきて、申し訳ない気持ちになった。
でも、今夜はどうしても無理だった。
湯あみをしたせいだけではなく、なんだか心も体もふわふわしているようである。
紅夏とのことを思い出せば、自然と頬が熱くなるのを感じた。
今まで何度も紅夏に対する想いを自問してきた。
嫌いでは、絶対にない。
好きか、と純粋に聞かれれば好意はあると答えられる。
問題はそれが恋愛感情かどうかということ。
初恋、と言ったような淡いものはあったが、口づけをしたりされたりというような生々しい恋愛は未だわからない。
かまわれるのは嬉しい。きっとかまわれなくなったら寂しい。
(わからない……わからないよ……)
あんな素敵な人が紅児しか見ていないなんて。
そうでなくてもいろいろなことがあって頭の中がぐちゃぐちゃなのに、紅夏もそうでない人たちも容赦がない。
みないい人たちなのだけれども、できればもう少し考える時間が欲しいと思う。
そこまで思って紅児は自嘲した。
(考える時間なんていっぱいあるじゃない……)
こうして半個室まで与えられ、昼間は花嫁の部屋で思う存分考え事ができる。
けれどそうではないということが紅児にはわからない。いくら考える時間があっても状況が整っていなければ意味がないのだ。何度ぐるぐる考えても結論は出ない。
だから本当は一定期間が必要なのである。
そういう意味では時間が足りないと言えた。
紅児が王城に住み始めて1か月以上はたった。しかしまだ2か月未満というところである。
なのに周りはすでに紅児と紅夏が恋仲であるように見えているようだ。そして恋愛などしたことのない紅児もまた流されはじめている感がある。
それもこれも四神や眷族たちの性急さによって成せる技なのだが、当然のことながら紅児は全く知らなかった。恋愛をすっ飛ばして結婚という時点でおかしいのだがそれにも気づいていない。
紅児はどこまでも奥手だった。
いくら考えても仕方がない。
(明日からまたお仕事だし……)
いくら花嫁が基本部屋にいないからといって手を抜くわけにはいかない。紅児は布団を頭まで被り、無理矢理にでも寝ることに決めた。
……結局、あまり眠れなかった。
しかし休み明けである。
みっともない顔をさらすわけにもいかないので、紅児はよく顔を洗うと己の両頬を軽く叩いた。
仕事に私情は持ちこまない。
父によく言われた言葉を思い出す。
紅児は跡取り娘だったから、幼い頃から仕事に対する心がけや金勘定の仕方などを教えられていた。どうして紅児の他に子供がいなかったのかは聞いていない。母の体は紅児が思っていたより弱かったのかもしれないし、もしかしたら他に理由があったのかもしれない。ここにきてようやくいろんなことが考えられるようになった。
昨夜布団を被ってからもこれからのことを考えた。
紅夏のことは相変わらず嫌いではないと思う。
花嫁は、半年後には自国から折り返し連絡が来ると言っていた。
帰国できるのか、それともできないのか。
もしできなければ……紅夏に嫁ぐのが一番だろう。
けれど帰国できると言われたなら。
紅夏は四神の眷族だから着いてきてはくれないはずだ。そうしたらそこでお別れになる。
今の紅児なら紅夏より帰国を選ぶことは間違いない。
でも半年後は?
そう考えると即答はできなかった。
ただそれもまた仮定である。今考えても仕方ないことだった。
そして変わらぬ日々がまたしばらく続く。
その中で紅児は紅夏に聞きたいことがいっぱいあった。
2人きりになるとどうしても紅児にはまだ荷が重いシチュエーションになってしまうので、話は朝・昼・晩の食事中が主である。
「紅夏様、そもそも”つがい”とはなんなのですか?」
「簡単に言えば伴侶だ。それも終生の」
結婚相手と認識する。それは以前から変わっていない。
けれどなんだか、紅夏の態度はそれだけではすまないような気がするのだ。
「あの……白雲様にとっては陳さんが”つがい”なのですか?」
と問えばそうだと返される。青藍にとっては延がそうなのだろう。
「ええと、四神の眷族が結婚するのは”人間”相手なのが一般的なのでしょうか?」
紅夏は眉をひそめた。
「いや……眷族は眷族同士一緒になるのが普通だ」
「そうなんですか……」
ではどうして白雲も、青藍も、そして紅夏にとっても”つがい”が人間なのだろう。
その疑問が顔に出ていたのか、紅夏が説明してくれた。
「我々眷族は基本的に領地を出ない。必然的に眷族同士で一緒になることが多い。そしてその中でも”つがい”が見つかることはある。それもほとんどは眷族同士だ。だが稀に人間の中に”つがい”が見つかることもあるのだ」
紅児は首を傾げた。
(その言い方だと……)
「……”つがい”でなくても結婚はできるのですか?」
「眷族同士であれば子は成せる。だが人間との場合、”つがい”でなければ子は成せぬ。……例外はあるようだが」
そこまで言い、紅夏は愛おしそうに紅児を見た。その視線に紅児はゾクリとしたものを感じた。
「……そして”つがい”を見つけた者は”つがい”以外と婚姻を結ぶことはない」
紅児は目を見開く。
衝撃だった。
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