貴方色に染まる

浅葱

文字の大きさ
64 / 117
本編

64.中秋

しおりを挟む
 長い夏も終りを告げ、残暑はあるものの朝晩は過ごしやすくなってきた頃に秋の大祭がある。
 秋の大祭の主役は白虎と花嫁。次は春節まで四神と花嫁が表に出てくることはない為各国の王や使者が参加を打診してきているという。
 そのせいかこのごろ花嫁への贈物の中に異国からと思われる品が見られるようになっていた。
 装飾品はまだいいのだが衣装は困るのだと主に着付けを担当する侍女が言う。

「素敵な布は多いけど、どうお着せしたらいいのかわからないのよね」

 確かに、と紅児ホンアールも頷いた。もし間違った格好をさせ、誰かにそれを見られたら花嫁が物笑いの種になってしまう。基本どこの衣装も何枚も何枚も重ねて着るのが一般的ではあるが布によって重ねる順番が決められているらしい。

「一応一式は取っておいた方がいいのでしょうけど……」

 迷うように侍女たちは言いながら仕分けをしていく。脇に避けてあるのは各国の王族から贈られてきた物らしい。けれど基本花嫁は興味がないらしいのでお蔵入りになることは必至だった。

「さすがに王族から贈られた物は……ねぇ」

 侍女たちは顔を見合わせた。いくらなんでも市場に出すわけにはいかないだろう。
 そのこともあってか花嫁は少し機嫌が悪そうだった。そうでなくてもここのところ花嫁は呼びだされることが多い。四神の花嫁を呼び出せるほどの人物といえば皇太后や皇帝である。紅児には雲の上すぎて想像もつかないがそれ故に苦労などもあるのだろう。
 せめて少しでも花嫁の気が休まるようにと、紅児は紅児なりにいろいろなお茶の淹れ方を学んだりしていた。おかげで簡易ではあるが花嫁が好きな烏龍茶を淹れられるようになり、「まぁエリーザおいしいわ」と言ってもらえるぐらいになった。茶器を揃えて淹れるのが正式らしいが、その茶器は花嫁自らが使っているらしい。

「ご自身で淹れられるのだからびっくりよね」

 その光景を目の当たりにしたことがある侍女が言う。手つきもとても慣れていたことから、少なくとも花嫁は元の世界でもそれ相応の身分であったに違いないと彼女は言っていた。お茶を飲むという文化はこの国に浸透しているが、正式な淹れ方である『茶藝』と呼ばれるものは上流階級の者しか目にすることはできないのだという。だからそれができる花嫁もまたすごい、という認識である。
 この国には茶館という専門にお茶を飲ませる店がある。巷で『茶藝』を見られるのはこの茶館しかないと言っていい。しかもこの茶館に勤められるのは出自がしっかりしている者に限られているらしいと聞いた。もし花嫁の世界でもそうであったならやはりそれなりの家の子女だったのだろうという予測である。
 そんな花嫁といえば「私個人はただの庶民なんだけど」と言い張っている。


 秋の大祭は中秋節の為夜に行われる。中秋節とはわかりやすく言うと十五夜のことである。
 月を祭る日であり、中秋の名月と呼ばれるように1年で最も美しい月と言われている。
 夜が本番だからと言って昼に何もないわけではないらしい。四神宮は基本関係ないのだが、昼頃各国の王族や要人が到着するのだと侍女たちが紅児に教えてくれた。
 それで延がいないのかと合点がいった。延は皇太后の親戚の娘で、しかもお気に入りらしい。こういう時はお祭り好きの皇太后に呼びだされてしまうのだとか。
 花嫁付の女官である延は不本意のようだが、花嫁は快く送り出している。

「四神宮にいても退屈でしょう?」

 というのが花嫁の言い分である。身分の高い者には総じてつけられる女官だが本来四神宮にはいなかった。女官は秘書のようなものであり、来客や外出、食事の際の毒見役の手配等さまざまなことを行うらしい。
 だが大概のことは四神宮の主官である趙が管理をし、来客も外出もめったにない。四神には毒が効かないし、毒が入っていれば四神が気づくことから毒味役も必要ない。そんなわけで女官という立場は形骸化していると言ってもよかった。それでも延は真面目に今夜の衣装や段取り等を各方面に説明してから出かけて行ったらしい。

「私としては、延さんがいてくださって助かってるわ」

 侍女頭である陳が笑顔でそう言うのだからやはり女官というのも必要なのだろう。
 昼食を取る為に四神宮を一歩出ると、王城の中でも奥まった場所だというのに喧騒が届いてくるようだった。
 中秋節は月を眺めながら月餅を食べる習慣がある。
 紅児は何日か前に侍女たちから月餅をもらっていた。そしてこの日も昼食前に花嫁から月餅をもらった。

「胡桃が入っているの。おいしいわよ」

 あんこが入っている物が一般的だが、花嫁がくれた物はまた違うらしい。今日は花嫁の戻りが夜中になることが予想される為、送りだした後は自由にしてもいいと言われていた。一部の者はそのまま街にくり出すらしい。紅児も今夜は紅夏ホンシャーと街で食事をすることになっていた。
 みな浮足立つ気持ちをどうにか引き締め、如何にも出たくないという顔をしていた花嫁を送りだしたのだった。

 当然のことながら一部の者は残り、後日休みをもらうらしい。出かける者たちはきゃあきゃあ言いながら支度を終え、街にくり出して行った。紅児もまた紅夏に手を引かれるままに王城を出、馬車に乗った。
 当日に準備するなど遅いのだが、まず月餅を扱っている店に寄ってもらった。
 今日が最後の稼ぎ時と月餅が店頭に山と積まれている。店員に中身を聞いて胡麻餡の物をいくつか包んでもらった。
 せっかくなのでこれから馬の店に行って配ってこようと思ったのである。
 馬車に再び乗ると、紅夏に「手を」と言われ紅児は反射的に手のひらを出した。
 大きな月餅を乗せられる。紅児は彼の顔を見た。

椰子果ココナッツの月餅だそうだ」
「……そんなのもあるんですね。ありがとうございます!」

 いったいいくつもらったかわからないぐらいだが、紅児は紅夏からもらった月餅を一番嬉しいと思ったのだった。
しおりを挟む
感想 3

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

【R18】純粋無垢なプリンセスは、婚礼した冷徹と噂される美麗国王に三日三晩の初夜で蕩かされるほど溺愛される

奏音 美都
恋愛
数々の困難を乗り越えて、ようやく誓約の儀を交わしたグレートブルタン国のプリンセスであるルチアとシュタート王国、国王のクロード。 けれど、それぞれの執務に追われ、誓約の儀から二ヶ月経っても夫婦の時間を過ごせずにいた。 そんなある日、ルチアの元にクロードから別邸への招待状が届けられる。そこで三日三晩の甘い蕩かされるような初夜を過ごしながら、クロードの過去を知ることになる。 2人の出会いを描いた作品はこちら 「純粋無垢なプリンセスを野盗から助け出したのは、冷徹と噂される美麗国王でした」https://www.alphapolis.co.jp/novel/702276663/443443630 2人の誓約の儀を描いた作品はこちら 「純粋無垢なプリンセスは、冷徹と噂される美麗国王と誓約の儀を結ぶ」 https://www.alphapolis.co.jp/novel/702276663/183445041

敵に貞操を奪われて癒しの力を失うはずだった聖女ですが、なぜか前より漲っています

藤谷 要
恋愛
サルサン国の聖女たちは、隣国に征服される際に自国の王の命で殺されそうになった。ところが、侵略軍将帥のマトルヘル侯爵に助けられた。それから聖女たちは侵略国に仕えるようになったが、一か月後に筆頭聖女だったルミネラは命の恩人の侯爵へ嫁ぐように国王から命じられる。 結婚披露宴では、陛下に側妃として嫁いだ旧サルサン国王女が出席していたが、彼女は侯爵に腕を絡めて「陛下の手がつかなかったら一年後に妻にしてほしい」と頼んでいた。しかも、侯爵はその手を振り払いもしない。 聖女は愛のない交わりで神の加護を失うとされているので、当然白い結婚だと思っていたが、初夜に侯爵のメイアスから体の関係を迫られる。彼は命の恩人だったので、ルミネラはそのまま彼を受け入れた。 侯爵がかつての恋人に似ていたとはいえ、侯爵と孤児だった彼は全く別人。愛のない交わりだったので、当然力を失うと思っていたが、なぜか以前よりも力が漲っていた。 ※全11話 2万字程度の話です。

今夜は帰さない~憧れの騎士団長と濃厚な一夜を

澤谷弥(さわたに わたる)
恋愛
ラウニは騎士団で働く事務官である。 そんな彼女が仕事で第五騎士団団長であるオリベルの執務室を訪ねると、彼の姿はなかった。 だが隣の部屋からは、彼が苦しそうに呻いている声が聞こえてきた。 そんな彼を助けようと隣室へと続く扉を開けたラウニが目にしたのは――。

【完結】異世界に転移しましたら、四人の夫に溺愛されることになりました(笑)

かのん
恋愛
 気が付けば、喧騒など全く聞こえない、鳥のさえずりが穏やかに聞こえる森にいました。  わぁ、こんな静かなところ初めて~なんて、のんびりしていたら、目の前に麗しの美形達が現れて・・・  これは、女性が少ない世界に転移した二十九歳独身女性が、あれよあれよという間に精霊の愛し子として囲われ、いつのまにか四人の男性と結婚し、あれよあれよという間に溺愛される物語。 あっさりめのお話です。それでもよろしければどうぞ! 本日だけ、二話更新。毎日朝10時に更新します。 完結しておりますので、安心してお読みください。

人狼な幼妻は夫が変態で困り果てている

井中かわず
恋愛
古い魔法契約によって強制的に結ばれたマリアとシュヤンの14歳年の離れた夫婦。それでも、シュヤンはマリアを愛していた。 それはもう深く愛していた。 変質的、偏執的、なんとも形容しがたいほどの狂気の愛情を注ぐシュヤン。異常さを感じながらも、なんだかんだでシュヤンが好きなマリア。 これもひとつの夫婦愛の形…なのかもしれない。 全3章、1日1章更新、完結済 ※特に物語と言う物語はありません ※オチもありません ※ただひたすら時系列に沿って変態したりイチャイチャしたりする話が続きます。 ※主人公の1人(夫)が気持ち悪いです。

【完結】乙女ゲーム開始前に消える病弱モブ令嬢に転生しました

佐倉穂波
恋愛
 転生したルイシャは、自分が若くして死んでしまう乙女ゲームのモブ令嬢で事を知る。  確かに、まともに起き上がることすら困難なこの体は、いつ死んでもおかしくない状態だった。 (そんな……死にたくないっ!)  乙女ゲームの記憶が正しければ、あと数年で死んでしまうルイシャは、「生きる」ために努力することにした。 2023.9.3 投稿分の改稿終了。 2023.9.4 表紙を作ってみました。 2023.9.15 完結。 2023.9.23 後日談を投稿しました。

【完結】勤労令嬢、街へ行く〜令嬢なのに下働きさせられていた私を養女にしてくれた侯爵様が溺愛してくれるので、国いちばんのレディを目指します〜

鈴木 桜
恋愛
貧乏男爵の妾の子である8歳のジリアンは、使用人ゼロの家で勤労の日々を送っていた。 誰よりも早く起きて畑を耕し、家族の食事を準備し、屋敷を隅々まで掃除し……。 幸いジリアンは【魔法】が使えたので、一人でも仕事をこなすことができていた。 ある夏の日、彼女の運命を大きく変える出来事が起こる。 一人の客人をもてなしたのだ。 その客人は戦争の英雄クリフォード・マクリーン侯爵の使いであり、ジリアンが【魔法の天才】であることに気づくのだった。 【魔法】が『武器』ではなく『生活』のために使われるようになる時代の転換期に、ジリアンは戦争の英雄の養女として迎えられることになる。 彼女は「働かせてください」と訴え続けた。そうしなければ、追い出されると思ったから。 そんな彼女に、周囲の大人たちは目一杯の愛情を注ぎ続けた。 そして、ジリアンは少しずつ子供らしさを取り戻していく。 やがてジリアンは17歳に成長し、新しく設立された王立魔法学院に入学することに。 ところが、マクリーン侯爵は渋い顔で、 「男子生徒と目を合わせるな。微笑みかけるな」と言うのだった。 学院には幼馴染の謎の少年アレンや、かつてジリアンをこき使っていた腹違いの姉もいて──。 ☆第2部完結しました☆

処理中です...