貴方色に染まる

浅葱

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本編

71.西蔵公主

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 メンバーを聞いてから返事をすればよかったかなと、紅児ホンアールは少し後悔していた。


 お互い腹の探りあいに近い茶会は、御花園の中で行われた。
 主な参加者は、皇帝、白虎、花嫁、シーザン王、シーザンの姫、紅児の6名である。当然のことながら白雲と紅夏ホンシャー、黒月と延も後方に控えていた。
 設けられた場所は四阿あずまやの中で、石でできた円卓に皇帝、花嫁を抱いた白虎、紅児、シーザンの姫、シーザン王の順で腰掛けていた。皇帝の隣はシーザン王である。
 最初花嫁は青龍と行くつもりだったらしいが、秋の大祭である中秋節の主役は白虎であることとシーザン国は西の地にあることから白虎と共に行くことを選んだようだった。
 花嫁と紅児は着飾られ、紅夏は紅児に合わせた格好をしている。そして紅児は紅夏に贈られた簪をさしていた。
 正直、彼女はこれにどぎまぎした。本来簪をさすのは成人してからである。だが男性から贈られる場合は気にしなくてもいいのでは? と侍女たちが嬉しそうに言っていた。簪についた石の色が赤と黒なことから、侍女たちはまた湧いた。
 それをつける意図はなにか。
 もちろんシーザンの姫に牽制する為である。

「エリーザは微笑んでいるだけでいいわ。何を聞かれても答えなくていいの」

 それは言外にしゃべるなという意味であると理解し紅児は素直に頷いた。大体シーザンの姫に何かを聞かれてまともに答えられるとは思っていない。きっと花嫁がどうにかしてくれるだろうと、今回もまた頼ることしかできない己をふがいないと思うのだった。


 茶会は和やかとはいえなかった。
 表面上は和やかであったが、雰囲気がそれを裏切っている。
 皇帝と他国の王族がいることから、すぐ近くにいるわけではないが警備の者がかなりいる。それには慣れているのだろう彼らは気にもとめていないようだが紅児はとても居心地悪くかんじた。花嫁をそっと伺うと微笑まれる。それは紅児を安心させるような笑みであったから、少しだけ肩の力を抜くことができた。
 シーザンの姫もまた赤い髪をしていた。
 ただどちらかといえば紅児よりも色が薄めの橙より濃い色合いである。シーザン王の髪もまた真っ黒とはいえない。いろいろな髪の色の人がいて、黒髪なのは唯一皇帝のみというのがおかしなかんじであった。
 皇帝はシーザン王と主に言葉を交わしていた。

「花嫁殿の髪はほんに見事じゃ。確か朱雀様と同じ色であったか?」

 シーザンの姫は好奇心いっぱいの面持ちで尋ねている。

(花嫁殿?)

 さすがに引っかかった。途端黒月や延から不穏な気配を感じて紅児は思わず肩を竦めた。さすがに怖くて花嫁の後ろを窺うことができない。

「ええ」

 花嫁がさらりと答える。それ以上の会話をする気はなさそうだった。
 けれど敵もさるもの、笑顔を浮かべながら矛先を紅児に向けてきた。

「花嫁の客人は……紅児と申したか。そなたの髪も赤いが色合いが違うのう」

 紅児は笑顔で応える。どちらにせよどう返したらいいかもわからない。シーザンの姫は紅児の後ろに佇んでいる紅夏に目を向けた。

「そこにいるのは朱雀様の眷属か。花嫁殿と同じく見事な髪じゃの」

 彼に流し目を向けているのがわかる。どうやらシーザン国の女性はかなり積極的らしい。
 紅夏に色目を使われているのは嫌である。だがそれよりも紅児は姫の言葉遣いの方が気になった。シーザン国ではシーザン語が公用語であるから漢語(中国語)は外国語に当たる。ただ王族であれば周辺諸国の言葉を学ぶのは必須だろうから話せないわけはない。
 女性上位の国から来たせいなのか、紅夏を下に見ているような言い方が嫌だった。
 声をかけられた当の紅夏は姫を相手にしなかった。四神と花嫁、またその眷属は人間ではないので人の身分制度とは別次元の場所にいる為である。
 だがいらえがないのを姫は別の理由と勘違いしたようだった。

「四神の眷属よ、わらわと言葉を交わす権利を与えよう」

 さっとその場に緊張が走る。それに真っ先に反応したのはシーザン王だった。

「ドルマ、黙りなさい。皇帝陛下と四神の御前であるぞ」

 姫―ドルマという名前らしい―は不満そうに口を尖らせたが父王の言葉に従った。

「陛下、白虎様、花嫁様、娘がたいへんな失礼を。まだ成人前の未熟者にてどうかご寛恕を」

 シーザン王が深々と頭を下げた。おそらく座っていなければ頭を地面に擦り付けそうな勢いである。

「許す」

 白虎の返答に王はしばらく伏した後ゆっくりと頭を上げた。

「寛大なお言葉、感謝します」

 感激した様子に、王というのはやはり正しく四神や眷属の存在を理解しているのだなと紅児も思う。
 だがその後に続いた言葉はいただけなかった。

「……我が娘は非常に四神を敬愛しております。四神は花嫁様以外の女性を愛さないことは寡人(私)も理解しております。ですが眷属の方々は人間の娘を次々と伴侶に迎えているご様子、もし許されるならばその末席に我が娘を迎えていただき我が国にも是非……」

 皇帝は苦笑し、ドルマ姫は不満そうな表情ながらも頷いた。

「知っての通り、我が国は大国の西側に位置し白虎様の加護を少なからず受けております。ただし発展しておりますのは大国に接した東側のみ、その他の地域は自然の驚異にさらされ続け民は貧しい生活を強いられております。もし我が国に四神の加護があまねく降り注げばこれに勝ることはございませぬ」

 紅児はもってまわった言い方に眉根を寄せながら、シーザン王の言葉の意味を一生懸命理解しようとつとめた。
 花嫁は白虎の腕の中で我関せずという体でお茶を飲んでいる。白虎が微かに口角を上げた。

「白雲、どうだ?」

 後ろに控えている眷族に白虎が声をかける。その声には面白がっているような色が含まれていた。
 それよりも紅児は背後から伝わってくる険悪な気配に冷や汗をだらだらと流していた。
 シーザン王の言の意味はよくわからないがどうやら黒月や延、紅夏に不快感を与えるには十分だったらしい。
 皇帝を直接窺うことはできないがこの件に関しては黙秘している。隣に腰掛けているドルマ姫がこの場の雰囲気を全く察していない様子なのが紅児には意外に思えた。
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