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本編
86.紅縁
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品物の確認は手に取らず目視で行われる。壊したり、できるだけ手垢をつけないようにとの配慮もあるが、呪いや毒などに当たることを防ぐ為だ。
ではどうやってそれらを見分けるのか。
中書省にはそういったものを確認する者がいるらしい。それでも漏れる危険性はあるので、四神宮に届いてからまたチェックするのだという。
趙文英と紅児が確認をしていると、遅れて青藍がやってきた。
「遅くなりまして申し訳ありません。確認いたします」
紅児は一旦下がるように言われ、隅に移動した。青藍が一つ一つお盆の中身を見る。
そうして、一つのお盆の前で止まった。
「……食べ物が混ざっています。目録は?」
「確認します」
その場を一気に緊張が走った。
(……確か、食べ物は受け取らないはず……)
禁止の品目を思い出す。
趙が厳しい顔で目録を見、あるところで視線を止めた。
「……目録にはありません」
「運んできた際に故意に入れたのでしょう。運んだ者たちの確認を」
「青藍殿、ありがとうございます。確認させます」
そのお盆は脇に避けられた。趙は一旦謁見の間の表に出、侍従と思しき者に何やら指示をすると戻ってきた。おそらく連絡役の王英明に使いを出したのだろう。
その後趙は何事もなかったかのように作業を再開させた。その様子から、こういうことは度々あるのだということが紅児にもわかる。その際いちいち大げさに騒ぎ立てていたらとても仕事にはならない。(もちろん相応の処罰はするはずである)
その後は特に問題なく作業を終えた。贈物の確認は毎日しているらしい。
「ありがとう、助かった」
趙に爽やかな笑顔で言われ、紅児は頭を下げた。
ある程度数が集まる2、3日毎に花嫁に見せて欲しい物を選んでもらう。その後侍女たちで花嫁が使いそうな物を選び、残りを新古品として市場へ安めの価格で放出している。
市場に放出する為の価格を決定するのもたいへんな作業だと思う。その物の元値を知らなければ適正な価格はつけられないのだから。ただそれらを調べる、そして販売に携わる者等の雇用が増えるのはいいことである。
そういった未使用の品を再販売するという試みを、実は王族や貴族にも広げようと花嫁は考えているらしい。素晴らしい考えだと紅児も思う。もし手伝えるなら是非手伝わせてもらいたいぐらいだ。
しかし毎日確認するというのもたいへんな作業である。いろいろ趙に話を聞いたりしている間にもう昼になってしまった。
(部屋付きだけじゃなくて、こちらの手伝いもさせてもらうこともできないかしら?)
図々しいとは思ったが、朝の清掃や花嫁がいる時間以外は暇になる。部屋に花嫁がいる時間は非常に少ないからこそ思いついたことだった。
昼食時にそのことを紅夏に相談すると難色を示された。
「……趙殿が仕事をしやすいように動く必要がある。そうなると自由がきかない部屋付きのそなたを配置するわけにはいかぬだろう」
「そうですね……」
確かにそこらへんで動いている侍女を捕まえた方が仕事はやりやすいだろう。
「また声がかかることもあるやもしれぬ。そう気を落とすな」
「はい」
がっかりしたのが伝わったらしく慰めの言葉をかけられる。気を遣わせてしまう己に紅児は自己嫌悪した。
(……そんな、甘やかさなくてもいいのに……)
紅夏は怜悧な美貌とは裏腹に紅児にはひどく甘い。これも彼女が”つがい”だからなのだろう。
そんな彼を絶対に手放したくないと紅児は思う。
その為に己はなんだってするだろう。
紅児がこの国に来たのは。
帰りの船が難破し村に流れ着いたのは。
赤い髪の花嫁がこの国に降臨されたのは。
もちろん全てが偶然で、必然だと思う要素は一つもない。
けれどそれによって、本来なら出会うはずもなかった2人が出会ってしまった。
これを運命と呼ばずになんと呼ぶのだろうか。
だけど恥ずかしいから紅児も紅夏には言えない。花嫁は”縁”という言葉を使っていた。
「私とエリーザはいわば”紅縁”とでも言うのかしら。そんな言葉はないけどね」
「勝手に作っちゃったわ」などと言って花嫁は笑んでいた。
赤い髪の花嫁の話を聞いて王都にやってきた。そうしたら紅夏に出会い、”つがい”だと認識された。赤い髪をした彼女のここでの名にも紅が入っている。
確かに”紅縁”と言えなくもないと紅児も思う。
全ては明日、どのような話になっても紅夏と一緒になることを選ぶ。
その決意を胸に、紅児は午後の仕事に向かった。
紅縁 造語です。
ではどうやってそれらを見分けるのか。
中書省にはそういったものを確認する者がいるらしい。それでも漏れる危険性はあるので、四神宮に届いてからまたチェックするのだという。
趙文英と紅児が確認をしていると、遅れて青藍がやってきた。
「遅くなりまして申し訳ありません。確認いたします」
紅児は一旦下がるように言われ、隅に移動した。青藍が一つ一つお盆の中身を見る。
そうして、一つのお盆の前で止まった。
「……食べ物が混ざっています。目録は?」
「確認します」
その場を一気に緊張が走った。
(……確か、食べ物は受け取らないはず……)
禁止の品目を思い出す。
趙が厳しい顔で目録を見、あるところで視線を止めた。
「……目録にはありません」
「運んできた際に故意に入れたのでしょう。運んだ者たちの確認を」
「青藍殿、ありがとうございます。確認させます」
そのお盆は脇に避けられた。趙は一旦謁見の間の表に出、侍従と思しき者に何やら指示をすると戻ってきた。おそらく連絡役の王英明に使いを出したのだろう。
その後趙は何事もなかったかのように作業を再開させた。その様子から、こういうことは度々あるのだということが紅児にもわかる。その際いちいち大げさに騒ぎ立てていたらとても仕事にはならない。(もちろん相応の処罰はするはずである)
その後は特に問題なく作業を終えた。贈物の確認は毎日しているらしい。
「ありがとう、助かった」
趙に爽やかな笑顔で言われ、紅児は頭を下げた。
ある程度数が集まる2、3日毎に花嫁に見せて欲しい物を選んでもらう。その後侍女たちで花嫁が使いそうな物を選び、残りを新古品として市場へ安めの価格で放出している。
市場に放出する為の価格を決定するのもたいへんな作業だと思う。その物の元値を知らなければ適正な価格はつけられないのだから。ただそれらを調べる、そして販売に携わる者等の雇用が増えるのはいいことである。
そういった未使用の品を再販売するという試みを、実は王族や貴族にも広げようと花嫁は考えているらしい。素晴らしい考えだと紅児も思う。もし手伝えるなら是非手伝わせてもらいたいぐらいだ。
しかし毎日確認するというのもたいへんな作業である。いろいろ趙に話を聞いたりしている間にもう昼になってしまった。
(部屋付きだけじゃなくて、こちらの手伝いもさせてもらうこともできないかしら?)
図々しいとは思ったが、朝の清掃や花嫁がいる時間以外は暇になる。部屋に花嫁がいる時間は非常に少ないからこそ思いついたことだった。
昼食時にそのことを紅夏に相談すると難色を示された。
「……趙殿が仕事をしやすいように動く必要がある。そうなると自由がきかない部屋付きのそなたを配置するわけにはいかぬだろう」
「そうですね……」
確かにそこらへんで動いている侍女を捕まえた方が仕事はやりやすいだろう。
「また声がかかることもあるやもしれぬ。そう気を落とすな」
「はい」
がっかりしたのが伝わったらしく慰めの言葉をかけられる。気を遣わせてしまう己に紅児は自己嫌悪した。
(……そんな、甘やかさなくてもいいのに……)
紅夏は怜悧な美貌とは裏腹に紅児にはひどく甘い。これも彼女が”つがい”だからなのだろう。
そんな彼を絶対に手放したくないと紅児は思う。
その為に己はなんだってするだろう。
紅児がこの国に来たのは。
帰りの船が難破し村に流れ着いたのは。
赤い髪の花嫁がこの国に降臨されたのは。
もちろん全てが偶然で、必然だと思う要素は一つもない。
けれどそれによって、本来なら出会うはずもなかった2人が出会ってしまった。
これを運命と呼ばずになんと呼ぶのだろうか。
だけど恥ずかしいから紅児も紅夏には言えない。花嫁は”縁”という言葉を使っていた。
「私とエリーザはいわば”紅縁”とでも言うのかしら。そんな言葉はないけどね」
「勝手に作っちゃったわ」などと言って花嫁は笑んでいた。
赤い髪の花嫁の話を聞いて王都にやってきた。そうしたら紅夏に出会い、”つがい”だと認識された。赤い髪をした彼女のここでの名にも紅が入っている。
確かに”紅縁”と言えなくもないと紅児も思う。
全ては明日、どのような話になっても紅夏と一緒になることを選ぶ。
その決意を胸に、紅児は午後の仕事に向かった。
紅縁 造語です。
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