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2.苦悩の連続でした
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「誕生日おめでとう、我が愛らしい姫。そなたがこの国で一番美しく成長した時、私はそなたを妻に迎えよう!」
それは人としてありえない宣言であったはずだった。
王の言にスノーホワイトと姫の顔は青ざめ、今にも倒れてしまいそうだった。しかし息子である王子は平然としており、大臣や近衛たちも苦笑するぐらいで異を唱える者はいない。その異様さにスノーホワイトたちは震え上がった。
しかしスノーホワイトはそんなおぞましい近親相姦を認めるわけにはいかなかった。身体の震えをどうにか抑えながら、誕生パーティーが終った後大臣に問いただしに向かった。
「私はこの国の法律をしっかり学んだつもりでしたが、近親相姦を認める法律まであるとは初耳でした」
いつになく憤っている王妃に大臣は片眉を上げた。そしてその白くたおやかな手に口づけを落とし、こう言った。
「これはこれは王妃さま、今日は常よりも更にお美しい。もし王が貴女を手放すと決めたならすぐにでも私がもらい受けたいものを……」
スノーホワイトは怖気で背筋がぞくぞくするのを感じた。
「こ、この国では女性を私物化することが許されているのですか……?」
失礼にならない程度に手を引き抜き、彼女は後で擦り切れるぐらい手を洗おうと決意した。
「これは異なことを。王が姫を娶られれば王妃さまは無用でしょう。無聊を囲われるぐらいならばと王妃さまに同情する者は多いのですぞ」
まるでスノーホワイトの為と言わんばかりの科白に、彼女は叫びだしそうになった。どうしてこのような国に嫁いでしまったのだろう。そこまで思って彼女は軽く首を振った。自分の父だって後妻を迎えたではないか。それだけでなくその後妻に冷遇されているスノーホワイトを一度として助けてくれようとはしなかった。
(お母さま……)
スノーホワイトを産んで二年程で亡くなってしまった母は幸せだっただろうか。
スノーホワイトの母は彼女が幼い頃に亡くなってしまったが、幸い彼女は生きている。
(娘を……姫を守れるのは私しかいない!!)
姫を守ろうとするあまり息子である王子の教育を怠っていたのかもしれないとスノーホワイトは反省した。王子はいつのまにか王や大臣の考え方に毒されてしまっていたようだった。
とにかく今は姫を王の毒牙から守らなければならない。
姫の誕生日の後、スノーホワイトは鏡に向かってくだんの質問をするようになった。
今はまだ鏡も彼女が世界で一番美しいと讃えてくれる。しかし確実に姫はますます美しくなり、スノーホワイトの容貌は衰えていくのだ。いずれ大臣が言っていたような未来が彼女に降りかかることは間違いなかった。
けれどスノーホワイトは絶望したくはなかった。
ある日、彼女はポツリと鏡に尋ねた。
「貴方は……嘘をつくことはできないの?」
鏡の名は”真実の鏡”とも呼ばれていた。魔女ですらも鏡の答えを変えることはできなかったはずである。
「おそれながら申し上げます王妃さま、私は問われたことをただ答えるのみでございます。嘘をつけと言われれば嘘をつきますがそれは言われたその方に対してのみとなってしまいます」
スノーホワイトは嘆息した。
鏡はスノーホワイトに嘘をつけと言われれば嘘をつくが、それはスノーホワイトに対してのみ。王に真実を言えと言われれば真実を答えるのみだという。
「おかしなことを言ってごめんなさい……」
鏡は別にスノーホワイトの物ではない。継母に使役されていた哀れな使い魔である。鏡は継母を捕らえる為に彼女の魔力を取引の材料としたにすぎない。
「ああでも……いったいどうしたらいいのかしら……」
スノーホワイトは己の無力を嘆いた。もし本当に自分が産んだ大事な姫も守れなかったなら死んでしまおうかと思った。
真珠のような清らかな涙が後から後からこぼれた。その雫が一滴鏡にかかった時、鏡は大きく震え、こう言った。
「美しい王妃さま、貴女の涙はそれはそれは清らかだ。だけど私はその涙よりも花開かんばかりの笑顔の方が千倍も好きなのです。どうか貴女の悩みを話してはくれませんか」
鏡に話してどうにかなるとはスノーホワイトも思っていなかった。けれど誰も相談する相手がいない今、ただ聞いてもらうだけでも心が慰められると思い、彼女はゆっくりと今までのことを話し始めた。鏡はスノーホワイトの話を最後まで聞くと、こう言った。
「ではこれからその命尽きるまで私の側にいて、その魔力を捧げると誓いなさい。さすれば貴女の悩みは全て解消して差し上げましょう」
スノーホワイトは信じられないという面持ちで鏡を見た。
しかしもう鏡に縋る以外に方法はないと思った彼女は、その提案に従ったのだった。
それは人としてありえない宣言であったはずだった。
王の言にスノーホワイトと姫の顔は青ざめ、今にも倒れてしまいそうだった。しかし息子である王子は平然としており、大臣や近衛たちも苦笑するぐらいで異を唱える者はいない。その異様さにスノーホワイトたちは震え上がった。
しかしスノーホワイトはそんなおぞましい近親相姦を認めるわけにはいかなかった。身体の震えをどうにか抑えながら、誕生パーティーが終った後大臣に問いただしに向かった。
「私はこの国の法律をしっかり学んだつもりでしたが、近親相姦を認める法律まであるとは初耳でした」
いつになく憤っている王妃に大臣は片眉を上げた。そしてその白くたおやかな手に口づけを落とし、こう言った。
「これはこれは王妃さま、今日は常よりも更にお美しい。もし王が貴女を手放すと決めたならすぐにでも私がもらい受けたいものを……」
スノーホワイトは怖気で背筋がぞくぞくするのを感じた。
「こ、この国では女性を私物化することが許されているのですか……?」
失礼にならない程度に手を引き抜き、彼女は後で擦り切れるぐらい手を洗おうと決意した。
「これは異なことを。王が姫を娶られれば王妃さまは無用でしょう。無聊を囲われるぐらいならばと王妃さまに同情する者は多いのですぞ」
まるでスノーホワイトの為と言わんばかりの科白に、彼女は叫びだしそうになった。どうしてこのような国に嫁いでしまったのだろう。そこまで思って彼女は軽く首を振った。自分の父だって後妻を迎えたではないか。それだけでなくその後妻に冷遇されているスノーホワイトを一度として助けてくれようとはしなかった。
(お母さま……)
スノーホワイトを産んで二年程で亡くなってしまった母は幸せだっただろうか。
スノーホワイトの母は彼女が幼い頃に亡くなってしまったが、幸い彼女は生きている。
(娘を……姫を守れるのは私しかいない!!)
姫を守ろうとするあまり息子である王子の教育を怠っていたのかもしれないとスノーホワイトは反省した。王子はいつのまにか王や大臣の考え方に毒されてしまっていたようだった。
とにかく今は姫を王の毒牙から守らなければならない。
姫の誕生日の後、スノーホワイトは鏡に向かってくだんの質問をするようになった。
今はまだ鏡も彼女が世界で一番美しいと讃えてくれる。しかし確実に姫はますます美しくなり、スノーホワイトの容貌は衰えていくのだ。いずれ大臣が言っていたような未来が彼女に降りかかることは間違いなかった。
けれどスノーホワイトは絶望したくはなかった。
ある日、彼女はポツリと鏡に尋ねた。
「貴方は……嘘をつくことはできないの?」
鏡の名は”真実の鏡”とも呼ばれていた。魔女ですらも鏡の答えを変えることはできなかったはずである。
「おそれながら申し上げます王妃さま、私は問われたことをただ答えるのみでございます。嘘をつけと言われれば嘘をつきますがそれは言われたその方に対してのみとなってしまいます」
スノーホワイトは嘆息した。
鏡はスノーホワイトに嘘をつけと言われれば嘘をつくが、それはスノーホワイトに対してのみ。王に真実を言えと言われれば真実を答えるのみだという。
「おかしなことを言ってごめんなさい……」
鏡は別にスノーホワイトの物ではない。継母に使役されていた哀れな使い魔である。鏡は継母を捕らえる為に彼女の魔力を取引の材料としたにすぎない。
「ああでも……いったいどうしたらいいのかしら……」
スノーホワイトは己の無力を嘆いた。もし本当に自分が産んだ大事な姫も守れなかったなら死んでしまおうかと思った。
真珠のような清らかな涙が後から後からこぼれた。その雫が一滴鏡にかかった時、鏡は大きく震え、こう言った。
「美しい王妃さま、貴女の涙はそれはそれは清らかだ。だけど私はその涙よりも花開かんばかりの笑顔の方が千倍も好きなのです。どうか貴女の悩みを話してはくれませんか」
鏡に話してどうにかなるとはスノーホワイトも思っていなかった。けれど誰も相談する相手がいない今、ただ聞いてもらうだけでも心が慰められると思い、彼女はゆっくりと今までのことを話し始めた。鏡はスノーホワイトの話を最後まで聞くと、こう言った。
「ではこれからその命尽きるまで私の側にいて、その魔力を捧げると誓いなさい。さすれば貴女の悩みは全て解消して差し上げましょう」
スノーホワイトは信じられないという面持ちで鏡を見た。
しかしもう鏡に縋る以外に方法はないと思った彼女は、その提案に従ったのだった。
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