ラブラブ・コロン

れなれな

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すれちがう愛

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 そのひは、うらうらとしたようきで、あんなひげきがおこるだなんて、だれもしりませんでした。

「あれ? なんだあ?」

 ロンロンが、コロンをせにのせ、ふるぼけたたてものに、ちかづいたときです。

 なんだか、おとなのおとこのひとが、へいのむこうでイライラしていました。

 ろうけんとはいえ、ロンロンには、はなでわかってしまいます。

「オヤジが、にゅういんしているあいだ、まったくエサをたべないきか?」

 ふたりが、もんからのぞくと、くろいいぬが、いぬごやから、まえあしをだして、よこをむいていました。

 そのまえには、せともののおさらに、ドッグフードがもられています。

「くわないなら、かってにしろ!」

 おとこのひとは、いぬごやをけとばして、さっていきました。

 かなしいよかんがしました。


 ロンロンは、ろうけんにちかづいて、いいました。

「ごはんをたべなくては、いのちがもたんぞい」
「……」

 すでに、げんきをなくしているろうけんは、こやのなかで、シッポをまるめて、かおをうずめています。

『ロンロン、どうにかしてあげたいでしゅ』

 そのとき、おとがして、たてもののなかから、としよったしらがのおとこのひとがでてきました。

 おとこのひとは、ろうけんに、てをさしのべると、そっとあたまをなでてやっています。

 かたてには、ミルクのはいった、どんぶりをもっていますが、ろうけんはみむきもしません。

「このアパートのオーナーにしか、こころをゆるしてないんだなあ」

 やがて、よるがきて、またあさがきました。

 ロンロンが、ろうけんのようすを、みにいくと、こやのまわりには、おさらがいっぱい。

 いずれも、こうきゅうそうな、ドッグフードがのっていました。

「こんなに、おもってくれるひとがいるのに、みむきもしないのか」

 そのとき、アパートのもんのまえに、りっぱなくるまがとまりました。

 なかからは、きのうのおとこのひとが、でてきます。

 かれは、アパートのじゅうみんに、いいわたしました。

「このアパートは、ちかぢかうちこわします。オヤジがしんだら、かんりするものもいなくなりますしね」

 いきなりのことに、じゅうみんはていこうをしめしましたが、ききいれられませんでした。

「つぎにくるときは、オヤジがしんだときだ」

 おとこのひとは、いまいましそうに、ろうけんをみおろし、またこやをけって、さりました。


「コロン、ワシはおなじいぬとして、きのどくでならんよ」
『愛はどこにあるでしゅか?』

 愛のようせいコロンは、愛のありかをさがしています。

 かのじょは、みじゅくなままうまれたので、つよくふかい愛をいっぱい、ひつようとしているのです。

「まずは、かいぬしのところへ、いってみよう」
『あい!』

 そうして、ロンロンのついせきで、たどりついたのは、せのたかい、いっけんやでした。

「ここだ! くるまがあるぞい」

 コロンはロンロンのせにのって、にわさきにまわりました。

 ガラスサッシのむこうに、おじいさんが、ベッドによこたわっているのが、みえました。

 おじいさんはめをつむって、ねむっているようでした。

 どうやら、さいごのひびをすごすため、びょういんからかえってきたようです。

「わんわん! おじいさん、たいせつなあいぼうが、しにそうだよ」

 ロンロンのひっしのこえに、おじいさんはめをあけました。

「ジロー……」

 おじいさんはそうして、すこし、ねがえりをうって、そとをみて、ロンロンにきがつきました。

「ジローではないのだな。あいつはどうしているだろうか」
『おじいさんのくれるごはんでないと、たべないって、きめてるみたいでしゅ』

 おじいさんは、コロンのこえにおどろきました。

「おむかえかな?」
『おむかえではないのでしゅ。コロンは愛のようせい。はくりゅうのさとからきましゅた! おじいさんにジローへの愛があるなら、ねがいをかなえてあげるでしゅ』
「……」
 
 おじいさんは、はらはらと、なみだをながして、こういいました。

「むすこのタローが、おとうとがほしいといっておったので、ジローとなづけたのだが、あれはいまも、わたしのかえりをまっているのだろうか?」
『きっとそうでしゅ』
「ならば、もう、またなくていい。そうつたえてほしい。わたしはもう、あそこへはもどれんから」

 コロンは、こころがひきちぎれそうに、いたみましたが、でんごんをもって、ジローのところへいきました。


『ジロー、おじいさんが、しんぱいしてたでしゅ』
「ごはんをたべないと、もうおじいさんにあえなくなるぞ」

 ロンロンがいいました。

 けれど、ジローはみずのいってきものまず、すいじゃくしていくいっぽうです。

「わたしは、ほけんじょから、ゆずりうけられた。だいじなしゅじんを、なくすことにはなれている」

 やっと、くちをひらいたジローのことばは、さびしさをおしこめた、くるしさにみちていました。

「そんなことに、なれなくていいんだ」

 ロンロンがいいますが、ジローにはつうじません。

「どうせ、じいさん、もどってこないんだろ?」

 ぜつぼうと、あきらめのことばが、じめんをはいます。
 
 コロンは、はげしくどうようしました。

『それを、しっているでしゅか』
「ああ」
『おじいさんは、ジローにいきてほしいと、おもっているのに?』
「その、じいさんのきもちがうれしいから、いいんだ。もうじゅうぶん、いきた」
『だめでしゅ! あきらめちゃだめでしゅ!』

 そういっているあいだに、タローがきました。

「オヤジがしんだ」

 いうなり、タローはジローのくびわをつかんで、くさりからときはなつと、ものすごいちからで、むりやりにくるまにのせました。

「どうして……どうしてしぬまで、いっしょにいさせてやれなかったんだ!」

 ロンロンはうなりましたが、おじいさんがしんでからでは、まにあいませんでした。

 くるまのなかで、タローはいいました。

「おまえは、わたしのおとうとだ。まいにち、てんてきをうってでも、いかす。それが、オヤジのゆいごんだ」

 まったくめんどうな、とタローはつけくわえて、くるまは、どうぶつようのびょういんをめざします。


 コロンは、ロンロンにしがみついて、おおつぶのなみだを、ながしました。

『おじいさんがしぬまえに、ひとめあわせてあげたかったでしゅ』
「愛しあっていても、どうにもならないことは、ままあることなのだよ、コロン」
『でも……でも……』

 コロンは、ひとばんじゅう、つきのひかりのしたで、なきました。
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