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初めての二人きりの時間。仮面の裏の殿下の素顔と深まる絆
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ナターシャ令嬢との対峙の後、スレイン殿下は、わたくしへの警護をさらに厳重にされました。公爵とその新しい婚約者候補が、連携してわたくしを攻撃してくる可能性を、殿下は警戒されたのでしょう。
そんな中、殿下は、公務の合間を縫って、わたくしを王宮の図書室へと招待してくださいました。もちろん、警護の騎士たちは外で待機していますが、図書室の中は、私たち二人だけでした。
「殿下、このような場所にお招きいただき、光栄に存じます」
わたくしは、静かに並べられた分厚い本に囲まれ、落ち着いた雰囲気に包まれた図書室の空気に、心が安らぐのを感じました。
「バージニア。ここでは、誰にも聞かれる心配はない。君が読みたい本を、好きなだけ選ぶといい」
殿下は、そう言って、静かに微笑みました。彼の笑顔は、公の場で見せる冷たい表情とは異なり、とても穏やかで、親しみやすいものでした。
「ありがとうございます。わたくし、幼い頃から歴史書を読むのが好きでして…」
わたくしは、そう言いながら、図書室の棚をゆっくりと歩き始めました。殿下は、一歩後ろから、静かに私についてきてくださいます。
「歴史書か。君は、自分の未来ではなく、過去に興味があるのだな」
「ええ。過去には、人間の愚かさと、それに対する知恵が詰まっているように思うのです。最低な人間が、どのようにして権力を失い、正義がどのようにして勝利を収めるのか…それを知るのが、わたくしは好きなのです」
わたくしは、思わず本心を口にしていました。殿下は、その言葉に、静かに笑いました。
「ふむ。最低な人間か。ユリシーズ公爵のことかね」
「…はい。わたくしが、自ら彼の元を去ることを選んだのは、彼が、人間として最も最低な資質しか持っていなかったからです。傲慢、自己中心、そして、他者の感情を理解できない冷酷さ」
わたくしは、公爵への憤りを、素直に吐露しました。
「君が、彼との婚約破棄を決意した時、君はもう、貴族の女性としての役割を捨て、一人の人間として生きることを選んだのだろう。その勇気を、私は尊敬している」
殿下の言葉は、わたくしの心に、深く染み渡りました。これまで、誰もわたくしの行動を「勇気」だとは言ってくれませんでした。皆、「無謀」「愚か」と見なすか、せいぜい「気まぐれ」だと思っていました。
「殿下…ありがとうございます。殿下に、そう言っていただけるだけで、わたくしは…」
わたくしは、感激で、言葉が詰まりました。
殿下は、わたくしと向かい合い、彼の瞳は、私をまっすぐに捉えていました。
「バージニア。私は、君を、ただの『正義の対象』として守っているのではない」
彼の言葉に、私の心臓は、激しく脈打ちました。
「え…」
「君のその、気丈な振る舞いと、決して不正に屈しない瞳。そして、静かに自分の人生を切り開こうとする強い意志。私は、君という人間そのものに、惹かれている」
殿下の告白は、あまりにも突然で、あまりにも率直でした。わたくしの頭の中は、真っ白になりました。
「殿下…わたくしは…」
「焦る必要はない。ただ、知っておいてほしい。私は、君を守るためなら、ユリシーズ公爵だけでなく、この国全ての不正と戦う覚悟だ」
彼の言葉には、嘘偽りが一切ありませんでした。彼の瞳は、私への真剣な想いを、はっきりと映し出しています。
わたくしは、彼の真摯な想いに、涙が出そうになりました。わたくしがずっと求めていた「気ままな人生」は、誰にも邪魔されない自由な生活だけではありませんでした。それは、わたくしという人間を、ありのままに受け入れ、守ってくれる、誰かの愛だったのです。
「殿下…わたくしは、殿下にお会いしてから、初めて、人を愛することの意味を知ったように思います。殿下は、わたくしの光です」
わたくしは、顔を赤らめながらも、精一杯の勇気をもって、彼に伝えました。
私たちの初めての二人きりの時間は、お互いの心に秘めていた想いを、静かに、しかし深く通わせ合う、かけがえのない時間となったのです。仮面を脱いだ殿下の素顔は、孤高の王子ではなく、ただ一人の、真摯な男性の顔でした。
そんな中、殿下は、公務の合間を縫って、わたくしを王宮の図書室へと招待してくださいました。もちろん、警護の騎士たちは外で待機していますが、図書室の中は、私たち二人だけでした。
「殿下、このような場所にお招きいただき、光栄に存じます」
わたくしは、静かに並べられた分厚い本に囲まれ、落ち着いた雰囲気に包まれた図書室の空気に、心が安らぐのを感じました。
「バージニア。ここでは、誰にも聞かれる心配はない。君が読みたい本を、好きなだけ選ぶといい」
殿下は、そう言って、静かに微笑みました。彼の笑顔は、公の場で見せる冷たい表情とは異なり、とても穏やかで、親しみやすいものでした。
「ありがとうございます。わたくし、幼い頃から歴史書を読むのが好きでして…」
わたくしは、そう言いながら、図書室の棚をゆっくりと歩き始めました。殿下は、一歩後ろから、静かに私についてきてくださいます。
「歴史書か。君は、自分の未来ではなく、過去に興味があるのだな」
「ええ。過去には、人間の愚かさと、それに対する知恵が詰まっているように思うのです。最低な人間が、どのようにして権力を失い、正義がどのようにして勝利を収めるのか…それを知るのが、わたくしは好きなのです」
わたくしは、思わず本心を口にしていました。殿下は、その言葉に、静かに笑いました。
「ふむ。最低な人間か。ユリシーズ公爵のことかね」
「…はい。わたくしが、自ら彼の元を去ることを選んだのは、彼が、人間として最も最低な資質しか持っていなかったからです。傲慢、自己中心、そして、他者の感情を理解できない冷酷さ」
わたくしは、公爵への憤りを、素直に吐露しました。
「君が、彼との婚約破棄を決意した時、君はもう、貴族の女性としての役割を捨て、一人の人間として生きることを選んだのだろう。その勇気を、私は尊敬している」
殿下の言葉は、わたくしの心に、深く染み渡りました。これまで、誰もわたくしの行動を「勇気」だとは言ってくれませんでした。皆、「無謀」「愚か」と見なすか、せいぜい「気まぐれ」だと思っていました。
「殿下…ありがとうございます。殿下に、そう言っていただけるだけで、わたくしは…」
わたくしは、感激で、言葉が詰まりました。
殿下は、わたくしと向かい合い、彼の瞳は、私をまっすぐに捉えていました。
「バージニア。私は、君を、ただの『正義の対象』として守っているのではない」
彼の言葉に、私の心臓は、激しく脈打ちました。
「え…」
「君のその、気丈な振る舞いと、決して不正に屈しない瞳。そして、静かに自分の人生を切り開こうとする強い意志。私は、君という人間そのものに、惹かれている」
殿下の告白は、あまりにも突然で、あまりにも率直でした。わたくしの頭の中は、真っ白になりました。
「殿下…わたくしは…」
「焦る必要はない。ただ、知っておいてほしい。私は、君を守るためなら、ユリシーズ公爵だけでなく、この国全ての不正と戦う覚悟だ」
彼の言葉には、嘘偽りが一切ありませんでした。彼の瞳は、私への真剣な想いを、はっきりと映し出しています。
わたくしは、彼の真摯な想いに、涙が出そうになりました。わたくしがずっと求めていた「気ままな人生」は、誰にも邪魔されない自由な生活だけではありませんでした。それは、わたくしという人間を、ありのままに受け入れ、守ってくれる、誰かの愛だったのです。
「殿下…わたくしは、殿下にお会いしてから、初めて、人を愛することの意味を知ったように思います。殿下は、わたくしの光です」
わたくしは、顔を赤らめながらも、精一杯の勇気をもって、彼に伝えました。
私たちの初めての二人きりの時間は、お互いの心に秘めていた想いを、静かに、しかし深く通わせ合う、かけがえのない時間となったのです。仮面を脱いだ殿下の素顔は、孤高の王子ではなく、ただ一人の、真摯な男性の顔でした。
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