毒リンゴは絶対拒否します!白雪姫に転生したのに全力で死亡フラグを避けていたら、なぜか隣国のハンサム王子に溺愛されてしまいました。

紅葉山参

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決死のフラグ回避!アーリャ姫、城を脱走し森へ

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 城の石畳から、森の湿った土を踏みしめる。

 私は、フードを深く被り、ひたすらに走った。冷たい夜の空気が肺に染みる。振り返ることはできない。もし衛兵隊長に見つかれば、容赦なく城に連れ戻されるか、あるいはその場で任務を遂行されるかもしれない。

(これでいいのよ。これで、狩人フラグは回避した!衛兵隊長は、私がいないのを知って、きっとパニックになっているはずだわ。仕方なく、森で狩った鹿か猪の心臓でも持って帰って、ムスカ王妃を欺いてくれることを祈るしかない!)

 私の読み通り、衛兵隊長は私の部屋が空っぽなのを見て、文字通り冷や汗をかいていたらしい。

「姫様……!なんということだ!王妃様の命令を前に、自ら城を…」

 隊長は、私に慈悲をかけるつもりでいたようだ。しかし、王妃の命令を違えるわけにはいかない。

(姫様は、私の良心を知って、逃げてくださったのか?いや、まさか。とにかく、王妃様には『任務は完了した』と報告せねばならない。さもなければ、姫様への追求は永遠に続くだろう)

 衛兵隊長は、私が逃げ込んだのとは反対方向の森へ向かい、一頭の若い猪を狩り、その心臓を木箱に入れて王妃に献上した。

 ムスカ王妃は、木箱の中身を確認すると、満足げに笑った。

「ふふふ。これで、この世で一番美しいのは、私、ムスカ王妃よ!鏡よ、鏡!」

 鏡は再び、ムスカを世界一美しいと宣言し、王妃は束の間の歓喜に浸った。私の「刺客フラグ」は、私の自力脱出と衛兵隊長の機転によって、完全に折られたのだった。

 一方、森の奥深く。

 私は、夜が明け、太陽が木々の隙間から差し込むのを確認して、ようやく足を止めた。

 ここは、人の手がほとんど入っていない「恐怖の森」と呼ばれている場所だ。昼間でも薄暗く、背の高い木々が空を覆い尽くしている。

(さて、ここからが本当のサバイバルよ。白雪姫は七人のこびとに出会って助けられたけど、私は自力で生き残らなきゃならない)

 私は、前世で見たサバイバル番組や、キャンプの知識を総動員した。

 まず、安全な水場の確保。そして、食料。

「毒キノコと山菜の見分け方、動物の足跡……。ああ、前世でサバイバルゲームの知識だけは豊富だったのが唯一の救いだわ!」

 私は、森の知識と野生の勘を頼りに、水場を見つけ、持ってきた小さな鍋で水を煮沸した。火をおこすには、ナイフと石を使った。

(王女の私が、まさかこんなことになろうとはね。でも、生きていれば、いつか必ずこの理不尽な運命を打ち破れるはず!)

 最初の二日間は、過酷だった。

 食料は、城から持ってきた硬いパンだけ。森の果物には毒があるかもしれない。私は、安全性を確信できるもの以外は口にしなかった。

 しかし、三日目。私は、森の奥深く、苔むした岩場の中に、不自然に整備された小道を発見した。

(この道……誰かが住んでいる証拠だわ!)

 私は警戒しながら、小道を進んだ。小道の先には、童話で読んだ通り、木で作られた、小さくて可愛らしい家が立っていた。

(七人のこびとの家よ!間違いない!)

 私は、この家こそが、自分の次の潜伏先になる、と直感した。

「よし、こびとさんたち、ごめんなさい。一時的に居候させてもらうわ。もちろん、彼らが帰ってきたら、家事全般を完璧にこなして、感謝の気持ちを示すわよ!」

 私は、童話の通り、勝手に家に上がり込むことを決めた。これが、物語の展開に乗る、唯一の安全な道だった。

 家の中は、小さな家具が七つずつ並んでいた。散らかってはいるものの、生活の匂いがする。

 私は、家の中を隅々まで掃除し、七つの小さなベッドを整え、持ってきたパンと、森で見つけた安全な木の実を分け、夕食の準備を始めた。

 掃除を終え、夕暮れ時。私は、彼らが帰ってくるのを待っていた。

(こびとさんたち、早く帰ってきてくれないかな。これで、毒リンゴフラグまで、しばらくは安全に過ごせるはず……)

 その時、家の外から、馬の蹄の音と、複数の人の声が聞こえてきた。

「隊長。本当にこの森の奥に、王妃が言っていた怪しい隠れ家があるのでしょうか?」

「ああ。ムスカ王妃は、森の奥深くに、秘密の猟師小屋があると言っていた。最近、王妃への献上物である珍しい毛皮が頻繁に運び込まれているらしい。その密猟者の小屋を探し出せ!」

(え?何よ、こびとさんたちじゃない!衛兵?それも、ムスカ王妃の手先!?)

 私は慌てて、身を隠す場所を探した。この家に住んでいるのは、どうやらこびとではないらしい。

 私が隠れたのは、大きな暖炉の裏の、物置スペースだった。

 ドアが乱暴に開けられ、数人の騎士が土足で家に踏み込んできた。

「なんだこの家は?やけに小さい家具ばかりだな」

「しかも、掃除が行き届いているぞ。密猟者にしては几帳面すぎる」

 騎士たちが、家の中を物色し始めた。私は息を殺して、彼らの会話に耳を澄ませた。

 その時、騎士たちとは違う、一人の男性の声が聞こえてきた。

「どうやら、空き家のようですね。隊長、もう一つの情報源、隣国の王子がこの森を通る、という情報を確認しましょう。もしかしたら、その王子が、我々の王妃が探している『あの娘』を知っているかもしれません」

(隣国の王子?『あの娘』って、私のこと!?どうしてここで、隣国の王子が関わってくるのよ!)

 私は動揺した。童話にはない展開だ。

 騎士たちは諦めて、家を出て行ったが、その直後、一人の人物が、家の前に残った。

 私は、暖炉の隙間から、その人物をそっと覗き見た。

 彼は、豪華な装飾の乗馬服に身を包み、堂々とした立ち姿だった。光沢のある栗色の髪は風になびき、精悍な顔立ちには、まるで彫刻のように整った美しさがあった。童話で、白雪姫を救う「王子様」のイメージをそのまま具現化したような、完璧な「ハンサム」だった。

(あの人が、隣国の王子様……?)

 彼が、衛兵たちとは別行動で、この家の前で立ち止まっているのはなぜだろうか。

 ハンサム王子は、私が綺麗に掃除した家の中を、窓からじっと見つめていた。

 そして、ふっと、優しく微笑んだ。

「これは、なんと健気で気高い娘の仕業だろうか」

(え?健気?単に居候するために、家事をしただけなんだけど?)

 ハンサム王子は、誰にも聞こえないほどの声で呟いた。

「私の運命の人はこの方以外にありえない。こんな森の奥で、不遇にもめげず、家を整える。なんと純粋な愛と勇気の象徴だ」

 彼は、私の状況を、完全に誤解していた。

 ハンサム王子は、窓辺にそっと、一輪の白いバラを置いた。

「必ず探し出す。私の愛しい、アーリャ姫」

 そう言って、ハンサム王子は馬に乗り、森の奥へと走り去った。

(ちょっと待って!今の、私の名前を呼んだ?なんで私のことを知っているのよ?しかも、『愛しい』って、異常なほどの溺愛フラグじゃない!)

 私は暖炉の裏から飛び出した。窓辺に置かれた白いバラを掴む。

 フラグ回避に奔走していたはずの私は、気づけば、元の物語とは全く違う、新たな「溺愛」という名のフラグを、隣国のハンサム王子によって、強制的に立てられてしまったのだった。

「恋愛フラグなんて、今はどうでもいいのに!」

 私は頭を抱え、七人のこびとではない、隣国のハンサム王子という、新たな運命の歯車が回り始めたのを感じた。
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