毒リンゴは絶対拒否します!白雪姫に転生したのに全力で死亡フラグを避けていたら、なぜか隣国のハンサム王子に溺愛されてしまいました。

紅葉山参

文字の大きさ
12 / 15

影の追跡者と、アーリャの逆転策

しおりを挟む
 アーリャ、オーリオン王子、そして七兄弟の一行は、隣国領内の山岳地帯へと入っていた。目的地である「隠し砦」まで、あとわずかの距離だ。

 しかし、ムスカ王妃の魔の手は、すでに彼らに迫っていた。

 王妃は、アーリャの生存を知り、衛兵隊長に代わる、プロの暗殺者チームを雇い入れていた。彼らは、王子の撒き散らした「愛の詩」と、七兄弟の足跡を頼りに、一行を追跡していた。

 七兄弟の一人、ゴルドが、道の脇に、不自然に折れた小枝と、かすかな匂いを感じ取った。

「グラント!待て!追手がいる。獣ではない。人間の足跡だ」

 グラントはすぐに馬車を止めた。

「衛兵隊長か?」

「いや、違う。この匂いは、あの王妃の城の香水じゃない。もっと、鉄臭い……プロの匂いだ」

 オーリオン王子は、武装した騎士たちに、すぐに防御陣を敷くよう指示を出した。

「愛しいアーリャ!恐れることはありません!このオーリオンが、あなたを、いかなる邪悪な手からもお守りします!」

 王子は剣を抜き、アーリャの馬車の前に躍り出た。彼の顔は真剣そのものだが、アーリャには、どこかヒーロー気取りに見えた。

(来たわ。プロの暗殺者フラグ!ここで王子と七兄弟に全てを任せていては、無駄な犠牲が出る!)

 アーリャは、馬車から静かに降りた。顔の煤を、さらに濃く塗りつける。

「皆さん、落ち着いてください。私も、戦います!」

「何を言っているんだ、アーリャ!君は下がっていろ!」ボルが叫んだ。

 その時、森の木々の陰から、黒い装束を纏った五人の暗殺者が姿を現した。彼らの手に持つ剣は、月の光を浴びて、妖しい輝きを放っている。

「目標を確認。アーリャ姫。ムスカ王妃の命令により、永久なる眠りにつかせる」

 暗殺者たちは、一切の会話もなく、一気に王子と七兄弟の護衛陣に襲いかかった。

 オーリオン王子は勇猛果敢に戦ったが、プロの暗殺者チームの連携は完璧だった。王子の一行は、すぐに劣勢に立たされた。七兄弟も奮闘するが、相手の動きは俊敏すぎる。

(このままじゃ、全滅よ!王子も七兄弟も、みんな死んでしまう!)

 アーリャは、必死に頭を回転させた。前世の知識を活かすしかない。

「グラント様!ラスティ様!右の暗殺者の足元に、石を投げてください!泥の場所を狙うのよ!」

「は?何を言ってるんだ!」

 アーリャの指示は突拍子もなかったが、グラントは彼女の生存本能を信じ、言われた通りに、泥の溜まった地面に大きな石を投げつけた。

 暗殺者は、俊敏な動きで石を避けようとしたが、泥によってバランスを崩した。その一瞬の隙を突き、ボルが渾身の一撃を暗殺者の脇腹に叩き込んだ。

「王子!あなたが今、戦っている暗殺者!彼の動きは、あなたへの『嫉妬』から来るものよ!あなたは、彼が憧れていた女性を奪った!彼の動きは、感情に支配されている!」

「なに……!?」

 オーリオン王子は、アーリャの的外れのような、しかしどこか鋭い言葉に驚いた。彼は、アーリャが何を言っているのか理解できなかったが、「愛しい淑女の言葉」だと信じ、その暗殺者に対し、あえて感情的な言葉を投げかけた。

「貴様のような卑しい者に、彼女の清らかな愛は理解できない!」

 この言葉は、暗殺者を逆上させた。怒りで動きが鈍った瞬間、王子は暗殺者の剣を弾き飛ばし、組み伏せた。

(よし!私が指示を出して、彼らが動くなら、この戦いは逆転できる!)

 アーリャは、戦いの流れを読み、適切な場所へ適切な指示を出し続けた。それは、戦術というよりも、状況判断と心理戦だった。

「ノーム様!馬車の幌を切り裂き、暗殺者の視界を遮って!彼らは視覚に頼りすぎている!」
「スリーピー様!木の枝の上から、暗殺者に泥をかけなさい!視界を奪うのよ!」

 アーリャの指示は、一見すると無茶苦茶だったが、暗殺者たちのプロの動きを、最も原始的な方法で妨害し続けた。

 そして、ついに暗殺者チームは撤退した。彼らは、こんな素人集団に敗北したことが信じられない、という表情を浮かべながら、森の奥へと消えていった。

 オーリオン王子と七兄弟は、全員が血と泥にまみれていたが、誰も重傷を負うことはなかった。

「アーリャ!なんという、驚くべき戦術だ!」

 オーリオン王子は、興奮してアーリャの手を握った。

「まさか、あなたが『愛の心理戦』で暗殺者を打ち破るなんて!やはりあなたは、私にとって、最高のパートナーだ!」

(愛の心理戦じゃなくて、ただのサバイバル戦術よ!)

 アーリャは、毒から生還したことで、自分の命だけでなく、周りの人々の命まで守るという、新たな「主人公」としての役割を、自ら背負ってしまったのだった。彼女の過酷な逃亡生活は、今、命がけの戦場へと変わろうとしていた。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

虚弱体質?の脇役令嬢に転生したので、食事療法を始めました

たくわん
恋愛
「跡継ぎを産めない貴女とは結婚できない」婚約者である公爵嫡男アレクシスから、冷酷に告げられた婚約破棄。その場で新しい婚約者まで紹介される屈辱。病弱な侯爵令嬢セラフィーナは、社交界の哀れみと嘲笑の的となった。

溺愛最強 ~気づいたらゲームの世界に生息していましたが、悪役令嬢でもなければ断罪もされないので、とにかく楽しむことにしました~

夏笆(なつは)
恋愛
「おねえしゃま。こえ、すっごくおいしいでし!」  弟のその言葉は、晴天の霹靂。  アギルレ公爵家の長女であるレオカディアは、その瞬間、今自分が生きる世界が前世で楽しんだゲーム「エトワールの称号」であることを知った。  しかし、自分は王子エルミニオの婚約者ではあるものの、このゲームには悪役令嬢という役柄は存在せず、断罪も無いので、攻略対象とはなるべく接触せず、穏便に生きて行けば大丈夫と、生きることを楽しむことに決める。  醤油が欲しい、うにが食べたい。  レオカディアが何か「おねだり」するたびに、アギルレ領は、周りの領をも巻き込んで豊かになっていく。  既にゲームとは違う展開になっている人間関係、その学院で、ゲームのヒロインは前世の記憶通りに攻略を開始するのだが・・・・・? 小説家になろうにも掲載しています。

【完結】男運ゼロの転生モブ令嬢、たまたま指輪を拾ったらヒロインを押しのけて花嫁に選ばれてしまいました

Rohdea
恋愛
──たまたま落ちていた指輪を拾っただけなのに! かつて婚約破棄された過去やその後の縁談もことごとく上手くいかない事などから、 男運が無い伯爵令嬢のアイリーン。 痺れを切らした父親に自力で婚約者を見つけろと言われるも、なかなか上手くいかない日々を送っていた。 そんなある日、特殊な方法で嫡男の花嫁選びをするというアディルティス侯爵家のパーティーに参加したアイリーンは、そのパーティーで落ちていた指輪を拾う。 「見つけた! 僕の花嫁!」 「僕の運命の人はあなただ!」 ──その指輪こそがアディルティス侯爵家の嫡男、ヴィンセントの花嫁を選ぶ指輪だった。 こうして、落ちていた指輪を拾っただけなのに運命の人……花嫁に選ばれてしまったアイリーン。 すっかりアイリーンの生活は一変する。 しかし、運命は複雑。 ある日、アイリーンは自身の前世の記憶を思い出してしまう。 ここは小説の世界。自分は名も無きモブ。 そして、本来この指輪を拾いヴィンセントの“運命の人”になる相手…… 本当の花嫁となるべき小説の世界のヒロインが別にいる事を─── ※2021.12.18 小説のヒロインが出てきたのでタグ追加しました(念の為)

好きすぎます!※殿下ではなく、殿下の騎獣が

和島逆
恋愛
「ずっと……お慕い申し上げておりました」 エヴェリーナは伯爵令嬢でありながら、飛空騎士団の騎獣世話係を目指す。たとえ思いが叶わずとも、大好きな相手の側にいるために。 けれど騎士団長であり王弟でもあるジェラルドは、自他ともに認める女嫌い。エヴェリーナの告白を冷たく切り捨てる。 「エヴェリーナ嬢。あいにくだが」 「心よりお慕いしております。大好きなのです。殿下の騎獣──……ライオネル様のことが!」 ──エヴェリーナのお目当ては、ジェラルドではなく獅子の騎獣ライオネルだったのだ。

【完結】番としか子供が産まれない世界で

さくらもち
恋愛
番との間にしか子供が産まれない世界に産まれたニーナ。 何故か親から要らない子扱いされる不遇な子供時代に番と言う概念すら知らないまま育った。 そんなニーナが番に出会うまで 4話完結 出会えたところで話は終わってます。

『悪役令嬢に仕立て上げられたけど、猫カフェを開いたら辺境伯が通ってきます』

夢窓(ゆめまど)
恋愛
王都を追い出された公爵令嬢・ソフィアがたどり着いたのは、 ボロで埃だらけの、誰も使わない辺境の別荘。 けれど、そこで出会ったのは―― 大きな体でちょっと不器用な辺境伯。 そして、人懐こい白猫と、村の子どもたち。 あたたかい紅茶と、焼きたてのパン。 猫じゃらしに全力な筋肉兄たち。 やがて、騒がしくも優しい日々が、ソフィアの心を少しずつ溶かしていく。

辺境のスローライフを満喫したいのに、料理が絶品すぎて冷酷騎士団長に囲い込まれました

腐ったバナナ
恋愛
異世界に転移した元会社員のミサキは、現代の調味料と調理技術というチート能力を駆使し、辺境の森で誰にも邪魔されない静かなスローライフを送ることを目指していた。 しかし、彼女の作る絶品の料理の香りは、辺境を守る冷酷な「鉄血」騎士団長ガイウスを引き寄せてしまった。

【完結】冷徹執事は、つれない侍女を溺愛し続ける。

たまこ
恋愛
 公爵の専属執事ハロルドは、美しい容姿に関わらず氷のように冷徹であり、多くの女性に思いを寄せられる。しかし、公爵の娘の侍女ソフィアだけは、ハロルドに見向きもしない。  ある日、ハロルドはソフィアの真っ直ぐすぎる内面に気付き、恋に落ちる。それからハロルドは、毎日ソフィアを口説き続けるが、ソフィアは靡いてくれないまま、五年の月日が経っていた。 ※『王子妃候補をクビになった公爵令嬢は、拗らせた初恋の思い出だけで生きていく。』のスピンオフ作品ですが、こちらだけでも楽しめるようになっております。

処理中です...