寵愛の花嫁は毒を愛でる～いじわる義母の陰謀を華麗にスルーして、最愛の公爵様と幸せになります～

繁栄の波と公爵夫人の絶対的地位

　公爵家を揺るがした金融危機は、私、アエナの機知と、ルーカス様の迅速かつ大胆な行動によって、完全な勝利へと転じた。エミリオの企みは露呈し、ユーカ様が仕込んだ最後の毒は、公爵家のさらなる繁栄のための起爆剤となった。

　ルーカス様が金融重鎮たちと立ち上げられた共同事業は、王都郊外の広大な土地開発を軸とする、前例のない大規模プロジェクトである。その発表以来、公爵家の信用は失墜するどころか、逆にその大胆さと確実性から、王都の貴族社会における揺るぎない地位を確立した。

「アエナ、君の提案がなければ、公爵家は深刻な危機に瀕していた。君は、私の最高の軍師だ」

　私の愛する殿方は、執務室でそう言って、私の手を握りしめ、目を細めて褒めてくださる。彼の私への溺愛は、もはや隠しようがない。

「いいえ、ルーカス様。あなた様が私の提案を信じ、即座に実行してくださったからです。私の知恵は、あなた様の勇気があってこそ、生きたのです」

　私は、彼の優しさに感謝しながら、私の夫君の胸に顔を埋めた。

　共同事業の成功は、私の公爵夫人としての地位をも絶対的なものにした。

　以前は、子爵家の出である私を蔑視し、ユーカ様の悪意ある噂に耳を傾けていた社交界の貴婦人たちも、今や私を**『グロース公爵家を二度の危機から救った賢明な夫人』**として、畏敬の念を持って扱うようになった。

「アエナ様、あの共同事業の成功は、まさに奇跡でございますわ。あの時、公爵様にお知恵を授けたのは、やはりアエナ様だったのですね」

　かつてセリーナ侯爵夫人とつるんでいた貴婦人が、今では私に媚びるように話しかけてくる。

「皆様の信用のおかげでございますわ。公爵家は、常に王国の繁栄を第一に考えております」

　私は、微笑みを絶やさず、謙虚に、しかし堂々とそう答える。もう、ユーカ様の残した悪意の残滓に怯える必要はない。私の言葉は、公爵家の権威を背景に、社交界で真実として受け止められる。

　私の華麗なるスルー術は、今や、悪意を跳ね返す盾から、公爵家をさらに高めるための優雅な外交術へと進化していた。私は、彼女たちの言葉の裏を読み取り、常に公爵家にとって最も有利な言葉を返す。

　社交界での私の人気は高まり、公爵邸には、慈善事業への協力を求める招待状や、新たな事業の提携を望む書簡が山のように届くようになった。私は、一つ一つを慎重に選び、公爵家と王国の双方に利益をもたらすものだけを受け入れた。

　そして、私たちの愛の証である北棟の改築も、ついに完成を迎えた。

　かつてユーカ様が暗い陰謀を巡らせていた場所は、ルーカス様と私の趣味と愛が詰まった、明るく壮麗な空間へと生まれ変わった。特に、私が望んだ温室は、太陽の光が降り注ぎ、珍しい植物や、ルーカス様が私に贈ってくださったバラの分枝が、美しく咲き誇っている。

「アエナ。素晴らしい。想像していたよりも遥かに美しい空間になった。これこそが、君と私が築く、新しいグロース公爵家の象徴だ」

　完成した図書館と温室を見たルーカス様は、心から満足された様子で、私を抱きしめた。

「ありがとう、ダーリン。これで、この屋敷から、ユーカ様の負の気配は完全に消え去りました」

　私たちは、北棟の完成を記念し、そして共同事業の成功を祝うため、公爵邸で大規模な舞踏会を開催することを決定した。

　王都の全ての有力貴族、そして金融界の重鎮たちが招待された、この舞踏会は、グロース公爵家の新たな時代の幕開けを告げる、華やかな祭典となるだろう。

　舞踏会の前夜。私たちは、寝室で静かに二人きりの時間を過ごしていた。

「アエナ。明日の舞踏会は、君が主役だ。君が、この公爵家をどれほど優雅に、そして賢明に導いてきたかを、皆が知ることになる」

　彼、私の愛しい夫君は、私の髪を優しく撫でながら言われた。

「明日は、ユーカが過去に私に贈った、呪われたような宝石ではなく、君のために私が新たにデザインさせた、純粋な愛の証のティアラを身につけてほしい」

　ルーカス様が差し出してくださったのは、ダイヤモンドとルビーが惜しみなく使われた、息を呑むほど美しいティアラである。ルビーの深紅は、私たちの情熱的な愛を、ダイヤモンドの輝きは、私の揺るぎない知性を象徴しているようだった。

「ルーカス様。こんなに美しいものを」

「君にふさわしいものだ。君は、この世の誰よりも、輝いている」

　彼は、私を抱き寄せ、耳元で甘く囁いた。

「明日、公衆の面前で、改めて君に誓おう。私の心と、この公爵家の全ては、永遠に君のものであると」

　その夜、私たちは、愛する彼の熱い寵愛に包まれながら、明日の舞踏会への期待と、永遠に続く幸福な未来を確信した。

（この愛こそが、私にとっての、最高の勝利である）

　私の心は、この上ない幸福で満たされていた。