転落令嬢と辺境公爵の開墾スローライフ~愛と勇気と知恵で、不毛の地に楽園を築きます!

紅葉山参

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聖域の盾、動乱の世界

帝都の激震、鉄血将軍の進撃

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 バルザムの地に降り注いだ蒼い奇跡と、それに続く帝国使節団の「肥料作り」という名の強制労働。その衝撃的な報せが帝都へ届くのに、そう時間はかかりませんでした。かつてミーシアを追放し、不毛の地で野垂れ死ぬことを期待していた高慢な貴族たちにとって、それは理解を絶する屈辱であり、同時に底知れぬ恐怖の始まりでもありました。

 帝都中央宮殿、円卓の会議室。重苦しい沈黙を破ったのは、机を叩きつける鈍い音でした。

「……アウグスト伯爵が、肥溜めで泥にまみれているだと? 帝国近衛騎士団が、たかが娘一人の育てた雑草に絡め取られ、捕虜になったというのか!」

 声を荒らげたのは、帝国軍部の中枢を担う鉄血将軍、ヴァルター・フォン・グデーリアンでした。彼はマカリスタのような政治家とは異なり、数々の戦場を潜り抜けてきた実力主義者です。その鋭い眼光は、バルザムから送られてきた「アウグスト伯爵が元気にクワを振るっている写真」を捉え、怒りで煮えくり返っていました。

「報告によれば、バルザムの領地全体が、一種の巨大な魔導回路のように機能しているとのことです。侵入者の魔力や殺気を感知し、植物が自律的に攻撃、拘束を行う……。もはや、あそこはただの農村ではありません。独立した要塞国家と見るべきです」

 参謀の一人が震える声で補足します。グデーリアンは深く椅子に背を預け、冷徹な思考を巡らせました。彼にとって、ミーシアという存在はもはや「追放された令嬢」ではなく、帝国の安保を脅かす未知の兵器開発者に見えていました。

「……植物学だと? 笑わせるな。それは魔導兵器の変種だ。もし、あの『蒼の雫』が全土に広まり、民衆が帝国政府よりもバルザムの慈悲を仰ぐようになれば、帝国の権威は根底から崩壊する。……全軍に告ぐ。これはもはや治安維持ではない。帝国存亡を賭けた『聖域奪還作戦』である。三日以内に、最新鋭の魔導砲を揃えた三個師団を編成せよ。……土ごと焼き払ってくれる」

 帝都が戦火の準備に沸き立つ一方で、バルザムの空気はどこまでも澄み渡っていました。 わたくし、ミーシアは、研究室の地下に広がる「根の回廊」にいました。そこは、領地中に張り巡らされた蒼の月草の根が集中する、いわばバルザムの脳髄とも呼べる場所です。

「……ミーシア。帝都の動きが慌ただしいようだ。グデーリアンの師団が動くとなれば、今までの小競り合いとは次元が違う戦いになる」

 背後から聞こえる、ラッシュ様の落ち着いた声。わたくしは振り返り、彼の手に自分の手を重ねました。鎧の冷たさを通して、彼の覚悟が伝わってきます。

「わかっておりますわ、ラッシュ様。……力でねじ伏せようとするのが帝国のやり方。ですが、力には必ず『限界』があります。……わたくしが今、この場所で作っているのは、限界のない『繋がり』ですわ」

 わたくしが指し示したのは、巨大な水槽の中で脈動する、半透明の光る蔦でした。 それは、蒼の月草の変異種「星霜の神経(アストラル・ニューロン)」。 これまでは個々の植物が反射的に動くだけでしたが、この品種を全土の根に結合させることで、バルザム全体が一つの「知性」を持つようになります。

「これがあれば、帝都の軍勢が国境を一歩踏み越えた瞬間、その位置、兵数、装備、さらには兵士たちの呼吸の乱れまで、すべてがわたくしの手元に伝わります。……戦わずして勝つ。それが、大地を愛する者の戦い方です」

「……はは、やはり君には敵わないな。私は剣を磨いて待っていればいいのか?」

「いいえ。ラッシュ様には、その剣で『守るべきもの』を導いていただきたいのです。……これから、バルザムは世界で最も情報が集まる場所になりますから」

 二人の視線の先で、光る蔦が微かに明滅しました。 それは、帝国の鉄の蹄が近づいていることを、大地がささやき始めた合図でした。
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