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迎えの馬車
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シリウスからの二度目の報せは、シオン村だけでなく、隣国との国境周辺にも大きな波紋を広げた。隣国アンサンブルの第一王子が、敵国扱いの辺境の村の娘を「命の恩人」として厚遇したという事実は、両国の外交関係において極めて前向きな影響を与えた。
この状況を最大限に利用したのは、紛れもなくシリウス王子自身だった。
王都アンサンブルでは、重臣たちがこの突飛な行動に反対の声を上げていた。
「殿下!漁師の娘を妃にするなど、前代未聞です!公爵令嬢アメリア様との政略的な婚約こそ、我が国の安定に必要不可欠です!」
デュラン伯爵は、執務室でシリウスに強く詰め寄った。
シリウスは冷静だった。彼はこの「命の恩人」という大義名分を、王宮内の反対派を抑え込む切り札として利用していた。
「伯爵。貴方は、私の命を救った女性に敬意を払うなと言うのか?彼女が敵国の民であれ、私の命は彼女によって救われた。彼女の存在は、両国の国民に、平和への希望を与える。これ以上の安定材料があるか?」
シリウスは、外交上のメリットを最大限に強調し、自分の決定を覆させなかった。彼は公務を精力的にこなし、王としての資質を見せつけることで、周囲の信頼を少しずつ勝ち取っていった。彼は、リーリアを迎えに行くため、自身の権力基盤を固める必要があった。
そして、ついにその日がやってきた。
シリウスは、外交上の問題が解決し、国内の反対派が一時的に静まった隙を見計らい、リーリアを迎えに行くための使節団を派遣した。
使節団がシオン村に到着した日の朝。
村は未だかつてない騒ぎになっていた。豪華絢爛な馬車が数台、護衛の兵士たちを従えて街道を埋め尽くしている。それは、まるで移動する王宮のようだった。
リーリアは、村の広場で待っていた。彼女は、王都からの贈り物のうち、最も質素だが上質な、紺色のワンピースを着ていた。その銀色の髪は、丁寧にまとめられ、シリウスからの銀の櫛が挿されていた。
村人たちは、彼女を取り囲み、今や彼女を英雄のように崇めていた。中には、「リーリア様、どうぞ王都で、私たち村のことをお忘れなく」と、涙ながらに懇願する者もいた。
馬車から降りてきたのは、シリウス王子からの使者である、老年の侍従長だった。
「リーリア殿。長らくお待たせいたしました。シリウス王子殿下の命により、貴女を王都アンサンブルへお迎えに上がりました」
リーリアは、深々と頭を下げた。
「お迎え、ありがとうございます。喜んで、参ります」
彼女の返事に、村人たちは歓声を上げた。彼女は、この辺境の村の、誇りになった。
リーリアは、村長や村人たちに別れを告げ、馬車へと乗り込んだ。馬車の窓から、見慣れた荒れた海と、父と過ごした家が遠ざかっていくのを見つめた。故郷への寂しさはあったが、それよりも、シリウスに再会できるという期待と、新しい世界への緊張感が勝っていた。
馬車の中は、驚くほど豪華で快適だった。侍従長は、リーリアに王宮での生活やマナーについて、丁寧に説明してくれた。
「殿下は、貴女のことで、大変なご苦労をなさいました。それでも、殿下のお気持ちは変わらない。貴女を心から愛しておいでです」
侍従長の言葉に、リーリアの胸は熱くなった。
数日後、馬車は広大なアンサンブル王国の王都に到着した。石造りの重厚な城壁をくぐり抜けると、目の前に広がるのは、シオン村とは全く違う、華麗で洗練された世界だった。
そして、王宮の入り口。
豪華な門扉の先に、金色の髪を光らせた一人の青年が立っていた。紛れもなく、シリウスだった。彼は、あの時浜辺で見た傷だらけの青年ではなく、威厳と気品に満ちた、一国の王子としての姿だった。
馬車から降り立ったリーリアを見るや否や、シリウスは一国の王子であることを忘れ、大股でリーリアへ歩み寄った。
「リーリア!」
彼は、周囲の貴族たちの視線も気にせず、リーリアの肩を強く抱きしめた。
「よく来てくれた。会いたかった」
彼の言葉と体温は、リーリアの不安と孤独を一瞬で吹き飛ばした。
「シリウス様……!」
この状況を最大限に利用したのは、紛れもなくシリウス王子自身だった。
王都アンサンブルでは、重臣たちがこの突飛な行動に反対の声を上げていた。
「殿下!漁師の娘を妃にするなど、前代未聞です!公爵令嬢アメリア様との政略的な婚約こそ、我が国の安定に必要不可欠です!」
デュラン伯爵は、執務室でシリウスに強く詰め寄った。
シリウスは冷静だった。彼はこの「命の恩人」という大義名分を、王宮内の反対派を抑え込む切り札として利用していた。
「伯爵。貴方は、私の命を救った女性に敬意を払うなと言うのか?彼女が敵国の民であれ、私の命は彼女によって救われた。彼女の存在は、両国の国民に、平和への希望を与える。これ以上の安定材料があるか?」
シリウスは、外交上のメリットを最大限に強調し、自分の決定を覆させなかった。彼は公務を精力的にこなし、王としての資質を見せつけることで、周囲の信頼を少しずつ勝ち取っていった。彼は、リーリアを迎えに行くため、自身の権力基盤を固める必要があった。
そして、ついにその日がやってきた。
シリウスは、外交上の問題が解決し、国内の反対派が一時的に静まった隙を見計らい、リーリアを迎えに行くための使節団を派遣した。
使節団がシオン村に到着した日の朝。
村は未だかつてない騒ぎになっていた。豪華絢爛な馬車が数台、護衛の兵士たちを従えて街道を埋め尽くしている。それは、まるで移動する王宮のようだった。
リーリアは、村の広場で待っていた。彼女は、王都からの贈り物のうち、最も質素だが上質な、紺色のワンピースを着ていた。その銀色の髪は、丁寧にまとめられ、シリウスからの銀の櫛が挿されていた。
村人たちは、彼女を取り囲み、今や彼女を英雄のように崇めていた。中には、「リーリア様、どうぞ王都で、私たち村のことをお忘れなく」と、涙ながらに懇願する者もいた。
馬車から降りてきたのは、シリウス王子からの使者である、老年の侍従長だった。
「リーリア殿。長らくお待たせいたしました。シリウス王子殿下の命により、貴女を王都アンサンブルへお迎えに上がりました」
リーリアは、深々と頭を下げた。
「お迎え、ありがとうございます。喜んで、参ります」
彼女の返事に、村人たちは歓声を上げた。彼女は、この辺境の村の、誇りになった。
リーリアは、村長や村人たちに別れを告げ、馬車へと乗り込んだ。馬車の窓から、見慣れた荒れた海と、父と過ごした家が遠ざかっていくのを見つめた。故郷への寂しさはあったが、それよりも、シリウスに再会できるという期待と、新しい世界への緊張感が勝っていた。
馬車の中は、驚くほど豪華で快適だった。侍従長は、リーリアに王宮での生活やマナーについて、丁寧に説明してくれた。
「殿下は、貴女のことで、大変なご苦労をなさいました。それでも、殿下のお気持ちは変わらない。貴女を心から愛しておいでです」
侍従長の言葉に、リーリアの胸は熱くなった。
数日後、馬車は広大なアンサンブル王国の王都に到着した。石造りの重厚な城壁をくぐり抜けると、目の前に広がるのは、シオン村とは全く違う、華麗で洗練された世界だった。
そして、王宮の入り口。
豪華な門扉の先に、金色の髪を光らせた一人の青年が立っていた。紛れもなく、シリウスだった。彼は、あの時浜辺で見た傷だらけの青年ではなく、威厳と気品に満ちた、一国の王子としての姿だった。
馬車から降り立ったリーリアを見るや否や、シリウスは一国の王子であることを忘れ、大股でリーリアへ歩み寄った。
「リーリア!」
彼は、周囲の貴族たちの視線も気にせず、リーリアの肩を強く抱きしめた。
「よく来てくれた。会いたかった」
彼の言葉と体温は、リーリアの不安と孤独を一瞬で吹き飛ばした。
「シリウス様……!」
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