虐げられし陰の皇女ですが、生贄嫁いだ隣国で「蛮王」に甘く愛され、飯テロ&内政チートで国を救うことになりました

紅葉山参

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帰還の途と科学の剣

王立技術研究所の胎動と王の独占欲

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 王立技術研究所の建設は、ロキニアス王の命令により、王都の中心からやや離れた、厳重に親衛隊が警護できる場所に、迅速に着手された。建築資材は潤沢であり、グスタフ宰相の指揮のもと、熟練の職人たちが昼夜を問わず作業にあたった。

 私は、安楽椅子に座りながらも、研究所の設計図とカリキュラムの最終監修を続けていた。私が最も重視したのは、安全性と情報の隔離だ。

「グスタフ。研究所の地下には、必ず複数の実験室を設け、特に火薬の取り扱いに関する実験室は、外部の湿気や熱から完全に隔離されるように設計してください。そして、入室できるのは、わたくしと、フィリップ殿を含む、選抜された研究員のみとします」

「承知いたしました、王妃殿下。機密保持に関しては、トロイセンの最も信頼できる親衛隊を配置いたします」

 グスタフは、私の指示の重要性を深く理解していた。この研究所は、トロイセンの未来の心臓部であり、その知識が悪用されたり、漏洩したりすれば、国は致命的な危機に瀕する。

 研究所の建設が進む一方で、火砲開発チームを率いるフィリップは、熱狂的な集中力で研究に没頭していた。彼は、かつて傲慢だった旧貴族の青年から、知識に人生を賭けた真の技術者へと変貌していた。

 彼は、古代アステリアの幾何学と、帝国の製鉄技術を融合させるという、人類史上初の試みに挑んでいる。

「王妃殿下」フィリップが、顔に油と煤をつけたまま、私の部屋へ報告に来た。彼の目は寝不足で充血していたが、知的な興奮に満ちている。

「帝国の高炉技術に関する資料を分析しました。鍵は、熱の制御にあります。彼らは、炉内の温度を一定に保つための、複雑な送風装置を使っていました。そして、アステリアの幾何学は、その砲身の『円の完璧さ』を計算するために、驚くほど正確な計算方法を提供してくれます」

 フィリップは、興奮して小さな木炭で製図板に複雑な図形を描き始めた。

「この設計図通りに、炭素の含有量を厳密に制御した鋼鉄を鋳造できれば、火薬の爆発に耐えうる、完璧な砲身が完成します。これは、もはや単なる大砲ではありません。科学の結晶です」

 私は、彼の情熱的な報告に満足した。彼らは、私が望んだ通り、知識を創造する喜びを見出している。これにより、トロイセンの技術革新は、私という一人の人間から、一つの集団へと広がり、永続的なものとなるだろう。

「フィリップ殿。その意気込みを、王に伝えてください。王は、あなた方の研究の進捗を、何よりも気にされています」

 ロキニアスは、私の期待通り、研究所の建設と火砲開発に、異常なまでの関心を示していた。彼の頭の中では、私の知恵がもたらす新しい武器で、大陸の全ての敵を跪かせる未来が描かれているのだろう。

 ある夜、彼は私を抱きしめながら、私に囁いた。

「スーザン。貴様が、火砲を完成させたら、この世の誰も、このトロイセンに手出しできなくなる」

「はい、王よ。そのためにわたくしは、この研究所を建てているのです」

「だが、私は恐ろしい」彼の言葉は、意外なものだった。

「何を恐れているのですか、王よ⁉ 」

「貴様の知恵だ」彼は私の細い首筋に顔を埋めた。

「貴様は、私に、他の誰も持ちえない、強大な力を与えてくれた。だが、その力があまりに強大すぎて、私は、貴様がこの力を誰にも渡してはならないと、強く願ってしまう。貴様の知恵は、私一人のものでなければならない」

 彼の独占欲は、もはや私個人に対する愛情を超え、私の知恵という国家の至宝に対する、激しい所有欲に変わっていた。

「王よ。わたくしは、この研究所を設立することで、知恵をシステム化しようとしています。これは、わたくしが死んでも、トロイセンの力が続くようにするためです」

「システムなど必要ない‼ 」ロキニアスは、声を荒げた。

「貴様さえいれば、他の誰の知識も必要ない。貴様の知恵が、貴様の身体から離れ、他の誰かの手に渡ること。それが、私には最も恐ろしい」

 彼の激情は、私の知恵に対する、純粋な愛と依存の裏返しだった。彼は、私の知恵が、私自身の命と直結していると信じている。私が、彼に与える知恵の全てを、独占したいのだ。

 私は、彼の荒ぶる心を鎮めるために、彼の顔を両手で包み込み、優しく口づけをした。

「王よ。安心してください。わたくしの知恵は、あなた様の愛がなければ、ただの紙の上の知識でしかありません。あなた様が、わたくしという源泉を愛し、守り続ける限り、この知恵は、永遠にトロイセンのものです」

 私は、彼に、私とトロイセンの間に、切っても切れない運命の絆があることを再認識させた。彼の独占欲は、私を閉じ込める檻であると同時に、私を守る最も強固な結界なのだ。

 彼は、私の言葉に納得したように、ゆっくりと息を吐き出した。

「わかった、スーザン。貴様を信じる。だが、もし、その研究所の誰かが、貴様の知恵を盗み、外部に漏らすようなことがあれば、私はその者を、家族もろとも、この大地から消し去るだろう」

 彼の警告は、研究所の全ての研究員に対する、蛮王からの絶対的な誓約となった。この恐怖と愛のバランスこそが、トロイセンを動かす原動力だった。
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