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私たちの未来へ
高炉の完成と火砲鋳造の夜
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教皇庁との交渉が終結し、彼らがもたらした膨大な知識の写本が王立技術研究所に運び込まれてから、数ヶ月の月日が流れた。トロイセンは、急速に工業国家としての基盤を確立しつつあった。
王立技術研究所の隣接地では、帝国の製鉄技術を参考に、フィリップと彼のチームが設計した、トロイセン初の高炉が完成間近となっていた。それは、従来の鍛冶場とは比較にならない巨大な石造りの構造物であり、トロイセンの技術者たちの熱意と、ロキニアス王が惜しみなく注いだ資源の象徴だった。
私は、ロキニアス王と共に、高炉の最終検査に立ち会った。高炉の内部からは、既に試験的な燃焼による熱気が立ち上っている。
「王よ。この高炉は、従来の製鉄炉の数倍の効率で、より純粋な鉄、そして鋼鉄を溶融することができます。炭素の含有量を厳密に制御できるため、火砲の砲身に求められる、究極の硬度と粘り強さを持つ金属を生み出せます」
私は、高炉の仕組みを、熱力学と化学反応の原理を用いて、ロキニアスに説明した。彼は、複雑な原理は理解できなかったが、この構造物がもたらす「力」の大きさを本能的に理解していた。
「この炉で、貴様の言う『雷鳴の剣』が生まれるのか」ロキニアスは、高炉の威容を見上げながら、獲物を見る狩人のような眼差しを向けた。
「はい。そして、今夜、わたくしたちは、その最初の剣、火砲の砲身の鋳造を行います」
その夜、王立技術研究所の鋳造場には、厳選された親衛隊が配置され、周囲は厳重に警備されていた。鋳造は、火砲開発チームの長であるフィリップが、全ての工程を監督する。
トロイセンの技術者たちは、北方の鉄鉱石と、ロキニアスが所有していた貴重な金属を混ぜ合わせ、高炉で溶融させた。高炉の底から流れ出る溶鉄は、オレンジ色に輝き、その熱と光は、夜の闇を切り裂くようだった。
フィリップは、興奮と緊張で顔を紅潮させながら、指揮を執った。
「温度、一定に! 炭素の混合、開始! ロムエルド帝国の資料と、アステリアの幾何学が示す通り、最も正確な合金を目指すのだ!」
溶融された鋼鉄は、フィリップが設計した、正確無比な円筒形の砂型へと流し込まれていく。砲身は、火薬の爆発力という極限の圧力に耐えなければならない。その鋳造の精度は、武器としての成否を分ける決定的な要素となる。
私は、ロキニアスの隣で、その劇的な瞬間を見つめていた。ロキニアスは、私の手を握り、静かに言った。
「スーザン。貴様は、単に武器を造っているのではないな。貴様は、この世界の運命を造っている」
「王よ。運命とは、神や信仰が決めるものではありません。運命とは、知恵と武力を持つ者によって、設計されるものです。わたくしたちは今、トロイセンが大陸を支配するという運命を、この鋳造場で設計しているのです」
彼は、私の言葉に深く頷いた。彼の独占欲は、今や私個人だけでなく、私が生み出す知識と、それがもたらす権力全体へと拡大していた。
鋳造が完了し、砂型から、熱を帯びた、真新しい鋼鉄の砲身が引き上げられた時、フィリップと技術者たちは歓喜の声を上げた。それは、トロイセンの新しい時代を象徴する、最初の科学の結晶だった。
しかし、この火砲の開発は、大陸の強国にとって、トロイセンの存在がもはや無視できない脅威となったことを意味する。
翌朝、グスタフ宰相が、帝国の特使から受け取った書状を持って、私の元へやってきた。
「王妃様。帝国の特使が、緊急の書状を届けてきました。内容は、トロイセンが北方の鉱脈の資源を独占し、軍事技術を開発していることに対し、深刻な懸念を表明するものです。彼らは、王妃様の技術が、大陸の均衡を崩すことを恐れています」
帝国の懸念は当然だった。彼らは、製鉄技術を売却したが、その技術が火砲の開発に直結し、彼ら自身の城壁を打ち破る武器となることを知っている。
私は、ロキニアスと顔を見合わせた。
「懸念だと⁉ 奴らは、我々を蛮族として見下しておきながら、今になって均衡などと戯言を言うか」ロキニアスは激怒した。
「王よ。彼らが恐れているのは、均衡ではありません。彼らが恐れているのは、トロイセンの優位です」私は冷静に分析した。
「火砲の完成は、時間の問題です。彼らが行動を起こす前に、私たちも次の手を打つ必要があります」
私の次の計画は、トロイセンの軍事力を、大陸中に公然と示すこと。そして、帝国の軍事的な介入を完全に封じるための、不可避な外交戦略だった。
王立技術研究所の隣接地では、帝国の製鉄技術を参考に、フィリップと彼のチームが設計した、トロイセン初の高炉が完成間近となっていた。それは、従来の鍛冶場とは比較にならない巨大な石造りの構造物であり、トロイセンの技術者たちの熱意と、ロキニアス王が惜しみなく注いだ資源の象徴だった。
私は、ロキニアス王と共に、高炉の最終検査に立ち会った。高炉の内部からは、既に試験的な燃焼による熱気が立ち上っている。
「王よ。この高炉は、従来の製鉄炉の数倍の効率で、より純粋な鉄、そして鋼鉄を溶融することができます。炭素の含有量を厳密に制御できるため、火砲の砲身に求められる、究極の硬度と粘り強さを持つ金属を生み出せます」
私は、高炉の仕組みを、熱力学と化学反応の原理を用いて、ロキニアスに説明した。彼は、複雑な原理は理解できなかったが、この構造物がもたらす「力」の大きさを本能的に理解していた。
「この炉で、貴様の言う『雷鳴の剣』が生まれるのか」ロキニアスは、高炉の威容を見上げながら、獲物を見る狩人のような眼差しを向けた。
「はい。そして、今夜、わたくしたちは、その最初の剣、火砲の砲身の鋳造を行います」
その夜、王立技術研究所の鋳造場には、厳選された親衛隊が配置され、周囲は厳重に警備されていた。鋳造は、火砲開発チームの長であるフィリップが、全ての工程を監督する。
トロイセンの技術者たちは、北方の鉄鉱石と、ロキニアスが所有していた貴重な金属を混ぜ合わせ、高炉で溶融させた。高炉の底から流れ出る溶鉄は、オレンジ色に輝き、その熱と光は、夜の闇を切り裂くようだった。
フィリップは、興奮と緊張で顔を紅潮させながら、指揮を執った。
「温度、一定に! 炭素の混合、開始! ロムエルド帝国の資料と、アステリアの幾何学が示す通り、最も正確な合金を目指すのだ!」
溶融された鋼鉄は、フィリップが設計した、正確無比な円筒形の砂型へと流し込まれていく。砲身は、火薬の爆発力という極限の圧力に耐えなければならない。その鋳造の精度は、武器としての成否を分ける決定的な要素となる。
私は、ロキニアスの隣で、その劇的な瞬間を見つめていた。ロキニアスは、私の手を握り、静かに言った。
「スーザン。貴様は、単に武器を造っているのではないな。貴様は、この世界の運命を造っている」
「王よ。運命とは、神や信仰が決めるものではありません。運命とは、知恵と武力を持つ者によって、設計されるものです。わたくしたちは今、トロイセンが大陸を支配するという運命を、この鋳造場で設計しているのです」
彼は、私の言葉に深く頷いた。彼の独占欲は、今や私個人だけでなく、私が生み出す知識と、それがもたらす権力全体へと拡大していた。
鋳造が完了し、砂型から、熱を帯びた、真新しい鋼鉄の砲身が引き上げられた時、フィリップと技術者たちは歓喜の声を上げた。それは、トロイセンの新しい時代を象徴する、最初の科学の結晶だった。
しかし、この火砲の開発は、大陸の強国にとって、トロイセンの存在がもはや無視できない脅威となったことを意味する。
翌朝、グスタフ宰相が、帝国の特使から受け取った書状を持って、私の元へやってきた。
「王妃様。帝国の特使が、緊急の書状を届けてきました。内容は、トロイセンが北方の鉱脈の資源を独占し、軍事技術を開発していることに対し、深刻な懸念を表明するものです。彼らは、王妃様の技術が、大陸の均衡を崩すことを恐れています」
帝国の懸念は当然だった。彼らは、製鉄技術を売却したが、その技術が火砲の開発に直結し、彼ら自身の城壁を打ち破る武器となることを知っている。
私は、ロキニアスと顔を見合わせた。
「懸念だと⁉ 奴らは、我々を蛮族として見下しておきながら、今になって均衡などと戯言を言うか」ロキニアスは激怒した。
「王よ。彼らが恐れているのは、均衡ではありません。彼らが恐れているのは、トロイセンの優位です」私は冷静に分析した。
「火砲の完成は、時間の問題です。彼らが行動を起こす前に、私たちも次の手を打つ必要があります」
私の次の計画は、トロイセンの軍事力を、大陸中に公然と示すこと。そして、帝国の軍事的な介入を完全に封じるための、不可避な外交戦略だった。
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