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第一の難関 宿敵ローナ
毒入りのハーブティーと「pH検査」の応用による科学的勝利
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ローナは、社交的な妨害や、美しさの競争でも勝てないと悟り、ついに最も卑劣で、許しがたい手段、すなわち「毒」に訴えてきた。彼女の目的は、マクナル様を病死に見せかけて殺害し、私が辺境伯夫人としての地位を失った後、再び公爵家の権力を使ってマクナル様の地位を手に入れることだった。
彼女は、王都で大流行しているという名目で、マクナル様へハーブの詰め合わせを献上した。
「マクナル様、この『夜の雫』というハーブは、王都では貴族の間で大流行している、最高の鎮静作用を持つものですわ。アナスタシア様がいつも淹れているハーブティーに、少し混ぜるだけで、効果が倍増します。お疲れのマクナル様には最適です」
ローナは、小さなガラス瓶に入った、乾燥ハーブの束をマクナル様に手渡した。公爵令嬢からの「献上品」を無下に断ることは、社交辞令上不可能だ。マクナル様は警戒心を抱きつつも、それを受け取った。
「ローナ嬢。わざわざありがとう。では、今晩、妻に淹れてもらうとしよう」
マクナル様がそう言うと、あの女は勝ち誇ったような、しかし冷酷な笑みを一瞬だけ浮かべた。
私は、マクナル様には何も言わずに、ローナのハーブを自分の寝室に持ち帰り、一人で実験を始めた。直感が、あの女の言葉に隠された悪意を告げていた。
このハーブは、それ単体では毒ではないだろう。しかし、マクナル様が普段から服用している、胃腸の調子を整える「薬草」(強いアルカリ性を持つ)と混ぜることで、体内で急激な化学反応を起こし、「劇物」を生成するように仕組まれているのではないか。この時代の貴族社会では、薬草やハーブの知識は呪術的なものに近く、化学的な相性についての知識は皆無に等しい。
私は前世で、学生時代の理科の実験で使った「リトマス試験紙」の簡易版を思い出した。それは、紫キャベツを煮出した液体を使うという、最も簡単な「pH検査」の方法だ。紫キャベツ水は、酸性に触れると赤く、アルカリ性に触れると緑や青に変化する。
私は、まずマクナル様がいつも飲むハーブティーを紫キャベツ水に浸した。液体は、薄い紫色のままだった。中性から弱酸性であり、安全だ。
次に、ローナのハーブを紫キャベツ水に浸した。すると、液体はすぐに鮮やかな「赤」に変わった。
やはり!このハーブは、非常に強い「酸性」を示す!
ローナの狙いは、この強い酸性を持つハーブを、マクナル様が普段から服用しているアルカリ性の薬と同時に摂取させることだった。酸とアルカリが体内で急激に中和反応を起こし、胃の粘膜を荒らし、最悪の場合、心臓に強い負担をかける。それは、貴族がよく患う「心臓発作」や「急性の胃病」に偽装することが可能だ。
私は急いで、その「赤い液体」と、証拠のハーブを持って、マクナル様の書斎へ向かった。
「マクナル様、今晩のハーブティーは、淹れないでください。そして、このローナ様からのハーブも、絶対に服用しないでください」
私が理由を説明し、証拠の「赤い液体」を見せると、夫は顔を青くした。
「ローナ様は、このハーブ単体ではなく、マクナル様が服用されている『胃薬』との『相性の悪さ』を利用して、マクナル様を病死に見せかけようとしたのです。この赤い色は、危険なほどの酸性を示しています。この酸性が、貴方様の体内で急激な化学反応を起こし、貴方様の命を奪う危険性があるのです」
私は、この世界には存在しない「pH」という概念と、「化学反応による劇物生成」の危険性を、マクナル様に静かに説明した。
「アナスタシア。そなたは、またしても私の命を救ってくれた。君のその知識は、この世界のあらゆる毒物学者をも凌駕する」
あの方は、私を抱きしめ、深い感謝の言葉を述べた。彼の腕の力が強かったのは、恐怖と、私への感謝から来るものだろう。
翌日、リリウス辺境伯はローナを呼び出した。彼は、彼女に何も言わずに、例の「赤い液体」を見せ、ローナのハーブと、彼の薬草を混ぜた際に生じる泡と煙を、彼女の目の前で見せた。
「ローナ嬢。君がくれたこのハーブは、私の健康に非常に悪影響を及ぼすようだ。いや、悪影響どころではない。これは、私の命を狙った、周到に仕組まれた『化学的毒物』だ」
ローナは必死に言い訳を始めた。
「言い訳は無用だ」辺境伯様は冷たく遮った。「君のハーブは、純粋な『悪意』に満ち、私の妻の持つ科学的常識によって暴かれた。公爵家との関係を考慮し、今回は公にはしない。だが、君の滞在は今日で終わりだ。今すぐこの領地を離れなさい。二度と私の妻と私に近づくな。君の存在は、この辺境伯領の清浄な空気を穢す」
ローナは、自分の計画が、私が持ち込んだ「赤い液体」という、単純だが絶対的な「科学的証拠」によって完全に暴かれたことに気づき、顔面蒼白になった。あの女の悪行は、この世界の常識では知りえない、前世の「化学の光」によって照らし出され、断罪されたのだ。
ローナは、その日のうちに、彼女の使用人と共に、辺境伯領を追放された。彼女の滞在は、辺境伯夫妻の愛と絆を深め、辺境の合理性を証明し、そして最終的に彼女自身を奈落の底へ突き落とす結果となった。
「君の持つ知恵の深さに、私は畏敬の念すら抱くよ、アナスタシア。君こそが、この辺境伯領の最も強力な盾だ。私の最高の妻よ、愛している」
「わたくしの命は、全てマクナル様のためにあります。貴方様の命を守ることが、わたくしの最大の使命です」
私は、夫の深い愛を感じながら、ローナが追放されたことで、辺境伯領がより一層強固なものになることを確信した。しかし、彼女の追放は、王都に巣食う、より巨大な陰謀を刺激することになるのだった。
彼女は、王都で大流行しているという名目で、マクナル様へハーブの詰め合わせを献上した。
「マクナル様、この『夜の雫』というハーブは、王都では貴族の間で大流行している、最高の鎮静作用を持つものですわ。アナスタシア様がいつも淹れているハーブティーに、少し混ぜるだけで、効果が倍増します。お疲れのマクナル様には最適です」
ローナは、小さなガラス瓶に入った、乾燥ハーブの束をマクナル様に手渡した。公爵令嬢からの「献上品」を無下に断ることは、社交辞令上不可能だ。マクナル様は警戒心を抱きつつも、それを受け取った。
「ローナ嬢。わざわざありがとう。では、今晩、妻に淹れてもらうとしよう」
マクナル様がそう言うと、あの女は勝ち誇ったような、しかし冷酷な笑みを一瞬だけ浮かべた。
私は、マクナル様には何も言わずに、ローナのハーブを自分の寝室に持ち帰り、一人で実験を始めた。直感が、あの女の言葉に隠された悪意を告げていた。
このハーブは、それ単体では毒ではないだろう。しかし、マクナル様が普段から服用している、胃腸の調子を整える「薬草」(強いアルカリ性を持つ)と混ぜることで、体内で急激な化学反応を起こし、「劇物」を生成するように仕組まれているのではないか。この時代の貴族社会では、薬草やハーブの知識は呪術的なものに近く、化学的な相性についての知識は皆無に等しい。
私は前世で、学生時代の理科の実験で使った「リトマス試験紙」の簡易版を思い出した。それは、紫キャベツを煮出した液体を使うという、最も簡単な「pH検査」の方法だ。紫キャベツ水は、酸性に触れると赤く、アルカリ性に触れると緑や青に変化する。
私は、まずマクナル様がいつも飲むハーブティーを紫キャベツ水に浸した。液体は、薄い紫色のままだった。中性から弱酸性であり、安全だ。
次に、ローナのハーブを紫キャベツ水に浸した。すると、液体はすぐに鮮やかな「赤」に変わった。
やはり!このハーブは、非常に強い「酸性」を示す!
ローナの狙いは、この強い酸性を持つハーブを、マクナル様が普段から服用しているアルカリ性の薬と同時に摂取させることだった。酸とアルカリが体内で急激に中和反応を起こし、胃の粘膜を荒らし、最悪の場合、心臓に強い負担をかける。それは、貴族がよく患う「心臓発作」や「急性の胃病」に偽装することが可能だ。
私は急いで、その「赤い液体」と、証拠のハーブを持って、マクナル様の書斎へ向かった。
「マクナル様、今晩のハーブティーは、淹れないでください。そして、このローナ様からのハーブも、絶対に服用しないでください」
私が理由を説明し、証拠の「赤い液体」を見せると、夫は顔を青くした。
「ローナ様は、このハーブ単体ではなく、マクナル様が服用されている『胃薬』との『相性の悪さ』を利用して、マクナル様を病死に見せかけようとしたのです。この赤い色は、危険なほどの酸性を示しています。この酸性が、貴方様の体内で急激な化学反応を起こし、貴方様の命を奪う危険性があるのです」
私は、この世界には存在しない「pH」という概念と、「化学反応による劇物生成」の危険性を、マクナル様に静かに説明した。
「アナスタシア。そなたは、またしても私の命を救ってくれた。君のその知識は、この世界のあらゆる毒物学者をも凌駕する」
あの方は、私を抱きしめ、深い感謝の言葉を述べた。彼の腕の力が強かったのは、恐怖と、私への感謝から来るものだろう。
翌日、リリウス辺境伯はローナを呼び出した。彼は、彼女に何も言わずに、例の「赤い液体」を見せ、ローナのハーブと、彼の薬草を混ぜた際に生じる泡と煙を、彼女の目の前で見せた。
「ローナ嬢。君がくれたこのハーブは、私の健康に非常に悪影響を及ぼすようだ。いや、悪影響どころではない。これは、私の命を狙った、周到に仕組まれた『化学的毒物』だ」
ローナは必死に言い訳を始めた。
「言い訳は無用だ」辺境伯様は冷たく遮った。「君のハーブは、純粋な『悪意』に満ち、私の妻の持つ科学的常識によって暴かれた。公爵家との関係を考慮し、今回は公にはしない。だが、君の滞在は今日で終わりだ。今すぐこの領地を離れなさい。二度と私の妻と私に近づくな。君の存在は、この辺境伯領の清浄な空気を穢す」
ローナは、自分の計画が、私が持ち込んだ「赤い液体」という、単純だが絶対的な「科学的証拠」によって完全に暴かれたことに気づき、顔面蒼白になった。あの女の悪行は、この世界の常識では知りえない、前世の「化学の光」によって照らし出され、断罪されたのだ。
ローナは、その日のうちに、彼女の使用人と共に、辺境伯領を追放された。彼女の滞在は、辺境伯夫妻の愛と絆を深め、辺境の合理性を証明し、そして最終的に彼女自身を奈落の底へ突き落とす結果となった。
「君の持つ知恵の深さに、私は畏敬の念すら抱くよ、アナスタシア。君こそが、この辺境伯領の最も強力な盾だ。私の最高の妻よ、愛している」
「わたくしの命は、全てマクナル様のためにあります。貴方様の命を守ることが、わたくしの最大の使命です」
私は、夫の深い愛を感じながら、ローナが追放されたことで、辺境伯領がより一層強固なものになることを確信した。しかし、彼女の追放は、王都に巣食う、より巨大な陰謀を刺激することになるのだった。
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