転生賢妻は最高のスパダリ辺境伯の愛を独占し、やがて王国を救う〜現代知識で悪女と王都の陰謀を打ち砕く溺愛新婚記〜

紅葉山参

文字の大きさ
41 / 42
王国の変革と中央政界での戦い

伝統工芸の「合理化」と、夜の執務室での対話

しおりを挟む
 王国の近代化が進む一方で、避けて通れない問題が浮上していました。

 それは、王都で長年続いてきた伝統的な職人ギルドによる抵抗です。

 わたくしが導入した効率的な大規模生産システムは、彼らの「手仕事の誇り」という、非効率な美学を脅かしていたのです。

 特に繊維ギルドの親方たちは、辺境の安価で高品質な布地を「魂がない」と激しく批判していました。

「マクナル様、彼らの主張は感情論に過ぎません。ですが、無視をすれば社会不安の火種になります」

 深夜、辺境伯領の執務室で、わたくしは王都から戻ったばかりの夫と向き合っていました。

 デスクの上には、職人たちの嘆願書と、各ギルドの生産能力を分析したレポートが積まれています。

 マクナル様は少し疲れた様子で、椅子の背もたれに体を預けました。

「彼らは、機械やシステムが自分たちの仕事を奪うと怯えているんだ。伝統を守ることが王国の誇りだと信じて疑わない」

 わたくしは席を立ち、彼の後ろに回って、凝り固まった肩を優しく揉み解しました。

「誇りではお腹は満たされません。ですが、わたくしに案がありますわ。伝統を『合理化』するのです」

 わたくしの手が触れると、彼、辺境伯は小さく吐息を漏らし、リラックスした様子を見せました。

「伝統を合理化? また君は、驚くようなことを言う」

「ええ。彼らの手仕事の中でも、特に付加価値の高い部分だけを抽出するのです。単純な作業は機械に任せ、職人には『最高級品』の設計と仕上げに専念してもらう」

 わたくしは彼の耳元で、澱みなく計画を語りました。

「ギルドを『王立伝統工芸研究所』へと再編します。彼らには、わたくしが用意した効率的な経営カリキュラムを学んでもらい、ブランドとしての価値を高める戦略を教え込むのです」

 マクナル様はわたくしの手を自分の手に重ね、その指先に口づけを落としました。

「なるほど。ただ排除するのではなく、彼らの誇りを利益に変える道を示すというわけか。相変わらず、君の解決策は容赦ないほどに合理的だ」

「褒め言葉として受け取っておきますわ。無駄を省き、適材適所に人を配置する。それがわたくしの流儀ですから」

 わたくしが微笑むと、彼は椅子を回転させ、わたくしを自分の膝の上に抱き上げました。

「マクナル様? まだ仕事の途中ですわよ」

「後のことはミレイユたち優秀な官僚に任せればいい。今は、この難題を瞬時に解決したわが妻に、褒美を与えなければならないからね」

 彼はわたくしの腰に腕を回し、じっと見つめてきました。

 執務室のランプの灯りが、彼の瞳の中に小さな光を宿しています。

「君の合理性は時として冷徹に見えるが、その根底にはいつも、この王国の人々を救いたいという情熱がある。私はそれを知っているよ」

「……貴方様にだけ分かっていただければ、それで十分です」

 わたくしは彼の首に腕を回し、少しだけ甘えるように声を潜めました。

 外では夜風が木々を揺らしていますが、この部屋の中は驚くほど静かです。

「アナスタシア、君が王妃になったら、この王国はどれほど美しく、秩序だった場所になるだろうか」

「あら、わたくしは今の辺境伯夫人の地位が気に入っていますのよ。貴方様の隣で、自由に知性を振るえますもの」

「だが、世界は君の知性を放っておかない。私も、君を独り占めしたい気持ちと、君の偉大さを世界に見せつけたい気持ちで引き裂かれそうだよ」

 マクナル様はそう言って、わたくしの唇を奪いました。

 深い口づけと共に、彼への信頼と愛情が全身に駆け巡ります。

 論理では説明できない、胸の鼓動。

 どんなに世界をシステム化しても、この人への想いだけは、わたくしのコントロールを外れて加速し続けるのです。

「夜はまだ長いですわよ、マクナル様」

「ああ。君との対話なら、夜が明けても足りないくらいだ」

 わたくしたちは、書類の山に囲まれながらも、二人だけの甘美な夜を深く慈しむのでした。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

婚約破棄で悪役令嬢を辞めたので、今日から素で生きます。

黒猫かの
恋愛
「エリー・オルブライト! 貴様との婚約を破棄する!」 豪華絢爛な夜会で、ウィルフレッド王子から突きつけられた非情な宣告。 しかし、公爵令嬢エリーの心境は……「よっしゃあ! やっと喋れるわ!!」だった。

いい加減こっち見ろよ!〜見た目だけだとフラれ続ける私は、どうやら幼馴染の執着愛に気づいていなかったようです。〜

こころ ゆい
恋愛
保育士の八重と外科医の一生は、小学生の頃からの幼馴染。 傍から見れば、儚く清楚に見えるらしい八重は、実は外見にそぐわぬ性格をしていた。 そのせいで、見た目につられて告白してくる男性たちは、ことごとく彼女の中身を知って離れていく。 フラれる度に、やけ食いややけ酒に付き合ってもらっている一生は優しいが、懲りずに同じような恋愛を繰り返す八重に呆れている....と思っていたら? 「....八重の可愛さは、そんなもんじゃないんです。....誰も気付かなくていい。俺だけが知ってればいい」 ーーどうやら、かなり愛されていたようです? ※じれじれ・執着・溺愛 ラブストーリー。🌱 ※この物語は、全て作者の想像で描かれたフィクションです。実際の場所・建物・人物とは関係ありません。🌱

結婚十年目の夫から「結婚契約更新書」なるものが届いた。彼は「送り間違えた」というけれど、それはそれで問題なのでは?

ぽんた
恋愛
レミ・マカリスター侯爵夫人は、夫と政略結婚をして十周年。侯爵夫人として、義父母の介護や領地経営その他もろもろを完ぺきにこなしている。そんなある日、王都に住む夫から「結婚契約更新書」なるものが届いた。義弟を通じ、夫を追求するも夫は「送り間違えた。ほんとうは金を送れというメモを送りたかった」という。レミは、心から思った。「それはそれで問題なのでは?」、と。そして、彼女の夫にたいするざまぁがはじまる。 ※ハッピーエンド確約。ざまぁあり。ご都合主義のゆるゆる設定はご容赦願います。

侯爵令嬢ソフィアの結婚

今野綾
恋愛
ソフィアは希少なグリーンアイを持つヴィンセントと結婚したが、これは金が欲しいソフィアの父の思惑と高い爵位が欲しいヴィンセントの思惑が一致したからに過ぎない そもそもヴィンセントには美しい恋人がいる 美男美女と名高いヴィンセントとその恋人は身分に大きな差があるために結婚することは叶わないのだ その事をソフィアも耳にしており、この結婚が形ばかりのものであることを知っていた 結婚して早々、ソフィアは実家から連れてきた侍女夫婦とあばら家に住むように言われて… 表紙はかなさんです✨ ありがとうございます😊 2024.07.05

断罪中、味方が多すぎて王子が孤立している件について

夏乃みのり
恋愛
バーンスタイン伯爵家の令嬢ラミリアは、魔力も剣の才能もない「ごく普通」の地味な女性。 ある日のパーティーで、婚約者であるジェラルド第二王子から「地味で無能で嫉妬深い」と罵られ、身に覚えのない罪で婚約破棄を突きつけられてしまう。 しかし、断罪劇は予想外の展開へ。

『働いたら負けだと思ったので、何もしなかったら勝手に勝ちました』

ふわふわ
恋愛
王太子から一方的に婚約を破棄された公爵令嬢、 ファワーリス・シグナス。 理由は単純。 「何もしようとしない女だから」。 ……だが彼女は、反論もしなければ、復讐もしない。 泣き叫ぶことも、見返そうと努力することもなく、 ただ静かに言う。 ――「何をする必要が?」 彼女は何もしない。 問題が起きれば専門家が対処すべきであり、 素人が善意で口出しする方が、かえって傷口を広げると知っているから。 婚約破棄の後、 周囲は勝手に騒ぎ、勝手に動き、勝手に自滅し、 勝手に問題を解決していく。 彼女がしたことは、 ・責任を引き受けない ・期待に応えない ・象徴にならない ・巻き込まれない ――ただそれだけ。 それでも世界は、 彼女を基準にし、 彼女を利用しようとし、 最後には「選ぼう」とする。 だがファワーリスは、 そのすべてを静かに拒み続ける。 働いたら負け。 何もしないのが勝ち。 何も背負わず、何も奪わず、何も失わない。 「何もしない」という選択を貫いた令嬢が手にしたのは、 誰にも邪魔されない、完全な自由だった。 これは、 戦わず、争わず、努力もせず、 それでも最後に“勝ってしまった” 一人の令嬢の、静かなざまぁ物語。

婚約破棄から50年後

あんど もあ
ファンタジー
王立学園の卒業パーティーで、王子が婚約者に婚約破棄を宣言した。王子は真に愛する女性と結ばれ、めでたしめでたし。 そして50年後、王子の孫の王子は、婚約破棄された女性の孫と婚約する事に。そこで明かされた婚約破棄の真実とは。

幼馴染に「つまらない」と捨てられた俺、実は学校一のクール美少女(正体は超人気覆面配信者)の「生活管理係」でした。

月下花音
恋愛
「つまらない」と幼馴染に振られた主人公・相沢湊。しかし彼には、学校一のクール美少女・天道玲奈の「生活管理係」という秘密の顔があった。生活能力ゼロの彼女を世話するうち、二人は抜け出せない共依存関係へ……。元カノが後悔してももう遅い、逆転ラブコメディ。

処理中です...