七人の美形守護者と毒りんご 「社畜から転生したら、世界一美しいと謳われる毒見の白雪姫でした」

紅葉山参

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社畜から美しき白雪姫へ 転生と毒の予感

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 目を覚ますと、そこは豪華絢爛な天蓋付きのベッドの上だった。重くのしかかる頭痛と、胸の奥から込み上げる虚無感。それは、過労で命を燃やし尽くした前世の残滓だった。

 橘花莉子、二十九歳。前世はブラック企業で徹夜続きの社畜OLだった。朝まで終わらない企画書を前に机に突っ伏したまま、二度と目覚めることはなかったはずだ。この場所、この空気、この肉体全てが、私には異物だった。

「ああ、スノーリア様。ようやくお目覚めになられましたか」

 聞きなれない女官の声。その声に反射的に顔を上げた私は、自分の手の美しさに驚愕した。透き通るような白い肌。細く完璧な指先。それは、以前の私の荒れた手とは似ても似つかない。

 慌てて身を起こし、部屋の隅にある磨かれた銀の鏡を見た。

 そこに映っていたのは、絵画から抜け出たような絶世の美女。雪のように白い肌、燃えるようなルビー色の瞳、そして艶やかな黒髪。これが私。この世界の私なのだ。

 この世界は、私が前世で読み漁っていた異世界転生小説に出てくるような、魔法と騎士の存在するファンタジー世界だということをすぐに理解した。そして、私はその中でも極めて有名な童話の主人公、スノーリア・フレグランス王女として転生していた。

 スノーリアの残された記憶が、私の脳内に奔流のように流れ込んでくる。その記憶は、彼女の美貌がいかに残酷な運命を呼び込んだかを物語っていた。

 生みの親である国王が若くして亡くなり、すぐに継母の女王が権力を握った。この女王こそが、典型的な童話に出てくる嫉妬深い魔女そのものなのだ。女王は強力な魔術師であり、自身の美貌を永遠のものとするため、あらゆる魔術を駆使していた。

 だが、成長したスノーリアの輝きは、女王の魔術をも上回った。

「魔鏡」が発した「スノーリアこそがこの世で一番美しい」という言葉は、女王にとって許しがたい侮辱だった。女王は露骨にスノーリアを冷遇し、そして秘密裏に彼女を排除しようとした。

 そして、今の私、橘花莉子としてこの体に入り込んだ瞬間、スノーリアの残された記憶と共に、ある特殊な力が目覚めていた。

 それは、毒の魔力を見抜く力。

 この力は、スノーリアの肉体が長期間にわたって毒に晒され続けた結果、獲得された異能だった。物質的な毒だけでなく、魔術によって編み込まれた呪いの毒までも、彼女のルビー色の瞳には禍々しい黒いモヤとして見える。

「スノーリア様、こちらをどうぞ。女王様からの差し入れでございます」

 女官が恭しく持ってきたのは、深紅のガラス瓶に入った飲み物だった。甘い果実の香りが立ち上っていたが、その液体から、私は強く濃い黒いモヤが見えるのだ。毒だ。

 スノーリアの記憶が囁く。女王は毎日のように、彼女の美しさを奪い、最終的にはその命を奪うための毒を飲ませていた。私が転生したことで、この肉体は蘇ったが、毒の残留物によって私の魔力は覚醒したようだ。

「ありがとう。でも、今は気分が優れないの。後でいただくわ」

 私は優雅な笑みを浮かべ、女官を下がらせた。ここで毒だと騒ぎ立てても、女王の権力の前では無力だ。

 女官が部屋を出た瞬間、私はすぐに立ち上がった。ガラス瓶の中身を床の植木鉢に全て捨てた。植えられていた色鮮やかな花は、瞬く間に黒く変色し、萎れてしまった。その光景は、女王の邪悪さを雄弁に物語っていた。

 この生活はもう限界だ。この豪華な城は、私にとって毒殺という名の労働から逃れられないブラックな職場と同じだ。前世と同じ末路を迎えるわけにはいかない。

 “絶対に死なない。今度こそ、自由な人生を謳歌する”

 そう決意した私は、すぐに逃亡計画を練り始めた。スノーリアの記憶の中に、女王が最も恐れ、近づこうとしなかった場所がある。そこならば、女王の結界すら届かないはずだ。

 それは、王国の地図にも載っていない「七つの塔」が立つ魔力の森。

 深夜、私は最も地味な服に着替え、わずかな金貨と、護身用の短剣だけを持って、城の最も古い裏門から脱出を図った。夜闇に紛れて城壁を乗り越え、荒れた森へと飛び込む。

 恐怖はあったが、背後から追いかけてくる毒の魔力の気配の方が、ずっと恐ろしかった。このままでは毒殺される。それは確実な未来だ。

 一晩中、私はただひたすらに走り続けた。森は徐々に魔力を帯び、足元の草木すらも呼吸をしているように感じられた。夜明けが近づく頃、私はついに、誰も立ち入らないとされる禁断の森の深淵に足を踏み入れた。

 私は絶対に、この手で自由を掴み取ってみせる。そして、この美貌を、誰にも利用させない。

 女王の毒の魔力が、遠ざかっていくのを感じながら、私は森の奥、伝説の七つの塔の気配を探した。
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