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森の深淵 七つの塔と七人の美形守護者
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逃亡を始めてから三日が経った。スノーリアは、森の木々がだんだんと不気味な形に変形し、空気が重くなるのを感じていた。王国の騎士たちが決して立ち入らないという、呪われた森の深淵に足を踏み入れた証拠だ。
体力は限界に近かった。追っ手と、それを指揮する女王の毒の魔力は、一時は遠ざかったものの、再びじりじりと距離を詰めてきているのを魔力で感じていた。この深淵に入らなければ、確実に捕らえられてしまう。
やがて、目の前が急に開けた。
そこは、まるで別世界のような静寂に包まれた円形の広場だった。強い魔力の波動が満ちており、空気が清涼に澄んでいる。そして、その中央には、伝説通り七つの異なるデザインの塔が、天を衝くように立っていた。
塔は、石造りの重厚なもの、木材とガラスでできた幻想的なもの、金属質の光を放つものまで、それぞれが強い魔力の光を放っている。しかし、周囲には人の気配が全くない。
「ここが、七つの塔」
スノーリアは息を呑んだ。強い魔力に守られているこの場所なら、女王の追跡魔術はもう届かないだろう。安堵と共に、緊張の糸が切れ、その場に崩れ落ちそうになった。
その瞬間、一つの塔の屋根から、漆黒の影が舞い降りた。
驚きのあまり、声も出ない。その人物は、まるで風のように音もなく着地し、スノーリアの目の前に立ちはだかった。
全身を黒い革鎧で包み、腰には長大な剣を携えている。その顔は端正で、理知的な光を宿した銀色の瞳が、感情を一切映さずにスノーリアを見下ろしていた。二十代後半だろうか。彼の持つ魔力は、私が城で見たどの騎士団長よりも遥かに強大だった。
「何者だ。この地に、部外者が立ち入ることは許されない」
冷徹で、低い声。その威圧感に、スノーリアは震えながらも、王女としての尊厳を保とうとした。
「わ、私はスノーリア。フレグランス王国の王女です。継母である女王に命を狙われ、逃げてきました。あなた方の塔の結界の強大さに頼り、追手から逃れたいと願っています」
男の瞳が一瞬揺らぎ、すぐに冷たさを取り戻した。彼はスノーリアの美しさに動揺したわけではなく、ただその言葉の内容を分析しているようだった。
「フレグランス王国の王女だと? 馬鹿な。女王が王女を追うなどありえない。貴様は女王の放った罠か、あるいは我々の情報を探るスパイか」
「いいえ、真実です。そして、女王はあなた方の存在を知っていますが、恐れて手が出せないことも。私を捕らえても、女王はあなた方を裏切り者として排除しようとするでしょう」
彼が疑いの目で見つめてくる中、スノーリアは覚悟を決め、手に持っていた逃亡用の小さな銀の短剣を彼に差し出した。
「信じてもらえないのなら、どうぞ私を縛り、女王の元へ連れ帰ってください。しかし、私には毒の魔力を見抜く力があります。女王があなた方をどう扱うか、それを想像すれば、私の言葉が嘘ではないと分かるはずです」
彼女の切羽詰まった真剣な眼差しに、男は初めて興味を示したように口角を上げた。彼の視線は、もはやスノーリアの美貌ではなく、彼女の持つ「力」に向けられていた。
「毒を見抜く力、か。面白い」
彼は短剣を受け取らず、代わりにスノーリアの顎を指先で持ち上げ、そのルビー色の瞳を覗き込んだ。
「アルバス。この七つの塔の主の一人だ」
アルバスと名乗った男が口を開いたその時、広場の四方から、同時に六つの強大な気配が近づいてきた。
漆黒の影、炎の残滓、荒々しい風、知的な書物、重厚な土、そして、まだ見ぬ最後の影。
七つの塔の残りの主たちが、一斉に集まってきたのだ。
彼らは皆、アルバスと同じく人間離れした美貌と、圧倒的な魔力を身に纏っていた。童話に出てくる小人など、一人として存在しない。全員が、国の騎士団や魔術師団の頂点を極めた者たちだ。
「アルバス、何があった? 結界の外から強い魔力の痕跡があったぞ。それに、この美しい娘は」
「おいおい、綺麗な獲物だ。一体どうしたんだ、アルバス。僕らの隠れ家に、こんな姫が迷い込むとはね」
七人全員がスノーリアを値踏みするように見つめる。その瞳には、警戒の色と、彼女の美貌への純粋な驚きと、そして隠しようのない独占欲のような光が混じっていた。
アルバスが彼らに状況を簡潔に説明した。
「この娘はスノーリアという。フレグランス王国の王女だと名乗り、女王から逃げてきたと言う。そして、女王の毒を見抜く魔力を持つと」
その言葉に、最も表情が豊かに動いたのは、鮮やかな赤い髪を持つ青年だった。彼はルーク。熱を帯びた瞳でスノーリアに近づくと、彼女の手を取り、優雅に甲に口づけをした。
「毒を見抜く姫君。まるで物語だ。僕はルーク。癒やしの炎の魔術師さ。女王の毒なんて、僕の愛で焼き尽くしてあげるよ。ようこそ、僕らの秘密の隠れ家へ」
ルークの熱情的な振る舞いに、別の男が冷静に割って入る。漆黒の髪を束ね、鋭い視線を持つ弓の名手シリウスだ。
「ルーク、馴れ合うな。彼女が女王の罠でない証拠はない。魔力を見抜く力だけが本当なら、彼女は絶好の駒だ。まずは捕縛し、情報源として利用すべきだ」
「シリウス、冷たいな。こんなか弱き美しき姫君を前にして」
七人の美形守護者たちが、スノーリアを囲み、それぞれの思惑と魔力とをぶつけ合わせる。彼らは皆、強力な魔力を持つ故に、他者との協調を好まない一匹狼たちだった。そんな彼らが、一人の女を巡って意見を戦わせている。
スノーリアは、彼らの議論を黙って見つめていた。そして、アルバスの冷徹な瞳に、強い意志を込めて語りかけた。
「私は逃げてきただけです。あなた方の生活を乱すつもりはありません。ただ、しばらく身を隠す場所をいただきたい。そして、女王の毒の魔術から逃れる手助けをしてくれたら、私から毒に関するあらゆる情報を提供しましょう。女王があなた方を恐れる理由も、全て」
スノーリアの言葉は、七人の中で最も知的な書庫番のレオニスに響いた。彼は眼鏡の位置を直し、顎に手を当てた。
「女王の毒の魔術、か。それは確かに興味深い。彼女が我々の塔に近づかない理由も判明するかもしれない。その魔力は、我々が長年追い求めていた情報だ」
アルバスは全員を見回し、最後にスノーリアの瞳を見つめた。彼女の瞳には、かつて見たどの王族よりも、純粋で強い生きる意思が宿っていた。
「分かった。一時的に、我々が貴女を保護しよう。ただし、我々の生活のルールに従うこと。そして、貴女がもし女王のスパイだと判明した場合、容赦はしない。貴女の命は、我々七人が預かる」
「ありがとうございます。アルバス様」
スノーリアは深々と頭を下げた。これで、女王の追跡から、一時的に逃れることができる。
彼女の新しい生活は、七人の極端な美形たちに囲まれた、緊張と安堵に満ちたものになるだろう。特定の誰かと恋に落ちる必要はない。ただ、彼らの力を借りて生き延びるのだ。
こうして、伝説の七つの塔に、雪のように白い肌を持つ王女の生活が始まった。
体力は限界に近かった。追っ手と、それを指揮する女王の毒の魔力は、一時は遠ざかったものの、再びじりじりと距離を詰めてきているのを魔力で感じていた。この深淵に入らなければ、確実に捕らえられてしまう。
やがて、目の前が急に開けた。
そこは、まるで別世界のような静寂に包まれた円形の広場だった。強い魔力の波動が満ちており、空気が清涼に澄んでいる。そして、その中央には、伝説通り七つの異なるデザインの塔が、天を衝くように立っていた。
塔は、石造りの重厚なもの、木材とガラスでできた幻想的なもの、金属質の光を放つものまで、それぞれが強い魔力の光を放っている。しかし、周囲には人の気配が全くない。
「ここが、七つの塔」
スノーリアは息を呑んだ。強い魔力に守られているこの場所なら、女王の追跡魔術はもう届かないだろう。安堵と共に、緊張の糸が切れ、その場に崩れ落ちそうになった。
その瞬間、一つの塔の屋根から、漆黒の影が舞い降りた。
驚きのあまり、声も出ない。その人物は、まるで風のように音もなく着地し、スノーリアの目の前に立ちはだかった。
全身を黒い革鎧で包み、腰には長大な剣を携えている。その顔は端正で、理知的な光を宿した銀色の瞳が、感情を一切映さずにスノーリアを見下ろしていた。二十代後半だろうか。彼の持つ魔力は、私が城で見たどの騎士団長よりも遥かに強大だった。
「何者だ。この地に、部外者が立ち入ることは許されない」
冷徹で、低い声。その威圧感に、スノーリアは震えながらも、王女としての尊厳を保とうとした。
「わ、私はスノーリア。フレグランス王国の王女です。継母である女王に命を狙われ、逃げてきました。あなた方の塔の結界の強大さに頼り、追手から逃れたいと願っています」
男の瞳が一瞬揺らぎ、すぐに冷たさを取り戻した。彼はスノーリアの美しさに動揺したわけではなく、ただその言葉の内容を分析しているようだった。
「フレグランス王国の王女だと? 馬鹿な。女王が王女を追うなどありえない。貴様は女王の放った罠か、あるいは我々の情報を探るスパイか」
「いいえ、真実です。そして、女王はあなた方の存在を知っていますが、恐れて手が出せないことも。私を捕らえても、女王はあなた方を裏切り者として排除しようとするでしょう」
彼が疑いの目で見つめてくる中、スノーリアは覚悟を決め、手に持っていた逃亡用の小さな銀の短剣を彼に差し出した。
「信じてもらえないのなら、どうぞ私を縛り、女王の元へ連れ帰ってください。しかし、私には毒の魔力を見抜く力があります。女王があなた方をどう扱うか、それを想像すれば、私の言葉が嘘ではないと分かるはずです」
彼女の切羽詰まった真剣な眼差しに、男は初めて興味を示したように口角を上げた。彼の視線は、もはやスノーリアの美貌ではなく、彼女の持つ「力」に向けられていた。
「毒を見抜く力、か。面白い」
彼は短剣を受け取らず、代わりにスノーリアの顎を指先で持ち上げ、そのルビー色の瞳を覗き込んだ。
「アルバス。この七つの塔の主の一人だ」
アルバスと名乗った男が口を開いたその時、広場の四方から、同時に六つの強大な気配が近づいてきた。
漆黒の影、炎の残滓、荒々しい風、知的な書物、重厚な土、そして、まだ見ぬ最後の影。
七つの塔の残りの主たちが、一斉に集まってきたのだ。
彼らは皆、アルバスと同じく人間離れした美貌と、圧倒的な魔力を身に纏っていた。童話に出てくる小人など、一人として存在しない。全員が、国の騎士団や魔術師団の頂点を極めた者たちだ。
「アルバス、何があった? 結界の外から強い魔力の痕跡があったぞ。それに、この美しい娘は」
「おいおい、綺麗な獲物だ。一体どうしたんだ、アルバス。僕らの隠れ家に、こんな姫が迷い込むとはね」
七人全員がスノーリアを値踏みするように見つめる。その瞳には、警戒の色と、彼女の美貌への純粋な驚きと、そして隠しようのない独占欲のような光が混じっていた。
アルバスが彼らに状況を簡潔に説明した。
「この娘はスノーリアという。フレグランス王国の王女だと名乗り、女王から逃げてきたと言う。そして、女王の毒を見抜く魔力を持つと」
その言葉に、最も表情が豊かに動いたのは、鮮やかな赤い髪を持つ青年だった。彼はルーク。熱を帯びた瞳でスノーリアに近づくと、彼女の手を取り、優雅に甲に口づけをした。
「毒を見抜く姫君。まるで物語だ。僕はルーク。癒やしの炎の魔術師さ。女王の毒なんて、僕の愛で焼き尽くしてあげるよ。ようこそ、僕らの秘密の隠れ家へ」
ルークの熱情的な振る舞いに、別の男が冷静に割って入る。漆黒の髪を束ね、鋭い視線を持つ弓の名手シリウスだ。
「ルーク、馴れ合うな。彼女が女王の罠でない証拠はない。魔力を見抜く力だけが本当なら、彼女は絶好の駒だ。まずは捕縛し、情報源として利用すべきだ」
「シリウス、冷たいな。こんなか弱き美しき姫君を前にして」
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スノーリアの言葉は、七人の中で最も知的な書庫番のレオニスに響いた。彼は眼鏡の位置を直し、顎に手を当てた。
「女王の毒の魔術、か。それは確かに興味深い。彼女が我々の塔に近づかない理由も判明するかもしれない。その魔力は、我々が長年追い求めていた情報だ」
アルバスは全員を見回し、最後にスノーリアの瞳を見つめた。彼女の瞳には、かつて見たどの王族よりも、純粋で強い生きる意思が宿っていた。
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「ありがとうございます。アルバス様」
スノーリアは深々と頭を下げた。これで、女王の追跡から、一時的に逃れることができる。
彼女の新しい生活は、七人の極端な美形たちに囲まれた、緊張と安堵に満ちたものになるだろう。特定の誰かと恋に落ちる必要はない。ただ、彼らの力を借りて生き延びるのだ。
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