七人の美形守護者と毒りんご 「社畜から転生したら、世界一美しいと謳われる毒見の白雪姫でした」

紅葉山参

文字の大きさ
2 / 15

森の深淵 七つの塔と七人の美形守護者

しおりを挟む
 逃亡を始めてから三日が経った。スノーリアは、森の木々がだんだんと不気味な形に変形し、空気が重くなるのを感じていた。王国の騎士たちが決して立ち入らないという、呪われた森の深淵に足を踏み入れた証拠だ。

 体力は限界に近かった。追っ手と、それを指揮する女王の毒の魔力は、一時は遠ざかったものの、再びじりじりと距離を詰めてきているのを魔力で感じていた。この深淵に入らなければ、確実に捕らえられてしまう。

 やがて、目の前が急に開けた。

 そこは、まるで別世界のような静寂に包まれた円形の広場だった。強い魔力の波動が満ちており、空気が清涼に澄んでいる。そして、その中央には、伝説通り七つの異なるデザインの塔が、天を衝くように立っていた。

 塔は、石造りの重厚なもの、木材とガラスでできた幻想的なもの、金属質の光を放つものまで、それぞれが強い魔力の光を放っている。しかし、周囲には人の気配が全くない。

「ここが、七つの塔」

 スノーリアは息を呑んだ。強い魔力に守られているこの場所なら、女王の追跡魔術はもう届かないだろう。安堵と共に、緊張の糸が切れ、その場に崩れ落ちそうになった。

 その瞬間、一つの塔の屋根から、漆黒の影が舞い降りた。

 驚きのあまり、声も出ない。その人物は、まるで風のように音もなく着地し、スノーリアの目の前に立ちはだかった。

 全身を黒い革鎧で包み、腰には長大な剣を携えている。その顔は端正で、理知的な光を宿した銀色の瞳が、感情を一切映さずにスノーリアを見下ろしていた。二十代後半だろうか。彼の持つ魔力は、私が城で見たどの騎士団長よりも遥かに強大だった。

「何者だ。この地に、部外者が立ち入ることは許されない」

 冷徹で、低い声。その威圧感に、スノーリアは震えながらも、王女としての尊厳を保とうとした。

「わ、私はスノーリア。フレグランス王国の王女です。継母である女王に命を狙われ、逃げてきました。あなた方の塔の結界の強大さに頼り、追手から逃れたいと願っています」

 男の瞳が一瞬揺らぎ、すぐに冷たさを取り戻した。彼はスノーリアの美しさに動揺したわけではなく、ただその言葉の内容を分析しているようだった。

「フレグランス王国の王女だと? 馬鹿な。女王が王女を追うなどありえない。貴様は女王の放った罠か、あるいは我々の情報を探るスパイか」

「いいえ、真実です。そして、女王はあなた方の存在を知っていますが、恐れて手が出せないことも。私を捕らえても、女王はあなた方を裏切り者として排除しようとするでしょう」

 彼が疑いの目で見つめてくる中、スノーリアは覚悟を決め、手に持っていた逃亡用の小さな銀の短剣を彼に差し出した。

「信じてもらえないのなら、どうぞ私を縛り、女王の元へ連れ帰ってください。しかし、私には毒の魔力を見抜く力があります。女王があなた方をどう扱うか、それを想像すれば、私の言葉が嘘ではないと分かるはずです」

 彼女の切羽詰まった真剣な眼差しに、男は初めて興味を示したように口角を上げた。彼の視線は、もはやスノーリアの美貌ではなく、彼女の持つ「力」に向けられていた。

「毒を見抜く力、か。面白い」

 彼は短剣を受け取らず、代わりにスノーリアの顎を指先で持ち上げ、そのルビー色の瞳を覗き込んだ。

「アルバス。この七つの塔の主の一人だ」

 アルバスと名乗った男が口を開いたその時、広場の四方から、同時に六つの強大な気配が近づいてきた。

 漆黒の影、炎の残滓、荒々しい風、知的な書物、重厚な土、そして、まだ見ぬ最後の影。

 七つの塔の残りの主たちが、一斉に集まってきたのだ。

 彼らは皆、アルバスと同じく人間離れした美貌と、圧倒的な魔力を身に纏っていた。童話に出てくる小人など、一人として存在しない。全員が、国の騎士団や魔術師団の頂点を極めた者たちだ。

「アルバス、何があった? 結界の外から強い魔力の痕跡があったぞ。それに、この美しい娘は」

「おいおい、綺麗な獲物だ。一体どうしたんだ、アルバス。僕らの隠れ家に、こんな姫が迷い込むとはね」

 七人全員がスノーリアを値踏みするように見つめる。その瞳には、警戒の色と、彼女の美貌への純粋な驚きと、そして隠しようのない独占欲のような光が混じっていた。

 アルバスが彼らに状況を簡潔に説明した。

「この娘はスノーリアという。フレグランス王国の王女だと名乗り、女王から逃げてきたと言う。そして、女王の毒を見抜く魔力を持つと」

 その言葉に、最も表情が豊かに動いたのは、鮮やかな赤い髪を持つ青年だった。彼はルーク。熱を帯びた瞳でスノーリアに近づくと、彼女の手を取り、優雅に甲に口づけをした。

「毒を見抜く姫君。まるで物語だ。僕はルーク。癒やしの炎の魔術師さ。女王の毒なんて、僕の愛で焼き尽くしてあげるよ。ようこそ、僕らの秘密の隠れ家へ」

 ルークの熱情的な振る舞いに、別の男が冷静に割って入る。漆黒の髪を束ね、鋭い視線を持つ弓の名手シリウスだ。

「ルーク、馴れ合うな。彼女が女王の罠でない証拠はない。魔力を見抜く力だけが本当なら、彼女は絶好の駒だ。まずは捕縛し、情報源として利用すべきだ」

「シリウス、冷たいな。こんなか弱き美しき姫君を前にして」

 七人の美形守護者たちが、スノーリアを囲み、それぞれの思惑と魔力とをぶつけ合わせる。彼らは皆、強力な魔力を持つ故に、他者との協調を好まない一匹狼たちだった。そんな彼らが、一人の女を巡って意見を戦わせている。

 スノーリアは、彼らの議論を黙って見つめていた。そして、アルバスの冷徹な瞳に、強い意志を込めて語りかけた。

「私は逃げてきただけです。あなた方の生活を乱すつもりはありません。ただ、しばらく身を隠す場所をいただきたい。そして、女王の毒の魔術から逃れる手助けをしてくれたら、私から毒に関するあらゆる情報を提供しましょう。女王があなた方を恐れる理由も、全て」

 スノーリアの言葉は、七人の中で最も知的な書庫番のレオニスに響いた。彼は眼鏡の位置を直し、顎に手を当てた。

「女王の毒の魔術、か。それは確かに興味深い。彼女が我々の塔に近づかない理由も判明するかもしれない。その魔力は、我々が長年追い求めていた情報だ」

 アルバスは全員を見回し、最後にスノーリアの瞳を見つめた。彼女の瞳には、かつて見たどの王族よりも、純粋で強い生きる意思が宿っていた。

「分かった。一時的に、我々が貴女を保護しよう。ただし、我々の生活のルールに従うこと。そして、貴女がもし女王のスパイだと判明した場合、容赦はしない。貴女の命は、我々七人が預かる」

「ありがとうございます。アルバス様」

 スノーリアは深々と頭を下げた。これで、女王の追跡から、一時的に逃れることができる。

 彼女の新しい生活は、七人の極端な美形たちに囲まれた、緊張と安堵に満ちたものになるだろう。特定の誰かと恋に落ちる必要はない。ただ、彼らの力を借りて生き延びるのだ。

 こうして、伝説の七つの塔に、雪のように白い肌を持つ王女の生活が始まった。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

神様の手違いで、おまけの転生?!お詫びにチートと無口な騎士団長もらっちゃいました?!

カヨワイさつき
恋愛
最初は、日本人で受験の日に何かにぶつかり死亡。次は、何かの討伐中に、死亡。次に目覚めたら、見知らぬ聖女のそばに、ポツンとおまけの召喚?あまりにも、不細工な為にその場から追い出されてしまった。 前世の記憶はあるものの、どれをとっても短命、不幸な出来事ばかりだった。 全てはドジで少し変なナルシストの神様の手違いだっ。おまけの転生?お詫びにチートと無口で不器用な騎士団長もらっちゃいました。今度こそ、幸せになるかもしれません?!

中身は80歳のおばあちゃんですが、異世界でイケオジ伯爵に溺愛されています

浅水シマ
ファンタジー
【完結しました】 ーー人生まさかの二週目。しかもお相手は年下イケオジ伯爵!? 激動の時代を生き、八十歳でその生涯を終えた早川百合子。 目を覚ますと、そこは異世界。しかも、彼女は公爵家令嬢“エマ”として新たな人生を歩むことに。 もう恋愛なんて……と思っていた矢先、彼女の前に現れたのは、渋くて穏やかなイケオジ伯爵・セイルだった。 セイルはエマに心から優しく、どこまでも真摯。 戸惑いながらも、エマは少しずつ彼に惹かれていく。 けれど、中身は人生80年分の知識と経験を持つ元おばあちゃん。 「乙女のときめき」にはとっくに卒業したはずなのに――どうしてこの人といると、胸がこんなに苦しいの? これは、中身おばあちゃん×イケオジ伯爵の、 ちょっと不思議で切ない、恋と家族の物語。 ※小説家になろうにも掲載中です。

【完結】『推しの騎士団長様が婚約破棄されたそうなので、私が拾ってみた。』

ぽんぽこ@3/28新作発売!!
恋愛
【完結まで執筆済み】筋肉が語る男、冷徹と噂される騎士団長レオン・バルクハルト。 ――そんな彼が、ある日突然、婚約破棄されたという噂が城下に広まった。 「……えっ、それってめっちゃ美味しい展開じゃない!?」 破天荒で豪快な令嬢、ミレイア・グランシェリは思った。 重度の“筋肉フェチ”で料理上手、○○なのに自由すぎる彼女が取った行動は──まさかの自ら押しかけ!? 騎士団で巻き起こる爆笑と騒動、そして、不器用なふたりの距離は少しずつ近づいていく。 これは、筋肉を愛し、胃袋を掴み、心まで溶かす姉御ヒロインが、 推しの騎士団長を全力で幸せにするまでの、ときめきと笑いと“ざまぁ”の物語。

最弱白竜ですが、なぜか学園最強の銀竜に番認定されました

めめめ
恋愛
竜の血を引く者だけが貴族になれるこの世界で、白竜は最も格の低い竜の証。 白竜の男爵令嬢リーゼロッテは、特待生として国内最高峰の王立竜騎学園に入学する。待っていたのは上位貴族からの蔑みと、学園を支配する四人の御曹司「四竜」。 その筆頭、銀竜公爵家の嫡男ルシアンに初日から啖呵を切ったリーゼは、いじめと嫉妬の嵐に巻き込まれていく。 それでも彼女は媚びない、逃げない、折れない。 やがてルシアンはリーゼから目が離せなくなり―― 白竜の少女が、学園と王国の運命を変える。 身分差×竜×学園ラブファンタジー、開幕。

キズモノ転生令嬢は趣味を活かして幸せともふもふを手に入れる

藤 ゆみ子
恋愛
セレーナ・カーソンは前世、心臓が弱く手術と入退院を繰り返していた。 将来は好きな人と結婚して幸せな家庭を築きたい。そんな夢を持っていたが、胸元に大きな手術痕のある自分には無理だと諦めていた。 入院中、暇潰しのために始めた刺繍が唯一の楽しみだったが、その後十八歳で亡くなってしまう。 セレーナが八歳で前世の記憶を思い出したのは、前世と同じように胸元に大きな傷ができたときだった。 家族から虐げられ、キズモノになり、全てを諦めかけていたが、十八歳を過ぎた時家を出ることを決意する。 得意な裁縫を活かし、仕事をみつけるが、そこは秘密を抱えたもふもふたちの住みかだった。

「地味な婚約者を捨てて令嬢と結婚します」と言った騎士様が、3ヶ月で離婚されて路頭に迷っている

歩人
ファンタジー
薬師のナターリアは婚約者の騎士ルドガーに「地味なお前より伯爵令嬢が ふさわしい」と捨てられた。泣きはしなかった。ただ、明日から届ける薬が 一人分減るな、と思っただけ。 ルドガーは華やかな伯爵令嬢イレーネと結婚し、騎士団で出世する——はずだった。 しかしイレーネの実家は見栄だけの火の車。持参金は消え、借金取りが押し寄せ、 イレーネ本人にも「稼ぎが少ない」と三行半を突きつけられた。 3ヶ月で全てを失ったルドガーが街角で見たのは、王宮薬師に抜擢された ナターリアが、騎士団長と笑い合う姿だった。 「なあ、ナターリア……俺が間違っていた」 「ええ、知ってます。でも、もう関係のない話ですね」

【完結済】私、地味モブなので。~転生したらなぜか最推し攻略対象の婚約者になってしまいました~

降魔 鬼灯
恋愛
マーガレット・モルガンは、ただの地味なモブだ。前世の最推しであるシルビア様の婚約者を選ぶパーティーに参加してシルビア様に会った事で前世の記憶を思い出す。 前世、人生の全てを捧げた最推し様は尊いけれど、現実に存在する最推しは…。 ヒロインちゃん登場まで三年。早く私を救ってください。

異世界転生公爵令嬢は、オタク知識で世界を救う。

ふわふわ
恋愛
過労死したオタク女子SE・桜井美咲は、アストラル王国の公爵令嬢エリアナとして転生。 前世知識フル装備でEDTA(重金属解毒)、ペニシリン、輸血、輪作・土壌改良、下水道整備、時計や文字の改良まで――「ラノベで読んだ」「ゲームで見た」を現実にして、疫病と貧困にあえぐ世界を丸ごとアップデートしていく。 婚約破棄→ザマァから始まり、医学革命・農業革命・衛生革命で「狂気のお嬢様」呼ばわりから一転“聖女様”に。 国家間の緊張が高まる中、平和のために隣国アリディアの第一王子レオナルド(5歳→6歳)と政略婚約→結婚へ。 無邪気で健気な“甘えん坊王子”に日々萌え悶えつつも、彼の未来の王としての成長を支え合う「清らかで温かい夫婦日常」と「社会を良くする小さな革命」を描く、爽快×癒しの異世界恋愛ザマァ物語。

処理中です...