傷跡の聖女~武術皆無な公爵様が、私を世界で一番美しいと言ってくれます~

紅葉山参

文字の大きさ
7 / 14

舞踏会と、シュナの策略

しおりを挟む
 舞踏会の夜がやってきた。公爵様が選んでくれた、深紅のドレスに身を包んだ私は、少し緊張していた。顔の傷は、あえて隠さなかった。これが、私なのだから。

 公爵様と手を繋ぎ、舞踏会の会場であるロキサーニ邸の大広間に足を踏み入れた瞬間、会場のざわめきが収まった。全ての貴族の視線が、私に集中する。

 宰相も、会場の隅で、冷たい視線を私に向けていた。そして、シュナ団長も、私を嘲笑うかのような笑みを浮かべていた。

 公爵様は、私の緊張を察したように、私の手を優しく握った。

「心配ありません、ルイジアナ。私は、あなたの傍にいます」

 私たちは、会場の貴族たちに挨拶をして回った。彼らの視線は冷たかったが、公爵様は、私を常に誇らしげに紹介してくれた。

 そして、ダンスの時間になった。

「このダンスは、私の愛するルイジアナと、最初に踊りたい」

 公爵様は、私をエスコートし、フロアの中心へ連れ出した。

 音楽が流れ始める。

 彼は、私を優しくリードした。私のステップは、完璧ではなかったかもしれない。だが、公爵様との息は、ぴったりと合っていた。

 私が戦場で培った、無駄のない動きと、彼の優雅なリードが、見事に融合した。貴族たちは、私たちが織りなすダンスに、息を飲む。

 私たちは、まるで、戦場で二人で魔物を倒しているかのような、一体感を感じていた。

 ダンスが終わると、会場からは、拍手が起こった。それは、私を嘲笑うものではなく、純粋な賛辞の拍手だった。

 宰相の顔が、わずかに歪んだ。

「素晴らしいダンスでしたよ、ロキサーニ公爵」

 その時、シュナ団長が、優雅な笑みを浮かべながら、私たちに近づいてきた。

「ですが、公爵様。あなたの婚約者は、やはり武術家。剣を振るうことしか知らない。公爵夫人に相応しい、知性と教養があるか、疑問に感じている貴族も多いようです」

 シュナは、私を侮辱する言葉を、公爵様に向けた。

「ルイジアナ殿。一つ、あなたに質問をしてもよろしいでしょうか」

「どうぞ」

 私は、臆することなく答えた。

「最近、辺境で発見された古代文字の書物について、あなたはどれほどの知識をお持ちでしょうか。それが、帝国の魔術研究にどのような影響を与えるか、語っていただけますか」

 それは、非常に難解な、魔術の専門的な知識を問う質問だった。武術しか知らない私には、到底答えられないだろう。シュナは、私の失態を、皆の前で晒そうとしていたのだ。

 会場の貴族たちが、私の返答を待つ。

 私は、一瞬、公爵様を見た。彼は、私に、優しく微笑みかけてくれた。

「ルイジアナ。あなたならできる」

 私は、深呼吸をし、シュナに向き直った。

「シュナ団長殿。その古代文字の書物は、ロキサーニ公爵様が翻訳し、すでにその内容が、帝国の魔術研究に役立てられています」

 私は、公爵様が私に語ってくれた、その書物の内容と、それが魔力理論に与える影響について、淀みなく語り始めた。

 公爵様の傍で、彼が執務室で研究している内容を、私は全て聞いていた。彼の理論は、私の頭の中で、完全に整理されていた。

「その書物の発見は、魔力の根源を解明する糸口になり、結果として、魔族の呪われた魔術を打ち破る、新たな術式の開発につながるでしょう」

 私の言葉は、専門的で、的確だった。それは、私が武術家であると同時に、公爵様の最も近くで、彼の頭脳を理解していたからだ。

 シュナは、言葉を失った。会場の貴族たちは、驚きと感嘆の声を上げた。

「素晴らしい。ルイジアナ殿。あなたの知識は、私を凌駕する」

 宰相は、私の知識に感服し、静かに頷いた。

「あなたの知識は、ロキサーニ公爵様の隣に立つに、相応しい」

 シュナの策略は、完全に失敗した。

 公爵様は、私の手を握り、私を抱きしめた。

「ルイジアナ。あなたは、私の誇りです」

 その夜、私は、公爵夫人としての最初の試練を、見事に乗り越えた。彼との愛と、彼から学んだ知識が、私を救ってくれたのだ。

 舞踏会での勝利は、一時的なものに過ぎなかった。公爵様を狙う暗殺者の影は、依然として消えていない。そして、私は、その暗殺集団の背後に、ある人物の存在を感じていた。

「公爵様。暗殺集団の背後に、シュナ団長がいる可能性が高い」

 私は、執務室で彼に報告した。

「彼は、あなたを愛するあまり、私の存在を排除しようとしている。そして、あなたを狙う暗殺者たちも、シュナが騎士団のコネを使って雇った可能性が高い」

 公爵様は、静かに頷いた。

「私も、そう考えていました。シュナは、幼い頃から私を慕ってくれていた。だが、それは、私の兄が評価していた、武術の才能を持つ私への憧れだった」

「あなたの、過去の孤独の原因の一つですね」

「ええ。私が武術の才能がないと知ると、彼は私を軽蔑し始めた。そして、あなたが私の傍に来て、私があなたを愛していると知ったとき、彼の歪んだ愛情が、嫉妬へと変わった」

 その時、公爵様は、私の手を取り、そっと、自分の右肩の傷に触れさせた。

「ルイジアナ。この傷は、幼い頃、シュナとの剣の稽古で負ったものです。彼は、私が剣を持てないことを知っていて、私を傷つけた」

 公爵様の体にある、過去の傷。それは、彼の心の傷と繋がっていた。

「私は、あなたを傷つけた奴を許しません!」

 私は、怒りに震えた。

「ルイジアナ。あなたの怒りは、私の心を温めてくれる。ですが、シュナは、兄の信頼も厚い。迂闊には動けません」

 私は、公爵様の言葉に従い、静かにシュナの動向を探ることにした。

 その夜、私は、公爵様と共に、寝室で過ごしていた。私たちは、愛し合っている。その事実は、私の傷ついた心を、完全に癒してくれた。

 彼は、私の顔の傷を、まるで宝物のように、優しく愛撫してくれる。

「ルイジアナ。この傷は、あなたが私と出会うために背負った、運命の証だ」

「公爵様……私は、あなたと出会えて、本当に幸せです」

 私たちが、愛し合っている最中、公爵邸の裏庭で、大きな爆発音が響いた。

 ドーン!

「公爵様、お逃げください!」

 私たちは、すぐに服を着て、寝室を飛び出した。

 裏庭は、炎と煙に包まれていた。騎士団が、公爵邸に侵入しようとする暗殺者たちと、激しく交戦している。

「騎士団が、なぜこんな夜中に」

 私は、疑問に思った。これは、ただの暗殺ではない。

「シュナです。彼は、私を捕らえ、私の権力を奪おうとしている」

 公爵様は、冷静に状況を判断した。

「ルイジアナ。あなたは、私の盾になってくれるか」

「もちろんです、公爵様。私の命に代えても」

 私たちは、裏庭に向かった。そこで見たのは、暗殺者たちを指揮する、シュナ団長の姿だった。

「シュナ! 何をしている!」

 公爵様が、怒りの声を上げた。

「公爵様。私は、あなたを救いに来たのです。この女は、魔族と通じている。そう、彼女の顔の傷は、魔族の呪われた炎魔術の証拠だ!」

 シュナは、私を、魔族の手先だと、騎士団の前で罵倒した。

「嘘だ! ルイジアナは、帝国を守った英雄だ!」

「英雄? 顔の傷を隠しもせず、公爵様の権力を奪おうとする女が? 騎士団よ! ルイジアナを捕らえろ! そして、公爵様を保護せよ!」

 シュナの命令で、騎士団の一部が、私に向かって剣を向けた。

 私は、愛用の長剣を抜き放った。

「公爵様、お下がりください。私が、この場で全てを終わらせます」

「ダメだ、ルイジアナ! あなたが騎士団と戦えば、あなたが悪者になる」

 公爵様は、私の手を握った。

「あなたの剣は、私のためにある。だが、今は、私の言葉を信じて、剣を収めてほしい」

 私は、一瞬、迷った。彼の言葉を信じるべきか、剣でこの場を切り開くべきか。

 その時、シュナが、私に向かって、鋭い風の刃を放った。

「死ね! 魔族の手先め!」

 私は、反射的に、公爵様を庇い、その風の刃を、剣で受け止めた。

 私の剣は、風の刃によって、わずかに欠けた。

「ルイジアナ!」

 公爵様は、私の無事を確認し、深く頷いた。

「シュナ。あなたの罪は、許されない」

 公爵様は、私の傍を離れ、一歩前に出た。

「騎士団よ。聞け! シュナ団長は、私の権力を奪うために、暗殺集団を雇い、私の妻となるルイジアナを陥れようとした! その証拠は、私が持っている!」

 公爵様は、懐から一通の文書を取り出した。それは、シュナが暗殺集団に送った、依頼書だった。

「シュナ。あなたの罪は、帝国に対する反逆罪だ。観念しろ」

 公爵様の、不器用ながらも、勇気ある行動に、騎士団は動揺した。

 私は、彼の勇気に、心から感動した。彼は、武術の才能はないが、私よりもずっと強い心を持っていた。

「ルイジアナ。あなたの剣で、私のために、道を開いてくれるか」

「はい、公爵様」

 私は、再び剣を握り、公爵様のために、道を開く。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

王女様は温かいごはんが食べたい ~冷えた王宮料理を変えたら、オープンキッチンと政略婚約がついてきました~

しおしお
恋愛
異世界の王女リリアーヌは、前世の記憶を持つ転生者。 豪華絢爛な王宮で暮らし始めた彼女だったが、ひとつだけどうしても耐えられないことがあった。 ――食事が、冷めているのだ。 どれほど立派な料理でも、ぬるいスープや冷めた肉ではホッとできない。 「温かいごはんが食べたい」 そのささやかな願いを口にしたことから、王宮ではなぜか大騒動が巻き起こる。 地下厨房からの高速搬送。 専用レーンを爆走するカートメイド。 扉の開閉に命をかけるオープナー。 ついには食堂に火を持ち込むオープンキッチンまで誕生して――!? 温かさは、ホッとさせてくれる。 それは料理だけではなく、人との距離まで少しずつ変えていくものだった。 冷えた王宮に湯気と笑顔を取り戻す、 食と温かさをめぐる宮廷日常コメディ! -

皆様ありがとう!今日で王妃、やめます!〜十三歳で王妃に、十八歳でこのたび離縁いたしました〜

百門一新
恋愛
セレスティーヌは、たった十三歳という年齢でアルフレッド・デュガウスと結婚し、国王と王妃になった。彼が王になる多には必要な結婚だった――それから五年、ようやく吉報がきた。 「君には苦労をかけた。王妃にする相手が決まった」 ということは……もうつらい仕事はしなくていいのねっ? 夫婦だと偽装する日々からも解放されるのね!? ありがとうアルフレッド様! さすが私のことよく分かってるわ! セレスティーヌは離縁を大喜びで受け入れてバカンスに出かけたのだが、夫、いや元夫の様子が少しおかしいようで……? サクッと読める読み切りの短編となっていります!お楽しみいただけましたら嬉しく思います! ※他サイト様にも掲載

最弱白竜ですが、なぜか学園最強の銀竜に番認定されました

斉藤めめめ
恋愛
竜の血を引く者だけが貴族になれるこの世界で、白竜は最も格の低い竜の証。 白竜の男爵令嬢リーゼロッテは、特待生として国内最高峰の王立竜騎学園に入学する。待っていたのは上位貴族からの蔑みと、学園を支配する四人の御曹司「四竜」。 その筆頭、銀竜公爵家の嫡男ルシアンに初日から啖呵を切ったリーゼは、いじめと嫉妬の嵐に巻き込まれていく。 それでも彼女は媚びない、逃げない、折れない。 やがてルシアンはリーゼから目が離せなくなり―― 白竜の少女が、学園と王国の運命を変える。 身分差×竜×学園ラブファンタジー、開幕。

夫から『お前を愛することはない』と言われたので、お返しついでに彼のお友達をお招きした結果。

古森真朝
ファンタジー
 「クラリッサ・ベル・グレイヴィア伯爵令嬢、あらかじめ言っておく。  俺がお前を愛することは、この先決してない。期待など一切するな!」  新婚初日、花嫁に真っ向から言い放った新郎アドルフ。それに対して、クラリッサが返したのは―― ※ぬるいですがホラー要素があります。苦手な方はご注意ください。

おさななじみの次期公爵に「あなたを愛するつもりはない」と言われるままにしたら挙動不審です

ワイちゃん
恋愛
伯爵令嬢セリアは、侯爵に嫁いだ姉にマウントをとられる日々。会えなくなった幼馴染とのあたたかい日々を心に過ごしていた。ある日、婚活のための夜会に参加し、得意のピアノを披露すると、幼馴染と再会し、次の日には公爵の幼馴染に求婚されることに。しかし、幼馴染には「あなたを愛するつもりはない」と言われ、相手の提示するルーティーンをただただこなす日々が始まり……?

下賜されまして ~戦場の餓鬼と呼ばれた軍人との甘い日々~

星森 永羽(ほしもりとわ)
恋愛
王宮から突然嫁がされた18歳の少女・ソフィアは、冷たい風の吹く屋敷へと降り立つ。迎えたのは、無愛想で人嫌いな騎士爵グラッド・エルグレイム。金貨の袋を渡され「好きにしろ」と言われた彼女は、侍女も使用人もいない屋敷で孤独な生活を始める。 王宮での優雅な日々とは一転、自分の髪を切り、服を整え、料理を学びながら、ソフィアは少しずつ「夫人」としての自立を模索していく。だが、辻馬車での盗難事件や料理の失敗、そして過労による倒れ込みなど、試練は次々と彼女を襲う。 そんな中、無口なグラッドの態度にも少しずつ変化が現れ始める。謝罪とも言えない金貨の袋、静かな気遣い、そして彼女の倒れた姿に見せた焦り。距離のあった二人の間に、わずかな波紋が広がっていく。 これは、王宮の寵姫から孤独な夫人へと変わる少女が、自らの手で居場所を築いていく物語。冷たい屋敷に灯る、静かな希望の光。 ⚠️本作はAIとの共同製作です。

殿下に寵愛されてませんが別にかまいません!!!!!

さら
恋愛
 王太子アルベルト殿下の婚約者であった令嬢リリアナ。けれど、ある日突然「裏切り者」の汚名を着せられ、殿下の寵愛を失い、婚約を破棄されてしまう。  ――でも、リリアナは泣き崩れなかった。  「殿下に愛されなくても、私には花と薬草がある。健気? 別に演じてないですけど?」  庶民の村で暮らし始めた彼女は、花畑を育て、子どもたちに薬草茶を振る舞い、村人から慕われていく。だが、そんな彼女を放っておけないのが、執着心に囚われた殿下。噂を流し、畑を焼き払い、ついには刺客を放ち……。  「どこまで私を追い詰めたいのですか、殿下」  絶望の淵に立たされたリリアナを守ろうとするのは、騎士団長セドリック。冷徹で寡黙な男は、彼女の誠実さに心を動かされ、やがて命を懸けて庇う。  「俺は、君を守るために剣を振るう」  寵愛などなくても構わない。けれど、守ってくれる人がいる――。  灰の大地に芽吹く新しい絆が、彼女を強く、美しく咲かせていく。

冷徹団長の「ここにいろ」は、騎士団公認の“抱きしめ命令”です

星乃和花
恋愛
⭐︎完結済ー全16話+後日談5話⭐︎ 王都最硬派、規律と責任の塊――騎士団長ヴァルド・アークライトは、夜の見回り中に路地で“落とし物”を拾った。 ……いや、拾ったのは魔物の卵ではなく、道端で寝ていた少女だった。しかも目覚めた彼女は満面の笑みで「落とし物です!拾ってくださってありがとうございます!」と言い張り、団長の屋敷を“保護施設”だと勘違いして、掃除・料理・当番表作りに騎士の悩み相談まで勝手に開始。 追い出せば泣く、士気は落ちる、そして何より――ヴァルド自身の休息が、彼女の存在に依存し始めていく。 無表情のまま「危ないから、ここにいろ」と命令し続ける団長に、周囲はざわつく。「それ、溺愛ですよ」 騎士団内ではついに“団長語翻訳係”まで誕生し、命令が全部“愛の保護”に変換されていく甘々溺愛コメディ!

処理中です...