傷跡の聖女~武術皆無な公爵様が、私を世界で一番美しいと言ってくれます~

紅葉山参

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新婚生活と、公爵夫妻の協力体制

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 結婚式を終え、ロキサーニ公爵邸での新婚生活が始まった。公爵夫人となった私は、慣れない環境に戸惑いつつも、彼の深い愛情に包まれ、満たされた日々を送っていた。

「ルイジアナ。今日の紅茶は、少し香りが良いですね」

 朝食の席で、公爵様は微笑みながら言った。

「ありがとうございます、公爵様。淹れ方を少し変えてみました」

 私が答えると、彼は、私の手をそっと握り、手の甲に口付けた。

「あなたがいるだけで、この邸全体が、優しく、そして暖かくなったようだ。まるで、私の心そのものが、あなたの光で照らされている」

 彼の甘い言葉に、私は顔が熱くなるのを感じる。戦場では、敵兵の罵声と剣戟しか知らなかった私の耳に、このような愛の言葉が響くことが、今でも信じられないでいる。

 私の役割は、護衛から公爵夫人へと変わったが、公爵様は、私に無理をさせようとはしなかった。

「あなたの強さは、剣だけでなく、その洞察力にもある。私の執務に、あなたの視点を取り入れたいのです」

 そう言って、彼は、以前と同じように、私を執務室に招き入れた。

 公爵様の執務は、主に帝国の内政に関するものだった。飢饉に苦しむ領地への支援策、税制の改善、そして、魔族の侵攻後の復興計画。彼が取り扱う書類は、どれも帝国全体に関わる重要なものばかりだった。

「ルイジアナ。この復興計画ですが、軍の輸送ルートを使うことで、物資を早く届けられると考えている。どう思いますか」

「公爵様。軍の輸送ルートは、確かに早いですが、その分、魔族の残党に襲われる危険性も高いです。特に、あの傷跡の森を通るルートは危険です」

 私が、かつて前線で得た、実戦的な知識を伝えると、彼は、深く頷いた。

「なるほど。それは、私の机上の理論にはなかった視点だ。あなたの言葉は、私の盲点を突く。ありがとう、ルイジアナ」

 彼は、私の意見を尊重し、すぐに計画を修正した。

 内政の知識は全くない私だが、戦場での経験、兵士たちの視点、そして、魔族の動向に関する情報など、彼の理論的な思考を補う、実用的な助言をすることができた。

 私たちの関係は、愛し合う夫婦でありながら、最高の協力者でもあった。公爵様の知性と、私の実戦経験が、見事に融合し、帝国の内政は、目覚ましい発展を遂げ始めた。

「あなたは、私の欠けていた部分を、全て補ってくれる。私にとって、あなたは、最高の『武器』であり、最高の『宝物』だ」

 彼は、私を抱き寄せながら、心からそう言ってくれた。

 一方、貴族社会での私の立場も、少しずつ変わっていった。当初、私を冷遇していた貴族の夫人たちも、私の武術と、公爵様を支える知性を認めざるを得なくなった。

 ある茶会で、名門貴族の夫人が、私に話しかけてきた。

「公爵夫人。あなたの顔の傷は、本当に凄まじいわね。以前は、少し恐ろしいと思っていたけれど……」

 彼女は、言葉を濁したが、私は、動じなかった。

「この傷は、私が帝国を守った証です。そして、ロキサーニ公爵様が、私を愛してくれた証です」

 私が、毅然として答えると、夫人は、目を丸くして、そして、静かに微笑んだ。

「そうね。あなたのその言葉には、誰にも真似できない強さがある。私も、あなたを公爵夫人として、心から認めます」

 私の傷は、もはや私の弱点ではない。それは、私自身の強さと、公爵様との愛の象徴となったのだ。

 私たちは、公務が終わった後、二人で庭園を散策するのが日課になった。公爵様は、庭に咲く花の名前を私に教え、私は、彼の手を握り、私の過去の戦場での物語を、優しく語る。

 彼が私に知性を与え、私が彼に強さを与える。

 その日の散策の終わり、公爵様は、私に言った。

「ルイジアナ。あなたがいるから、私は、武術の才能がなくても、この帝国を、そして、あなたを守り抜ける。あなたこそ、私の聖女だ」

 私は、彼の言葉に、心からの愛を込めて、抱きしめ返した。この平穏と、彼の愛こそが、私が戦場で求めていた、真の安息の地だった。
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