傷跡の聖女~武術皆無な公爵様が、私を世界で一番美しいと言ってくれます~

紅葉山参

文字の大きさ
13 / 14

穏やかな日々への影、そして公爵様の成長

しおりを挟む
 ラーンが生まれてから、公爵邸は、以前にも増して温かい雰囲気に包まれた。公爵様は、執務の合間を縫って、ラーンの世話を甲斐甲斐しく手伝ってくれた。

「ルイジアナ。ラーンは、もうすぐ寝返りを打ちそうですね。あなたの強靱な足腰を、受け継いでいるようだ」

「ふふ、公爵様。あなたの知性も、きっと受け継いでくれますよ」

 私たちは、ラーンの成長を見守りながら、穏やかな日々を過ごしていた。

 しかし、平和な日々には、必ず影が差すものだ。

 ある日、宰相から緊急の連絡が入った。

「ロキサーニ。辺境の傷跡の森で、魔族の残党が、再び集結している。大規模な侵攻の準備をしているようだ」

 傷跡の森。それは、私が顔にあの傷を負った場所。そして、魔族の呪われた炎魔術が生まれた場所だ。

「公爵様。私が、前線に戻ります」

 私は、即座に言った。私の剣こそが、魔族の残党を鎮圧する、最も効果的な手段だった。

「だめだ、ルイジアナ。あなたは、ラーンの母だ。そして、私の妻だ。もう、命を懸けて戦場に行く必要はない」

 公爵様は、私を抱きしめ、強く拒否した。

「ですが、公爵様。私の剣が、帝国を救える」

「私が、あなたに代わって、帝国を救う」

 彼は、真剣な眼差しで、私を見つめた。

「ルイジアナ。あなたは、私に勇気と、愛と、知識を与えてくれた。もう、私は、武術がからっきしだった、あの頃の私ではない」

 公爵様は、この数年間、内政の執務の合間に、私と共に、古代魔術の研究を続けていた。そして、ついに、彼は、魔族の呪われた炎魔術を打ち消す、新たな術式を開発していた。

「あなたの剣は、物理的な力だ。だが、私の魔術は、根本から魔族の魔力を無力化できる。私が、前線に立ち、この術式を、魔族の残党に浴びせる」

「公爵様! 危険すぎます! あなたは、武術の訓練を続けてはいますが、実戦は……」

「大丈夫だ、ルイジアナ。あなたがいる。あなたが、私の最も強力な護衛だ」

 公爵様は、私に同行を求めた。

 私は、最後まで反対したが、彼の強い決意に、折れるしかなかった。

「分かりました。ですが、公爵様。私の指示に、絶対に従ってください。あなたの命と、あなたが開発した術式を、必ず守り抜きます」

 私は、愛用の長剣を抜き、公爵様の傍に立った。

 公爵様と私は、少数の騎士団を率いて、傷跡の森へと向かった。

 傷跡の森の深部。魔族の残党は、数千規模に膨れ上がっていた。彼らは、私たちを見るなり、呪われた炎魔術を放ってきた。

 炎が、私たちに向かって、襲いかかる。

「公爵様、今です!」

 私が叫ぶと、公爵様は、一歩前に出た。彼の白いローブが、風になびく。

「魔族よ! 私は、ロキサーニ公爵。あなたたちの呪いを打ち破る!」

 彼は、短く、そして力強い詠唱を始めた。それは、私が開発を助けた、古代魔術を応用した、対魔族術式だった。

 公爵様の体から、青白い光が放たれた。その光は、魔族の炎魔術と衝突し、炎魔術を、一瞬で消滅させた。

「な、なんだと!」

 魔族の残党は、動揺した。彼らの最も強力な武器が、まるで無力化されたのだ。

「ルイジアナ! 今だ!」

 公爵様は、私の名を呼んだ。

「はい!」

 私は、剣を抜き放ち、残党たちに向かって、突撃した。

 私の剣は、もはや躊躇しない。公爵様が開発した術式が、魔族の動きを弱体化させている。私は、その隙を突き、残党たちを次々と無力化していった。

 彼は、私を信じ、私は彼を信じた。私たちは、完全に連携していた。

 この戦いは、公爵様の魔術と、私の剣術の、愛の勝利だった。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

王女様は温かいごはんが食べたい ~冷えた王宮料理を変えたら、オープンキッチンと政略婚約がついてきました~

しおしお
恋愛
異世界の王女リリアーヌは、前世の記憶を持つ転生者。 豪華絢爛な王宮で暮らし始めた彼女だったが、ひとつだけどうしても耐えられないことがあった。 ――食事が、冷めているのだ。 どれほど立派な料理でも、ぬるいスープや冷めた肉ではホッとできない。 「温かいごはんが食べたい」 そのささやかな願いを口にしたことから、王宮ではなぜか大騒動が巻き起こる。 地下厨房からの高速搬送。 専用レーンを爆走するカートメイド。 扉の開閉に命をかけるオープナー。 ついには食堂に火を持ち込むオープンキッチンまで誕生して――!? 温かさは、ホッとさせてくれる。 それは料理だけではなく、人との距離まで少しずつ変えていくものだった。 冷えた王宮に湯気と笑顔を取り戻す、 食と温かさをめぐる宮廷日常コメディ! -

皆様ありがとう!今日で王妃、やめます!〜十三歳で王妃に、十八歳でこのたび離縁いたしました〜

百門一新
恋愛
セレスティーヌは、たった十三歳という年齢でアルフレッド・デュガウスと結婚し、国王と王妃になった。彼が王になる多には必要な結婚だった――それから五年、ようやく吉報がきた。 「君には苦労をかけた。王妃にする相手が決まった」 ということは……もうつらい仕事はしなくていいのねっ? 夫婦だと偽装する日々からも解放されるのね!? ありがとうアルフレッド様! さすが私のことよく分かってるわ! セレスティーヌは離縁を大喜びで受け入れてバカンスに出かけたのだが、夫、いや元夫の様子が少しおかしいようで……? サクッと読める読み切りの短編となっていります!お楽しみいただけましたら嬉しく思います! ※他サイト様にも掲載

最弱白竜ですが、なぜか学園最強の銀竜に番認定されました

斉藤めめめ
恋愛
竜の血を引く者だけが貴族になれるこの世界で、白竜は最も格の低い竜の証。 白竜の男爵令嬢リーゼロッテは、特待生として国内最高峰の王立竜騎学園に入学する。待っていたのは上位貴族からの蔑みと、学園を支配する四人の御曹司「四竜」。 その筆頭、銀竜公爵家の嫡男ルシアンに初日から啖呵を切ったリーゼは、いじめと嫉妬の嵐に巻き込まれていく。 それでも彼女は媚びない、逃げない、折れない。 やがてルシアンはリーゼから目が離せなくなり―― 白竜の少女が、学園と王国の運命を変える。 身分差×竜×学園ラブファンタジー、開幕。

夫から『お前を愛することはない』と言われたので、お返しついでに彼のお友達をお招きした結果。

古森真朝
ファンタジー
 「クラリッサ・ベル・グレイヴィア伯爵令嬢、あらかじめ言っておく。  俺がお前を愛することは、この先決してない。期待など一切するな!」  新婚初日、花嫁に真っ向から言い放った新郎アドルフ。それに対して、クラリッサが返したのは―― ※ぬるいですがホラー要素があります。苦手な方はご注意ください。

おさななじみの次期公爵に「あなたを愛するつもりはない」と言われるままにしたら挙動不審です

ワイちゃん
恋愛
伯爵令嬢セリアは、侯爵に嫁いだ姉にマウントをとられる日々。会えなくなった幼馴染とのあたたかい日々を心に過ごしていた。ある日、婚活のための夜会に参加し、得意のピアノを披露すると、幼馴染と再会し、次の日には公爵の幼馴染に求婚されることに。しかし、幼馴染には「あなたを愛するつもりはない」と言われ、相手の提示するルーティーンをただただこなす日々が始まり……?

下賜されまして ~戦場の餓鬼と呼ばれた軍人との甘い日々~

星森 永羽(ほしもりとわ)
恋愛
王宮から突然嫁がされた18歳の少女・ソフィアは、冷たい風の吹く屋敷へと降り立つ。迎えたのは、無愛想で人嫌いな騎士爵グラッド・エルグレイム。金貨の袋を渡され「好きにしろ」と言われた彼女は、侍女も使用人もいない屋敷で孤独な生活を始める。 王宮での優雅な日々とは一転、自分の髪を切り、服を整え、料理を学びながら、ソフィアは少しずつ「夫人」としての自立を模索していく。だが、辻馬車での盗難事件や料理の失敗、そして過労による倒れ込みなど、試練は次々と彼女を襲う。 そんな中、無口なグラッドの態度にも少しずつ変化が現れ始める。謝罪とも言えない金貨の袋、静かな気遣い、そして彼女の倒れた姿に見せた焦り。距離のあった二人の間に、わずかな波紋が広がっていく。 これは、王宮の寵姫から孤独な夫人へと変わる少女が、自らの手で居場所を築いていく物語。冷たい屋敷に灯る、静かな希望の光。 ⚠️本作はAIとの共同製作です。

殿下に寵愛されてませんが別にかまいません!!!!!

さら
恋愛
 王太子アルベルト殿下の婚約者であった令嬢リリアナ。けれど、ある日突然「裏切り者」の汚名を着せられ、殿下の寵愛を失い、婚約を破棄されてしまう。  ――でも、リリアナは泣き崩れなかった。  「殿下に愛されなくても、私には花と薬草がある。健気? 別に演じてないですけど?」  庶民の村で暮らし始めた彼女は、花畑を育て、子どもたちに薬草茶を振る舞い、村人から慕われていく。だが、そんな彼女を放っておけないのが、執着心に囚われた殿下。噂を流し、畑を焼き払い、ついには刺客を放ち……。  「どこまで私を追い詰めたいのですか、殿下」  絶望の淵に立たされたリリアナを守ろうとするのは、騎士団長セドリック。冷徹で寡黙な男は、彼女の誠実さに心を動かされ、やがて命を懸けて庇う。  「俺は、君を守るために剣を振るう」  寵愛などなくても構わない。けれど、守ってくれる人がいる――。  灰の大地に芽吹く新しい絆が、彼女を強く、美しく咲かせていく。

冷徹団長の「ここにいろ」は、騎士団公認の“抱きしめ命令”です

星乃和花
恋愛
⭐︎完結済ー全16話+後日談5話⭐︎ 王都最硬派、規律と責任の塊――騎士団長ヴァルド・アークライトは、夜の見回り中に路地で“落とし物”を拾った。 ……いや、拾ったのは魔物の卵ではなく、道端で寝ていた少女だった。しかも目覚めた彼女は満面の笑みで「落とし物です!拾ってくださってありがとうございます!」と言い張り、団長の屋敷を“保護施設”だと勘違いして、掃除・料理・当番表作りに騎士の悩み相談まで勝手に開始。 追い出せば泣く、士気は落ちる、そして何より――ヴァルド自身の休息が、彼女の存在に依存し始めていく。 無表情のまま「危ないから、ここにいろ」と命令し続ける団長に、周囲はざわつく。「それ、溺愛ですよ」 騎士団内ではついに“団長語翻訳係”まで誕生し、命令が全部“愛の保護”に変換されていく甘々溺愛コメディ!

処理中です...