後継社長奮闘す

tathufuntou

文字の大きさ
上 下
4 / 91
第一章 現実を直視する

丸のみする

しおりを挟む
全てを
リセットできたら良いのに・・

社長就任以来
そう何度呟いたことか。

あの材料は、あの会社から調達する、
この工事は、この会社に外注を頼む。

どうみても、必要性を感じない
工事業者や職人の皆さんを
引き連れた、現場巡回。

理由は定かではないが、
昔からそう決まっている・・

現場がスムーズに進んでいる以上
悪くないとも言えるのだが、

資材や工事発注のあり方、
あるいは協力業者さんとの関係。

そして、現場管理や工程管理の
やり方など、素人の達社長が見ても
もっと工夫できる事が沢山
あるように感じる。

一方、オフィスに目を向けると
何十年も続くと言う、
もう一つ気合いの入らない朝礼。

忙しいと言いながら、
なかなか終わらない各種の会議。

誰が決裁しているかわからない
ハンコがいくつも並ぶ書類
どれ一つとっても
正直、非効率に感じる事ばかり・・

そう言ったら、言い過ぎだろうか?

前職はそれなりに大きな会社。
今いる会社とは違うとわかっている。

「しかし・・」

就任そうそう達社長の苛立ちは、
相当なものだった。

「慣習や馴れ合い、もっと言うなら
惰性で仕事が進んでいくように感じる」

そんな、
達社長の感情を察したのだろう

「正論で会社は動かないよ」。

尊敬する先輩経営者に、
酒席に誘われ、ガッツリ諭された。

「まずは全てを、丸のみしなさい」

良いも悪いも、
まずは全てを受け入れる。

やりたい事、
必ずしも出来る事ではない。
それが後継社長という人生。

自身も後継社長として
創業者と向き合い苦労してきた
話しには説得力があった。

「丸のみか・・」

言われる事は、もっともなのだが
「おかしいもの」を「おかしい」と
言えない社長って何なんだ。

素直に「はい」と言えない達社長。

先輩経営者は、
諭すように続けてくれた。

今、行われているあらゆる事に、
それなりの歴史があり、
そこには、一定の理由がある。

それをいきなり変えると言えば、

達社長にそのつもりがなくても、
必ず傷つく人やチーム、
そして組織があると考えるべき。

敢えて敵をつくるな。

その後も正直、数日悩んだ。

「清濁(せいだく)併せ呑む」

人の度量を表す名言と言われるが
何か政治家のようで、企業家とは
少し違うと感じていたからだ。

でもまずは、そうしようと決意した。

完全に納得出来た訳ではないが
損得抜きで助言頂いた先輩社長を、
信じずにどうするのか。

でも、そう、遠くない未来に
変えるべきは変える。

「丸のみするが、目はつぶらない」

達社長の長く、
厳しい戦いが始まった瞬間である。
しおりを挟む

処理中です...