後継社長奮闘す

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第五章 稼げる体質へ転換する

投資を再定義する④失敗を認めるが勝ち

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次に、もう一つの命題

すなわち
「投資の撤退基準づくり」
である。

所長先生の口癖の一つ
「失敗が悪いのでなく
失敗と認めず、ひきづるのが悪い」

事業は失敗する。

大切なことは、
失敗を失敗と認める決断が
出来るか否かにある。

「言うは易し」
一度決断した投資。
そう簡単には辞められない。

相当、ケンケンガクガクが
必要なテーマである。

しかし、
ミーティング時間を
オーバーしていた事もあり
後日、再びやる事にした。

「一昔前なら
終わるまでやろう」

と言えたのだが、
時代は変わっている。

そう考え、達社長から
「今日はお開きにしよう」
そう提案したのだ。

「頭をクリアにして考えたい」
そういう気持ちも大きかった。

すると、所長先生から
「では、これを」

そう言って、
一枚の紙を渡された。

複数の事業を展開する
あるベンチャー企業の
会社案内である

社長にお話ししておくから
一度、会って話しを聞いて欲しい  
との事だった。

「撤退基準の参考に
なると思います」

さすが所長先生。

総務課長から
「もう一度集まるのですか?」

「きっと、
ご紹介するベンチャー企業に
会えば、ヒントが見つかると思います」

「もし、そうでないなら
もう一度集まりましょう」

所長先生からの提案を
確認し、会議は終了した。

その二週間後、
都内に本社を構える
ベンチャー企業に、
達社長と総務課長が訪問した。

「お待ちしてました」

ベンチャー企業らしからぬ
スーツにネクタイ姿で
迎えてくれた社長。

「すみません、そこにある
ペットボトルの水をとって
お飲みください」

「先生からお話しは聞いています」

挨拶もそこそこに、
社長は本題に入っていった。

ところで、
ご紹介頂いたベンチャー企業。

例えば、
シニア世代が活躍できる事業や
空き家を再生するビジネスなど

社会課題を複数事業化する
会社である。

社会課題の事業化は
実は非常に難しいと言われている。

ニーズが多様で、
コストに見合う売上が
作りにくいからのようだ。

事実、利益をあげ続けている
会社は多くない。

しかし、このベンチャー企業は違う。

10を超えるプロジェクトを走らせ
その半分を事業化し、
経常利益も安定的に5%以上を
計上している。

「儲かる社会課題の事業化」に
成功しているのだ。

その鍵が
事業の撤退基準にあるという

「わが社の事業に対する考え方を
お話し下さいと、言われています」

「一番大切なことは、やりたい人が
事業をやることです」

何をやるかを決めるのは社員。
達社長にはかなり斬新に見えた。

「なぜなら、多くの社会課題は、
こうすれば上手くいく
その答えがない取り組みだからです」

「従って、原則事業判断は
事業の責任者に全て任せます」

「だからこそ、事業化基準は
ある意味厳格です」

そう話しながら、
一枚のマル秘資料を見せて頂いた。

そこにはこう書かれていた

「半年以内に単月黒字、18ヶ月以内に
四半期累計黒字、そして36ヶ月以内に
累損解消」

累損解消とは、
投資回収すると言うことだ。

「これができない場合
どうなるのですか?」

総務課長は、身を乗りだし気味に
質問した。

ベンチャー社長
「撤退かリ・モデルです」
「少なくともそのままで、
追加投資をすることはありません」

加えて、こう話された。
「意外に多いのが、最初のハードルで
リ・モデルするパターンなんです」

つまり、当初6ヶ月で見切りをつける
と言うのだ。

「最後まで行って撤退なら
会社も顧客もそして、社員も
守れなくなるからです」

明確な基準を何段階かつくり
しかも、早めに見切ることで
会社も社員も守る。

「辞めるか辞めないか
ではなく、続けるか変わるか」

「早めの撤退基準で社員を守る」

ここにポイントがありそうだ。

「帰って建築部長交えて
撤退基準づくりですね」

総務課長の弾んだ声が
印象的だった。
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