後継社長奮闘す

tathufuntou

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第二章 新たな未来を考える

失敗する中期ビジョン

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あるべき姿の見える化。
それが中期ビジョンだと
達社長は考えている。

そして、それは
達社長の頭の中でなく
きちんと、役員や社員と
共有したい。

先の事を考えてもしょうがない。
今やれる事をやる。
そう言う経営もあるだろう。

しかし、
右肩上がりで、頑張れば
目標を実現できる時代ではない。

いや、
むしろ痛みを伴う改革が、
ある意味、日常的に要求される
経営環境ではないかとすら
考えている。

ゆえに、
例え、想定通りにいかなくても
共に戦い抜く役員、社員とは
未来の航海図の共有が
不可欠だと、
達社長は信じているからだ。

そんな思いを
ある地域会合の帰りの車の中で、
先輩社長にぶつけてみた。

「ビジョン経営か」
先輩社長は、そう呟いた。

「ビジョン経営を語れるほど
大したことは出来ていないが・・」
珍しく弱気な先輩社長。

「ただ・・」
そう言うと、先輩社長、車を
コンビニの駐車場へ滑りこませた。

「達社長。悪いけど、
何か飲み物買って来てくれる?」

先輩風を吹かせて、ものを頼まない
先輩社長には珍しい依頼だ。

「すまない。ちょっと昔を思い出して
やや凹んだんだ」

聞くと、随分以前だが、
先輩社長も「ビジョン型の経営」を
目指したのだが、
結果から言うと失敗し、
それ以来、ビジョンと向き合い
きれていないのだそうだ。

その先輩社長から教わったのは
失敗する中期ビジョン
7つの法則である。

「7つもあるのか?」
正直、達社長。げんなりした。

しかし、
いつも、真摯にアドバイスくれる
先輩社長の体験や思いを
しっかり聞いておこうと、
缶コーヒーの蓋を開けた。

第1が、意志なきビジョン

ビジョンすなわち、
それは意志なのだが、
売上100億、利益10億等定量ビジョン
ばかりが先行し、目標が目的化。

やりたい事を見失い失敗する
パターンである。

第2が、無理を承知で無茶を計画する

新事業立ち上げ、直販モデルの確立。
一人生産体制による生産性革新・・
「あれもこれも」
やろうとする中期ビジョンは、
多くの場合、
初年度から既に破綻している。

第3が、一発逆転型の中期ビジョン

あの新商品が開発出来れば。
あの顧客さえ獲得できれば。

誰もが、難しいと分かっているが、
誰もそれを言わない、中期ビジョン。

それは作成段階で、もう失敗している

第4が、「健全な赤字」
なき中期ビジョン

「健全な赤字」先輩社長が
良く使われる言葉である。

今は稼げないが、次代に必要な投資。
あるいは、失敗が許される投資。
そう言う意味だと言う

「頑張ろう」だけでなく、
「ワクワクする」がなければ
皆疲弊するからだと。

第5が、多くの聖域が存在する

何十年も赤字が続くが、
祖業だからという理由だけで
辞められない。

開発部門の改革は、
開発部門だけでやる。

リーダーシップある先輩社長も
かなり苦労されてきたようだ。

第6が、過去を謙虚に振り返らない

過去の失敗や撤退など、悪い出来事を
封印し、バラ色の未来にのみ、
思いをはせるやり方である。
組織には、「クセ」があり、
それは、失敗によく現れる。
だから、歴史と向き合う事が大切だ。

歴史に学ぶからより遠くの未来を
俯瞰できる。
税理士の所長先生も
よく言われることだ。

第7が、部門積み上げ、
予算折衝型ビジョン

最初に、大きすぎる目標を掲げ
部門毎に、予算折衝を行い、
ストレッチさせるやり方である。

「努力します」と前向きな発言や
姿勢だけが、評価され、
結果責任はそもそも、
とりようがない、ので曖昧。

ビジョンと言うよりスローガン
と言う感じである。

「ビジョンは必要だが、
掲げ方を間違うと、
チームが疲弊する」

先輩社長が、
達社長に一番伝えたかった事である。

ビジョンは意志であり、
失敗しないノウハウを
身につけるものではないのだろう。

しかし、
意志を見える化すれば良い
そう単純な訳ではない。

強く感じた
先輩社長とのドライブだった。
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