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お見合い
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「やだーショック!」
「でもあそこの社長の娘だったらめっちゃ逆玉だよねー!」
瀬奈を含む女の子たちがひそひそ話している。基本的に佑が女の子たちの噂話に入ることはないのだが、今回はなぜか気になったので聞いてみた。
「なんの話?」
「あ、小鳩さん。知ってました?営業課の樹先輩。取引先の社長の娘とお見合いするみたいでー」
「年収一億ですよ?その会社」
「千堂君が?」
佑の顔がさーっと蒼白になるのが、自分でも分かる。
「あ、小鳩さん知らなかったですか」
瀬奈が「ヤバい!」という顔をした。
「大丈夫!気を強く持って!どうせ付き合いでやむなくとか理由があるんで。小鳩さんがいるんだから」
瀬奈が佑の手を握って慰めてくれるが、ほとんど耳に入らない。
樹がお見合い?
取引先の娘と?
お見合いに至った経緯は分からないが、相手を気に入ってしまったら?
もしくは相手が樹を気に入って断り切れずに話が進んでしまったら?
ぐるぐると嫌な考えが頭をよぎる。
「樹先輩定時で出るって言ったので、すぐ出れば間に合いますよ!今定時過ぎたところですし残った仕事あるなら私しておきます」
「仕事はないからパソコンの電源落としてくれる?」
「おやすい御用です」
力強く頷いた瀬奈にペコリと頭を下げる。
「沢田さん、恩にきる!お先に失礼します!」
佑はカバンをつかんで勢いよく部屋を出て行った。
「え?小鳩さん何々?」
「樹先輩と仲良かったっけ?」
と女の子たちが瀬奈を問い詰めている。
佑の珍しく慌てた様子に課の全員に注目されるがかまっていられない。もしとがめられるのであれば明日怒られればいい。
営業課を覗くと樹の姿はすでにない。先ほど出たばかりだという。
エレベーターは使用中だった。待っている時間も惜しくて、佑は階段を駆け下りた。体力に全く自信がないので、一階まで一気に駆け下りた頃には息が上がって肩で息をしているほどだった。
その場に座って休みたいくらいだが、こうしている間にも樹は行ってしまっているかもしれない。
佑は休みたい気持ちをこらえてまた駆け出した。ちょうどエレベーターが止まり、樹が営業課の課長と降りてきたところだった。
「小鳩さん?」
息を切らせている祐を見て樹が目を丸くする。課長に礼儀上会釈だけする。
「お、お見合いするって、聞いて」
「……それが何か?」
樹の袖を佑が掴んで首を振る。
喋るのも息が絶え絶えになってしまう。
「……千堂君が、お見合いするの、嫌だ」
「確認ですけど、それはこの前の答えはオッケーってことでいいですか?」
こくりと頷いた祐に樹の表情がふっと緩む。祐に身を寄せるとその手にカードキーを握らせた。耳元で囁く。
「なるべく早く帰ります。いい子で待っててください」
腰に響くような重低音。人目がなかったら腰砕けになっていたかもしれない。
「でもあそこの社長の娘だったらめっちゃ逆玉だよねー!」
瀬奈を含む女の子たちがひそひそ話している。基本的に佑が女の子たちの噂話に入ることはないのだが、今回はなぜか気になったので聞いてみた。
「なんの話?」
「あ、小鳩さん。知ってました?営業課の樹先輩。取引先の社長の娘とお見合いするみたいでー」
「年収一億ですよ?その会社」
「千堂君が?」
佑の顔がさーっと蒼白になるのが、自分でも分かる。
「あ、小鳩さん知らなかったですか」
瀬奈が「ヤバい!」という顔をした。
「大丈夫!気を強く持って!どうせ付き合いでやむなくとか理由があるんで。小鳩さんがいるんだから」
瀬奈が佑の手を握って慰めてくれるが、ほとんど耳に入らない。
樹がお見合い?
取引先の娘と?
お見合いに至った経緯は分からないが、相手を気に入ってしまったら?
もしくは相手が樹を気に入って断り切れずに話が進んでしまったら?
ぐるぐると嫌な考えが頭をよぎる。
「樹先輩定時で出るって言ったので、すぐ出れば間に合いますよ!今定時過ぎたところですし残った仕事あるなら私しておきます」
「仕事はないからパソコンの電源落としてくれる?」
「おやすい御用です」
力強く頷いた瀬奈にペコリと頭を下げる。
「沢田さん、恩にきる!お先に失礼します!」
佑はカバンをつかんで勢いよく部屋を出て行った。
「え?小鳩さん何々?」
「樹先輩と仲良かったっけ?」
と女の子たちが瀬奈を問い詰めている。
佑の珍しく慌てた様子に課の全員に注目されるがかまっていられない。もしとがめられるのであれば明日怒られればいい。
営業課を覗くと樹の姿はすでにない。先ほど出たばかりだという。
エレベーターは使用中だった。待っている時間も惜しくて、佑は階段を駆け下りた。体力に全く自信がないので、一階まで一気に駆け下りた頃には息が上がって肩で息をしているほどだった。
その場に座って休みたいくらいだが、こうしている間にも樹は行ってしまっているかもしれない。
佑は休みたい気持ちをこらえてまた駆け出した。ちょうどエレベーターが止まり、樹が営業課の課長と降りてきたところだった。
「小鳩さん?」
息を切らせている祐を見て樹が目を丸くする。課長に礼儀上会釈だけする。
「お、お見合いするって、聞いて」
「……それが何か?」
樹の袖を佑が掴んで首を振る。
喋るのも息が絶え絶えになってしまう。
「……千堂君が、お見合いするの、嫌だ」
「確認ですけど、それはこの前の答えはオッケーってことでいいですか?」
こくりと頷いた祐に樹の表情がふっと緩む。祐に身を寄せるとその手にカードキーを握らせた。耳元で囁く。
「なるべく早く帰ります。いい子で待っててください」
腰に響くような重低音。人目がなかったら腰砕けになっていたかもしれない。
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