昔助けた王子様に求婚されて外堀を埋められています

水無瀬雨音

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 クロードの執務室では、クロードとライナスが書類の山を前に執務に励んでいた。
 執務をするための部屋なので、寝室に比べると簡素だ。執務をこなすためのテーブルとイス、小さな書棚とソファー、仮眠のためのベッドのみで、家具に装飾はない。もっともクロードの寝室も王子にしてはそこまで豪華ではないが。
 書類を間に挟み、向かいに座っている。あくまでライナスは補佐なので、決済など重要なことはクロードの役目だが、クロードの仕事の進みは芳しくない。執務能力はむしろ高いほうだが、ほかのことに気を取られているせいだろう。
「……こほん。あー、少し休憩するか。茶をとってくる」
 わざとらしく咳払いし、腰を上げるクロードにライナスは淡々と言う。
「一時間前に休憩したばかりです。そんなにのどが渇いておられるならメイドにもってこさせますが」
 答えながらもライナスは手を動かしたままだ。
「よい。……気分転換に散歩に行ってくる」
「あと一時間後でしたらよろしいですよ。私も同伴いたします」
「お前と散歩してもつまらぬ」
 しぶしぶといった様子でクロードは椅子に腰を下ろし、緩慢な動きではあったがまた手を動かし始める。
「それには同意いたします、殿下」
 ライナスは国王の姉の息子であり、つまりクロードのいとこなので、二人きりのときは気安いやりとりをしている。今は執務中なので、一応かしこまった口調ではあるが。
 手は動いているが、またあれこれ言いだされては進まないので、先手を打っておく。
「真面目にされれば早く終わりますので、その分早くソフィア様にお会いになれますよ」
「……分かっている」
 むすっとしていたが、長い付き合いのライナスに小細工をしても通じないと思ったらしい。黙々と書類に目を通し始める。
「心配でしたら私がご様子を見てまいりましょうか。ご挨拶もまだですから。もうすぐ私のこなせる書類はなくなりますし」
 おとなしく仕事をされるとそれはそれでつまらなくなり、軽口をたたくとクロードは苦虫を嚙み潰したような顔でライナスをにらみつける。
 美形ぞろいの王家の中でも特に人気の高いクロードがこのような顔をするなど、貴族の娘たちが知ったら卒倒するだろう。
「—―暇だったら私の書類の下読みでもしておけ」
「仰せの通りに、殿下」
 それからはクロードは真面目に執務に取り組み、一区切りついたので休憩をすることにした。
 メイドに紅茶を頼むと、クッキーとパウンドケーキも持ってきてくれた。紅茶はリンゴの風味がついている。
 王妃たちはしょっちゅう茶会を開いて次々新しい茶や菓子を口にするのを楽しみにしているのだが、多くの種類を口にしたいため、飽きたり消費できない分はこうして王子たちに回ってくる。
 ライナスはそうでもないが、クロードは甘いものがそんなに好みではないので、メイドたちで消費してよいと言ったのだが、それでも消費しきれないらしい。一応気を使って甘みの少ないものを選んでくれているようだが。
「明日モンブールの王女が来られるそうだな。婚約したのを知ってソフィア様を見に来られるんじゃないか?」
 休憩中なので、気安い口調になっている。
 クロードは親の仇のようにパウンドケーキにフォークを突き刺し、粉々にしている。もうフォークで食べることは困難だろう。
「忌々しい女だ。急な訪問でも王国間の友好関係を鑑みるとそう無下にはできぬからな」
「ソフィア様にお伝えしないのか?」
「もう王女と私は無関係だ。城の者にもソフィアに言わないよう伝えてある。……不安にさせたくない」
 10年越しに手に入れた婚約者をとても大事に思っているのを近くにいたライナスは知っている。やっと連れ帰ったときどんなに嬉しかったかも。
「……そうか。ところで、そのケーキはクロードが食べるんだな?」
「おまえのために食べやすくしておいた」
 にやりと笑ったクロードはケーキののった皿をライナスにおいやる。ため息をついたライナスはメイドにスプーンを頼んだ。


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