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 緞帳が上がり、演奏が始まってヒロインが見事なソプラノで歌い始める。オペラが始まるとソフィアは舞台にくぎ付けになった。学生が行う舞台をみたことはあるが、もちろんそれとは比べ物にならない。
 豪華な衣装に緻密な脚本、華麗な歌声。繊細かつ豪奢な舞台装置。どれも素晴らしいものだった。
「よかったか?」
 頬を紅潮させ食い入るように見ていたソフィアに気を使ってか、クロードが話しかけてきたのは舞台が終わってしばらくし余韻がなくなってからだった。
「はい。連れてきていただき、ありがとうございます」
 クロードにとってオペラは見慣れたものだっただろう。ソフィアを気遣ってくれたのは嬉しかった。
「……思い合っていたふたりが結ばれないのは悲しいものですね」
 今日の演目は悲恋だった。仲違いしていた二人の誤解がなくなり、結ばれたものの来世で結ばれることを約束してそれぞれ別の相手と結婚する、という話だった。切ない内容が涙を誘うと人気の作品でロングランとなっているらしい。
「……他の演目が始まったらまた来よう」
「はい」
 ソフィアとクロードは劇場を出た。食事処までは少しの距離だというのに馬車にのせられる。ソフィアは歩いてもかまわなかったが、王子ともなれば仕方がないのだろう。
 街並みが見たくて少しだけならとクロードに許可をもらいカーテンを開く。
 王都はソフィアが住んでいた町よりも断然人口は多いはずなのに、なぜか人通りは少なかった。そういえば劇場の中もちらほら空席があった気がする。
「なるべく外出を控えるように通達しているから人通りが少ないんだ」
 きょろきょろしているソフィアに気づいてクロードが言う。
「なぜですか?」
 クロードはしばらく言い淀んでから口を開く。
「……町で行方不明者が出ているからだ」
「行方不明、ですか?」
 今までソフィアの住んでいた町でも子供などがいなくなったことがあるが、そのような通達が出たことはない。ということは今回の措置は行方不明者がそれなりの規模であるからゆえというのがうかがえた。
「王宮騎士団が捜査にあたっているからじきに解決するだろう。ソフィアは王宮にいれば心配ない」
 それ以上聞かれたくない様子だったので、ソフィアは追及しなかった。そもそもソフィアが詳細を聞いたところで捜査に参加できるはずもない。不安を募らせるだけになるのをクロードは危惧していたからだろう。
 それから何を話題にしようか悩んでいるまま無言が続き、なんとなく重い空気になり食事処に着いた。
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