昔助けた王子様に求婚されて外堀を埋められています

水無瀬雨音

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 翌日ソフィアの支度を整えに来てくれたのはマリアではないメイドだった。幾度か顔を合わせたことがある。
「マリアは少し体調を崩しましてしばらく休養するとのことです」
「昨日は元気だったのに…。大丈夫なの?」
 休暇以外でマリアがソフィアの傍を離れるのは初めてのことだった。昨日の夜まで普段と変わらない様子だったのに、そのあと体調を崩したのだろう。よほど悪いのかと思ったが、軽い風邪とのことだった。
「ゆっくり休めば数日で元気に戻ってくると思いますわ。ソフィア様にうつさないために休むだけですので」
 モンブールの王女に初めて会うのだからより美しくしなくてはと、メイドは時間をかけて支度を整えてくれた。


「モンブール王国第二王女ベル・モンブールです。お見知りおきを。ソフィア様」
「ソフィア・アルデンヌです。お会いできて光栄です、ベル様」
 翌日朝食の席でモンブールの王女であるベルとソフィアは対面を果たした。
 ストロベリーブロンドのウェーブがかった髪が美しい。目は紫だ。ソフィアはかわいらしい顔立ちだが、ベルは切れ長の美人だ。
「クロード様と婚約なさったそうですね。おめでとうございます」
「ありがとうございます」
「本当に美しい方……」
 一瞬ベルの目が鋭くなり、素早く全身を値踏みされた気がしたが、すぐににこやかな表情に戻ったので気のせいだろう。
「ソフィア、ベルはしばらく滞在するのだから挨拶はそのくらいにして食事にしよう」
「はい。そうですね。ベル様ごあいさつさせていただきありがとうございました」
「こちらこそ、ソフィア様」
 他の王族たちはもう席についていた。ソフィアとベルも席に着くと、使用人が給仕を始めた。
「ソフィア」
 隣の席のクロードが小声でそっとテーブルの下で手を握ってくる。他の王族たちがいるのに、とソフィアは慌てるがクロードは手を放してくれなかった。いつもと違い真剣な様子に、ソフィアは戸惑う。
「今日は一日執務室だからソフィアも一緒にいるか」
「またクロードは」
 昨日で終わった冗談ではなかったのかとあきれるが、クロードの顔は真剣なままだ。
 ソフィアはクロードの指にはまった指輪をなでる。
「これが私ですクロード。他の王族の方と交流するのも大事な公務ですから、私は私で婚約者の公務をさせてください」
「分かった。……いつでも来ていいからな」
 一応クロードは納得したようだが深いため息をついた。そのため息の意味をソフィアが知るのはずっと先のことだ。
 ベルはセヴィオ王国の王族たちとも親密らしく終始和やかに会話をしていた。隣国の王女なので、幼いころから交流があるのだろう。
 朝食の後ソフィアと交流したいとのことでベルと庭園でお茶会をすることになった。とり急いで公務のない王太子妃、アメリーも一緒だ。
「モンブールでは血筋を重要視し性別にこだわりませんので、次の王位継承者は私になると思います。姉は政治に興味がなく早々に嫁ぎましたので」
「ベル様は10代から国政にかかわっていらっしゃるのよ」
 アメリーが口を挟む。
「一国を治めるなんて私には想像がつきません。すごいですね、ベル様」
 当たり前だが、王族とは一男爵令嬢のソフィアとは別世界だ。今は一応伯爵令嬢であり王子の婚約者だが。
 王位を継承するというのは大変な重責だと思うが、ベルはこともなげに答えた。
「逆に他のご令嬢が当たり前にしている刺繍だとかをこなすほうがずっと苦痛でしたわ。生まれてくる性別を間違ったのだろう、とよく両親に言われますの」
「まあ」
 いずれは一国の主となるベルだが、そんな傲りは感じさせなかった。会うまではどんな人なのだろうと心配だったが、いざ会ってみると存外気安い性格のようだ。
「友好関係のために無下にはできずにいるけれど、ベルをあまり信用してはだめよ、ソフィア」
 奥の花を見に行ったアメリーとベルを見送ると、王太子妃が扇で口元を隠しながらソフィアに耳打ちした。
「そうでしょうか。私にも分け隔てなく接してくださいますが……」
「とにかく数日のことだから無難にやり過ごすことね。なるべく二人きりにならないこと」
「分かりました、ご忠告ありがとうございます」
 王太子妃が何を懸念しているのかは分からなかったが、ソフィアはうなづいておいた。
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