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「あらクロード」
ベルが客室に戻るところで、執務を終えて自室に戻るところらしいクロードと出会った。お互い供のものはなく一人だ。
「訪問は許可したが、王宮内を一人で出歩く許可は出していない。特にこの棟は王族の私室がある棟だ」
不快感を隠すことなく言い放つクロードに、ひるむことなくベルは悠然と微笑む。
「子供のころはそんなうるさいこと言わなかったじゃない」
「そのときは私の婚約者だったが、今は違う」
「見せたくないものでもあるの?……それとも会わせたくない人が?」
笑みこそ絶やさないものの、ベルの瞳の奥に昏いものが宿る。クロードの目も一層鋭さを増す。
「散歩というわけではないのだろう。……何をしていた?」
「王子殿下の婚約者様とお話していただけよ。次期王族になるのだから交流しておくべきでしょう?今回の訪問の目的はあなたもわかっていたわよね。ふふ、本当にソフィア様はかわいらしい方ね」
くすくすと楽しそうに笑うベルを、クロードはギラギラとしたナイフのように鋭い目でにらみつける。
「余計なことを話していないだろうな」
「私がお話したのは事実と可能性だけ。選ぶのはソフィア様」
「ソフィアを傷つけることは許さぬ。モンブールの王女でもな」
歌うように言うベルにクロードは掴みかからんばかりだったが、ベルは全く動じる様子はない。たいていの人間はクロードににらみつけられただけで震え上がるだろうに笑みを全く崩すこともない。
「大切なものはあなたの傍に置いておかないほうがよろしくてよ。身分相応の婚姻をさせたほうがソフィア様のためだったのではないの?」
「……ソフィアは私が守る」
言いおいてクロードはもう話すことはないというようにベルの横を早足で追い越していった。その背中にベルは笑顔のままつぶやく。
「あなたは私のところに帰ってくるわよ。クロード」
ベルにあのように無粋な口をきけるのはクロードだけだ。クロード以外は許さないだろうが。
ベルはクロードより5歳年上だったが、貴族同士の結婚では年齢差がある夫婦など珍しくもないし女性のほうが年上である場合もままある。クロードが生まれた時からベルの婚約者なのだと言われて育ち、お互いにそのことに納得して生きてきたはずだ。……10年前、クロードがソフィアに出会うまでは。
クロードは剣技も優れ、眉目秀麗で国政にも明るい。十分一国を治められる器でありながら、セヴィオ王国の国王になることはないだろう。クロードの兄たちがいなくなればもちろん国王となれるだろうが、クロードの兄たちもいずれも優秀で誰もが国王の器には十分なのでクロードは兄たちを排除しようとすら思っていないはずだ。モンブールでベルとともに国を治めたほうがクロードのためなのだ。クロードを国王の補佐として過ごさせるのはもったいない。
ベルが客室に戻るところで、執務を終えて自室に戻るところらしいクロードと出会った。お互い供のものはなく一人だ。
「訪問は許可したが、王宮内を一人で出歩く許可は出していない。特にこの棟は王族の私室がある棟だ」
不快感を隠すことなく言い放つクロードに、ひるむことなくベルは悠然と微笑む。
「子供のころはそんなうるさいこと言わなかったじゃない」
「そのときは私の婚約者だったが、今は違う」
「見せたくないものでもあるの?……それとも会わせたくない人が?」
笑みこそ絶やさないものの、ベルの瞳の奥に昏いものが宿る。クロードの目も一層鋭さを増す。
「散歩というわけではないのだろう。……何をしていた?」
「王子殿下の婚約者様とお話していただけよ。次期王族になるのだから交流しておくべきでしょう?今回の訪問の目的はあなたもわかっていたわよね。ふふ、本当にソフィア様はかわいらしい方ね」
くすくすと楽しそうに笑うベルを、クロードはギラギラとしたナイフのように鋭い目でにらみつける。
「余計なことを話していないだろうな」
「私がお話したのは事実と可能性だけ。選ぶのはソフィア様」
「ソフィアを傷つけることは許さぬ。モンブールの王女でもな」
歌うように言うベルにクロードは掴みかからんばかりだったが、ベルは全く動じる様子はない。たいていの人間はクロードににらみつけられただけで震え上がるだろうに笑みを全く崩すこともない。
「大切なものはあなたの傍に置いておかないほうがよろしくてよ。身分相応の婚姻をさせたほうがソフィア様のためだったのではないの?」
「……ソフィアは私が守る」
言いおいてクロードはもう話すことはないというようにベルの横を早足で追い越していった。その背中にベルは笑顔のままつぶやく。
「あなたは私のところに帰ってくるわよ。クロード」
ベルにあのように無粋な口をきけるのはクロードだけだ。クロード以外は許さないだろうが。
ベルはクロードより5歳年上だったが、貴族同士の結婚では年齢差がある夫婦など珍しくもないし女性のほうが年上である場合もままある。クロードが生まれた時からベルの婚約者なのだと言われて育ち、お互いにそのことに納得して生きてきたはずだ。……10年前、クロードがソフィアに出会うまでは。
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